-デイブレイク-

五 コーデリアと精霊剣ミナ。


 

 古本屋の二階は暗い。

 コーデリアは昼間から布団の中で寝返りを打ち、夢の世界に片足を突っ込みながらも、その実しっかりと強力な聴覚は情報を集めていた。

 昨夜、紫苑は帰ってこなかった。紺野という女を助けたようだ。顔見知りか。まあこの町にいる以上、必要な情報はこれからも自然と耳に入ってくるだろう。もののついでに紫苑の性格も計っておけば、今後も円滑な対人関係を築くことができる。

 元より退屈しのぎの享楽のために噛んだ件だ。わざわざ煩わしい揉め事を起こすこともない。刻まれた悲しみと憎しみを癒す享楽があればそれでいい。失ったものはもう戻ってこない。

 さて今日は知り合いに当たるのであった。これ以上寝ていても愉快な夢を見れるとも思えない。目を閉じ、町中の音を探る。

 紫苑は保護した紺野とかいう女を連れここに戻ってきている途中だ。

 ティモとかいう下級妖魔はあれから音すら立てない。

 他に誰か面白味のありそうな者はいなかったか、と思案に耽り精霊剣を持った少年を思い出した。町中から話し声を拾い上げ、彼の声を模索する。相も変わらず木刀としゃべっているようだ。なんと、これからコーデリアが向かう先に彼もいるではないか。

 コーデリアは鼻歌を鳴らし、紫苑に貰った女物の服に着替え部屋から出た。名前も覚えていない紫苑の甥にごきげんようと声を掛け暗い古本屋から太陽の下に出た。

「お出掛けですか、コーデリア様?」

「ええ。紫苑さんは何事もなければ後十分程で怪我人を連れてここに帰ってくるわ。コーデリアは夕方まで外出すると伝えてくださいな」

 紫苑の甥は「はは」っと畏まった。さてくだらない男に時間を割いてはもったいない。あの血気盛んな少年ならば、きっと噛み付いてくるだろう。知り合いへの用事さえも二の次になるほどアンドレアルの姫は歩が弾んだ。

 

 

 名古屋の空は今日も晴天だ。

 明るい太陽の下では通りも賑わう。だけど陰鬱な空気漂う裏の通りがあることも事実だ。汚い金の流れる場所だ。

 そんな裏通りの一角で大樹は男に詰め寄り、怒声を上げた。

「おいおい! 俺には情報売ってくれねえってか? 金なら払うっつてるだろうが」

 大樹の剣幕にも圧されず男は笑った。

「ニンゲンが妖魔に勝つ方法なんてないって何度も言ってるだろ。お前の頭はすかぽんたんかボケ餓鬼かテメェは。とっとと汚い木刀持って失せろ」

 その言葉に大樹は怒りを覚えたが、より激怒したのは当の木刀だった。

「わらわを汚い木刀となっ? 無礼者が! わらわを誰だと思っておる! 金に汚い情報屋風情に枯れ枝呼ばわりされる覚えなどないわ!」

「おうおう、情報屋なめんな。知ってるぞ。桜の精霊剣、御中桜(ミナカサクラ)だろ。とうに朽ちたと思っていたが、まだ存命とはいや驚きだ。しぶとさはゴキブリ並みだな」

「きえええ、わらわを蟲と並べるか! 大樹、この無礼者を即刻切り捨てようぞ」

「まあ、落ち着けよ」

 大樹は不本意ながらもミナを諌め、男との交渉を続けることにした。

「俺も仕事を請けちまった以上、あいつを祓わないといけないんだ。だから、あんたの情報を頼りに不名誉な退却まで試みたんだ。そこんとこ考慮してくれよ」

 男は頭を振った。

「無理だ無理だ。いくら聖剣クラスの武装を用意したとこでニンゲンじゃ妖魔には勝てない。これは定説だ。無理ったら無理だ」

「おのれ! この情報屋め! わらわを無用な剣と言うのはそのクチか!」

「そんなこといってねえだろ…。ミナ少し黙っててくれ…」

 しかしこれ以上この情報屋と問答を続けたところで成果は期待できそうもなかった。無駄足を踏んだか、と大樹は舌打ちした。

「分相応という言葉があるわ」

 鈴のような声が聞こえた。振り返れば優雅な少女が歩いてくる。こんな汚い裏通りに少女の姿は似合わない筈なのに、いかにも自然に場に溶け込む不思議な少女だった。

 あの時、古本屋に入った少女だ。

「生きてるってことはあんたも化け物か」

「随分な言い草ね。貴方と同じニンゲンよ」

「大樹。どうやらこの娘は本当に人間のようじゃぞ。身体の中からなにやら火薬の匂いが漂うがの」

「そう。ニンゲンの身で妖魔と戦うには相応の代償と身体がいるわ。失礼、私コーデリアというの。よろしくね大樹。それからミナさん」

 にこりと微笑まれると、さすがの大樹も覇気を抜かれてしまった。卓越したヒト付き合いの上手さだ。

「ってなんで俺らの名前知ってるんだよ!」

「貴方達、声が大きすぎましてよ。会話が丸聞こえよ」

 済ました顔で言うコーデリア。と、それまで黙っていた情報屋の男が口笛を吹いた。

「へぇ。今日は珍しい客が続くもんだな。聖剣持ちの次はアンドレアルの強化兵かよ。姫さん、用件はなんだい。金次第ではなんでも教える、それがこの情報屋エーギル・ヘブリング様だぜ」

「俺は金積んだのに妖魔倒す方法教えなかったじゃねえか」

「そういうものは情報とは言わん。軍師にでも当たって来い」

 まあまあ、とコーデリアは大樹を宥めた。

「毒、について知りたいんですけど」

「世界に終焉を呼ぶあの“噂の”毒かい? さすがにヒトの口々の端にすら上がらない情報は姫君の耳でも拾えないようだな」

「知っているのかしら」

「さあなあ。本当に噂の域を出ないからなぁ。ただな、不思議なのはな。なんか最近はやたらとあんたと同じような情報を求める客が多いってことだな」

「毒の調査?」

「そうそう。なんでどいつもこいつもあんな噂を追うんかねえ。まあ、そんなやつらに俺様が教えるのはこいつだ」

 情報屋は写真とメモを渡した。

「色々派生はあるようだけどよ、そこが毒から世界を救うなんて謡う協会の本拠地らしいぜ。そこにいきゃなんかわかるかもな。後は知らん」

 ふぅん、とコーデリアは写真とメモを受け取った。大樹も横から写真を覗き込んだ。これは外国か、質素にして謙虚ながらも神聖であり、荘厳感を覚える古い神殿だった。

 そして大樹はまじまじとコーデリアを見た。

「なあなあ、あんた」

「うん? 私?」

「あんた人間なのかよ?」

「ええ、そうよ。あなたと同じニンゲン」

 情報屋はにんまりと笑った。

「おう、坊主。姫の機嫌を損ねるなよ。なんといってもコーデリア姫は架の十裏魔術家(とおりまじゅつけ)の一つ、アンドレアルの現当主なんだぞ」

「情報屋の掴んだ話程度で我が家を持ち上げないで欲しいわ」

「十裏魔術家ってなんだ?」

 素朴な疑問をクチにした大樹に、ミナは「かー情けない!」と嘆いた。情報屋はからからと笑った。

「坊主。この世界じゃ名前を知らない者はいないって言われるアンドレアルだぞ」

「俺は退魔士でも、裏世界の人間でもないんだ。そんなこと知るわけないだろ」

 情報屋は頭を横に振りながらも、大樹に分かるよう説明してくれた。

中世より悪鬼妖魔と契約し、強力な魔術知識や技術を得、裏社会に君臨してきた十の魔術家系がある。アンドレアルとはその中でも卓越した錬金術と、人間社会の科学技術を融合させ、妖魔にも匹敵する戦闘能力を持つ強化兵を生み出した家系だ。その本質は傭兵。現在では敗戦続きにより没落してしまったが、古くよりアンドレアルの強化兵はその力を存分に振るい、戦場に名を馳せてきたものだ。

「そしてその名誉ある家系の現当主こそが、ここに居られるコーデリア姫なのだ」

「でも没落したんだろ?」

 なんとなくクチにした大樹に強化兵の姫は顔を引きつらせた。

「思いついたことをすぐクチにする癖は女子に嫌われましてよ?」

「あ? あぁ悪ぃ。悪気はない」

「まあいいでしょう。今日は少し貴方とお話しようと思ってたの。イージーにいきましょ?」

「お話?」

「まあ、立ち話もなんですし何処か素敵なお店にでもエスコートしてくださいな」

 ミナも叫んだ。

「わらわも賛成じゃ! 無礼な情報屋のいるところで立ち話などできん! できんぞ!」

「ふむ。じゃあな情報屋のおっさん。次に来る時はちゃんと仕事してくれよな」

 女二人に連れられ、大樹はその場から離れた。振り返ると情報屋は唾を吐いていた。

 

 

 散々とした裏通りを歩く。

 ゴミが風に吹かれ転がる、整地されていない道はでこぼこ。こんな所ではヒトっ子一人とていやしない。たまに通りかかるのは酔っ払いや、紛れ込んだ子供、あるいは世界の闇に紛れ生きる者達。

 今、二人の後を尾けているのも、そういった裏のイキモノだった。

「大樹、素敵なお店に行く前に」

「ん?」

「戦える?」

「ああ」

「わらわはいつでも万全じゃー!」

「声が大きくてよ、ミナさん」

 コーデリアは足音から敵の戦力分析を開始する。

「敵は合計六匹。所属は不明。内ランクBの妖魔が一匹。こいつがボスね。恐らく能力は雷光発火系。基本戦闘能力はセムを大きく上回るわ」

 この種族は足音に癖があるのだ。紺野を襲った妖魔と同種族と推定できる。

「残りは雑魚の下級妖魔よ」

「ふん。最近は化け物を斬ってばかりだな。しゃーない、やってやるか」

「頼もしいわ。では私も微力ながら参戦しましょう」

「わらわに任せておけ! 成敗してくれるわ! にょほほほほ!」

 コーデリアは天を見上げた。

 雲が太陽を隠すまで後十秒。妖魔の戦闘力は太陽のヒカリの制限を受ける。曇った瞬間こそが地獄の舞台の始まりだ。

 路地の影から妖魔が姿を見せた。

 きっかり六匹。一際大柄な奴がランクBの悪鬼だ。本性を隠す必要はないらしく、鬼のような姿をしている。その他は皆同じような醜い餓鬼だ。

「もう一人ニンゲンがいたはずなんだがなぁ。逃がしたのか?」

 鬼に言われて、コーデリアは横を見た。しかし、すでに大樹の姿は無かった。気配を探ろうとしたが、強烈な神気が充満していてうまくいかない。

 こんなことは初めてだった。

「ジャミングしてるっていうの?」

 コーデリアはうめいたが、すぐに納得した。大樹の持つ木刀は樹齢二千年の神木。こういうことが出来てもおかしくはない。

 何か策があるのだろうと、ほうっておくことにした。幸い、敵は気配感知が出来ないらしく、大樹が近くにいることに気が付いていない。

「まあいい。もとより狙いはアンドレアルの強化兵のみ」

 鬼の言葉とともに、手下の悪鬼はじりじりと近づき、飛び掛ろうとしている。

「誰かの使いのようね。誰かと聞いても話してくれないでしょうけど」

「そういうことだ。貴様は黙って俺たちの餌になってくれればいい。強化兵などまずくて喰えなさそうだがな」

「私をディナーにするなら、ネクタイくらいはしてきなさいよね」

 コーデリアの嘲笑に、かすかに鬼の表情は変わった。

 太陽が隠れ、裏通りに不気味な影が満ちた。

「殺せ」

 鬼の命令とともに、手下の悪鬼たちが一斉に襲い掛かった。コーデリアは動かない。相手の強さはすでに見切っている。

 最下級の悪鬼とはいえ、五匹同時に相手にするのは不利だ。後にはランクBの悪鬼も控えているから、油断は出来ない。

 リーダーの鬼がコーデリアを甘く見ているうちに、戦力を減らす作戦。狙うは五匹同時へのカウンターだ。

 神経を開放すると、反射速度が急上昇する。周囲の動きが遅く感じられ、光すらその速度を緩慢にした。コーデリアの目に見える風景が、一瞬赤く染まる。

 対応を開始した。

 相手を直前まで引き付ける。正面・一。右・二。左・二。瞬時にロックオンして、対応する攻撃を構築。引きつった笑いを浮かべる手下の悪鬼たちの顔が、スローモーションのように近づいてくるのを感じながら、腕を振るう。さすがに高速の反応速度に耐えられる人工筋肉ではなく、少し重く感じた。かまわず振り抜き、正面の悪鬼に拳を食らわせる。ショットガンのような一撃に、悪鬼の頭は弾け飛んだ。崩れ落ちる体を跳んでかわし、そのまま右から来る悪鬼に体当たりをかけた。相手は何が起こったか気づくまもなく壁に激突し沈黙した。その間に右側もう一匹を片付け、残る左の悪鬼二匹の首を、回し蹴りでまとめて薙ぎ払った。

 正面の悪鬼が地面に崩れ落ちるのと同時に、コーデリアのブーストは解除された。

 視界が正常に戻る。酷使した筋肉が金属のような軋みを上げ、神経はオーバーヒート寸前だ。

「メンテナンスが無いと、こうも鈍るものなのね」

 溜め息をついて、コーデリアは残った鬼を見た。

 鬼の表情は余裕だ。もとよりコーデリアを疲弊させる作戦だったのかもしれない。

「どうしたアンドレアルの娘。有数の錬金術師のレガシー(遺産)も、ただのアンティークドールになってしまったか?」

 言うと、鬼の右腕が帯電し始める。コーデリアの機動力を見て、直接ダメージを与えるつもりなのだ。

「雷神の劣化種族……地に落ちた悪鬼に言われる筋合いはないわ」

 コーデリアは気丈に言い返すが、分が悪いことは認めていた。

  青白くスパークする火花は、すでにコーデリアにすら致命的だ。一撃で仕留めようというのか、放電は激しくなり大気に爆ぜる。

「片腕くらいは残してやる。酒のつまみにはなるだろう」

 鬼は稲妻と化した右腕で、コーデリアに殴りかかった。

 回避しようと、コーデリアは残ったエネルギーを足に注ぎ込んだ。だが、鬼の突進が僅かに早い。

 後ろに跳ぼうにも、筋肉がついてこない。鬼は勝利の雄叫びをあげた。

 それが致命的だった。

「どっこい――」

 上方からガラスの割れる音と、大樹の気合の声が聞こえた。鬼が気づいた時にはすでに遅い。

「っしょおおおおおお!」

 落下の加速度に全体重を乗せ、大樹の一太刀は放電する鬼の豪腕を、一気に叩き切った。

 千切れ飛んだ鬼の腕は、放電しながら地面を跳ね回った。コーデリアは、思わず電気うなぎを想像した。

「な、ぐぅおあああ!」

 鬼が吼えた。だがすぐに痛みを押さえつけると、大樹を睨みつけた。

「ニンゲンめ。よくもやってくれたな。貴様は生きたまま内臓を喰らってやるぞぉ!」

 大樹は舌打ちし、頭を掻いた。

「タイミングを間違えたな。ミナが急かすからだぞ」

「やかましい。コーデリアがピンチだったのだぞ。義を見てせざるは勇無き成りと言うではないか。それより早くわらわを拭け。血がついておるではないか、染みになったらどうしてくれる」

 ミナに逆に怒鳴られ、大樹は舌を鳴らした。ミナの抗議は無視して、鬼に切っ先を向ける。

「不意打ちで不覚を取ったが、次は無い。ニンゲンごときが何を使ったとて、我らには勝てんのだからな」

 鬼は残った左手を大樹に向けると、一筋の雷撃を放った。それだけで、大樹は大きく吹き飛ばされた。手から木刀が離れ、鬼の足元に転がる。

「ふん。貴様は後だ。先に小娘を始末してやる」

 再び腕に蓄電をしながら、鬼はコーデリアに向き直った。いまだ回復はしておらず、コーデリアはその場に立ち尽くしたままだ。

「放電で焼き殺してやる」

 コーデリアの首に手を伸ばし、鬼は大口を裂いて笑った。

「獲物を前に舌なめずりする奴は……なんじゃったかな。忘れてしもうた」

 すぐ後ろから声がして、鬼は顔色を変えて振り返った。そこには古風な麻の衣を着た少女が一人、鬼を見上げていた。

「何者だおまえは……!」

 そう言いかけて鬼は自分の左手が無いことに気がついた。断ち切られた右腕と違い、根元から掻き消えている。

 鬼が驚愕の表情を浮かべるのを、楽しそうに笑い、少女は言った。

「神の拳を受けるが良い。『秘拳・桜吹雪』」

 薄い桜色の光が舞い、それが少女の拳だと気がついたときには、鬼の体は微塵に砕かれていた。肉片は地に落ちることなく、光となって消えてゆく。

「わらわは近距離パワー型じゃぞ」

 漆黒の長髪を掻き上げ、少女は勝利の笑みを浮かべた。

「ミナさん……なのね?」

 やっと回復したコーデリアは、少女に近寄った。

「左様。現界できる時間は少ないが、こういうことも出来ると言うことじゃ」

 ミナは言い終えると、光になって木刀に吸い込まれた。

「大樹を起こしてやってくれ。あやつが神降ろしでもできればよかったんじゃが、如何せん徳のない男じゃからな」

 コーデリアは木刀を拾うと、倒れた大樹の傍に座った。

 雷撃のせいで完全に気絶しているが、外傷もないしこれならすぐに目を覚ますだろう。

「大丈夫そうじゃな。しぶとさだけは一人前じゃ」

「それにしても――」

 木刀を大樹の横に置くと、コーデリアは倒した敵を見回した。餓鬼たちはすぐに腐って地に還るだろう。ほうっておいてもかまわない。

「誰かが、おそらく毒にかかわる奴がいることは確かのようね」

 思い当たる節は無いが、悪鬼妖魔を使役するようなものはおのずと限られてくる。それを当たってみてれば、多少の情報はえられるはずだ。

 そのためには紫苑に手伝ってもらわないといけないが。

「ミナさん」

「ん?」

「わたしは用が出来ましたので、お話はまた後日にいたしましょう。その時は素敵な喫茶店にでも行きましょう」

「そうか。大樹にはわらわから伝えておこう」

 コーデリアは木刀に一礼し、その場を去っていった。

 

「し、しびれる……」

「目が覚めたか、未熟者」

 大樹が気が付くと、すでにコーデリアの姿は無かった。

 悪鬼の姿も無く、裏通りは何も無かったかのように静けさを取り戻していた。

「うまくいったみたいだな……」

 吹き飛ばされるときに、鬼の方に向かって木刀を投げた。ミナに任せれば、何とかなるだろうと考えたからだ。

「相変わらず、お前は剣を何だと思っているのやら」

 目覚めの悪いミナの説教に、大樹は舌打ちをしようとしたが、まだ舌が痺れてうまくいかない。

「コーデリアは?」

「用事じゃと。話は後日と言っておった」

 ミナが言うと、大樹はコーデリアの戦闘を思い出した。上から見ていて、その動きは爆風の如く凄まじく思えた。

「さすがに、本職は強いよな」

 壁に頭を預け、大樹は息を吐いた。

 全身の力が抜け、すぐに痺れも抜けてゆく。

「人間でもやりようによっては悪鬼妖魔を凌駕するという見本じゃ。おぬしも精進せいよ」

「ああ……そうだな」

 呟くように言うと、大樹はそのまま眠りに落ちていった。

 

 

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