『偽シャングリラ 〜この世でたった一人、善と愛を語れる勇者様〜』
第2記 監獄 私と勇者様 あああアアアAAA
目を覚ましたのは牢屋の中でした。
私は檻の中に閉じ込められていました。壁や天井、床は厚い金属板です。当然、殴って穴を空けて逃げたりするのは不可能です。まさしく牢屋です。
撃たれた脚は手当てされていました。包帯が巻かれています。でも、走ったりはムリそうですね。もし誰かが私を襲ったら、多分抵抗できません。
しかも、私の両手には手錠がかけられてます。最悪ですね。
どうしましょう。
と、誰かが来ました。私の牢屋の前で立ち止まります。
警備兵みたいな人と、いかにもボンボンといった、育ちの良さそうなお兄さんです。
「この少女です」
「くく、これはいい。清楚な感じがいいなぁ。俺はこういう清楚で汚れをしらないような娘を、徹底的に陵辱・調教するのが大好きなんだ」
「存じております」
これまた悲惨な趣味のヒトです。
私は檻から出してもらえましたけど、この警備員みたいな方は、私にしっかりと銃を向けています。ここは我慢です。
「さあ、来いよ! いたぶってやる!」
お兄さんは私の腕を掴んで無理やり引っ張っていきます。半ば強制的に歩かされて、足が痛いです。
けど、ここは我慢……です。
手錠された私は檻から出されて、お兄さんに何処かへ連れて行かれました。
廊下の壁はどこも分厚そうな金属です。窓なんてもちろんありません。頑丈そうな建物です。
あちこちに監視カメラが設置されてます。ここで抵抗するのは無謀です。そもそも、女の私の力じゃ、このお兄さんをなんともできません。手錠されてるし、脚も怪我してるし……。我慢です。
お兄さんは私がそんな風に色々と考えてるのも知らずに、鼻唄交じりで私を引っ張っていきます。とても嬉しそうな顔をしています。まったく……。
とにかく、私は逃げる算段を立てなきゃダメです。
犯されたくないです。
お兄さんの足がピタっと止まりました。
何処かの部屋の前です。
「ついた。ここだ入れ!」
私は部屋の中に突き飛ばされました。
部屋の中は石畳でした。灯りも蜀代によるもので怪しさ抜群です。所狭しと置かれた性具が、嫌でも私の目に入ってきます。
これがエスエム部屋ってやつなんでしょうかね?
お兄さんはバタンと後ろ手に扉を閉めてカギをかけました。
「ここではどんなに叫んでも大丈夫だ。誰にも聞こえん」
誰にも聞こえないんですね。
「俺の調教スペシャルをお前にも味わせてやる」
それはヤなんですけど、私も足を怪我してるし手錠もされてます。言うコト聞くしかないのでしょうか?
・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。.
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「ぎにゃあぁあぁあぁぁぁああぁぁっっ?」
お兄さんは股間から血を流して、床をごろごろ転がりまわってます。
私は今しがた噛み切った肉塊を吐き捨てました。べちゃっと血塗れのそれは床に落ちます。
まったく非道い目に合わされました……。
あんなのを舐めさせようとするなんて。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
お兄さんは泣き叫んでいます。ちょっと可哀想なコトをしてしまいましたけど仕方ないです。この人が悪いんですもの。ん、まあ、ショック死されなくてよかったです。
私は脱がされた服を着ながら、次に取るべき行動の算段を立てました。舐めさせられる時に手錠外してもらってたのはラッキーでした。
声は外に聞こえないそうですけど、こんな所でのんびり遊んでいるつもりはありません。こんな性行為を目的とした部屋ですけど、もしかしたら監視カメラがあるかもしれません。行動は迅速にしなくては。
とりあえず、ここが倉庫のお兄さん達が言ってた牢獄なのでしょうか? 私の探してる人はもしかしたらここにいるのでしょうか?
でも何処に行けば良いのか検討もつきません。この建物も広そうですし、右も左も分からない私が適当に歩いてなんとかなりそうなものでもありません。
なんか見取り図でもあれば良かったんですけど……。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
誰かに道を尋ねたい気分です……。
「うああああああぁぁああぁぁぁあああぁぁあああぁぁぁああああ」
仕方ないですねー……。
私は転げ回ってるお兄さんに道を尋ねる事にしました。
「すみません。私、人探ししてるんですけど……」
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
「この牢獄に善と愛を唱える方がおられるって話聞いたんです、私。それでその人に合いたいんです」
「あぁあぁあぁあぁAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」
「…………」
あんまりこういうコトしたくないんですけど……。
私はポケットからハンカチを取り出して、手を包んで、お兄さんの“出血中の箇所”に手を伸ばしました。
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
「あの……私もこんなことしたくないんです、本当です。だから私の質問に答えてください」
「ぎいああぁぁあぁぁぁぁぁぁぁ…………言うっ……言うからヤメろぉぉオォ」
お兄さんは素直に知ってるコトを話してくれるそうです。
良かったです。
「それじゃ質問です。まず、この部屋は今、監視カメラとかで見られてますか? あ、嘘言ったら非道いですよー」
「ぎゃあぁあぁああああ! 嘘なんて言わねぇ! カメラなんてねぇよおお!」
「あ、すみません。つい………じゃ、次の質問です。この建物の中に、善に溢れて、本物の愛を教えてくれる勇者様がいるって聞きました。本当ですか?」
「……そ…………そそそそそそれは俺のコトだぁ………」
マジですか……?
「……って、そんなの信じると思ってるですかっっ!」
「ぎゃあああああああああああああああああああ! 本当だぁ! 信じてくれぇえ!」
お兄さんは本当に泣き叫んでいます。顔も真っ青です。
どうしましょう……。
「信じてくれぇ……信じてくれぇー……!」
困りました。
あ、お兄さん、気を失ってしまいました。
とりあえず、血を止めないあげないと……。
あれから、何時間経ったのでしょうか。
部屋に常備されてた拘束具で雁字搦めになってるお兄さんが目を覚ましました。暴れたりはできないはずです。お兄さんの出血してた股間にはベッド(多分、ヤラしい目的で使うベッド)のシーツを包帯代わりにして止血しておきました。
もし、黴菌とか入ったら………やっぱり私のせいなんでしょうか?
お兄さんはきょろきょろと辺りを見渡し、そして恐る恐る自分の股間を見下ろしてます。
当然、そこには血に濡れたシーツがぐるぐるに巻かれています。
「お、俺のは……」
私が部屋の中に落ちてる血で固まった肉塊を指すと、お兄さんは涙をぼろぼろと流し始めました。
「おおおお、俺のが……俺のが…………ゆ、夢じゃないのかよぉ……! うぉおうぉおぉおぉおぉおぉお……………俺は………俺はぁ……!」
なんか痛いというよりは、精神的に辛そうですねー。やっぱり、自分の身体の一部が千切れるのって辛いんでしょうね……。
私だって、腕とか足が千切れてなくなったらヤですし……。
「……鬼……あんたは鬼だ……! 俺はこれからいったいどうしたらいいんだ……」
「鬼って言われても……あなたが悪いんじゃないですかー………」
「ううぅぅっ………」
お兄さんは泣き崩れてしまいました。てっきり逆上して暴れるかと思ってたんですけど……。
「あ、病院にいけば、もしかしたらまたくっつくかもしれないですよっっ」
「ほ、本当かっっ?」
「わかんないですけど……」
お兄さんはまた泣き崩れてしまいました。やっぱり根拠のない慰めはダメですね……。
「で、お兄さんにお聞きしたいんですけど………あなたは本当に勇者様なんですか? 全然そうは見えないですよー」
「ほ、本当だ……」
泣きじゃくってお兄さんは答えます。なんか私の方が悪者みたいでヤですね……。
「じゃ、聞きますけど。善と愛に溢れてる人が、どうして合意も無しに私を犯そうとするんですか?」
「お、お前があまりにも眩しくて、清楚で可愛らしかったからだ……」
「ん、それは光栄の至りです。ありがとです」
じゃなくてー……。
「私、そういうのは善でも愛でも勇者様でもないと思うです。それ以前に、私の探してる勇者様は、ここに捕まってるって聞きましたよ。あなたじゃないでしょう?」
「話せば長くなるんだけどな。俺だって、この世界で最後の勇者っていう自覚もあるんだ。ムザムザ処刑される訳にもいかねぇだろ?? 脱獄したんだよ。でも、この金持ち区域、外と出入りするのは難しいからな。お前みたいな女の子なら入るのは簡単みたいだが。で、顔を変えて、こうやって悪いやつのフリをしてるんだ。分からなかっただろ?」
本当なのかな……?
「あなたが本当に勇者様っていう、なんか証拠とかありますか?」
「ねえよ」
はぅ……。考えたら脱獄したってのも胡散臭いですね。そんなに簡単に脱獄できるわけないです。
「で、お前は俺に何か用があるのか?」
「はにゅ。あなたが本当にその人かどうか分からないんですけど。私、知りたいんです。本当の愛や善ってやつを」
「知ってどうするんだい?」
「私もそんな人になりたいんです」
お兄さんはハハハハっと笑い飛ばしました。
「そうかい、そうかい。まあ普通なら教えたりしないとこだがお前は特別だ。教えてやろう」
「……本当ですか?」
とっても疑わしいんですけど……。
「ただし」
「ただし?」
「お前、俺の女になれ」
「はえ?」
なに言い出すんでしょうかね、この人は。
「ヤですよー」
「駄目だ。お前は俺のモノを噛み切ったんだ。償え。それが条件だ」
「はぅ〜。あなた本当に愛を語れる人なんですか〜? ムチャクチャ見苦しいですよー」
お兄さんはじっと私の目を見つめ返してきました。
「お前に惚れた」
はぐ。マジですか……?
「善は急げだ。俺は善人だから行動は迅速に実行する事にしている。何はともあれ、俺を縛っているこの拘束具を解け。さあ早く」
うぅ。解いて大丈夫なのかなぁ?
「早く解けぇ!」
「あ、暴れないでくださいよぉっっ」
はぅ。惚れた、まで言われたら信じないわけにはいかないじゃないですかぁ……。
「ふぅ〜、自由になったぜ」
お兄さんは床に転がってる肉塊を手にしました。それをポケットに入れるその一瞬、頬を涙が伝ってましたけど、私は見ない振りをしました。
「では、お前に本当の愛と善を教えてやろう。どっちから知りたい?」
こんな部屋で愛を教えてなんて言ったら、なにされるか分かったものじゃないです。
「善の方をお願いします」
「そうか、善か……」
「って、私、まだあなたのものになるって約束したわけじゃないですからね」
「まあ、それは後々でいい。お前は自然と俺の魅力にベロンベロンに惚れるさ」
ベロンベロンって……この人、頭大丈夫ですか……?
「んー……あぁ……善………ぜんなぁ………………なんだっけ?」
駄目です、この人。
「ああ、そうそう。善だな。そうだな、まず根本として俺=勇者が最後の善と愛を語れる者ってのは知ってるな?」
「まあ……」
「お前は何故この世界に善や愛を語れる勇者がたった一人しかいないか、考えた事はあるか?」
「はえ? どういう事なんですか?」
私がそう聞くとお兄さんは得意気に言いました。
「それは悪魔がいるからなんだよ。人間の善や愛は、そいつらに潰されてるんだ」
「はあ……」
「知らなかっただろう?」
知りませんでした。
「俺がこんな所で悪人の振りをしていたというのも、全てこの都市を裏で操ってる大悪魔を始末するためだったんだ。俺は善や愛を求める仲間が訪れるのをずっと待っていた。それがお前だ」
私ですか……。
「時は来た。俺に力を貸せ! 今こそこの世界に善と愛を取り戻すのだ」
マジで言ってるんでしょうかね、この人は……。
「どうした? 俺に力を貸すのか! それとも尻尾まいて帰るのか! どっちなんだ! はっきりしろっ!」
ああ、もう。私だって今はこの人しか手掛かりがないんだから、ついていくしかないじゃないですかっ!
「分かりましたよ! 力を貸せばいいんでしょう!」
お兄さんはとても嬉しそうでした。
私はお兄さんと一緒に部屋から出ました。
「わ」
「おおっ!」
部屋の外には銃を構えた警備員みたいな方がおられました。お兄さんに敬礼しています。
「お疲れ様でしたっ」
「ん、ああ……」
「その娘は拘束しておかなくても大丈夫なのですか?」
「…大丈夫だ、この俺が女に負けるか」
私に負けたくせに……。
「その娘はどうされるのですか?」
「俺が引き取る」
「分かりました」
お兄さんは私の腕を引っ張りました。
「いくぞ」
「は、はいっ」
なんか私がお兄さんの物みたいに見えて癪ですけど、ここは我慢です。