-救済の書-
真実の1章 邂逅。
日記もこれで六冊目です。多分これが最期の日記になると思います。
ここから読むヒトのために今回も自己紹介をしておきます。私の名前は六芒リンカ。生まれは文明頂上時代、詰まらないニンゲンです。この日記が何処まで続くか分かりませんが、頑張って書くので良かったら見てあげてください。
明日から頑張ります。
@月@日 晴れ
今日は体育の授業がありました。
運動は苦手です。
護身術の稽古らしいです。私の相手は七瀬ちゃんです。
「てやぁ」
気合一閃、私は七瀬ちゃんの身体の真ん中に正拳突きを叩き込もうと、彼女目掛けて真っ直ぐ駆けました。
いつも七瀬ちゃんは私を子ども扱いする。今日こそはその立場が大逆転するのです。そう信じての突撃。
「――――!」
七瀬ちゃんは溜息を吐いていました。
私の頭に七瀬ちゃんのげんこつが落ちました。
私は気絶しました。
とても痛かったです。
@月@日 晴れ
私は友達の七瀬ちゃんが大好き。
今日も体育の授業で七瀬ちゃんのげんこつを頭に受けました。
またもや気絶しました。
頭ばかりを叩かれていては、私の脳みそは滅茶苦茶になってしまいます。
@月@日 曇り
目を開けると天井が見えました。
硬いベッドの上で寝かされていました。鼻を擽る消毒液の匂いがする。保健室らしいです。
七瀬ちゃんはベッドの隣で椅子に腰掛け本を読んでいました。
「リンカちゃん、起きた? 平気?」
七瀬ちゃんは「鈍いリンカちゃんが悪いんだよ」と付け加えました。そういえば今日も七瀬ちゃんのげんこつをもらって気絶したのでした。
壁に掛けられた丸時計を見ると、もう放課後になっていました。
頭くらくらします。七瀬ちゃんは心配そうな顔をしてくれました。
「平気じゃないからおんぶして」
とりあえず七瀬に抱き付くことにしました。
「やーだよ」
「あ――っ?」
七瀬ちゃんに避けられ、私はベッドから落ちました。
頭を強打しました。脳みそが痛いです。
「すぐに抱きつくんじゃないの、セクハラ反対」
女の子同士だからいいじゃん。そう言いました。
「リンカちゃんはやらしーからだーめ」
駄目らしいです。
@月@日 曇り
冬だからか、学校から出るともう辺りは暗くなり始めていました。
身に染みる冷気。
心が寒いよりはずっとマシです。
@月@日 晴れ
すごく寒かった。
七瀬ちゃんは帰り道、肉まんを買っていた。
「ななせちゃん、増量中?……痛っ」
頭を殴られました。
今日もシェイクされる私の脳みそ。
「殴るよ…?」
「とても痛かったです…」
またタンコブが一つ膨れ上がることになりました。
殴られれば殴られるほど、私の脳みそはシェイクされ進化していく気がします。
気がするだけです。進化しません。
@月@日 晴れ
誰かに見られている。
@月@日 晴れ
今日はゆっくりと夜の街を七瀬ちゃんと眺めました。
この「文明最長上時代」では地上も天上も明るいです。
眩いネオンが闇を追い払うように輝き、ニンゲンの喧騒は耐えることなく続いている。多すぎるニンゲン、眩し過ぎる光量。
ニンゲンは間もなく滅ぶ、この光景を見ていると私はよくそう思いました。こんなに無駄な浪費が続けば地球は壊れる。ニンゲンは無駄に増えすぎました。
私のプリンのような脳みそも、色々とモノを無駄に考えすぎました。
@月@日 曇り
私の住処はマンションの一室。
家に戻っても真っ暗。いつものように迎えてくれる親もいない。七瀬のように親を亡くしたわけではないけど、あいつらはどうせ遊んでいるのでしょう。セックスすれば子供は勝手にできます。若い駄目な親は今日も遊んでいます。
買い置きしてあった食料を調理し食べました。すぐに食べ終わりました。
入浴した。歯を磨いた。寝る準備をした。ベッドに入った。もう寝ることにします。
なんのために生きているのだろう。
私には大好きな友達が二人いる。
一人は七瀬ちゃん。
もう一人は白姫(ひめ)ちゃんという女の子の友達。
二人といるのは楽しい。
もし二人がいなかったら、きっと私生きてなかった。