- 世界の底辺 -

C章 消えない木霊。


 敵の取調べは氷雨とレイチェルがやっている。

 ひなたは休んでおけと言われたので、部屋に戻りベッドに腰掛けた。

「――――」

 エルリが死んだ。最期には純白ではなく、ひなたに礼を言い死んだ。

(お礼言われるようなこと、なにもしていないのに…)

「ひなた」

 秋田がひなたの前に降りた。いつもの心配気な表情をしていた。

「あ。秋田さん? 敵の様子はどう?」

「他の方々にお任せして参りました。ひなた」

「う?」

「あまり思い詰めないでください。エルリのことは仕方がなかったのです」

 仕方がなかったわけではなかった。日頃から純白はエルリを虐待していた。もっと、純白にエルリを想う心を持たせれば防げた事態だったかもしれない。

 ――エルリの肉片と一緒に転がった『よくない玩具』を思い出した。

「――――!」

 銅の剣を手に入れた。

(また…。なんで、ボクはこんなにいきなり『アイテム』を手に入れちゃうの…?)

 銅の剣を装備した。

「ひなた、それは…?」

「ん…銅の剣だよ」

「何処からそれを…」

「わかんない。時々いきなり増えたり減ったりする…今、装備したんだ…」

「増える? 減る? そ、装備? なにを仰っているのですか?」

 ―――ダメだ。ボクは今すごく世界的に矛盾したことを言っている。

「な、なんか…わかんないけど…増えるんだ…」

 恐かった。

 両手にも衣服の中にもなにも『持っていない』はずなのに、確かにひなたは銅の剣を始めとした、いくつかの『アイテム』を持っているのだ。『アイテムリスト』の中にそれらは存在するのだ。

 その矛盾がひなたの安心を削ぎ落とした。

「ひなた」

 秋田がぎゅっと抱きしめてくれた。

「……ん?」

「大丈夫です。私がひなたを守り、ひなたの目的を遂げさせます」

「ありがとう……」

 

 

 氷雨は疲れを癒すため、椅子に腰を降ろし熱いコーヒーを口にした。砂糖は一杯だって入れない。苦い味が口の中に広がり、顔を顰めた。

「シュガー、入れませんの?」

「うん。乙女の大敵」

 氷雨は肩を竦め、拷問台に縛り付けた『誰か』を見つめた。

 個性がなにもなく、会話も当たり障りのないことしか話さない。何処にでもいる『誰か』だった。

「ねえ、レイチェルちゃん。あのバカ男どこいったの?」

「エルリさんがやられてから部屋で塞ぎ込んでますね。さすがに悔いたんじゃないですか」

 だったら最初から大事にしてやればよかったんだ、と氷雨は喉まで言葉が出かけたが、なんとか飲み込んだ。

 程度の違いはあれ、誰だって失ってから初めて大切さに気づく。

「ね、レイチェルちゃん」

「あい?」

 屈託のない笑顔を見せる金髪の少女を氷雨はじっと見た。レイチェルはいつも楽しそうだ。大凡、『陰欝』という言葉を感じさせない。レイチェルは氷雨やひなた、純白とは根本的に何処かが違う。

「…レイチェルちゃんはどう歪んでいるの?」

「なんのことかしら?」

「なにか望みがあったんじゃないの?」

「いいえ。今の私に望みはありません。敢えて言えば、氷雨さんやひなたさんが幸せになっていただければ嬉しいです」

「ふ〜ん…?」

 レイチェルは確かに誰よりも大人びていると氷雨は思ったいた。だからレイチェルが指揮を取ることに不満はなかった。けれど、レイチェルは何処か心を開いてくれていない気がした。

 レイチェルは氷雨に背を向け、拷問台に括り付けている『誰か』を見ている。

 その後姿は非道く、『間違ったなにか』に見えた。

 

 

 純白は部屋に鍵を掛け、ベッドの中に潜って眠った。

 明かりも灯さず、窓も締め切り部屋の中は真っ暗だ。純白は今日も部屋に置いてある常備食を口にし、眠った。

 エルリが死んだって食事は取れる。

 ニンゲンは例え大事なニンゲンが死んだところで、余程のことがない限り数日後には食を取れる。そういうニンゲンが純白は大嫌いだったが、こうして食を取っている自分がいる。

 エルリを愛していたわけではない。が、エルリは純白の味方だった。他の三人は決して純白の味方ではない。いつも軽蔑した目で純白を見る。

 エルリだけは違った。

 純白は起き上がり、数日振りに窓を開けた。

「――――!」

 強烈な日差しが差し込んだ。この絶望の世界には似つかわしくない、見事な晴天だった。染み一つない青空は純白を嘲笑っているかのようだった。

 あの三人はきっと純白を無能だの、エルリを死に追いやっただの、責めているだろう。いや、もしかしたら眼中にすらないかもしれない。

「ちくしょう!」

 壁を殴った。窓ガラスを殴る勇気すらない。手が切れると痛そうと思ったからだ。勇気はなくとも自尊心はあった。

 

 

 ひなたは嘆息した。

 エルリのことばかり考えていて、最近部屋から出ていなかった。あの捕らえた『誰か』がどうなったか、見に行くことにした。氷雨やレイチェルからはなんの連絡もなかった。

 秋田は今日もゲームに夢中だ。ひなたは立ち上がった。

「どちらへ?」

「あの敵のとこ。氷雨ちゃん達に任せっぱで、ボクあんまみていないから」

「……わかりました。なにかあればお呼びください」

(あれ?)

 ひなたは首を傾げた。いつもならゲームなど止めてひなたにべったりついてくる秋田が、今日はゲームを続けるらしい。しかし、ひなたも『まあいいか』と思うことにした。

「いてくるね」

「はい」

 部屋を後にし、ひなたは長い廊下を歩きながら物思いに耽った。

 エルリの死。

 それはこのザ・ローウェストの戦力の低下に他ならない。また、あの戦った『誰か』は以前よりも強くなっていた。

 殺しても、全滅させても、何処かの町で復活する『誰か』。

 時間とともに強くなる敵。

 そんな敵を、『勇者』を相手に、『悪』はどのようにして戦えばいいのか。そういえば、銅の剣を装備したことを思い出した。

(そういえば銅の剣以外にもいろいろ手に入れてたよね)

 ひなたは『アイテムリスト』を確認し、自分の在庫を確認した。このミスリルソードという武器は銅の剣よりも強そうだ。

 ひなたはミスリルソードを装備しようとした。しかし、ひなたはミスリルソードを装備できなかった。

(装備できない…? 他のも試す…)

 色々なアイテムを装備しようとしたが、結局ひなたが装備できるのは銅の剣だけだった。

(あんまり強そうじゃないけど…なにもないよりはマシかな……)

 藍那を思い出した。

 ひなたの精神は腐ってしまった。それまで健全に生きてきたつもりだった。だけど、藍那と出会い、依存し、捨てられた。それはニンゲンが腐るには十分な過程だった。

「…………」

 ひなたは振り返った。

 ―――誰かいる。

(くすくす)

 角の所に『黄金の少女』の影が一瞬だが見えた。

「誰? 誰かいるの?」

 返事はない。

 誰かいる。それは以前にも見た何者かと同じ。

 ひなたは後を追った。

 ――――――銅の剣を手に入れた。しかし、ひなたは持ち物がいっぱいでこれ以上持つことができない。ひなたは銅の剣を投げ捨てた。

 がしゃんと剣は廊下に捨てられた。

 黄金の衣服を纏った少女を追った。この先は行き止まりだ。今度は逃げられることもない。

「はぁはぁ…」

 この少女は何処からここに侵入したのか。ここの入り口はカイゾウニンゲンが守っている。普通のニンゲンが潜入できるわけがない。

 ―――ニンゲンの腐った臭いがする。

「はぁはぁ………」

 追い詰めた。

 黄金の少女は手で顔を隠し俯いている。

「君は誰……?」

「―――――――」

 答えはなかった。

 ひなたは意を決して近寄った。そして、少女の手を取り、顔を見た。

「!」

 それは正しく衝撃だった。心臓の毛が逆立った。

(なんでここにいるの。あれだけ世界中を探したのに見つからなかったのに。何処か『あのコ』に似ていて、それで決定的に違う。ボクが歪むきっかけとなった女の子。そのコのお尻を触るのが大好きだった)

 頭の中がぐるぐるとする。

 強烈な吐き気と嫌悪、憎悪が一瞬にして頂点に達し、無数の銅の剣が降って沸いた。

 

 藍那がいた。

 

 駄目だ、声が上ずっている。冷静になれとひなたは己を叱責した。

 藍那はひなたを見ても、誰か分からないといった顔をしている。忘れてしまったのか。

 世界がこんな風になる前、毎夜ずっとこう考えていた。

 こんな苦しみの中、あいつはお笑い番組を見て笑っている。

 人が眠れない夜も、あいつは涎を垂らしながら眠っている。

 それが悔しかった。だけど、それはひなたの『最悪の想像』であり『ギザギザ』であり、現実はそうではないと信じていた。藍那も心に傷を負っている。そう信じてきた。だから、せめてひなたの顔を見た時、悲しみに満ちたのなら憎悪も多少は和らいだはずだった。

(もういい)

 最悪のニンゲンになることにした。

「――――!」

 無理やり唇を奪った。キスをした。

 藍那とのことがあってから、誰ともキスができなくなった。他のニンゲンとのキスを想像するだけで、嘔吐してしまう精神の外傷。

 それらの鬱憤を全て晴らすため、今キスをした。無理矢理した。

 藍那は驚いた顔をしたが、手の甲で唇を拭った。

 肩を震わせている。

 泣いているのかと思ったが、そうではなかった。

「………く……あはは…」

「―――?」

「…あはははははははははは! あかん! こらおもろい! だめやーっ」

 藍那が関西弁でおなかを押さえて笑っている。

 先ほどまで感じていた藍那らしさがなくなっている。顔が崩れ、別の少女の顔になっていた。

 別のニンゲンとキスをした。藍那じゃない。藍那以外はキスができない。そのタブーを無理矢理破らされた。

「……誰さ?」

「あ…あはははは…ひぃひぃ……あかん。おもろ…かわいいし!」

「答えなよ!」

 乾いた音が響いた。

 無意識の内にひなたは装備した銅の剣を怒り任せに壁に叩き付けていた。

「いい加減にしないと…………………殺すよ」

 黄金の少女はそれでも笑いを止めなかったが、なんとか噛み締めひなたの方へ向き直った。

「なんや、怒ったんか。可愛いなあ」

 悪戯気な顔が非道く魅力的な女の子だった。   な女の子だった。

(――――――――!)

 だけど、そんなことはどうでもよかった。藍那以外とキスをした。そう仕組まれたことが、この女に八つ裂きにしても拭えない嫌悪を覚えた。

「あはははは。なんや、うちを殺したいんか? 短気やな。藍那ちゃんが一回は好きになったって言うから、死んでしまう前に見に来たけど、こんなやつやったんか」

「死んでしまう?」

「そや。どうせあんたらゴミのクズのバカはもうすぐ勇者様に成敗されて、それから平和な世界が来るんや」

「…君はなにを知ってるのさ」

「知ってても教えるかいな。どうせアンタはここで死ぬんやから。追い詰めたつもりでいたんか? アンタはここに誘いこまれたんやで」

「――――!」

 ひなたは反射的に銅の剣を装備し、構えた。

「そう、それや。その銅の剣や。それ、すごいうざいんよ。その銅の剣だけ消すとかムリやし。だから、ひなた君だけはここで死んでもらうことにしたん。本当の道順とは違うけど、まあ、細かいことはあとで修正したらええしな」

 黄金の少女はひなたに詰め寄ってきた。

(ふざけんなっ…)

 理屈がまったく分からないけれど、こんな所で死ぬわけにはいかなかった。どんな手段を用いても藍那を探し出す。それにここで藍那を知るニンゲンが現れたことは、逆に考えれば好都合とも思ったのだ。

「……」

 迂闊には手を出せない。相手がアバターのようにニンゲンジャナイモノだとしたら、ひなたでは手に負えない。

「なんや、びびってもうたんか。こっちからいくで」

「―――!」

 黄金の少女は素手のままひなたに詰め寄ってくる。

 藍那の姿でひなたを誑かした。それはどれだけ残酷なことか。例え神々が全てのその首を差し出そうとも、ひなたはこの女を許すことはできなかった。

 ―――殺してやる。

「たあああっ!」

 叫び、装備した銅の剣で女を切りつけた。正しくそれは会心の一撃だった。だが、女は痛がりもしなかった。

「く……」

「へええ。ほんまに使えるんやなあ、その銅の剣。早いとこ殺して帰ろっと」

「!」

 女は容易く銅の剣を掴み、握り潰した。駄目だ、ニンゲンの力ではこの女には勝てない。ひなたは後ろへ飛び跳ね距離を取った。秋田を念じ、呼ぼうとした。

「そや、言い忘れてた。アバター呼んだって無駄やで。うちの決定にはアバターかて逆らえんしな」

「え?」

 にっと笑った女がひなたに近づいてくる。

 ――アバターはここには来られない。

 それでは死んでしまう。この女はひなたよりも、ニンゲンよりも圧倒的に強いのだから。

「だから殺しに来たっていうてるやんか」

 死ぬ。

 この場で訳も分からずに殺される。藍那。まだ死にたくない。命などどうでもいいけれど、藍那に辿り着くまで死にたくない。死にたくない。藍那。

「そら。死にやー♪」

 女の全身がひなたに死ね死ねと訴えている。手をひなたの首へと伸ばしてきた。あの手はさっき銅の剣を砕いた手だ。そんなものに首を掴まれたら簡単に骨をへし折られてしまう。

 手が近づいてくる。

 死が近づいてくる。

「…い…やだ………」

 藍那。藍那に会うためにここまできた。藍那。あいな。アイナ。ナイア。ないあ―――――――ナイアーラ・トテップ。

「いやゆうたって、死ぬもんはしゃーないやん」

「…い、いやだああああああああ!」

「―――――!」

 ひなたは恐怖を振り切り、女の手を打ち払った。

「無駄やってわかってるのに抵抗するんか。めんどいなあ。そんなに死ぬのが嫌なんや? いっぱいヒトを殺してきたくせに」

「……!」

 違う。

 死ぬのが怖いわけではなかった。遠の昔から死にたかった。

 目的が果たせるならこんな安い命、いくら差し出しても良い。だけど、藍那に会わずして死ぬわけにはいかないのだ。だから、苦しくても生き抜いたのだ。恥を掻いてでも死を選ばなかったのだ。

「―――――――――――――!」

 戦って、戦って、藍那に追いすがる。世界を敵に回したって、氷雨に嫌われたって、それでも藍那にだけは地獄を見せる。そう誓って生きてきたのだ。

 ひなたは銅の剣で女に斬りかかった。敵の首を跳ねようと、女の細い首筋を狙った。

「うざーい」

「――――」

 だけど銅の剣が女の首を切り飛ばすことはなかった。女の首は銅よりも硬いらしく、剣の方が折れ曲がってしまった。

「じゃあ、今度はこっちの番やな」

 女はひなたの右腕を掴み、力を込めた。

「あ…ああ………ああああああああああああああああああああっ?」

 右腕からこの世の終わりのような痛みが脳天へと走り抜けた。

 ばきっとまるで枯れ枝が折れるような音を鳴らし、ひなたの腕の骨は握り折られた。

 ―――骨が折れた。

 骨が折れることがこんなに痛いことだとは知らず、涙さえ流れた。

「情けないなあ。ほんまに駄目ニンゲンなんやな。アバターおらんとなんもできんねんな」

「――――――っ!」

 痛……くない。この程度、痛くないと堪えた。

 心はもっと痛かったのだ。藍那の時から毎日、魂を銅の剣で貫かれるような痛みを耐えてここまで来た。

 腕の二本や三本、痛いに値しない。

「痛く……ない………」

「んん?」

「こ、こんなの痛くない……!」

 ひなたは折れていない方の手に別の銅の剣を装備し、女の鳩尾に突き込んだ。

「――――! へえ? 思ったより根性あるねんな」

 まるで効いていない。女は舌舐めずりすると、へし折ったひなたの腕を曲げてはいけない方向へ曲げていった。

「ああああああああああああっ?」

 折れた腕がまるで水飴のように、女の手にぐにゃぐにゃに捻られ、曲げられた。痛みは我慢できても、腕が曲がってはいけない方向に曲がっているのを直視するには生理的嫌悪を伴った。

「あはは♪ 強がり言うてても、痛さで涙出てるやん♪」

「――――!」

 ひなたは左手に装備した銅の剣で女を滅多切りにした。だが、全くと言っていいほどダメージは出ていない。駄目だ、この敵には勝てない。

「それじゃあそろそろ死ぬか?」

 折れた腕を掴まれ、逃げられないひなたの首が女の手に絞められた。早いその一撃は避わすこともできなかった。

 息が止まるよりも早く、血液が止められ脳に酸素が届かなくなり、意識が真っ白になっていく。

「…あ……ああ……」

 薄れ行く意識の中、藍那の笑顔が浮かんだ。

 藍那が幸せそうに笑っていた。

 許せなかった。この地獄のような世界に落ちてからひなたは笑ったことがなかった。なのに彼女が笑っているのは、例え悪と言われようとも藍那が憎かった。

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 ひなたは叫び、銅の剣を女の股間に突き差し込んだ。

「――――!」

 ずぶりと銅の剣は、女のズボンを突き破り、性器のスリットに突き刺さった。

「きゃあああああああああああああああああああ」

 さすがの女も、突如性器に銅の剣を差し込まれ絶叫した。剣を股間からぷらぷらと下げながら、身体を硬直させ叫んでいる。

 ひなたはその隙に女の目に親指を突き刺し、その身体を蹴り飛ばして距離を取った。

「はぁ…はぁ……」

「こ、この……!」

 目と股間から血を流した女が憤怒のようにひなたを睨んだ。それだけでひなたは死んでしまいそうになった。

「痛かったで、今のは…! されたことを倍にして返したる…」

 女は自らの股間に突き刺さった銅の剣を抜き取り、ひなたに向けて投げ飛ばした。

「…!」

 避ける間もなかった。女の愛液と血に塗れた剣がひなたの肩に突き刺さり、そのままひなたは壁まで飛ばされた。

 剣は身体ごと壁に突き刺さり、ひなたは昆虫のように貼り付けにされた。

「さっきのは痛かったで……」

 女が近寄ってくる。

「お返しにおんなじことしたろ」

 そう言い、女はポケットからナイフを取り出した。

 ―――同じこと。

 ひなたがそれがなんのことか思いつく前に、女はひなたの両足を掴み左右に開脚させた。

「え―――?」

「お尻もらうで」

 ―――!

 ズっという音と共に、お尻の穴に熱いなにかを感じた。

 お尻の穴から身体を裂かれた痛み。

 鈍痛がじんわりと鋭利な痛みへと変わっていく。

「あああああああああああああっ……い、痛ぁ……痛あああぁあぁあぁああぁあぁぁぁ!」

「ふふ……♪」

 尖った、ナイフで、お尻の、穴を、突き、刺された。

「あああああっ……あああああああっっ…?」

 涙まで流してしまった。

 肛門は神経が集中している。そんなところをナイフで突き刺されたのだ。

「あーあ。大出血やなあ♪ そんなに泣いちゃって…かわいいんや……?」

「いっ……?」

 じゅぽっとナイフがお尻から引っこ抜かれたはずみで、ひなたは声を漏らしてしまった。

 女は血塗れのナイフをぺろりと舐めた。

「ふふ。ちょっと匂うで♪」

「―――っ」

 涙を堪えた。

 泣きたくない。

 痛み如きで流す涙は何処にもない。お尻の痛みなど我慢した。

「ううう………!」

 自分の肩を貫き壁に串刺しにしていた銅の剣を強引に引っこ抜き、ひなたは女の顔面を蹴り飛ばした。

「―――っつ……。なんや、まだ逆らうんか…」

 

 

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