-救済の書-

真実の4章 ジサツ。


 

@月@日 雨

 夢を見た。

 死にたいと言うニンゲンは死なない、という言葉があるけれどあれは嘘だ。死にたいと言っているニンゲンは死ぬ。あの言葉は、ある種のキーを含んだ「命を賭けたサイン」だ。

 賭けなのだから勝ち負けはある。結果として、誰かに相談を乗って貰い、なにかを得たニンゲンなら生きる。しかし、その賭けにすら負けたニンゲンは死ぬ。

 

 

@月@日 とても雨

 古の賢者の伝説。

 敵国の少女を捕まえ、友達を与えクビを撥ねた賢者の伝説。今日は七瀬ちゃんがクビを跳ねられることを想像してしまった。それは耐えられない。

 少女が受けた苦しみも推移はできた。

 友達がクビを跳ねられるのは可哀想。

 今日も雨が降っていた。

 お肌が荒れちゃう。

 

 

@月@日 雨

 最近、白姫ちゃんが不機嫌。

 食事中も一言も話さず、ぶっすりと黙り込んでいた。気まずくなり、私も声を掛けることはできなかった。

 

 

@月@日 大雨

 家の中なのに何処からともなく、あの「視線」が感じられる。家の中で視線を感じたのは初めてだった。

 白姫ちゃんは当たり前のように私の家にいるけれど、一言も喋らなかった。

 

 

@月@日 雨

 今日は七瀬ちゃんも家に来てくれた。それからは白姫ちゃんも何事もなかったかのように明るく振舞っていた。

 今日も七瀬ちゃんに抱きついた。怒られて頭を殴られるのもいつものことだった。脳みそのシェイク。仕方なく白姫ちゃんに抱きつこうとしたら、避けられて壁に頭をぶつけた。またもや脳みそのシェイク。

 痛々しいのにこんな日常が幸せだった。

 

 

@月@日 くもり。

 七瀬ちゃんは不思議な女の子。

 私を餌付けする。そんな感じだった。私が七瀬を求めれば、七瀬ちゃんは距離を取る。そして七瀬ちゃんがいなくて耐えられなくなった時、私に初めて優しくしてくれる。

 飴と鞭の使い方だ。

 七瀬ちゃんは私を大事にしてくれる。それだけで幸せだった。

 

 

@月@日 大雨

 今日は七瀬が泊まってくれることになった。一緒にゲームをしていたら、女が一人で帰るには遅い時間になってしまった。

 一緒に夕食を済ませ、また二人でゲームをした。私は七瀬ちゃんに甘えるように身体を寄りかかりながら聞いた。思い切って聞いてみた。

「七瀬ちゃん。こないだの男のヒト、誰?」

「クラスメートの名前くらい覚えなさいよ…」

 七瀬ちゃんは飽きれたように言った。

「男の名前なんかつまんなーい」

「れづれづ」

「そんなんじゃなぃー。んで、なんなのさー」

 七瀬ちゃんは意地悪く笑った。

「気になるんだ?」

「うん…」

「秘密―」

 七瀬ちゃんはそっぽを向いた。

「教えてよぅ…。気になって夜も眠れないんだからぁ…」

「そんなんだかられづって言われるんだよ。いい加減、私離れしなさい」

「うー…」

 また冷たくする。少し距離が近づけば離される。離れれば優しくされる。

 七瀬ちゃんはそうやって、いつまでも着かず離れずの距離を取り続けるんだ。私は七瀬ちゃんが意図的にそうしていることが分かった。

 どうしたら七瀬ちゃんが振り向いてくれるのか分からず、私はどうしようもなくなって、七瀬ちゃんに後ろから抱き付いた。

「だめ、りんかちゃん」

「深く関わると傷つくのが怖いから離すんだ。でもいなくなられても寂しいから、着かず離れずなんだ…」

「うん、そだね」

「…傷つけない…」

「私、誰とも深く付き合いたくないや」

 私は男なんか嫌いだった。

 だけど、この時だけは男でいたかった。もし男なら七瀬ちゃんを抱きしめて安心させる術もあったのだ。そんなことを考えると胸がずきずきと痛んだ。

 超えられない壁。如何に努力しても女は女でしかない。男ではない。

「リンカちゃん。泣いてるの…?」

 七瀬ちゃんはぎゅっと抱きしめてくれた。

 暖かくて嬉しかった。超えられない壁の不安も安らいでいく。賢者の伝説を思い出した。あの時少女が与えられた友達はこんな友達だったのかな。

 七瀬ちゃんは私を抱き寄せてくれた。涙が七瀬ちゃんの衣服に染み込んでいく。

 頭も撫でてもらった。

 

 

@月@日 快晴

 今日は屋上から七瀬ちゃんと夕日を眺めてた。

「帰らないの?」

 七瀬ちゃんも隣に座った。目を奪われるような夕陽だった。

「陽が沈んだら帰る」

 二人だけの時間は貴重。

 ずっと七瀬ちゃんの隣にいたかった。

「もう沈むよ。帰ろ?」

「まだ沈んでいない…」

 そして陽は沈み、地平線の彼方から赤いヒカリは失われていった。

「沈んだ。帰ろ?」

「うん…」

 沈んでしまった。

 

 

@月@日 晴れ

 今日も七瀬ちゃんは一緒にいてくれた。

 幸せ。だけどこの幸せはいつまでも続かない。七瀬は着かず離れずのスタンスをきっと崩さない。これほど距離が近づいているのは今だけだ。

 そう思った。

 だから私は同じベッドの中に入った七瀬ちゃんをぎゅっと抱き締めた。七瀬ちゃんは嫌がったりはしなかった。

 

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