DuetNet∩eclopse 〜デュエットネット∧イクリプス〜』 二重引き篭もりと幻想、嘔吐と頭痛の果てに閃きをみた

 Log.4 病気


 

 

 シャワーを浴びてパジャマに着替えてパソコンをつける。

 都市を起動する。

 今日は途中まで天理と遊べた。

 だけど赤ん坊の面倒を見るとかで、天理は廃屋に戻ってしまった。ラルクも廃屋にはいたので、ホリンは廃屋には戻らず、都市を終了させて寝る事にした。

 つまらない。

 最近はずっと胸が苦しい。口の中が酸っぱい。

 今日も例に漏れず胃がしくしくと痛かったので、夕食は食べなかった。ここ暫く、三日で二食しか食べていない。

 

 

 パソコンをつけて都市を起動する。

 今日もまた非道い現実を目に付けられた。

 天理にマウスのカーソルを合わせると、今まで名前が【天理】だったのが【ラルクの妻の天理】に変わっていた。

 面白くないので今日はまだ夕方だけど、都市を終了する事にした。

 そういえば赤ん坊の名前を知らない。

 知ろうとも思わない。本当に知りたくない。関わりたくない。

 相変わらず今日も胃が痛い。

 食欲が沸かない。

 だけど、胃の中はからっぽでおなかはすいている。なのになにも食べたくない。

 不思議な感覚だった。

 

 

 今日は学校から帰ってきて本当に吐いた。

 吐く物がなくなっても吐き気は止まらない。そもそもほとんどなにも食べていないのだから、吐き気がなにを嘔吐させようとしているのかさえ謎だった。

 気分が悪いので今日はパソコンに触らなかった。

 

 

 シャワーを浴びてパジャマに着替えて、パソコンを触ろうとしたら、今日はついに泣いてしまった。

 都市で遊ぶのが苦痛になっていたからだ。

 だけど、都市をやめると天理と遊べないので、やめるわけにはいかない。

 悲しくて、涙でモニターが見えなかったので今日はパソコンに触れなかった。

 

 

 ずっと我慢していた。

 どんなに辛くても都市はやめたくないと思っていた。

 だけど、絶対にやめるわけにはいかないと思っていた都市を、今日はついにやめようと思ってしまった。

 以前はすごく楽しかった都市も今は苦しいだけだった。天理と遊んでる間でさえ辛い。【ラルクの妻の天理】という名前を見ているだけで吐き気がする。

 だけど事実は言わない。

 ゲームの事で駄々をこねているなんて思われたくない。

『あのてんりちゃん………?』

『うん?』

 今日は珍しく二人っきりになれた。

 廃屋の外に座り込んで、太陽の光を浴びて二人でお話。

 ぽかぽかとした暖かい光、優しい風に吹かれる草木、静かに流れる小川。都市の中の景色はホリンの暗い気持ちと対照的なものだった。

 さっさと言ってしまおう。

『あたし都市やめなきゃなの〜………』

『ん……』

『なんか最近都市ばっかで他なんもしてなかったし〜………』

『んー……』

『勉強もしなきゃだし〜……』

『うん』

『さすがに寝てるのと学校行ってるのと、ごはん食べてるのと、おふろはいってる時間以外ずっと都市ってのはまずいし〜……』

『まずいねぇ』

『ん、と〜。まあ色々あるの〜』

『んー…………』

 天理はなにか考えるような仕草をしている。

『ホリンちゃん、言いたいことはいいなね?』

『あぅ……』

 心を見透かされているようでバツが悪かった。

『別になんもないもん〜………』

『天理にも言えないのかな?』

『はにゅ………』

『ん……』

 天理は足下に落ちてる石を遠くに投げながら言った。

『わかった。ホリンちゃんが言わないなら天理も聞かない。聞かれたくないことまでムリには聞かない』

『…………』

『ホリンちゃんが都市やめるのは寂しいけど、天理がムリに止めることなんてできないもん』

『…ぁ……』

 違う。

 聞いて欲しい。聞いて欲しくないわけなんてない。

『ちが…う………!』

 天理に聞かれたかった。

『聞いて欲しくないわけなんてないもん………! てんりちゃんに聞いてほしいことがあるもん、ホントは………!』

『うん』

『でも言い辛くて………! 言うのが怖くて……!』

 女同士で好きになっているのが怖い。

 ネットワークの回線越しに好きになっているのが怖い。

 いやそれ自体はいい。ホリンの心の問題だ。好きなものは好きなのだ。だけど、天理に変な目で見られるのが嫌だった。

『やめたくないもん……! もっとてんりちゃんと遊びたかったもん………! だけど最近てんりちゃんと遊べなくて…………ラルクさんに盗られたみたいで辛くて……! でもそんなことてんりちゃんに言えなくて………………ゲームのことなのに大人げないって思われたくなくて………………だけど毎日吐き気がとまんなくて…辛くて………!』

『うん……』

 文字を打ってると涙が溢れてきた。

 天理は優しく聞いてくれている。そんな天理に自分の心を聞いてもらっていると、嬉しさと切なさで胸が熱くなって涙が止まらない。

『……なんとなくわかってたのね』

『う……?』

『ホリンちゃん都市やめるって言ったとき、なんとなく天理のせいだなって』

『…な、なんでわかるの………?』

『子供生まれた辺りからホリンちゃん元気なかったから』

『そ、そんなに元気ないって見え見えだった……?』

『だって、明らかに態度がおかしかったもん。声掛けてこなくなったし』

『はぅ……』

『でも声かけにくかったよね。ごめんなさい』

『ううん……』

『天理ね、ホリンちゃんのこと好きだよ?』

『うん……』

『もっともっと一緒にいっぱい遊びたい』

『あぅ……』

『強制はできないけど。でも、できるなら一緒に続けて欲しいな。だってホリンちゃんいなくなったら寂しいもん』

 さっきまで都市が辛かった、やめたかったという気持ちが和らいでいく。

 天理に優しくされて、まだ天理に大事に思われている事が分かると、まだ頑張れるような気がした。

『やめない……』

『うん』

『てか、ごめんなさい。ゲームのことなのに変なこと気にしちゃって……』

『…天理もずっと都市ばっかりやってたから。ここでしか会えなくなってたもんね』

『うん……』

 胃が痛くない。

 天理に癒されているように胸の痛みは引いていた。

『……吐き気なくなった………』

『よかった……』

『ごめんなさい、てんりちゃん……』

『ううん。天理もホリンちゃんが元気ないのは嫌だもん』

『はぅ〜………嬉しい〜……』

『でも、あんまみんなに心配かけたらだめだよ? ホリンちゃんわかりやすいから………』

『うん……』

『相談なら天理が乗るから………ね?』

 ぽんぽんっと頭をなでられた。

 可愛がってもらえてる。そう思ったら涙が零れてくる。

『あぅ。涙がとまんない……』

『あ、あ……。ホリンちゃん、泣かないで……』

『違うの……。てんりちゃんがやさしくて………うれしくて………』

『うん』

 優しく抱き締めてもらった。

 ネットワーク越しなのに、ぎゅっと抱き締められている………そんな感触が回線越しに伝わってきて、また涙がぽろぽろと溢れた。

 温かい。嬉しい。

 

 

 気分は晴れていた。胃袋に巣くっていた泥が浄化されたように気分がよかった。

 天理とたくさん話せて嬉しかった。今まで胸に溜めていたものを全部吐き出せて楽になれた。

 天理と紙風と今までいった事のない森に遊びに行った。遠足みたいで楽しかった。

 仮想都市が楽しい。

 結局徹夜でゲームしていた。天理や紙風も付き合ってくれた。

 学校が始まる時間ぎりぎりまで遊び倒し、急いで入浴して、朝食も食べずに走って家を飛び出した。

 

 

 家に帰りシャワーを浴び、パジャマに着替え、今日もパソコンの前に座る。

 気分はいい。

 仮想都市を始めようとしたら、メーカーの公式ページに新情報が発表されているとの事なのでまず確認する事にした。

 都市に新しいシステムが追加されるとのことだ。

 今までも抱き付いたり、頭をなでたり、地面に落ちている小石を投げるなどのアクションがとれていたが、今後はより細かい動作が行えるとのことだ。よりリアルに都市での生活を満喫できるとのことらしい。

 新システムのページを見渡していると、子供にも新システムが導入されると書いてあった。従来のシステムに加え、子供を外に連れ歩いたり、あるいは夫婦や子供といった都市内での家族で分かち合える特別な関係があるそうだ。

 面白くない話だ。

 

 

 大丈夫、大丈夫と自分に言い聞かせた。

 ゲームだ。ゲームのシステムだ。

 RPG。ロールプレイングゲームとは役割を演じるという。天理もそれは分かってくれている。

 だけど怖かった、このシステムが。

 夫婦や子供が“特別”と見なされるのだ、公式的な意味において。それが怖い。

 天理がホリンを大事に思ってくれているのは分かる。

 天理はホリンが一緒に遊べなくて寂しがっていたという事も分かってくれた。天理の性格ならホリンの気持ちをちゃんと考えてくれて、放ったらかしにはされないだろう。

 だけど、たまらない不安があった。

 なんだか分からない。

 胸がもやもやとする。

 気持ち悪い。

 今日はまた食欲が湧かなかった。

 

 

 学校から帰ってパジャマに着替えて都市を起動する。

 天理と遊んでいる時間は楽しい。

 一緒に遊んだ日はごはんもおいしく食べられた。

 とても幸せな気持ちになれた。

 

 

 学校から帰ってシャワーを浴びて、いつものように都市を起動する。

 天理がラルクと出掛けている時間、子供の面倒をみている時間は、心臓がどくどくと震え、冷たい汗が流れる。

 とても気分が悪い。

 ごはんを食べる気にならない。

 

 

 今日は都市をやらなかった。

 久しぶりに天理やオーディエとリレーターで話をしようという事だった。

 学校であったこと。家であったこと。楽しかったことや嫌だったこと。最近聖板に顔を出していなかったこと。色々話をした。

 ラルクではできない話をできる事が嬉しかった。

 そういえばオーディエとは本当に久しぶりに話をした気がする。

 リレーターを切る前にいつものようにオーディエにキスをされて、またドキっとして、それを天理に視的されてレズだとか冷やかされた。

 ごはんがおいしかった。

 

 

 今日は朝から気分がよかった。昨日オーディエや天理と話せたことが元気の源だった。

 だけど、学校にいる間に気分が悪くなった。担任の教師が産休のためしばらく学校には来れないという話を聞いたからだ。

 穂梨はその教師がそれなりに好きではあった。

 生まれてくる子供のため学校に来れないのは仕方ない。構わない。だけど、それが都市内での天理の子供を連想させ、吐き気がしたのでトイレで吐いた。

 学校から帰宅し、シャワーを浴び、パジャマに着替え、リレーターを起動した。天理と話がしたかった。無償に寂しい。

 天理はいなかった。都市を覗いたがそこにもいなかった。

 メールをチェックすると、今日は塾があるとの事でネットができないらしい。

 まだ夕方だが寝る事にした。

 

 

 夜中に目が覚めた。

 リレーターをつけても天理はいない。都市にもいない。寝ているのだろう。暇だったので、リレーターの過去のログを読み返すことにした。

 天理やオーディエ、他の皆と会話した内容は全てログという形で記録を取ってある。なんとなくそれを読みなおしてみた。

 天理が本当にホリンの事を思ってくれている事が分かる。よく心配してくれている。天理の優しさがまた身に染みて、夜中に一人で泣いてしまった。

 嬉し泣きだ。

 

 

 都市ではラルクと天理が仲良くしていた。

 注意して会話の内容を聞いているとラルクはいつのまにか天理のことを『天理』と呼び捨てにしていた。前は『天理ちゃん』だった。

 気分がよくない。

 駄目、と自分に言い聞かせる。

 大丈夫。ゲームのことだ。

 そのままラルクが天理を誘って何処かに出掛けてしまったので、穂梨は近くに常備してあるぬいぐるみを殴りつけた。

 そのまま気分が悪いので落ちようとしたら、紙風に声を掛けられた。

『ホリン』

『ん?』

『また悩んでるんか?』

『ん〜……』

『元気になったんじゃないのか?』

『元気な日もあるよ〜。でもそうじゃない日もあるの〜』

『ふむう』

『なんか一日の中でも落ち込んだり、楽しくなったり〜。そんなかんじ〜。今は最悪〜』

『むー……』

『あれなのね〜。躁鬱ってやつ〜』

『読めん』

『そううつ〜』

『ああ』

『まあ、そんなん〜。で、今は気分が最低なわけなのね〜』

『うむ』

『じゃあ、あたし落ちちゃうね〜』

『ああ、まって』

 落ちようとしてるのに紙風はまた声を掛けてくる。

『ホリン』

『なにさ〜?』

『笑ってみい。ほれ。ニコ〜っと』

『…………』

『ニコ〜っ』

『はいはい〜。にこ………。笑ったよ。これでいい?』

『うむ』

『じゃあ、落ちるね〜……』

『またな』

『はいはい』

 形だけでも笑ってみると、おかしくなって吹き出してしまった。

 紙風はホリンの事をいつもよく考えてくれている。心遣いが嬉しかった。

 

 

 天理とラルクはメールやリレーターで会話しているのだろうか。そんな事を考えて、二人が仲良さそうな光景を想像していたら学校でまた吐いた。

 ラルクが天理と仲良い所を見せられると涙が止まらない。想像するだけで吐き気を覚える。

 気分が悪いと授業を受けても身が入らない。

 気分をよくしようと思い、吐き気を忘れる事にした。休み時間に漫画を読んで、なんとなく笑ってみて嫌なことを忘れた事にして、授業をしっかり受けた。

 案外大丈夫だった。

 忘れた気になっている間は吐き気はしない。

 

 

 家に帰った時、吐き気は増していた。学校では人に囲まれていたけど、家では一人だ。漫画を読む気にもなれない程吐き気に満ちていた。

 シャワーを浴びて、パジャマに着替えてパソコンの電源をいれた。寝るのが一番だけど、天理がいるかもしれない。

 いた。

 天理に遊んでもらった。これがなによりの薬だ。どんなに気分が悪くても、天理に遊んでもらっている間は気分が晴れる。

 今日も大丈夫だった。素敵な一日だった。

 

 

 今日は天理はいなかった。

 吐き気が止まらない。漫画を読んでも面白くない。

 寝る事にした。

 寝ている間は悪夢さえ見なければ不安を忘れる。温かい布団の中は気持ちいい。天理と楽しく遊んでいる夢をみた日はとても嬉しい。

 だけど、いつも目が覚めるとブルーになる。

 それでも寝ている間そのものは苦痛を感じない。

 一日に八時間寝ているとしたら、人生の中の三分の一は幸せという事だ。そんな事を考えて余計にブルーになったので、まだ夕方だけどさっさと寝る事にした。

 

 

 今日もパジャマに着替えて、パソコンの前に座る。

 たまには都市から離れてみようと思い、聖板を適当に巡回した。それなりに面白い。みんなホリンによくしてくれる。友達がたくさんいる。嬉しい。オーディエとも遊んだ。

 楽しかった。

 

 

 今日は日曜日だった。

 天理は塾にいっているらしい。

 外は雨が降っていたので出掛ける気にもならない。

 漫画を読んでごろごろと一日を過ごす事にした。

 夕方になって、窓から見える夕陽を見て、今日一日なにしたのだろう、と振り返り虚しくなった。

 

 

 ずっと独りだと色々と考え事をしてしまう。

 よくないことばかりを考えてしまう。

 落ち着かない。

 今日も天理はいない。少しの間でも話せないと落ち着かない。不安になる。以前はこんなことはなかった。

 考え事ばかりしてしまうからだ。天理にしか答えの分からない事を考えてしまう。

 もしも天理は自分かラルクかどちらかを選ばなければならないなら、どちらを選んでくれるのだろうか。考えると怖い。不安は容易く恐怖に繋がり、恐怖は最悪の事態ばかりを連想させて吐き気を生む。

 ぐるぐると頭の中に暗いものが駆け巡っている時、オーディエがリレーターにサインインしてきた。

『おーでぃちゃん〜……?』

 居ても立っても入られず、話しかけてしまった。独りが寂しかった。

『うん?』

『なんかお久しぶり〜……』

『どしたの? 元気ないね☆』

『はぅ・・…』

『ん?』

『泣きそう………』

『えっ?』

 泣きそう………と文字で打って、オーディエに訴えかけると、余計に胸が切なくなって本当に涙が溢れてきた。止まらない。

 涙腺が壊れたように頬を熱い涙が伝っている。ぽろぽろと後から後から涙が流れてくる。

『不安は容易く恐怖に繋がって、恐怖は吐き気を生んで、吐き気がいっぱいだけど胃液しか吐けなくて、でもトイレでなんか吐こうとしたらそのうち苦しくなって涙がとまらなくなって涙がとまらないとおーでぃちゃんとかてんりちゃんとお話したくなって。でも私二重引き篭もりでおーでぃちゃんともお話できなくて……! でも誰かに聞いて欲しくて!』

『ちょっと落ちついて…………ね?』

『落ちついてる〜………』

『ふむ……』

『…ずっと……涙が止まらないよぅ………』

『天理ちゃんのことかな?』

『わかんない………』

『なになに? 天理ちゃんに振られたの?』

『…………』

『ん? あたっちゃった?』

『……てんりちゃんはやさしいし………よく今も一緒に遊んでくれてる……。今は塾でいないけど…………』

『うんうん』

『でも、なんか胃が切なくなる……』

『胃が…ねぇ……』

『ん……』

 胃が更に痛くなった。

 エスカレーター式で高校に上がれるホリンと違って、オーディエには受験勉強がある。心身共に大変なのはオーディエだ。

 それなのに余計な心配かけさせてる。胃がきりきりと痛む。

『ラルクさん………だっけ?』

『え……?』

『天理ちゃんの子供のお父さん』

『知ってたんだ………? 都市でのこと………』

『天理ちゃん、ホリンちゃんのこと心配してたよ。よく話聞いてる』

『うん………』

 気持ちが高ぶってくる。

 天理が自分の事を自分の知らない所でオーディエに話してくれていること。自分の知らない所でも気に掛けてオーディエと話してくれている事が嬉しかった。天理が自分を心配してくれている事が嬉しかった。

 そして、そんな何気ない事を嬉しいと思える自分が歪んでいる事に気付いた。

 歪んでいる。

 天理に対しての異常な執着心が胸の中に湧いていた。

『おーでぃちゃん…………!』

『ん?』

『あたし、自分が怖い………』

『なにが?』

『だって今だって、てんりちゃんがあたしを心配してくれてるっての聞いて嬉しかった。ううん、それ自体はそんなにおかしくない。だけど、今あたし、てんりちゃんに対しての想い、なんか粘着的になってきてるもん……!』

『うん』

『だからてんりちゃんと遊べないからなんじゃなくて………ラルクさんがてんりちゃんと遊んでて、あたしがてんりちゃんと遊べなくなると気持ち悪くなるのかもなの………! なんとなく今おーでぃちゃんと話しててわかった……。あたしのこの感情、遊べなくて寂しいっていうのじゃない……。ラルクさんに嫉妬してるんだって………』

『嫉妬かぁ………』

『あたしね都市がよくわかんない………。辛いことがいっぱいで。でも楽しい事もあるの。てんりちゃんと遊んでる間は楽しいの。だけど吐き気がたまってくの。吐き気の方が大きいの……』

『うん』

『でもね、都市やめたらね。もう、てんりちゃんと楽しかったあの素敵がもう二度と体験できなくなるとか、そんなん思ったらやめるにやめれなくて……』

『中毒……なんだねぇ』

『…うん……』

『そっか』

『てんりちゃんと遊べなくなったら寂しくて悲しいから…………続けてる……』

『ああ、わかるよ』

『ん……』

『私もね。ホリンちゃんや天理ちゃんと遊べなくて寂しい思ってたからね。二人とも仮想都市始めてから聖板とか全然こなくなったでしょ』

 オーディエの言葉に胸を刺されてまた泣いた。

『ごめんなさい、おーでぃちゃん………。あたし自分の事しか考えてなかった……。なんか涙がとまんない………』

『ああ、ごめん。泣かないで。そんなつもりで言ったんじゃないから』

『違うの……』

『ん?』

『おーでぃちゃんがそんなふうにあたしを思ってくれててうれしかったの………』

『ああ』

 癒された気がした。

 今、吐き気はしない。胃も痛くない。

 だけど、あと数時間も経てば、また欝状態となって落ち込む気がする。最近はずっとそう。今楽しくてもすぐに落ち込んでしまう。

『おーでぃちゃん〜………!』

『ん?』

『今はおーでぃちゃんと話せて吐き気とか止まってる。胃も痛くない。涙はとまんないけど。でも後ちょっとしたらまた落ち込んじゃう………。いつもそう………。浮き沈みが……』

『それ……鬱病に近いよ……』

『はい……』

『あのね、ホリンちゃん?』

『う……?』

『天理ちゃんのことは天理ちゃんにしかわからないけど……。でも、もしホリンちゃんかラルクさんかどっちか選ぶっていうんなら、私はホリンちゃんを選んでくれると思うな』

『ん……』

『だから安心………っていったら変だけど、もうすこし楽にしたらいいよ。ホリンちゃん、毎日辛いでしょ?』

『うん……』

『だいじょーぶだいじょーぶ☆ それに辛くなったらいつでもおーでぃちゃんの胸に飛び込んできたらいいんだから♪』

『はみゅ……』

『キスほしい?』

『う〜……。いらない〜………』

『ガーン……!』

『あの………』

『ん?』

『ありがと、おーでぃちゃん……』

『お?』

『ちょっと元気でた……』

『うんうん♪』

 確かめたい事があった。

 オーディエに励まされて少し勇気がでた。

 

 

 もしも天理が自分かラルクかどちらかしか選べないのなら、どちらを選んでくれるのだろうか。

 知りたい。

 もし選ばれないなら、それこそネットワークをやめてもいい。

 天理に愛されないネットなんて辛いだけだ。

 

 

 拒絶されるなら仕方ない。

 だけど、天理には知って欲しい、この決心と勇気を。

 

 

 だから。

 少しだけ勇気を出して聞いてみようと思う。

 

 

 どっちを選んでくれるのか、を。

 このネット生命を掛けて、天理に想いを告白する。

 

 

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