-天使のデザイア- メガクラックション

章 紐解かれるシナリオ


 

「ハヅキ―!」

 生き返った木葉が倒れたハヅキへと駆け寄った。

 木葉は死んでいた時のような強靭な肉体は失った。しかし、感じるのだ。

 体内に脈打つ生命の熱い力を、心臓の鼓動を。

 絶対に蘇生は無理だと思っていた。

 なのに、ハヅキはそれを成し遂げてくれた。

「ハヅキっ」

 駆け寄り、抱き起こした。

 大丈夫だ、疲労しているだけで命に別状はない。

 それよりも木葉は生唾を飲み、ハヅキの隣にいる女を見上げた。

(このヒトが泉さん)

 話は何度も聞いたことがあった。だけど実際に顔を見るのはこれが始めてだった。

 一言で言えば美少女であった。余りにも可愛い。だからこそ、木葉にはハヅキがここまで彼女に夢中になるのも理解できた。そして、嫉妬と劣等感も生まれた。

 泉と知り合う前のハヅキは如何なる人物だったのだろうか。それは泉しか知る者はいないだろう。

 助けてもらった礼はしなければならない。木葉は泉に頭を下げた。

「あの…。ありがとうございました…」

「いえ…」

 泉も余所余所しく頭を下げた。

 息苦しい空間だった。互いに気まずい。

「――――」

 ハヅキは目をぱちりと開け、むくりと起き上がった。

「が、ハヅキ…? お、起きて大丈夫なの?」

「うむ。少し眠ったら回復した」

 

 

 ハヅキはまず木葉を優しく抱きしめた。

 それから隣に突っ立っている泉を見上げた。

「ありがとう、泉」

「さっきも言ったけど、貴方を助けるために来たんじゃありません…」

「それでも……ありがとう」

「――――」

 泉の表情は複雑であった。

 ハヅキと泉の溝は決して埋まらない。

 かつて恋人でありながら、『捨てた者』と『捨てられた物』の関係なのだ。

 だから、木葉だけではなく、ハヅキにも泉にも居心地の悪い空間であった。

『―――――――』

「?」

 アスペタクルの上に積み重ねられた瓦礫が動いた。

 かたかたとそれは動き、そして這い上がってきた。

『あああああああああああああああ』

 偉大なる西の王アスペタクルは、たとえ悩める二つの名剣に切り伏せられようとも、決して無様に地に屈することはなかった。

「まだやる気か…」

 ハヅキと泉は剣を構え、アスペタクルへと向き直った。

『――――』

 アスペタクルはなにかを投げた。

「?」

 それはハヅキの切断された左腕の断面へと飛来し、引っ付いた。

「おお…」

 以前、アスペタクルに切り落とされた腕だ。腕が治ったのだ。

『見事だ。その腕は返してやる。私の負けだ』

「ああ」

 だが、アスペタクルの表情は険しい。

 アスペタクルはじっとハヅキ達を見据えた。

『――――』

 いやハヅキ達ではない。その更に後方を睨みつけている。

 パチパチパチ、と。

 ニンゲンの勝利を祝福するかのように、拍手が聞こえてきた。

「アハハハハハハ」

 そして、頭上、いや天上から見下すようなあの笑い声。今度は幻聴などではなく、確実に聞こえた。

 ハヅキも泉も木葉も背後を振り返った。

 

 

「おめでとうございます。私はあなた達のようなニンゲンを待っていました。この混沌とした世界を救う勇者を」

 

「これまでも多くの勇者達がメガアクマに挑み、その命を散らしてきました」

 

「例え自らの創作物であれ……いえ、だからこそでしょうか。私はあなた達がとても愛しい」

 

 

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