『リリィ★クエスト 〜魔法少女 閃光し炸裂し光輝に浸る〜

 1.草薙リリィは世界を愛します


 

 

「ふぁ……」

 まだ眠いけど、目覚まし時計はりんりん鳴ってるー!

 はぅ、学校いかなきゃ。

 あたしは枕もとの時計を止めて、パジャマを脱ぎ捨て、ベッドのすぐ下に置いてある制服に着替えた。

 可愛い制服〜♪ あたしはこれだけのために今の中学を受験したもん。

「〜♪」

 洗面所いって顔を洗うっ♪ 髪を整えて、歯を磨くっ♪

 はい、もう出掛ける準備はばっちり。完璧。言うコトなし。五分でできたー!

 台所のテーブルにはラップされた朝ご飯が置かれてた。

 はわ。時計見たけど、ごはん食べる時間もなさそう。どうせ土曜日なんだし、帰ってから食べよ。

 あたしは鞄持って玄関を飛び出した。今日はなにかいいコトあるかな♪

 

 

 マンションのホールから一歩飛び出して、あたしは足を止めた。

 あちゃー……。

 いいコト、どころじゃなかった。

 なんかばたばた人が慌しいと思ったら、騒ぎの真中で誰か倒れてる。男の人。血がいっぱい流れてる。うわ、うわぁー……。

 死んでる、死んでるってみんな騒いでる。死んでるんだぁ。自殺なのかな? 他殺なのかな? 誰かケーサツに通報しないのかな?

 はぅ。どっちにしても関わりたくはないよね。あたしは野次馬精神なんてない。死体なんて気持ち悪いだけ。

 そそくさと学校に行こうとしたけど。

「……リリィ」

 残念ながら後ろから誰かに呼び止められた。

 物静かな、でもリンと響く女の人の声にあたしが振り返ると、そこには黒いコートを纏った小柄なおねーさんがいた。

 室内葉子さん。隣に住んでる二十歳ほどのおねーさん。ちょっと不思議なおねーさん。

「……人が……死んだみたいね」

「そうみたいですねぇ」

 葉子さんの淡々とした言葉に、あたしは適当に相槌を打っておいた。

 なんてゆーか、あたしも人のコトをどうこう言える人間じゃないけど、この人まともじゃない。

 どこか精神が腐ってる。そんな感じがする。でも嫌いな人じゃない。だから話し掛けられたら、あたしはちゃんと対応する。

「……学校いくの?」

「はい」

「……リリィ、おごるわ……何か食べにいくわよ。どうせ朝食はとってないのでしょう?」

 なにを言い出すのかな、この人は。学校て自分で言ったくせに。

「あの、あたし学校あります」

「……休んだらいいわ。大事な話があるの」

 もう、勝手なコト言うなぁ。

「……勉強なら……後で私が見てあげる」

 葉子さんが頭がいいのは知ってる。何度か勉強を見て貰ったコトもあるけど、頭がいいだけじゃなくて、教えるのも上手なんだ。

 断ることもできたけど、死体とか見たおかげでなんか行く気なくなっちゃった、学校。

「おごってもらっていいんですか?」

 あたしの返答に葉子さんは満足したみたい。

でも葉子さんは表情を変えない。

 この人はいつもそう。無表情。そこがまた浮世離れしてる。

 葉子さんは黙って歩き出したので、あたしもその後を歩いた。

 

 

 で、ファミレスに来ちゃった。

 どこにでもあるような、普通のチェーン店だけど、あたしはレストランって好き。庶民の幸せってやつかな?

 あちゃー……。でも学生服着てるのが、こんな時間にこんな場所にいるってのはやっぱ問題かも。なんか、周りから見られてる気がする……。

 葉子さんの薦めであたしはちょっと高めのサンドイッチのセットを頼んだ。中学生のお小遣いじゃこんなの食べられないから嬉しい♪

「それで、お話ってなんですか?」

 サンドイッチを齧りながら尋ねると、葉子さんは懐から手帳とペンを取り出して何かを書き始めた。

「……さっき死んでいた男の人」

「はぁ……」

 なにも食べてる時にそんな話しなくても……。いや、話振ったのはあたしなんだけど。

「……あの事件について貴女なりのコメントをしてみて」

 また変なコト聞いてくるよ、この人。葉子さんはペンを握ってあたしの返答を待ってる。うー、この人には建前言っても仕方ないよね。

「巻き込まれたくないと思いました」

「……そう。他には?」

「えっと……。実は他殺なのか自殺なのかは少し気になります。もし、他殺ならこの辺りに殺人犯が潜んでいるかもしれないですし」

「……安心しなさい。飛び降り自殺よ。他には?」

「これくらいですよ」

「……そう」

 葉子さんは手帳を閉じて懐に戻した。この人、なんかある度にあたしのコメントとっては、記録してるんだよね。あたしなんて、ただの一市民なのに。

「…………」

 あたしはオレンジシュースをストローで吸いながら、ちらっと葉子さんの表情を盗み見た。

 無表情。なに考えてるのか分かんない。

「……リリィ」

「はい?」

「……貴女はいつもそう。私に翻弄されながらも、その真意を探ろうとしている」

 うわ……。お見通しだ。

「……いいのよ。私は貴女のそういう所は魅力的だと思うわ」

「はぁ」

 生返事をしながらサンドイッチを頬張っていると、あたしの隣で誰かが立ち止まった。

「よぉ」

 なんかジャラジャラしたネックレスやら、腕輪やらをした二十代半ばくらいのおにーさんだった。はっきり言って趣味最悪。一応あたしの知り合い。斎童(さいどう)さん。

「こんにちは」

「ヒヒヒヒヒヒ。いよぉ、リリィ? 随分と湿気た面だな。まぁこんな電波な女と飯食ってりゃそうなるわな。ヒヒヒ、ヒヒヒ」

 下卑た視線で葉子さんを見下ろす斎童さん。

 葉子さんは……無視してる。

「よっこらせ、と」

 おっさんみたいな声を出して斎童さんがあたしの隣に座った。

 あぅ……。なんか変なにおいがするよぉ。このにおいって……。

「……誰を犯したの?」

 葉子さんは冷やかに口を開いた。斎童さんは『ヒヒヒヒヒヒヒヒヒ』と笑って言った.うぁー……犯したって……ちょっと……。

「なんだ? やっぱり興味あるのか? いつもすましてて、俺の行動全部を見下してるようなお前が、俺が誰を犯したのか気になるのかい? ヒヒヒ」

「……下衆の貴方の行動に興味なんてない。ただ、それが私の気に掛けているコなら貴方の眼球を抉るわ」

「ヒヒヒヒヒヒ」

 斎童さんは『愉快愉快』と膝を叩いている。怖いぃ……。

「そりゃ残念だな。俺が犯したのは、リリィの隣に住んでる小娘さ。葉子、お前はそいつが嫌いだったなぁ?」

「……あぁ。あれを犯したの?」

「ヒヒヒ。なかなか楽しめたぜ」

「………下衆の趣味は理解し兼ねるわ」

 なんてゆーか、もう会話が最悪。

 あたしの隣のコって………誰だっけ?

「…………」

 どーでもいいけど。

 でもこの人達、意外と仲がいいのかな?

 聞いてみようかな?

「あの……葉子さんと斎童さん……………案外一週して仲良さそうに見えない事もないんだけど…………実は恋人とかゆう話はないんですか?」

 あたしの言葉に二人は一瞬、首を傾げた。

 で、斎童さんは『ヒヒヒ』とまた笑う。

「俺はこの電波女を犯してやりたいんだ。このすました女が鳴く、喘ぐ。そんなところが見たいんだ」

 葉子さんも冷たく笑った。

「私はこの下衆を殺したいの。一寸刻みに。スライスして。爪を剥がして。耳朶を破って。舌を引き抜いて。鼻を刳り貫いて。眼球を抉るの。そして最期に許してくださいとのたうちまわるのだけど、私は穴の開いた眼部から脳みそを穿り返すの」

「ヒヒヒヒヒヒ」

「…………」

 ――二人は同時に立ち上がった。

 斎童さんがテーブルを踏みしめ、葉子さんに飛び掛かる。

 あたしは息を呑んだ。わ、斎童さん、ナイフ持ってる……!

 葉子さんも懐からキラりと輝くなにかを取った。こっちもナイフ……!

「ヒヒヒヒヒヒーーーっっ!!」

「――――!」

 あたしの見てる前で、二人はナイフを互いの喉元目掛けて突き出す。思わず目を瞑ってしまった。

 辺りから悲鳴が聞こえる。

 机とか食器のひっくり返る音。

 恐る恐る目を開けてみると、喉元紙一重で相手のナイフの刃を、指で挟んで受け止めてる二人の姿があった。

 うわ。なんなの、この人達ぃ?

「ヒヒヒっ!」

「――――――!」

 二人とも、それぞれ自分のナイフを捨てた。

 どっちも懐から次のナイフを取り出す。

 店内は鉢の巣をぶち撒けたみたいな騒ぎになった。

 はわ、あたしはどうなるの……?

「ヒヒヒーーーーーっっ! 葉子ぉ! お前を鳴かしてやるぜぇぇっ!」

「――――殺すわ―――!」

 斎童さんは吼え、葉子さんも短く吐き捨て、ナイフを再び突き出そうとする。

「やめろっ、お前ら! 警察だ!」

 突然、隣から男の人二人組みが大声をあげた。手帳を見せ付ける二人。

 店内はしんと静まり返った。

 葉子さんも斎童さんも動きを止めている。

 ケーサツ……。

 やっぱ、あたしも関係者なのかな……?

「よし。キミも動くんじゃないぞ?」

 ケーサツの人はあたしにそう言った。うぁ、やっぱ関係者扱いされてるー。

 そっと葉子さんと斎童さんの表情を盗み見た。

 いつもと変わらない。葉子さんは無表情だし、斎童さんは笑ってる。

 うぁ。なんで、あたしこんな人達の知り合いなんだろう。今、後悔した。

 そう思った時、あたしの頭でなにかが光った。

「――――?」

 はぅ。頭が痛い……!

 頭を抱えてその場に蹲って、それでもあたしは周りを見渡した。

 葉子さんも斎童さんも、ケーサツの人も、他のお客さんも店員もみんな頭を抱えてる。

 なに……?

 なにが起こってるの……?

 

 ああああ……

 あああああああああああああああああ

 

 

 

 

 気付いた時、あたしは独りだった。

 ここは、まだ店の中。

「…………」

 なんか変だ。

 なんであたし独りなんだろう?

 葉子さんや斎童さんどころか、客も店員もいない。

 今、何時なのかもわかんない。周囲の光景はどこか赤茶けて見える。

 なんだろう。目がおかしくなったのかな?

 とりあえずここから出よう。

 あたしはそっと出口に向かった。なんとなくレジ触ったら、お金盗れそうな気もしたけど、なんかあるとヤバいのでやっぱりやめておいた。

 ギィっと扉を開けるあたし。

「……っ!」

 あたしは弾き飛ばされた。尻もちをぺたんと床につく。痛ぁ……!

「…………」

 痛いとか思ってる場合じゃなかった。

 扉からは醜悪な人型のなにかが入ってきた。

 あたしは思わず息を呑んだ。凄いニオイ。ニオイだけじゃない。髪は縮れてるし、肌は腐ってるのかどうなってるのか、さっぱりわかんないけど緑色でぶよぶよ。汁が滴ってるー。べちゃべちゃ……。

 化け物だよぉ。

 あたしは起き上がって、逃げようとしたけど。

「…………」

 立てなかった。

 やだ、こんな時にあたし腰が抜けてるよ……。

 化け物が迫ってくるよ。ずるずる足を引きずって迫ってくるよ。あぁ、化け物が歩く度に、床に腐敗した肉塊が床に滴ってる。

 どうしよう……?

 助けて。

 誰か助けて。

 葉子さん。斎童さん。あぁ、やだな。あたし、こんな時に思い浮かべるのがあの二人なんだ。

「ひっ……?」

 化け物の手があたしの内股に触れた。

 泥水がべちゃっとした感触。触られたあたしの脚に汁が滴る。鳥肌がたった。

 化け物はあたしの両膝に手を掛けて、左右に開こうとした。

 絶望的……。

 そんなイヤな考えが頭に過ぎった時、あたしの右手に何かが触れた。

 ナイフだ……。

 ――それはキミの力

 頭に声が聞こえた?

 誰?

 ――剣

 ナイフを持ったあたしの右腕に力が篭る。あんまりにも力が篭りすぎて、腕がガクガクと震えた。

 腕が熱い。

 あたしはとにかく化け物に向かって、ナイフを振るった。

「――っ」

 肉の千切れる音が鳴る。

 化け物の喉元はぱっくりと裂け、傷口から緑色の体液があたしに吹いた。

 ばしゃばしゃとあたしの身体は濡れていく。

 気持ち悪かった。

 

『――――』

 また、あの声が聞こえる。

 リリィ、リリィ、と耳元で囁いている。

「誰?」

 返事してみた。

 そしたら、ちゃんと答えが返ってきた。

『君は選ばれた戦士だ』

 ぼうっと人影が現れた。男の人だ。

 あ。

 この人、今朝自殺で死んでた人だ……。

 なんでだろう? 今朝、あたしは誰が死んだかなんて確認してない。誰が死んだかなんて知らなかったはずなのに。

 でも分かる。この人、一つ下の階の田中さんだ。

『――ィ、時間―ない。いいか、良く聞くんだ――ミは神に選ば―た戦――――――この街は――――暗黒―沈んだ―――――――を解放―――――早―――キミ―家―帰pppppppppppppppppppppppppppppppppppppppppppppppppppppppppppppp』

 

 ぼん。

 ピピピピって鳴り続けて、田中さんの頭は破裂した。電子レンジに卵を入れたみたいに破裂した。

「…………」

 わけわかんないよぉ……。

 

『世界を愛するキミは愛の戦士』

 

 

 わけわかんないよぉ。

 助けて……。

 

 

 

2へ・・・。


メニューに戻る