『リリィ★クエスト 〜魔法少女 閃光し炸裂し光輝に浸る〜

 2.ナカマ


 

 

 なにしたらいいのか、どうなってるのか全然わかんないけど、あたしはとりあえず家に帰ろうと思った。

「うぁ……」

 お店から出て目に入った光景も奇妙な世界だった。

 いつもの町並みなんだけど、紫色に染まってて、なんかぐにゃって歪曲してる。

 それでやっぱり、人なんか一人もいない。

「…………」

 人はいないけど。

 さっきと同じ化け物がいっぱい歩き回ってる……。

 しかも目が合っちゃった。

「はぅ……」

 化け物達はさっそくあたしの方に向かって、ずるずると足を引きずって近寄ってくる。

 ずるずる。嫌な音。腐った肉が潰れていくみたいな音。

 あたしは逃げた。

 相手してらんない。

 幸いだったのは化け物の動作が鈍かったコト。あたしは化け物を振り切って、家に走った。家が安全なんて保障はどこにもない。それでも、そこが一番マシな気がした。

 そういえば田中さんの亡霊みたいなのも、家がどうとか言っていた。

 

 まだ家に帰る途中。

 なんか違う生き物とかもでてきた。ばっさばっさと。

 カラス……?

「…………」

 でも、あたしと同じくらいの大きさ。横幅もすごい。

 ガーガー鳴いてる。いっぱいいる。

 うわ、こっち見た。

 ヨダレたらしてる。目が凶悪だぁ。

 あたしはそろそろとカラス(?)から目を離さずに横に移動してたけど。

「―――――――――!」

「ひゃああっっ?」

 カラス達は凶暴な鳴き声をあげて、一斉に飛び掛ってきた。

 あたしは反射的にナイフを振るった。

 縦にひゅっと。

「…………」

 カラスの一体が、パカっと真っ二つに割れた。

 うぁ。もう意味わかんないよぉ。なんでナイフで真っ二つになるのぉ……?

「―――――!」

「ひいっっ」

 あたしはとにかくナイフを振るった。

 縦に、横に、斜めに。

 うわ、カラスはスパスパ斬れていくよぉ。すごい殺傷力。カラスの緑色の体液があたしにぶっかかる。びちゃびちゃ。

「…………」

 気付いたらカラスの死骸の中、あたし一人で立っていた。

 うぁー……。

 

 あたしはやっとマンションまで帰ってこれた。

 なんか身体中が緑色の体液でいっぱい。どうしよう、これ。

 お風呂。

 こんな非常時だけど、それでもあたしはお風呂に入りたかった。

「あれ?」

 エレベーター。

 なんでか知らないけど、ちゃんと電気走ってる。動いてくれた。

 一体どうなってるんだろう。あたしは何度もおんなじ疑問にぶつかる。

 冷静に。

 そう、こんな時こそ冷静になるべきだって葉子さんも言ってた。

 まず普通じゃない。でも、あたしはなにも知らない。情報がない。今は慌てず、騒がず、自分が生き残るコトを考える………………うん、これであってるよね?

 それだけ。他に情報はなにもないんだから、余計なコトは考えない方がいいって

 あたしは自分の家に戻ろうとした。

「…………」

 葉子さんの家は隣。ここ。

 もしかしたら、葉子さんいるかもしれない。

 正直、今は葉子さんと一緒にいたい。あんな人だけど、ううん、あんな人だからこそ、こういう時は一緒にいると心強い。

 インターホンを鳴らしてみた。

 ちょっと待ってみる…………やっぱり誰も出ない。

 あれ?

 なんか中から物音が聞こえてくる。ばたんばたんって。誰かが暴れてる?

 どうしよう。葉子さんなのかな?

 なにが起きてるかわかんないトコに、飛び込むのは怖いけど。でも一人はもっと怖いから。

 あたしは思い切ってドアノブを回した。

 鍵掛かってなかった……。

 引いたらガチャっとドアは開いた。なんで?

 奥の方からは相変わらず、なにかが暴れてる音が聞こえる。なにがいるの? 引き返した方がいいかな?

 ううん。引き返したって、どうせ化け物ばっかなんだから。葉子さんがいるかもしれないなら進んだ方がいい。

 大丈夫。あたしには訳わかんないけど、すごいナイフがあるんだから。

 あたしは意を決して、前に進んだ。

 

 なに?

 一瞬、視界がぐにゃって歪んだ?

 あれ? 葉子さんの家の中に入ったのに、気付いたら変なとこにいる?

 青白いモヤが立ち込める部屋……ううん、部屋なのかどうかもわかんない。視界全部がモヤで、一歩前もなにも見えない。

 あたしは歩けなかった。目の前が見えないのだから。

「……ぁ」

 突然、視界が開けた。モヤが消え去った。

 あたしはマンションの下の公園にいた。なんで?

 どうなってるの?

「……っ」

 息を呑んだ。

 葉子さんがいた……!

 公園の中で葉子さんが化け物に囲まれてる! あたしを襲ったゾンビみたいな肉の腐った化け物! いっぱいいるよっ。囲まれてるっ。

 あたしが駆け寄るよりも早く、葉子さんが動いた!

 なにかがキラっと光って一閃した。ナイフだ。

 強烈な肉の千切れる音が響く。

 あたしは目を見張った。

 化け物達は全員、一寸刻みにスライスされた。それから爪を剥がされて、耳朶を破られて、舌を引き抜かれて、鼻を刳り貫かれて、眼球を抉られた。最期に化け物はのたうちまわってたけど、穴の開いた眼部から脳みそが穿り取られた。

 化け物達は地面にべちゃべちゃ転がった。公園は死骸だらけだった。

 なに、これぇ……?

 なんでナイフ振っただけでこんなコトになるの?

 葉子さんも?

 あたしとおんなじ不思議な力を葉子さんも持ってるの?

「葉子さんっ!」

「……リリィ…!」

 駆け寄りかけたあたしを葉子さんは片手で制した。思わず立ち止まるあたし。

「――――いっ?」

 あたしの目の前で地面が盛り上がって、そこから土でできた巨大な化け物がもりあがってきた。

 巨大な人型の化け物だ! 身体は土(砂?)でできてる。化け物だ。ふぁ、十メートルくらいあるのかなぁー……?

「……っ?」

 化け物が動いていた。早い。巨大な腕があたし達を叩き潰そうとしている。

 逃げられない! 間に合わない!

 うぁ……死んじゃう……。

 巨大な腕があたしを叩き潰す直前。

 あたしは咄嗟に前にナイフを突き出していた。

 化け物の腕が、あたしのナイフに触れた。

 コツン……と。覚悟していたよりも、全然弱い力だった。コツン……。

「――――――――――――――――!」

 化け物が絶叫していた。

 そして、化け物は縦真っ二つに割れた。

 ナイフにちょっと触れただけで、化け物はぱかっと二つに割れた。

「いっっ?」

 化け物、せっかく真っ二つになったのに、また真中でぴとっと引っ付いて、元に戻って、あたしに襲い掛かってきた!

 でも、化け物の後ろには葉子さんがいた。

 葉子さんが巨大な化け物の足を、後ろからナイフで刺してた!

 うぁ?

 化け物、ズパズパってスライスにされた。ナイフで踵をちょっと刺しただけなのに、化け物、輪切りになって、爪を剥がされて、耳朶を破られて、舌を引き抜かれて、鼻を刳り貫かれて、眼球を抉られた。またぁ。それから、やっぱり最期に脳みそが目のあったトコから搾り取られてた……。

「…………」

 気持ち悪い……。

 

「……リリィ」

「…葉子……さん……?」

 葉子さんは緑色の体液に塗れたナイフを片手に、あたしに近寄ってくる。

 化け物達を皆殺しにした葉子さん。ただ殺すだけじゃなくて、あんな残酷な殺し方をした葉子さん。

 思わず後ろに引き掛けたけど、あたしは踏み止まった。

 今のあたしには、この人しか頼れる人がいないから。

「……まず最初に言っておくわ。私はあなたの敵じゃない」

 うぁ。またあたしがなに考えてるか見抜かれてる。心が読めるのかな、この人?

「………多くの人間は知らずのうちに表情や行動に出してしまうものなのよ。リリィ、あなたは特に分かりやすい…」

「はぁ」

 あたしは葉子さんの表情を盗み見た。

 全然なに考えてるかわかんない。こんな事態だってのにどこも取り乱していない。いつものように淡々としている。
「葉子さんは今、どうなってるか知ってるんですか?」

「……いいえ。私こそ何が起きてるのか知りたいわ。リリィ、あなたの知ってる事を教えて。どんな小さな事でもいいから」

「は、はいっ」

 葉子さんは味方。今の状況においてそれは間違いないと思う。

 あたしは葉子さんに知ってる限り、いろんなコトを話した。

 凄いナイフ拾ったコト。田中さんに会ったコト。その田中さんの頭がぼんっと割れたコト。部屋の中からいきなり公園にワープしたコト。全部、身振り手振りして喋った。

 うぁ、葉子さんは頷きもせずに聞いてるだけ。なんかあたしが一人で喋ってるみたい。

 あたしの話を一通り聞き終わった葉子さんは、いつものように無表情のまま聞き返してきた。

「……大変な状況なのね?」

「そうなんです。大変なんです」

 葉子さんはあたしをじっと見て続けた。

「…あなたも不思議なナイフを持っているの?」

「あ、はい。これです」

 あたしは葉子さんにナイフを見せた。ファミレスで拾って、あたしを助けてくれたナイフ。

「……普通のナイフにしか見えないわ」

「そうですよね」

 葉子さんもナイフをあたしに見せた。さっき化け物を惨殺したナイフ。

「……これだって特別なナイフじゃない。お金さえ出せばどこでも買える品よ」

 あたしはナイフのコトは詳しくないからよく分からないけど、コレ、ファミレスで斎童さんと刺しあってた時に使ってたナイフだ……。

「それ、葉子さんが最初から持ってたものですよね?」

「……そうね」

「買った時から、そんな変な力があったわけじゃないですよね?」

「……そんなわけないでしょう?」

「そうですよねー……」

 あ、あたし、いつのまにか緊張抜けてる……。リラックスしてる。

 不安もまだまだあるけど、さっきほどじゃない。

 葉子さんといるからかな? 葉子さん、そりゃ怖い性格だけど、でもあたしには優しい。それにこんな状況なら葉子さんが頼もしく見えちゃう。

 ファミレスでは『なんでこんな人達の知り合いなんだろう』って後悔したけど、ごめんなさい。

 知り合いでよかったです。

 そう思った時、あたしは胸の中がなにか温かくなってた。

 

 結局あたし達はなにしたらいいか分からなかったけど、とりあえず、あたしの家に戻る事になった。田中さんもそう言ってたし。エレベーターホール。

 エレベーターの呼び出しボタンを押して暫く待った。あたしがさっき昇ったばっかだから、エレベーターは十階のとこで止まってた。ホントに他に誰もいない……のかなぁ?

「…………」

 大丈夫。あたし達にはすごいナイフがあるんだから。

 そういえば、葉子さん。いつの間に公園にいたのかな? あたしをファミレスにほったらかしにして、一人で帰ってきてたのかな? 聞いてみた。

「……私は気付いたらあそこにいたの」

「気付いたら?」

「……いえ、違うわね。気付いたらモヤに包まれていた。それからモヤが晴れた時、私は公園にいて化け物に囲まれてたわ」

 モヤ。

 葉子さんもモヤに包まれて公園にワープしてた。もう訳わかんないよぉ。夢、じゃないのかなぁ?

「…リリィ」

「あ、はい?」

「……分からない事も多いけど、状況を悲観するだけなら小学生でもできるわ。私達には考える脳も、新しいものを見る目も、前に歩く脚もあるの。死を待つだけのムシケラじゃない」

「は、はいっ」

 そうだよね……。夢だとか、逃避的なコト考えてる場合じゃないよね。しっかり現実を見なきゃ。

 

 で、十階まで昇ったあたし達は葉子さんの家を通り過ぎて、あたしの家の前まで来た。

 あたしの家になんかあるのかな? 思わず唾を飲み込んじゃう。

 

 

 

 

 

続く・・・・。


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