DuetNet∩eclopse 〜デュエットネット∧イクリプス〜』 二重引き篭もりと幻想、嘔吐と頭痛の果てに閃きをみた

 Log.2 中毒症状


 

 

 結局、学校の授業は殆ど聞けなかった。寝てばっかりだった。

 眠くて仕方がない。

 家に戻った穂梨はシャワーを浴び、まだ夕方なのにパジャマに着替え、ベッドに飛び込んだ。すぐに眠りに落ちた。

 

 

 目が覚めたのは二十一時だった。

 相変わらず家族は誰も帰っていない。

 冷蔵庫を漁る。

 今日はヤキソバは無く、キャベツだけがあった。キャベツはカレーパウダーを使って炒める事にした。

 お皿に盛ったキャベツをポリポリと齧り、穂梨は今日の夕食を終えた。

 少し物足りなかった。

 

 

 部屋に戻りパソコンの電源をいれた。

 最近は家にいる間はずっとパソコンと向かい合ってるような気さえする。

 パソコンが起動するまでの間、いつも漫画を読む事にしている。今も読んでいる。大丈夫。自分はちゃんとパソコン以外にもまだ興味を持っている。視野狭量にはなりたくない。パソコンだけ………という人間にはなりたくない。

 考えている間にパソコンの起動は完了していた。

 まずはメーラーを立ち上げ着信メールを確認する。今日は着信メールは一通もない。

 そして、いつものようにリレーターを起動する。電子音とともにウインドウが開き、今サインインしているメンバーの名前がウインドウに表示された。

『ホリンちゃん♪』

 さっそくオーディエに声を掛けられた。

『あ、おーでぃちゃんだ〜。こんばんはです〜』

『うん、こんばんはね。今日は遅かったねー』

『んと〜……。お昼寝してました〜』

『どーせ徹夜でネットしてたんでしょ♪』

『あぅ……』

『ホリンちゃんのことだから、寝不足でガッコでも寝まくってて、家に帰ってからも寝まくってたんじゃないのかな☆』

『あぅあぅ……』

『当たりなんだ♪』

『う、うん……』

『ま、私に掛かればホリンちゃんのことなんて、なんでもかんでもお見通しです☆ 単純ですから』

『む〜………』

『んー♪ そだねぇ。下着の色とかトイレの回数まで当てられるんじゃないかな〜☆ 試してみる?』

『しんじゃえ……』

『きゃはは☆ ホリンちゃんってかわいいね♪』

『うぅ〜……』

 ネットワーク越しなのに、オーディエと会話していると、ホリンはモニターを見ているだけでも赤面してしまう。けど決して嫌な気分ではない。少しドキドキしてしまうだけだ。

『ふふ〜☆』

『う〜……。あ、おーでぃちゃん〜?』

『ん?』

『仮想都市って知ってる〜?』

『知ってるよ☆ あれでしょ、3Dのゲーム。ネトゲ』

『それそれ〜』

『うん』

『あたし、昨日………てゆか今朝始めたんだけどね〜』

『うん』

『おーでぃちゃんも一緒にやってみない?………かな〜って〜……』

『ああ、私それムリ』

『…え?』

 ああ、私それムリ。

 その文字を見た時、自分でも非道くがっかりしたのが分かった。

『な、なんでぇ〜?』

『うちのパソ、ポンコツなの☆ 試しにインストールしたけど、動きがカクカク、重すぎて歩けない、途中でフリーズ、強制終了』

『うぁ〜……』

『なので諦めました♪』

『残念〜……』

『残念☆』

『む〜。どうやったってムリなの〜……?』

『です☆』

『はぅ……一緒に遊びたかったのに〜…………面白そうだったのにぃ〜………』

『天理ちゃんと遊んできてください☆』

『はぁい〜……』

『ふふん〜☆ そんなに私と遊びたい?』

『う、うん〜……。まあ、それなりに〜………』

『ホリンちゃんにそういってもらえると嬉しい♪』

『え、そ、そう〜……?』

『大好きぃ♪ ちゅっ☆』

『はわ……』

 またキスされた。

 ネットワークを介してのチャットの中の遊びの一つなのに、いつもこれにはドキドキさせられる。オーディエにキスされると胸が切なくなる。

『きゃはは☆ ホリンちゃんってホントにかわいいね♪ 好きなんでしょ、私にキスされるの』

『う〜……』

 病んでるな、と自分で思った。

『ホリンちゃんかわいいかわいい♪』

『む〜………』

『あ………私ちょっと退席するね?』

『あ、は〜い……』

『またね〜、ホリンちゃん☆』

『うん〜』

 オーディエとの会話ウインドウを閉じた。まだドキドキが止まらない。

 リレーターを確認するとオーディエが退席状態になったが、それとは別に天理がサインインしていた事に気付いた。

『てんりちゃん〜?』

 待つ事しばらく、天理から返事がきた。

『こんばんは。今日も遅いね?』

『ひ、昼寝してて〜……』

『……夜寝てるの?』

『あんまり〜……』

『昨日は何時間寝た?』

『ぜろ時間……』

『今日は寝れそう?』

『今起きたばっか〜……』

『……身体に悪そう』

『き、今日は頑張って寝ます〜』

『そうしなね』

『は〜い……』

『というか、夜中起きててなにやっていたの?』

『あ、仮想都市です〜』

『もう始めてるんだ?』

『うん〜。おもしろかった〜』

『天理もさっきはじめたよ。今もプレイ中』

『わ……?』

『ホリンちゃんも来る?』

『行く行く〜! ちょいまってて〜!』

『うん』

 天理との会話ウインドウを閉じ、仮想都市を起動させた。

 ホリンは今朝終了したあの森にいた。

 リレーターを通して天理と連絡を取る。

『起動しました〜』

『ホリンちゃんは今どこにいるの?』

『森〜』

『……森のどこ?』

『わかんない〜』

『街の場所は分かる?』

『どっち〜?』

『森から東』

『東ってどっち〜……?』

『……天理がそっちにいく』

『あぅあぅ……』

 天理にそう言い切られ会話ウインドウを閉じられてしまったので、仕方なくおとなしく森で待つ事にした。

 ぼうっと森の中で突っ立っていると、水の流れる音が右スピーカーから鳴っている事に気付いた。

 天理が来るまでどれくらい時間が掛かるかは分からない。けど、もし天理が森に来てホリンがいなかったら、リレーターを使って声を掛けてくるだろう。

 水の音に引かれるままホリンが歩を進めると、森を抜け予想に違わず小川に出た。

 後ろを振り返れば高い木々が立ち並ぶ森がある。天理との待ち合わせ場所の森から離れてしまったが、ここならいつでも森に戻れる。

 小川の中に入ってみる事にした。

 あ……と思った時にはもう遅かった。

 ホリンは川の流れに捕まり、そのまま流されてしまった。

 操作を受け付けてもらえない。ホリンは下流へとどんどん流されていった。

 滑稽だった。

 

 

 結局ホリンが水の流れから解放され、川から飛び出した場所はどこかの草原だった。周りを見渡すと、ホリンと同じように川に流されている者達もいる。どうやらこの川は移動手段として用いられているようだ。

 天理からいつまで経っても連絡が入らないのが気にはなっていた。森にいるのだろうか。

 一度、仮想都市を終了しリレーターで天理と連絡を取る事にした。

 

 

『ホリンちゃん』

『う……?』

『天理、森でずっと待ってました』

『えっ? えぇっ?』

『ひどいです』

『ま、まってよぅ〜……。じゃあ言ってくれたらよかったのにぃ〜………』

『ホリンちゃん、リレ切ってたでしょ?』

『はぇ?』

 切った覚えはない。パソコンを起動している間、リレーターは常に動かしている。今もついている。

『つけっぱなしだよ〜?』

『……落ちてたよ、ホリンちゃん?』

『なんでかな〜? いつ落ちたか分かる〜?』

『途中でいきなり……。なんかね、サインしてきたり、またすぐ落ちたり。回線が切れ切れってカンジ』

 あっとホリンは気付いた。

『ねえねえ、てんりちゃん〜?』

『うん?』

『ちょっと、リレ、あたしの状態みてて〜。これで落ちるかも〜……』

『はい』

 会話ウインドウを閉じ、もう一度仮想都市を起動させた。

 川に流されついて場所だ。しばらく辺りを歩き回り、ゲームを終了させてから天理に声を掛けた。

『どうだった〜?』

『落ちたり、繋がったり。会話はできそうもないね』

『あぁ〜……。仮想都市つけると回線キリキリしちゃうのかも〜』

『そうなの?』

『てんりちゃん、つけてみて〜。仮想都市〜』

『はい』

 会話ウインドウが閉じられ、しばらくするとリレーターのサインインしている者の一覧から天理の名前が消えた。

 そして、たまにサインインしたり、すぐにサインアウトされたりなどが連続した。

『ただいま』

『てんりちゃんも落ちたり繋がったりしてたよ〜』

『本当?』

『うん〜』

『なんでかな? さっき森で待ち合わせするって言ってた時、ホリンちゃん、天理に話しかけてきてたよね?』

『時間帯によって重くなったり、パソ使ってる時間が長くなってちょっとでも重くなったら、もうリレは動かなくなっちゃうのかも〜………』

『とりあえず、基本的に仮想都市やってる間はリレは使えないのかもね』

『あ、でも、なんか仮想都市内で会話する方法あったはず〜……』

『じゃあ、それはホリンちゃんが調べて、あとで天理に教えてくださいね』

『えぇ〜……。読むのめんどいです〜……』

『……天理はホリンちゃんをずっと森で待ってたんだよ?』

『あぅ……』

『ていうか、もう眠いです。そろそろ落ちるね。いつのまにか日付かわってるし……』

『あ、ホントだ……』

『ホリンちゃんも適当に寝なきゃ駄目だよ?』

『は〜い……。あ、聖板にレスつけないと〜……』

『…天理は明日にします。おやすみなさい………』

『おやすみなさい〜』

 会話ウインドウが閉じられ、リレーターから天理の名が消えた。

 モニターに向かって、ついつい「おやすみなさい〜」と声に出して言ってしまっていた。独り言を言っているみたいで、少し恥ずかしかった。

 

 

 オーディエも天理も落ちたので、ホリンはいつものように聖板の自分宛ての書き込みに対してレスをつけることにした。

 これでも聖板ではマスコットガールを気取っているつもりだ。

 自分宛てへの話題を面白おかしく、そして可愛らしくレスし、ホリンに向けられた誹謗中傷も読んだ人間が笑ってしまうようなもの、あるいは真面目なものでレスしたり、適当に流したりした。

決して負の姿は見せない。いつでも生き生きとした書き込みを皆に見せる。

 自分から話題を振る事も忘れない。元々書き込み内容の可愛いさにも自信があり、これだけまめな書き込みをしているホリンは皆にちやほやしてもらえる。

 書き込んで少し経つとすぐに今の書き込みに対してレスが入った。いつもの聖板の友人だ。ホリンはまたそれに対して、なるべく面白い事を、読んだ人が喜ぶような書き込み内容を考えてレスする。するとまた相手からレスが貰える。

 殆どチャットのように掲示板で会話を続けていると、それに釣られてどんどん人が集まってくる。

 友達、名前だけ知っている人、知らない人、名前も名乗らない人。中にはホリンに対して友好的でない者もいるが、ホリンはそれらの書き込みに対してなるべく素早くレスをつけていった。

 オーディエや天理ともこうやって知り合えた。今日はどんな人と会話できるのだろう、などと考えるとそれなりに毎日が楽しい。もちろん友達との会話も楽しい。

 気付いたら午前二時になっていたので、今日は入浴を済ませてから寝る事にした。

 あまり眠くはないが、寝ておかないとまた学校が辛くなる。

 と思っていたが、結局眠れず、もう一度電灯をつけて漫画を読み始めると、気付けば午前五時になっていた。

 徹夜は肌に悪いので気をつけようと思った。

 

 

 夕方過ぎに学校から帰宅し、穂梨はいつものようにパソコンの電源をいれた。

 立ち上がるまでの時間にシャワーを浴び、パジャマに着替えてからパソコンの前に座る。

 いつも通りの日常で落ち着く。逆に一日でもパソコンに触れない日はあると、妙にそわそわして落ち着かない。

 リレーターを起動すると天理は既にサインインしていた。今日はオーディエはまだいない。

『ただいまです、てんりちゃん〜』

 メッセージを送って待つ事しばらく、天理から返事がくる。

『おかえりなさい』

『眠いよぅ〜……』

『いい加減、昼寝するのはやめたほうが……』

『はぁ〜い……。今なにやってるの〜?』

『都市やってます』

『あ、そうなんだ。でも、リレ使えてる〜』

『まだ学校から帰ってきて、パソつけたばかりだから。もうちょっとしたら使えなくなるかも』

『間に合ってよかったってかんじ〜』

『うん』

『あたし、今から都市内で連絡取り合える方法探しとくね〜』

『うん』

『てんりちゃんはなんて名前でゲームやってるの?』

『天理です』

『あ、てんりちゃんもそのままなんだ〜』

『ホリンちゃんもホリンで?』

『うん〜』

『わかりやすいね』

『ん、と。じゃあ、あたし今から都市での連絡方法調べてくるから、またあとでね〜』

『はい』

『じゃね〜』

 天理との会話ウインドウを閉じ、しばらくすると天理がオフライン状態になった。

 さっそく仮想都市をダウンロードしたページを閲覧する。説明が多くて読むのは苦労したが、なんとか仮想都市内での会話方法を理解する事ができた。

 天理はオフライン状態のままだ。ホリンも仮想都市を始めようとしたが、オーディエがサインインしている事に気付いた。

『おーでぃちゃん〜……?』

『あ、ホリンちゃん☆ 今日はお昼寝してないんだ♪』

『ねむいけどね〜……』

『で、どしたの?』

『えとね〜。今から仮想都市して遊ぶんだけどね〜。多分だけど、あたしリレ動かなくなっちゃうと思うから、先に言っとこうと思って〜』

『あ〜、天理ちゃんに聞いた』

『うん〜』

『ま、じっくり遊んできてください♪』

『は〜い』

 そこで会話も終わりと思い、ウインドウを閉じようとしたら、オーディエにまた話しかけられた。

『キスしてほしい?』

『別にいらないです〜………』

『むー……。ホリンちゃん冷たいなぁ』

『あたしゲームやってくる〜』

『はいはい。じゃね☆』

『うん〜』

『ちゅっ☆』

『はにゃっ……?』

『あはは♪』

『い、いらないっていったのにぃ〜……』

『欲しそうだったもん♪』

『はぅ……』

『ふふ〜☆ じゃ満足したので、都市でもどこでもいってらっしゃいです♪』

『はぁ〜い……』

 なんだか弄ばれているような気持ちのまま、今度こそオーディエとの会話ウインドウを閉じ、ホリンは仮想都市を起動させた。

 キスされると胸がいつも切なくなる。

 

 

 ホリンが立っていたのは昨日川に流された先の草原だった。まずは調べておいた方法を使って天理と連絡を取る事にした。

 遠距離会話の項目を選択し、会話対象者に“天理”と入力してからメッセージを打った。

『もしもし、てんりちゃん〜?』

 しばらく待っても天理からの返事は来ない。遠距離での会話方法を分かっていないのだろう。

『こっちの言葉は届いてるよね〜?』

 天理からの応答がない事に少し不安を覚えながらも、ホリンはメッセージを送り続けた。

『てんりちゃん、あたしの言う通りにやってみて〜。CTRLとエンターを同時に押してみて〜。そしたら会話ウインドウでるはず〜。で、相手の名前いれるとこに“ホリン”っていれてやってみて〜』

 天理にメッセージを送ってからまた待つ。返事は来ない。エラーは出ないからメッセージは届いているはずだが、もしかしたら天理がパソコンの前から離れている可能性もあった。

 もう一度天理に話しかけようとした時、会話ウインドウが開いた。

『こうかな』

 天理だ。

『あ、そうそう〜。やっとできた〜』

『こうやるのね』

『うん〜。で、てんりちゃん、今どこ〜?』

『ずっと森だよ……』

『はぅ〜……』

『ホリンちゃん、今どこ?』

『川わかる〜?』

『分かるけど………もしかして流されたの?』

『う、うん〜……』

『じゃあ、流された場所で待ってて』

『はぁい〜……』

『動かないでね』

『あぅ……』

 動くなと釘を打たれたので、ホリンがぼーっと川を眺めていると、女の子が上流から流されてきた。カーソルを合わせると“天理”と表示された。天理もホリンの姿を確認するや、川から上がって駆け寄ってくる。

『おまたせ』

『や〜ん。やっとあえたよぅ〜』

『ホント、やっとだよね』

『うん〜』

 苦労して会えただけあって、ゲームでの出来事なのでついつい嬉しくなってしまった。

『ホリンちゃん、これあげる』

 天理がなにかを差し出してきた。小さな蝶形の青いリボンだった。

『森で拾ったの。落ちてた』

『そんなものが落ちてたのね……。もらっちゃっていいの〜?』

『うん、ホリンちゃんにあげようと思ってとってたの』

『あ、ありがと〜』

 天理が差し出したリボンにカーソルを合わせクリックすると、ホリンの持ち物の中にリボンが追加された。

『ホリンちゃん、リボンもう一回クリックしてみて』

 言われた通りもう一度クリックすると、ホリンの髪にリボンが結わえられた。可愛らしい小さな青いリボンがちょこんとホリンの頭に乗っかっている。

『わ? わわ? 装備された〜っ? すごいすごい〜〜っ!』

『かわいいよ』

『あ、ありがと〜っっ!』

 身体を一回転させて、リボンが似合っているかをチェックする。自分でも可愛いと素直に思えるくらいリボンは似合っていた。

『うれしい〜っ』

『よかったね、ホリンちゃん』

『や〜〜んっ! てんりちゃん大好き〜〜っ!』

 がばっと天理に抱きついた。モニターの中のホリンが天理に抱き付いている。

『てんりちゃん好きぃ〜……』

『このゲーム抱き付いたりまでできるのね……』

『あはは〜、すごいねぇ〜』

 モニターの中のホリンが抱き付いているだけなのに、何故か現実で天理に抱き付いているような、そんな喜びがあった。

 それから天理と一緒に遊んだ。草原を歩き回り、見かけた洞窟を探検したりもした。

 天理と遊んでいるのは素敵な時間で、天理はホリンには少し意地悪だけど、でも優しくて、そんな天理と一緒に冒険をしているのが嬉しかった。

 生きててよかったなぁと思った。

 

 

 ふと時計を見たらもう二十三時だった。

『うわ……。てんりちゃん、すっごい時間になってる〜……』

『あちゃぁ……』

『夕方からずっとやってたね〜……』

『うん……』

『あは、これハマる〜っ。おもしろい〜っ』

『だねぇ』

『とりあえず今日はあたし落ちよっかな〜……。寝不足なの〜。今日お昼寝してないから〜。めっちゃ眠い〜……』

『じゃあ今日はお開きだね』

『うん〜』

『また明日ね、ホリンちゃん』

『は〜い、てんりちゃん、おやすみなさい〜』

『おやすみ』

 仮想都市内から天理の姿が消えたので、穂梨もゲームを終了することにした。いつもなら、これから聖板にでもいってレスや書き込みをするのだが今日はもう眠い。

 さっさと入浴して眠る事にした。

 

 

 

『むー……』

 仮想都市を始めてから数日が経ったが、飽きるどころか、日が経つにつれてこのゲームの面白さが理解できてくる。

『どうしたの、ホリンちゃん?』

『あ、てんりちゃん〜。あのね、あっちの部屋に開かない扉あるんだけどね〜。どうやったら開けれるか考えてたの〜』

『天理も手伝うよ』

『あ〜りがと〜』

 離れた場所にいる天理とまるで一緒に生活してるような奇妙な感覚だ。

『あたし、このゲーム大好きぃ〜』

『ん? なにが?』

『んとねぇ〜、なんかいっつもてんりちゃんと一緒ってカンジで楽しい〜』

『ああ』

『や〜ん……。ああ、だなんて感想が淡白だよぅ〜……』

『ん、と……』

『う……?』

『天理もホリンちゃんと一緒に遊べてうれしいよ』

『わ〜っ。そういうこと言ってくれるてんりちゃん大好きぃ〜』

 ぎゅっと天理に抱き付いた。

 今日も幸せだった。

 

 

 

 学校から帰ってくると、まずシャワーを浴び、パジャマに着替えてからパソコンの前に座り込む。そしてパソコンを立ち上げ、仮想都市を起動させる。

 最近は学校と睡眠と食事、入浴以外の時間、ずっと都市にいるような気がする。

 よくないなと自分でも思った。

 

 

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