『裏天使 〜さんかくとしかく〜』

 違和感6 秘密の部屋


 

 

「………かちゃん……………りかちゃん………おはようだよ〜?………りかちゃん?…………りかちゃん」

「…ん…………」

 耳元で騒ぐ月白の声に理香はうっすらと目を開いた。ここは医務室だ。医務室のベッドの中だ。

 月白が心配そうに理香の顔を覗き込んでいた。

「……おはよう、月白ちゃん」

 起きた理香を見て、月白の表情が安堵に変わった。

「………よかった………・りかちゃん起きた………」

「どうしたの、月白ちゃん?」

「りかちゃん、いくら呼んでも起きなかったもん。わたし、心配してたの〜」

「そう……ごめんね」

 理香は壁に掛けられた時計を見た。午前十時だ。

「じゃ、りかちゃん。朝ご飯にしよ? せりざわくんがもう準備してくれてるよ」

「うん」

 月白はにこにこと理香に笑いかけてくる。

 

 月白は神だ。

 この現実世界の支配者だ。

 現実世界を狙っている者がいる。それが老人であり、また宇宙生物である。

 宇宙生物もまた、何処かの部屋からこの部屋に攻め込んで来ているのだ。

 

 理香は考えた。

 これからどうしよう。

 このままなにもせず、ずるずる流れに身を任せるなら、今までのように月白に力を貸し、この部屋を宇宙生物から守る事になる。

 何にせよ、まだまだ情報が少ない。

 月白には老人の力を吸収した事は黙っておく事にした。月白こそ敵なのか味方なのかも分からない。なにを考えているのかも分からない。

 

 

 朝ご飯の時間だ。

「りかちゃん〜? ハンバーグ、おいしい〜?」

「うん、おいしい」

「ははは。理香ちゃんはハンバーグが好物だもんな」

「あはは……」

 食物の一つ一つを口に入れるごとに、理香の中に少しずつABCが蓄積されていく。このABCは月白の一部だ。

 この現実世界にある全てのものは月白のABCにより作られていたのだ。当然だ。月白がこの世界の支配者なのだからだ。

 今までは“月白の所有物の理香”が“月白の世界の食べ物”を食べていた。だから月白の持っていたABCの総量が変わる事はなかった。

 けど今の理香は月白の所有物ではない。天使の薬を飲んだ理香は、老人の力を受け継ぎ、一部屋の主となったのだ。意志の自由で各部屋を行き来できる。食物を食べる事によって、月白のABCを少しずつ食しているのだ。

 食物だけではない。空気を吸えばそのABCを吸収し、また息を吐けば身体に不必要なABC、老廃物を排出しているのだ。

 ABCは取るか取られるかなのだ。

 

 段々と分かってきた。

 この世界が月白の所有物なら、どうして芹沢を無償で助けられなかったのか。春奈の犠牲が必要だったのか。

 芹沢が瀕死の重症を負ったのはこの世界の摂理ではなく、余所の部屋から来た宇宙生物に攻撃されたからだ。月白のABCが減ったのだ。

 そこで次の疑問は芹沢に与えるABCが、何故春奈のものでなくてはならなかったと言う事だ。

 この世界に生き残っている人間が理香と春奈だけだったから? 全ての人間が既に宇宙生物に殺されたから? それだけ月白のABCが減っていたから?

 老人は言っていた。

 天使は世界全ての人間を救う。裏天使は一部の人間のみを救う。

 何故、この世界の主の月白は裏天使と呼ばれていたのか。

 

「あ〜。りかちゃん、そのハンバーグ、わたしのだよ〜?」

「え? あはは、ごめんね。おいしいもん」

「ははは。理香ちゃんはハンバーグ好きだもんな」

 朝ご飯がおいしい。身体の中にABCが満たされていく。

 

 

 朝ご飯の時間も終わり、ベッドの上でごろごろしている月白を横目で見ながら理香は考えた。

 この世界は月白が好きなように作れる世界だ。

 理香も芹沢も春奈も、他の全ての人間もこの部屋も食べ物も、なにもかもが月白の思い通りに精製された世界なのだ。

 月白はなにを理香や芹沢に求めているのだろう。なにをさせたいのだろう。なにかをさせたいならば、始めからそのように作ればいいし、作りなおしてもいいはずだ。

 けど、月白はいつも理香に判断を求めていた。月白は自分からなにかをしなかった。天使になるか裏天使になるかの選択も強いられたし、芹沢と春奈のどちらを救うかの選択も理香に強いた。

 それはどういう事なのか。支配者の月白が理香達をそのように作ったのならば、それが月白の望みだったという事になる。

 理香は月白の顔をもう一度見た。理香に向かってにこにこと微笑んでいた。

「ねえ、月白ちゃん?」

「ん〜? なになに〜?」

「月白ちゃんは私や芹沢くんが好き?」

「〜♪ うん〜♪ もちろん大好きだよ〜☆」

 大好き。

 理香も月白が好きだ。

 

 

 そっと音を鳴らさないように、理香は今出てきた扉を閉じた。閉めたのは現実世界への扉だ。

 理香は再びあの廊下にきていた。右を向いても、左を向いてもたくさんの扉が並んでいる。

 老人の部屋へ向かった。あの部屋は理香の支配下にある。理香の思い描く世界を創れるのだ。

 春奈や芹沢と楽しく生活できる世界も創れる。

 そう思い部屋の前まで来た。

 ガタガタガタ……。扉はいつものように軋みをあげて開く。

 部屋の中は真っ白のままだった。

 今の理香ならこの部屋の中を自在に創り変える事ができる。その方法が分かる。手の平からABCにイメージを乗せ扉にぶつけ、部屋の中を“ブロック”を積みかえるように構成しなおすのだ。

 

 

「…………」

 理香には望みの世界を創る事はできなかった。

 春奈を作る。芹沢を作る。

 それができなかった。理香がどれだけあの二人の事を分かっているというのか。二人の過去を知っているのか。想いを知っているのか。

 理香の主観による、表面上だけの彼らなら作り出せる自信はあった。けど、それは芹沢でも春奈でもない。

 それを知っているのは月白だけだった。

 

 

 白い部屋から出た理香は首を傾げた。

「……?」

 昨日はここに老人の死体が転がっていた。今はない。

(…誰かが掃除したのかな?)

 誰だろう?

 そんな疑問に頭を捻っていると、扉が一つ開いた。

「…………」

 開いた扉から金色の球体がごろごろと転がってきた。

 宇宙生物だ。それも一体ではない。開いた扉から次々と金色の球体が転がってくる。理香は身構えたが、球体達は理香など意にも止めないかのように、隣を転がり通りすぎていく。球体は全部で十二体だったので、理香は『一ダースなのかな?』と思った。

 理香はそっと球体達の後を追った。球体達は現実世界へと転がっていく。

 先頭の球体が月白の支配する現実世界の扉を体当たりでこじ開け、球体達は順番に中に転がり入っていった。今、宇宙生物が現実世界に侵攻しているのだ。理香はその現場を見ているのだ。

 この世界がどういう仕組みなのか理香には分からない。分からない事の方が多い。

 けど、理香は月白の世界で食物を食したり、息を吸う事でABCを取り入れられる事は知った。ABCは全てだ。

 

 今の理香はなにもできない。なにも知らないからだ。

 なにか行動をしないとなにも得られない。

 理香は覚悟を決めた。目の前には愚かにも自分に背を向けている宇宙生物達がいる。順々に現実世界に転がっていく宇宙生物達。

 最後の一体が扉に入ろうとした時、理香は後ろから球体を殴り付けた。『グー』で殴り付けた。

 叫び声にも似た嫌な振音を鳴らし、球体は真っ二つに割れた。ぱかっと割れた。卵のように、どろどろとした液状の中身が廊下に広がる。血と内臓だ。

 廊下に散らばった臓器はびくびくと痙攣していた。

 金属の殻と、中身の臓器や肉、血を見下ろしながら理香は覚悟を決めた。

 この死体を食すのだ。

 

 肉や内臓を口に放る嫌悪感に、理香は何度も嘔吐しそうになりながらも、それを食べ続けた。

 柔らかい内臓を噛み切ると、臓の中の汁が口内に苦く広がる。その汁を飲み込んで、喉から胃に通すごとに、理香は宇宙生物のABCを吸収する事ができた。

 吐き気がする。こんなもの人の食べる物ではない。それに鏡を見なくても分かる。今の理香の口元は血で汚れているだろう。

 けど、理香はABCを得るため、宇宙生物の血肉を残さず食べる事にした。

 

 

「…………」

 胃が重い。思わず吐き出してしまいそうになるが、なんとか耐えた。消化するまでの辛抱だ。

 胃がABCを消化、吸収していく。理香は宇宙生物の力や思考を得た。

 宇宙生物の思考により、宇宙生物の目的や手段が理解できた。また、宇宙生物達が生息している部屋の位置も、その扉の開け方も理解できた。これで、いつでも理香は宇宙生物の部屋に乗り込む事ができる。

 “食べる”という事は、その対象そのものを吸収するという事なのだ。そして不要なものや、使用できなかったものが老廃物として対外に排出されるのだ。

 理香は宇宙生物を食った。取り込んだのだ。今食べた宇宙生物は下等だ。大した情報も力もない。けど、新しく分かった事もある。

 

 宇宙生物の目的と手段。

 まず彼らは“宇宙生物”などという幼稚な名称ではなく、正しい名称があった。が、覚え辛い名前なので理香はその記憶を捨てた。覚え辛い名前を無理に覚えると、それだけ無駄が生じる。彼らに愛着を感じている訳でもないので、今後も彼らの呼称は“宇宙生物”にしておいた。

 宇宙生物の目的は現実世界の制圧。そして、その手段は現実世界のABCを食す事だ。今、理香がしたように食せばABCを吸収でき、ひいてはそれが世界の吸収に繋がる。

 理香は自分の腹を押さえた。

 スーパーで宇宙生物によって光に刺された。あの攻撃によって芹沢は瀕死の重傷を負い、理香もまた傷ついた。あれが食事なのだ。理香も芹沢も宇宙生物に齧られていたのだ。

 

 今、理香の中には食べた宇宙生物そのものがある。

 理香はあの白い部屋へ向かった。

 一つの実験だ。できると分かっていても、理香は一度試してみたかったのだ。

 理香は軋む扉を開け、再び白い部屋の中に入った。

 今はまだ静かでなにもないこの部屋に命を創造する。理香は部屋の中に宇宙生物と全く同じものを創造しようとした。今食べた宇宙生物の構成は全て理解できている。食べたのだから。

 創造するためには理香自身のABCを分け与えなければならないが、同じ物を創り出すのだから、先程食したABCをそのまま使えばいい。今吸ったABCを再び分離させるようなものだ。

 理香はほんの僅かだけABC、すなわち命をまだなき金色の球体に分け与え、そして創造した。

「…………」

 生まれた。

 白い部屋の中に金色の球体がいた。ぴかぴかと輝いている。

 創造したのは同じ金色の球体だが、現実世界を制圧しようとしていた手段や目的は消しておいた。生まれた金色の球体はゴロゴロと転がっている。

 命を創れた。

 理香は生まれた球体をベースにもう少し作り変えてみることにした。複雑な事は分からないが、あるものをベースにしてなら、理香にもオリジナルを産み出す事はできそうだ。

 まず球体なのがよくない。愛着がまるで湧かない。

 人型にしよう。

 妹か弟みたいなのがいい。ここは妹にしよう。

 そう決め、創りなおした。球体は理香よりも頭一つ小さいくらいの少女に姿を変えた。

 なんだか分かっていないといった表情の少女は、理香の方をぼーっと見返している。変えたのは外見だけだ。

「……おいで」

 少女は理香の元に歩み寄り抱き付いてきた。

 子犬のように可愛い。抱き付くという、全身での愛情表現が理香には眩しかった。理香は少女の頭をそっと撫でておいた。さらさらとした髪が手に優しい感触を与えてくれる。

 可愛い。

 実験が終わったらすぐに消そうと思っていたが、これはこのままにしておこう。

「私は少し用事があるから、この部屋でおとなしくしていてね?」

 少女はこくこくと頷く。

 理香は少女を部屋に残し廊下へ出た。まだ調べる事は残っている。

 ところで芹沢を食べたら、ここに芹沢を創り出せるのだろうか。

 創れそうだ。

 要一考だ。

 

 

 理香と春奈の立場が逆転していた部屋。

 あれはなんだったのだろう。部屋の支配者は誰なのだろう。なんの目的であんな部屋を作っているのだろう。どうしてその部屋に理香を二度も呼んだのだろう。

 そもそも、その部屋はどこにあるのだろう。

 探して見る事にした。

 理香も無意識の間だがあの部屋には行ったのだ。なにかヒントでもあれば見つかるかも知れない。

 廊下はどこまでも続いていて、たくさんの扉がある。適当に開けていけば、その内目当ての部屋に当たるかもしれないし、そうでなくても新しい情報が得れる可能性がある。

(勝手に扉、開けてもいいのかな?)

 もし部屋の主が怒って戦争にでもなったらどうしよう? そう思ったが、こっそりならこっそりなら大丈夫と思い、手近にあった扉をそっと引いてみた。

「…あれ………」

 扉は引いても押してもビクともしなかった。試しに隣の扉も、その隣の扉も開けようとしたが、こちらも結果は同じく徒労に終わった。開かない。

 そういえばあの宇宙生物を食べた時、宇宙生物の部屋の扉の開け方を理解できた。特殊な開け方が必要なのだ。ABCを決まった形にするという暗号のようなものだ。

 どうやら、扉を開けるにはノブを引くだけでは駄目なようだ。そう思えば、理香も自分の部屋のロックの掛け方が分かっていた。今思い出した。

 

「……? え?」

 

 今思い出した?

 そんな筈はない。こんな情報は始めての情報だ。つまり、たった今、誰かが理香に教えたのだ。扉のロックの仕方を理香に今教えたのだ。

 誰だろう。

 右を見た。左を見た。

 長い廊下が続いていて、延々と扉が並んでいるだけだ。誰もいない。

 では誰だろう。誰が教えてくれたのだろう。

「…………」

 身体の中が熱い。

 意識して始めて理解した。身体の中になにかいる。

 普通に考えてみた。今ままで体内に取り込んだもの。

 宇宙生物、これは消化した。

 月白の世界の食べ物。老人の薬。

 分からない。身体の中になにかいる。

(うぁ………)

 途端に理香は強い不安に教われた。今まで自分だけの身体だと思っていたのに、中になにかがいるのだ。

 そこまでは分かっても、自分の身体なのになにがいるかは分からなかった。完全に体内のどこか一部がブラックボックスになっている。

(…最悪……)

 現実世界で生きていた時、高校生だった理香の部屋に親が無断で入った時のような、居心地の悪さがあった。自分だけの場所が、プライバシーが侵されている。

 不愉快だ。

 とりあえず、白い部屋には鍵を掛けておいた。あの少女が知らない間に誰かに食べられていたらショックだ。

 

 

 さて。

 あの部屋への行き方が分からない。理香と春奈の立場が逆転していた部屋。部屋の場所が分からない。

 どうしてあの部屋には春奈がいるのだろう。とも思ったが、そっくりな別物の春奈かもしれない。

 分からない。

 分からない事は考えても無駄なので、理香は考えるのをやめた。

 これからどうしよう。

 今理香の取れる選択は現実世界に戻るか、宇宙生物の部屋にいくかだ。

 なんの準備も考えもなしに宇宙生物の部屋にいくのは怖かった。そういえば、現実世界は鍵が掛かっていないのだろうか。どうして、宇宙生物や老人が自由に出入りできるのだろうか。

 どうして、宇宙生物や老人はあの部屋を狙ったのだろうか。

 そう考えると、あの部屋にはまだ秘密がありそうだった。

 現実世界。

 現実というだけあって、きっとなにか重要な要素があるのだろう。

 現実世界へ帰ろう。

 

 

「…………」

 理香が目を覚ましたのはあの医務室の中だった。

 部屋の中が赤み掛かっていると思ったら夕方だった。

 理香は窓の外を見た。

 赤い。世界がまるで燃えているように赤い。

 世界が燃える。医務室の窓から覗く夕空は破滅を連想させるような美しさがあった。

 この世界は他の部屋とはなにかが違う。

 空が綺麗だ。それだけではない。ここにいる時、理香は自分の存在をよりリアルに感じる事ができる。廊下や他の部屋にいる時はどこか夢をみているような曖昧さがあるのだ。

 この部屋は特別だ。

 なにかがあるのだ。

「……理香ちゃん? 起きてたんだ?」

 声に振り返れば芹沢がいた。月白はいない。出掛けているのだろうか。

 夕日に彩られた芹沢の身体はまるで血に濡れているようでもあった。芹沢にも理香がそのように見えているのかもしれない。

「ねえ、芹沢くん」

「なんだい?」

「私が好き?」

 芹沢はやや面食らったような表情になった。

「どうしたの、芹沢くん?」

「あ……いや………理香ちゃんが僕にそんな事聞くとは思わなかったから……」

「そう?」

「ああ……」

「……私が好き?」

 芹沢は少し躊躇したようだがはっきりと言った。

「好きだよ」

「ありがと」

 もしも芹沢を食べる事ができたら、理香は芹沢の全てを理解できる。創造できるようになる。

 けど、芹沢はここで今生きている。その芹沢を食し、理香の世界に創造したいなどというのは傲慢だ。

 

「芹沢くん……」

「なんだい?」

 

「この世界には秘密があるわ」

「…秘密?」

「わからないけど。でも、なにか秘密がある。月白ちゃんはそれを知っている」

「そうなんだ……」

 

 おなかがすいた

 なんでもいいからたべたい

 ひもじいよ

 たすけて

 おなかがすいた

 うらてんしのあなたにおねがい

 わたしにごはんをもってきて

 

「私と芹沢くんは裏天使」

「そうだね」

「月白ちゃんはおなかがすいてるんだ」

「……ごめん僕には理香ちゃんがなにを言いたいのか分からないよ」

「そう……」

 

 

「ねえ、芹沢くん」

「なんだい?」

「あなたを食べたい」

 今の芹沢は月白のABCによって創られた生命なのだ。月白に全てを握られているのだ。

「私、芹沢くんをもっと知りたいの。そしたら芹沢くんを別のところに創れるの」

「……理香ちゃん。僕には君がなにを言っているのか……………」

「今は分からなくてもいい。創りなおす時にはそういう情報は与えるから。それに私、芹沢くんを創りなおした後は、私は芹沢くんを勝手に創りなおしたりできないように、芹沢くんを私の支配下から解き放つから。芹沢くんは自由な生命になれるの。芹沢くんには私の仲間になって欲しいの。本当の意味での大切な友達になって欲しいの」

 

 

 

「だから…………」

 

 

 

 ガタガタガタ………。

 白い部屋に戻った理香は、独り待っていた少女を優しく抱き締めた。

「ただいま………寂しかった………?」

 少女はこくこくと頷く。

「ごめんね。独りだけ創る、みたいなことしちゃって。でも、もう少ししたら、ここに人を増やすから。もう少し待って。今日はまだ心の整理がつかないの。ああ、そうだ。今度、あなたも一緒に他の世界にいこっか……」

 

 

 理香の中にたくさんの“違和感”があった。

 寝ている間に老人に薬を入れられた時から生まれた“違和感”は大きくなり、またその数も増えた。

 たくさんの大きな“違和感”

 

 薬、老人、月白、命、世界の仕組み、部屋。

 全てに違和感を感じる。

 

 

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