『裏天使 〜さんかくとしかく〜』
違和感7 ともだち
「………かちゃん…………りかちゃん………………おはようだよ〜……?」
今日も月白の声に呼ばれ理香は目を覚ました。
理香がうっすらと目を開けると、眩しいばかりの光が目に飛び込んできた。朝陽だ。
「おはよう、月白ちゃん」
「うん☆」
今日も月白はにこにことしていた。
周りを見渡した。
春奈の寝ていたベッドも、芹沢の寝ていたベッドも今は誰もいない。もう、この部屋には理香と月白しかいない。
「……知っているんでしょ?」
芹沢がいなくなった原因を月白が知らない筈はない。この世界で起きた事象を月白が気付かないわけがないのだ。
「うん、もちろん知ってるよ〜。ちゃんと見てたよ。いちいち止めなかったけど」
「そう」
「りかちゃんがせりざわくんを……して、おなかを………して、にくとか、ないぞうとか、ちとかを…………のんだりたべたり………全部みてたよ〜」
「そう……」
理香は芹沢の弁当袋を取り出した。
「月白ちゃん、分からない事があるの」
「なにかな〜?」
「どうして、こんなお弁当袋とか、春奈の鞄に強いABCを与えたの?」
月白は少し困った顔になった。
「わたしにはわかんない〜。元々そういうものなの〜」
「元々? この世界はあなたが創った世界なのでしょ? 隠し事はいいの。私にも大体の事は理解できてるから」
月白はあははっとバツが悪そうに頬を掻いて笑った。
「りかちゃん随分物知りになったんだねぇ〜。すごい〜」
「……茶化さないで」
「うん」
「知ってる事を教えて」
「どんなことが知りたいの?」
「全部。とりあえずお弁当袋と鞄の話を教えて」
「ん」
「ここが一つの部屋なのはもう知ってるんだよね?」
「知ってる」
「たくさんの部屋があるのも知ってるんだよね?」
「知ってる」
「この部屋は現実世界」
「知ってる」
「この部屋は現実と非常によく似せられた世界」
知らない。
そんな事は知らない。
「どういうこと?」
「本当の現実の世界はこの建物の外」
「建物?」
「滅んじゃった世界。それが現実世界」
「分からない」
「ここは建物の中なの。この現実世界の部屋はその一室であって、核となる部屋なの。本当の現実世界はもうずっとずっと昔に滅んでるこの建物の外」
「建物……。ここはどこかの建物なの?」
「そう。さっきの質問にこたえるね。お弁当袋さんと鞄さん」
「うん」
「どうして強いABCを持っているのか。最初からそういうものなの。それはそのお弁当袋さんや鞄さんに聞かないとわかんないよ。わたしにも分からない。わたしは創造主さんじゃないよ? ただのこの部屋の主。お留守番役。見るだけ。たまに力添えはする。でも宇宙生物からここを守ったりはしない」
「待って………一気に一杯言わないで…………お弁当袋や鞄に聞けって言われても、私は物と話せない」
「話せなくても、りかちゃんにはそれ以上に相手を分かれる方法があるよね?」
即ち食べる事だ。
「これを食べるの?」
理香は弁当袋を摘んで聞くと、月白はにこっと笑って頷いた。
「うん。自分の体内に取り込んだら、今のりかちゃんなら色々とわかるよね」
「うぅ〜……!」
思わず嘔吐しかけたが、理香はなんとか胸を擦って耐えきった。
異物感で胃が気持ち悪い。それだけではなく、布切れなどが喉を通ったせいで、口から食道
月白はくすくすと笑っていた。
「あ…はは…………一生懸命、お弁当袋さんを小さく千切って、それを飲み込んでるりかちゃん…………かわいい☆」
「うぅ……!」
じろっと睨むと、月白は肩を竦めた。
「じょーだんだよ」
「胃が気持ち悪い……」
「もう少し待てば消化してくれるよ☆」
消化。
ついに理香は弁当袋を胃で消化してしまうようになったが、宇宙生物も既に食べて消化した事を思いだし、あれに比べたらまだマシだと思う事にした。
「ねえねえ? どう、りかちゃん? お弁当袋さんはなにか知ってた?」
「待って……!」
胃の中が熱く轟き、強烈なABCと知識が理香の体内に広がっていく。
知識が理香の脳内に溢れかえる。
耐えきれなくなる前に理香は不必要な知識を忘れていく。自ら忘却する。こうする事で、理香は脳の破裂を防止した。
「あれ?」
忘れていく?
頭にキーワードが掛かった。
忘れていく。忘却する。
そうだ。
宇宙生物に攻撃された生き物は皆忘却し、立つ事を忘れて立てなくなり、食べる事を忘れ、寝る事を忘れ、セックスすることも忘れ、色々忘れ、最後には生きてる事を忘れ死んでいった。
今、理香は本能的に忘れようとした。
理香は胸の中に宿るものを思い浮かべた。
月白の欠片の裏天使の力。
宇宙生物。
芹沢。
弁当袋。
たくさんの食料や知識。
それは今まで理香が食してきたものだ。吸収してきたものだ。
芹沢は以前言った。
理香が理香に見えない、と。
吸収とは一見大きいものが小さいものを食している事に見えるが、その大きいものとてなんらかの変化はある。吸収とは即ち融合であるとも言えるはずだ。
食べる事が融合であるならば。
宇宙生物がこの世界を手に入れるために、月白の作ったたくさんのものを食べているなら。
宇宙生物に攻撃された人は融合により、不必要な情報を本能的に忘れたのなら。
そこらに転がっている死体に宇宙生物は潜伏している事になる。
「月白ちゃん、宇宙生物はこの医務室の外にいっぱいいる。今もここをずっと狙ってると思う……」
「へ……? なになに?」
「宇宙生物は忘却して死んだ人に潜伏してる」
「ええ? なんでなんで? お弁当袋さんが教えてくれたのー?」
「ううん…………考えたら分かった……」
月白がえぇ〜?っと驚いた声をあげた。
「すごーい。すごい、りかちゃん。りかちゃんって頭いいーっ」
「ありがと」
「それでお弁当袋さんはなにを知ってたの?」
「えと……」
弁当袋の知識。
理香は胃から消化していく知識を脳内でまとめた。
不必要な知識は全て消す。
必要な知識。
弁当袋は建物の外の現実世界から来た。
これだ。
「お弁当袋は建物の外から来たんだって」
「ふぅん」
月白はやっぱりね、という顔で相槌を打った。
「……なに、その反応。あっぱり月白ちゃんは知ってたの?」
「ちがうよー。ただ、そんな気がしてただけー」
「じゃ、月白ちゃん教えて。この建物はなんなの? 外の世界とはどういう関係になってるの?」
「お弁当袋さんは教えてくれなかったの?」
「えと……」
胃から吸収された弁当袋が今まで見てきた思い出が理香の脳内に過ぎっていく。
この部屋は現実に似せられた現実世界の部屋だ。
崩壊した現実世界に残った僅かなものはこの建物内に避難した。未来や過去を振り返り、崩壊を回避する手はなかったのか。それを調べるため用意された現実世界の部屋と、各役割を与えられた部屋。
その時の光景はもう知っている。
この弁当袋からの視点。
多くの……それでも現実世界にあった筈のものからすれば、僅かにすぎない生き残ったものが建物内に運び込まれている。
その中に月白がいた。あの老人もいた。春奈の鞄も運び込まれている。
そして理香もそこにいた。
現実世界は外敵により滅ぼされた。それがこの建物では宇宙生物と呼んでいた敵達だ。
「私も……建物の外から来た………?」
「ああ、そうなのかな…………そうだったのかも……………だから、お弁当袋さんや鞄さんと同じく強いABCがあったのかな……」
「私と一緒に月白ちゃんもこの建物に入ってきてる」
「そうだったのかな…………古い事は忘れちゃった………☆」
「どうして教えてくれなかったの?」
そういうと月白はむすっとした顔になった。
「だーかーらー。忘れてたんだってばー。りかちゃんだって、今それを思い出したけど、他のことはなーんにも覚えてないでしょー?」
忘れていた。
理香も忘れていた。
先程、理香の気付いた真理に従うならば、忘れたという事はその分、なにかを吸収融合しているのだ。知識を持ちきれなくなったから捨てたのだ。
「あー、でもまだ記憶の残骸とかなら残ってるのかも……」
「残骸?」
「うんー。消したと思っても、案外破片なんかはどっかに残ってるものなんだよー」
「そんなの、私にはわかんないよ」
「だいじょーぶ、だいじょうぶ。りかちゃんなら破片くらい見れるよ。他者を食す事によって、外部の知識を得れるりかちゃんだもの。自分の中だって見れる。ほら……」
「え……?」
突然、理香の視界は暗転した。
「月白ちゃ………!」
意識が深淵に落ちていく。
暗い暗い精神の底へ理香の意識は向いた。
一面闇が支配する世界に理香は立っていた。
理香の記憶の世界だ。
どこを見渡しても黒。黒ばかりで世界が創られている。
山があった。
理香は山に近づいてその表面を見た。
宇宙生物や芹沢、弁当袋。バラバラに分解されたそれらによって、この山は構成されていた。もっと深く探れば、記憶の底の方まで見えるのかもしれない。
理香は記憶の深淵を見るため、山を掻き分けた。
たくさんの知識が詰まっている。自分でも驚く程詰まっている。
いざ、こうやって見れば『ああ、あの時はこんなことがあったな〜』と思い出せるが、言われなければ、こんなものを見なければずっと思い出せないでいた些細な知識が山になっていた。
何月何日ジュースを飲んだ。ハンバーグを食べた。学校にいった。学校から帰った。その途中で見聞きしたもの。宇宙生物に攻撃された時の腹の痛み。数えればキリがないような細かい知識が山になっていた。
この辺りの知識はまだ新しいものだ。現実世界の部屋での出来事だ。もっと深い知識を探ってみた。
懐かしい。
そんな感情が理香の中に生まれていた。少しずつ思い出してきた。
理香がこの建物に入った時。それはこの建物の中で宇宙が動き出した時だ。この建物はなにもかもが、現実世界をベースにしている。宇宙の始まりから今の今まで。
理香はずっと待っていた。
宇宙の始まりから気の遠くなるような年月を経て、理香が生まれた時代まで時が進むのを待っていた。
だけど、その間にたくさんの事を見聞きして、本来の目的を忘れた。なにかの目的があったのは覚えている。それがなにかまでは覚えていない。
忘れたのはそれがもう不必要な知識だったからだ。
建物の外の世界なんて理香は知らない。覚えていない。
大切なのはそんなことではない。今理香達が生きているこの世界なのだ。芹沢や春奈、月白、その他のみんなと一緒に楽しく過ごせる世界なのだ。
今、理香の中にはたくさんのABCがある。これは現実世界の過去や未来に外敵から守るための可能性を模索するためのものなんかではない。
理香の力だ。
理香は自分の信じた世界をあの白い部屋に創る。
あそこに楽園を創る。
芹沢を食べる時、そう約束した。
だからこそ、芹沢も食べられる事を許容してくれた。
こんな古い知識など必要ない。塵になっても構わない。大事なのは芹沢や春奈、月白との思い出だ。
理香が知識の山に背を向け、現実世界の部屋に戻ろうとした時、山の中でなにかが動いた。
「ああ、あなたね………」
老人がいた。
「やっぱりね。さっきからその山に天使の薬から得た知識がないと思ってたから……。薬に身を移して、私の中に入ってたのね。最初からそれがあなたの目的だったのね」
老人の身体は淡い光に包まれていた。その光は理香の記憶のこの暗い世界から、身を守るバリアのようだ。理香の体内に入った老人が消化されずにいたのはこの光の仕業だろう。
愚か者め……。
地球帝国の使命を忘れたのか。
過去の記憶に価値はない、だと……。
「ないとは言わないけど。だけど、もっと大切なことがあるの。約束したの。芹沢くんとも」
違う。それは違うぞ。
大切な事とは地球帝国の使命だ。
お前は忘れているだけだ。
「忘れたのは不必要な情報だからよ。それより、あなたはどうして私に付きまとうの?」
地球帝国再興のためにはお前の力が必要なのだ。
「どうして?」
お前が大切な知識をその記憶の深淵に眠らせている、地球帝国の生き残りだからだ。お前の知識がいずれ再建される地球帝国の構築に必要なのだ。地球帝国を創造するのにお前の知識が必要なのだ。
かつて地球帝国を救うために敵と戦った天使のお前の記憶が必要なのだ。
お前はあの戦いの最中、地球帝国の全てを見た筈だ。
天使として地球帝国全てのABCの力をその身に宿して戦ったお前なら、地球帝国そのものを、この館内に創造できるはずなのだ。
「よく分からないけど……………あなたはその地球帝国を、どこかの部屋に創造したいのね」
うむ。その時は無論邪魔な小娘や外敵をこの館内から駆除する。
「邪魔? 小娘って月白ちゃんのこと?」
そうだ。
地球帝国の天使でありながら、ABCを私利私欲に用い、間接的にとはいえ帝国を滅ぼした悪の因子。奴には制裁が必要なのである。
「ああ、制裁を与えたかったんだ、月白ちゃんに……。でも、前は学校の屋上で首絞められて返り討ちにされそうだったね」
黙れ! 黙れ!
私はあれで死んだのだ! あの小娘は最期まで私に牙を剥いたのだ。
「ああ、やっぱり死んでたんだ……。じゃあ、薬に身を隠したというよりは、薬に記憶の残骸が残ってただけなのね。あなたは残骸なのね。ところであなたの死体はどこいったのかな……? 次の日になったらなくなってたんだけど」
そんなこと知らぬわぁ!
もうお前などに期待はしない! 今まではお前を天使と思い大目にみてきてやったがそれも終わりだ! お前を内側から食い破る! 私がお前の記憶全てを喰い創造する! お前にはせっかく白い部屋を創造する力をくれてやったと言うのにそれが小娘一体作って終わりか! 死ね!
「……そう」
どうした! 足掻かないのか! 戦う牙も無くしたのか! それともお前は真には私に食われる事を望んでいるのか! そうなのか! お前はやはり正しき天使の心を持っているのか! 私は! そんなお前の意志は決して無駄にはしない! 許せ!
「…私、死にたくない」
すまない!
「絶対に生きて芹沢くんや春奈、月白ちゃんと幸せな世界を創って見せる!」
理香はたくさんの思い出に浸っていた。
天使だった理香は地球帝国の存亡を掛け、仲間の天使達と共に戦っていた。隣には老人もいた。
ずっと忘れていたけどあの時、理香と老人は約束した。
必ず生きて帰ろう、と。理香は老人と約束した。
老人は理香を実の孫のように可愛がってくれていた。
天使として産み出され地球帝国を守る命を与えられた理香に、老人は優しく、また厳しく躾てくれた。思い出した。
家族のように過ごし、共に戦ってきた。
大切な思い出だ。
この建物内で宇宙が始まり、気の遠くなるような年月を経て記憶は霞んでいたけど、今思い出した。
理香は老人の亡骸の前に座って泣いていた。亡骸を食べながら泣いていた。
嗚咽が止まらず、何度も鼻をぐずって泣いていた。
「おじいちゃん……! なんで……!」
亡骸を食べている内に理香は記憶を取り戻した。心の奥底に眠っていた記憶の残骸が息を吹き返した。
食べる事によって取り込んでいるのは老人の記憶であり、老人が見た光景だ。だが、その光景が理香の中に眠っていた記憶と重なるのだ。理香も遠い昔に同じ光景を見ていたのだ。
「言ってくれたら……思い出したかも知れないのに………!」
どうして老人がなにも言ってくれなかったのかも、食べている内に理解できていた。
「おじいちゃん……私を信用してくれていたんだ…………! 絶対に自分で思い出せるって信じてくれていたんだ……! 私の心の中に入って………! それでおじいちゃん…………私の意識の奥底に帝国の記憶の欠片があったのを見付けていて…………信じてくれてたのに! 約束もしてたのに……………! おじいちゃんと………! この建物で………何億年も待っている間に記憶は薄くなるかもしれないけど……………でもお互いが再開したら…………絶対に思い出すって……………約束したのに! おじいちゃんは私を覚えてくれていたのに…………! 宇宙ができてから、おじいちゃん、今までずっと私の天使の力を最大限に引き出す方法を研究してて………………帝国を再興して、私を何者からも守れるだけの天使の力を研究してて…………あの時約束したのに! それを薬という形で私に渡してくれていたのに………! 絶対思い出すって約束までしてたのに!」
「うぅ〜……! 私、最低だぁ…………!」
気付いたら理香はまた医務室にいた。
部屋の中は窓から差し込む夕日によって赤く染められていた。
「おはよ〜、りかちゃん☆」
月白がくすくすと微笑んで、理香が起きるのを待ってくれていた。すっとベッドの隣で待ってくれていた。この医務室の周りが宇宙生物だらけなのだから、万一に備えて月白は理香を守ってくれていたのだ。
月白は今は大事な友達だ。けど昔は敵だった。老人も月白に首を締められて死んでしまった。
「月白ちゃん」
「なになに?」
「私の中におじいちゃんがいた」
「そうなんだ?」
「だいたい思い出した。あのお弁当袋とか、春奈の使ってた鞄って私が使ってたやつだ。一緒にここに持ってきたんだ」
「うん」
「私ね、昔にした約束を守れなかったの。でも、私また新しい約束を芹沢くんと結んじゃってるの! 約束守れない女なのに! 最低女なのに!」
「忘れてたならしょうがないよ。もうずっと昔の約束だったんだよね? りかちゃんは悪くないよ〜」
「おじいちゃんは覚えてたもん、約束………!」
「そっか」
「私、芹沢くんと約束して彼を食べちゃったんだよ……! どうしよう……!」
泣きながら叫んでいたら、月白が優しく理香を抱き締めてくれた。
「りかちゃん、記憶が一気に頭の中に入ってきて興奮してる……」
「うん……!」
「少し頭を整理しよ? 人は忘れなきゃやってられない時もあるよ、辛い事とか、ね?」
「うん……」
月白は優しい。
理香はいつも月白に甘えてしまう。
「私と月白ちゃん……敵同士なのに…………」
「昔は立場が違っただけ…………お互いがお互いを好きになれるなら友達になれるよ」
「月白ちゃん…………」
「なに?」
「ありがと……」
「うん」
月白は友達だ。
けれど、頭のどこかにその友達と言う言葉がまた“違和感”として引っ掛かる。
なにが引っ掛かっているのか分からない。
「月白ちゃん……」
「なぁに?」
「前に貰ったノートの内容思い出した。月白ちゃん、おなかすいてるの?」
「おぼえてくれてたんだ……」
「裏天使になった私や芹沢くん、春奈に食べるものを持ってきて欲しかったの?」
「うん」
「どんなのを持ってきたらよかったの? なにが食べたいの? ABC? 私、持って来れるものなら持ってくる」
「ありがと、りかちゃん…………。あのね……………」
「……ん…」
「この建物の中にある全部のABCが欲しいの。そしたらね。わたしが神様みたいなのになれて、ぜんぶの知識とぜんぶの能力をもった私がね、思った通りの世界を創れるの」
「うん」
「みんなと楽しく暮らせる世界が欲しいの……」