-天使のデザイア- メガクラックション
7章 紐解かれるシナリオ
「ハヅキ―!」
生き返った木葉が倒れたハヅキへと駆け寄った。
木葉は死んでいた時のような強靭な肉体は失った。しかし、感じるのだ。
体内に脈打つ生命の熱い力を、心臓の鼓動を。
絶対に蘇生は無理だと思っていた。
なのに、ハヅキはそれを成し遂げてくれた。
「ハヅキっ」
駆け寄り、抱き起こした。
大丈夫だ、疲労しているだけで命に別状はない。
それよりも木葉は生唾を飲み、ハヅキの隣にいる女を見上げた。
(このヒトが泉さん)
話は何度も聞いたことがあった。だけど実際に顔を見るのはこれが始めてだった。
一言で言えば美少女であった。余りにも可愛い。だからこそ、木葉にはハヅキがここまで彼女に夢中になるのも理解できた。そして、嫉妬と劣等感も生まれた。
泉と知り合う前のハヅキは如何なる人物だったのだろうか。それは泉しか知る者はいないだろう。
助けてもらった礼はしなければならない。木葉は泉に頭を下げた。
「あの…。ありがとうございました…」
「いえ…」
泉も余所余所しく頭を下げた。
息苦しい空間だった。互いに気まずい。
「――――」
ハヅキは目をぱちりと開け、むくりと起き上がった。
「が、ハヅキ…? お、起きて大丈夫なの?」
「うむ。少し眠ったら回復した」
ハヅキはまず木葉を優しく抱きしめた。
それから隣に突っ立っている泉を見上げた。
「ありがとう、泉」
「さっきも言ったけど、貴方を助けるために来たんじゃありません…」
「それでも……ありがとう」
「――――」
泉の表情は複雑であった。
ハヅキと泉の溝は決して埋まらない。
かつて恋人でありながら、『捨てた者』と『捨てられた物』の関係なのだ。
だから、木葉だけではなく、ハヅキにも泉にも居心地の悪い空間であった。
『―――――――』
「?」
アスペタクルの上に積み重ねられた瓦礫が動いた。
かたかたとそれは動き、そして這い上がってきた。
『あああああああああああああああ』
偉大なる西の王アスペタクルは、たとえ悩める二つの名剣に切り伏せられようとも、決して無様に地に屈することはなかった。
「まだやる気か…」
ハヅキと泉は剣を構え、アスペタクルへと向き直った。
『――――』
アスペタクルはなにかを投げた。
「?」
それはハヅキの切断された左腕の断面へと飛来し、引っ付いた。
「おお…」
以前、アスペタクルに切り落とされた腕だ。腕が治ったのだ。
『見事だ。その腕は返してやる。私の負けだ』
「ああ」
だが、アスペタクルの表情は険しい。
アスペタクルはじっとハヅキ達を見据えた。
『――――』
いやハヅキ達ではない。その更に後方を睨みつけている。
パチパチパチ、と。
ニンゲンの勝利を祝福するかのように、拍手が聞こえてきた。
「アハハハハハハ」
そして、頭上、いや天上から見下すようなあの笑い声。今度は幻聴などではなく、確実に聞こえた。
ハヅキも泉も木葉も背後を振り返った。
「おめでとうございます。私はあなた達のようなニンゲンを待っていました。この混沌とした世界を救う勇者を」
「これまでも多くの勇者達がメガアクマに挑み、その命を散らしてきました」
「例え自らの創作物であれ……いえ、だからこそでしょうか。私はあなた達がとても愛しい」