- 世界の底辺 -
終章 世界の底辺、世界の天上。
エレベーターは進んでいく。
もう氷雨達も見えなくなった。レイチェルを置いてきた地上は思い出すこともできない程、昔の場所だった気もする。
彗星のようにひなたと秋田は宇宙に端に向かって飛んでいた。
――さっきから脳みそが痛い。銅の剣を手に入れればいれる程痛んだ。
「ひなた」
「ん？」
「そろそろ着くようです」
「うん。みんな大丈夫かな」
レイチェルを思い出した。ニンゲンが『誰か』に勝てるのだろうか。
氷雨を思い出した。世界の底辺の者があの女に勝てるのだろうか。
純白を思い出した。何処へ行ったのだろう。
「大丈夫です。私は氷雨さんもレイチェルさんも好きでした。彼女達とひなたは強い絆で結ばれています」
「うん。ありがと」
秋田がひなたの友達を好きでいてくれる。それはとても嬉しいことだった。
ひなたは天上を見上げた。もう明るい闇も過ぎた。
―――また、脳みそがずきずきと痛んだ。
藍那が近くにいる。
巨大なタマゴが見えた。塔はそこに突き刺さっていた。
タマゴはまるで藍那の脳のようであり、子宮のようでもあった。
ここが藍那の世界だとするなら、ひなたは己が虚像の生物であったとしても、少しは嬉しかった。どのような形であれ、藍那の心の中に残れたのだ。
ひなたは銅の剣を手に入れた。ギザギザを手に入れた。銅の剣とギザギザを手元で融合すると、神すらも両断するチェーンソーができそうでできなかった。剣とギザギザが引っ付くとチェーンソーと形が似ていると思ったのに、できなかった。
―――脳みその痛みに耐えていると、いつの間にかエレベーターは止まっていた。
ひなたは秋田を連れ、エレベーターから降りた。
白い世界だった。いつか見たアバターの生まれた世界だ。
ひなたはエレベーターを背に歩き続けた。
ここが上の世界に最も近い場所だ。なにも生み出さない非生産的な世界。全てを切り捨て、また全てを受け入れてきた女の子の世界。
その女の子が目の前で眠っていた。
「藍那…」
口から言葉を吐き出すと、頭や胸、たくさんのところが痛んだ。エルリを思い出した。氷雨を思い出した。レイチェルを思い出した。みんな大好きだった。
秋田が震えている。
「――――秋田さん？」
いつか氷雨が言っていた。
本性を現したノワールが狂ったように笑っていたと。
ひなたは以前からノワールが笑っているのを見ていた。氷雨にはそれが見えていなかった。己のアバターを美化して見ていた。アバターが理性を失くした時だけ、その本性が見えたのだ。
氷雨が見た秋田の本性は。
「――秋田さん」
ひなたは生唾を呑み込んだ。
秋田はひなたが知っているアバターの秋田ではなく、死人のような青い顔をしてそこに立っていた。
それは、正しく 本人だった。
「――――」
藍那が目を覚ました。
ひなた達を見た。驚いた顔をしたが、逃げ出しはしなかった。
秋田が藍那へと歩み寄っていく。
ひなたの命令なしで藍那へと歩み寄っていく。秋田はひなたを憎んでいた。藍那を憎んでいた。
その二人を同時に苦しめる方法は藍那をこの場で殺すことだった。藍那が死ねば、ひなたは てしまう。
例え憎悪であっても、藍那が生きているからこそ、ひなたはそれを糧に生きることができた。秋田はそれを踏み潰そうとしている。
秋田が鎌を振り上げた。
駄目だ。藍那を殺させない。
ひなたは駆けた。藍那なんかどうなってもいい。秋田は好きだった。藍那は敵だった。だから本来なら秋田のやりたいようにやらせてあげたかった。だけど、藍那を失うことだけはひなたにはできなかった。
藍那が敵か味方なんてどうでもよかった。まずは生存していることが最優先だった。だからひなたは駆けた。
藍那の前に立ち、秋田の鎌から彼女を守った。
「―――――！」
燃える憎悪の塊が、ひなたの肩から腰を切り裂いた。
「あああああああああああああああああ」
地獄の氷を溶かすような秋田の憎悪がひなたを焼いた。だけど、ひなたは死ななかった。今ので分かった。
ひなたが藍那を殺せないように、秋田もひなたを殺せない。
藍那は悲しそうな顔をしてひなたの前に出た。
どうして、藍那はひなたを哀れむのか。その甘さが許せなかった。敵なら敵らしく、最後まで敵でいてくれたのなら、ひなたも心を痛めずに済んだ。
ひなたはもう優しさなど遠に捨てた。
何人も殺した。最後に勝てると信じて。
「―――死んでください」
秋田が鎌を振り上げた。
藍那は避けない。
駄目だ。秋田は止めない。秋田の心は憎悪に満ち、悪の華が咲き乱れている。
「秋田さん、駄目だあああああああああああああ」
銅の剣を手に入れた。
（あああああああああああああああああああああああああああああああ）
銅の剣と一緒に生まれた『ギザギザ』が。
――――脳みそを刻んでいた。
それでも、ひなたは、銅の剣を装備し、秋田に投げつけた。
カスのように攻撃力の低い武器が秋田の身体にぶつけられた。秋田はそれらを打ち払い、藍那を殺そうとする。
秋田の声が聞こえてくる。
「秋田さん…？」
（ひなた。私を殺してください、今のあなたなら可能です）
銅の剣を手に入れた。
「殺したくないよ…」
もう誰かを犠牲にするのは嫌だった。
藍那にも会えた。まだ目的は果たしていないけれど、ここで死ぬのならそれでもいい。自分が死んででも、秋田も藍那も死んで欲しくはなかった。
秋田は吼えた。
「ひなた！ 殺さないことが優しさではないことを、あなたは知っているはずです！ 精神に致命傷を受け、死に切れなかった者の苦しみをあなたは知っているはずです！ 死ぬまでに残された時間をただ苦しむためだけにもがき続ける。とどめを刺すこともまた優しさなのです！」
そうだ。藍那があの時、殺してくれていたのなら、こんなに苦しむこともなかった。
だけど、レイチェルや氷雨を思い出した。誰かが自分の前からいなくなるのが嫌だった。
「ひなた！」
秋田が黄金の稲を刈る鎌を振りかぶった。鎌の弧はひなたの背にいる藍那だけを斬り殺すことができるだろう。
ひなたは銅の剣を装備しようとした。しかし、ひなたは銅の剣を装備できなかった。
（レイチェルちゃん…！）
咄嗟にレイチェルの顔が浮かんだ。ひなたは懐に入れてあった『レイチェルの銃』を装備し、発砲した。
「―――――！」
秋田には撃っていない。秋田の鎌だけを撃ち抜いた。折れた刃が回転し宙を舞った。まるでガイアが循環していたあの地球のように、刃は回転し地面に落ちた。
「どうして、私を殺さないのですか！」
もう誰かが死ぬのは嫌だった。秋田に二度も死んで欲しくなかった。可能であるならば、生きて幸せになって欲しかった。
――それと同じことを私も考えたって、どうして思えなかったの。
ひなたは藍那に振り返った。藍那は俯いているだけだった。だけど、藍那は今確かにそう言った。
秋田の歪みはひなたと同じ。対象に好意と悪意の両方を同時に抱いている。
鎌を折られた秋田が、尚その折れた柄の部分で殴り掛かってくる。
ひなたは銅の剣を装備できなかった。しかし、無理矢理装備し、秋田の攻撃を受け止めた。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
叫んだ。ひなたの声だったのか、秋田の声だったのか。あるいは藍那の声だったのかもしれない。
アバターの強烈な一撃を剣に受け、ひなたの視界は暗転した。銅の剣を手に入れた。痛みの限界を突破し、遂に脳みそが裂けた。それでもしっかりと気を持ち、秋田の鳩尾に銅の剣を１０本だけ投げつけた。
「く…！」
ダメージを追った秋田が膝を折った。９９本投げれば、あるいは殺せたかもしれない。だけどそれはできなかった。
「秋田さん。ごめん。それから違う…」
「ひなた…」
「ボクに力を貸して欲しい。そしたら、藍那以外ならなんでも差し出す。ボクにはみんなが必要なんだ。秋田さんだってボクには必要なんだ。同情で殺さないんじゃない。大事で、必要だから殺さないんだ。いて欲しいんだ。誰にも欠けて欲しくない。運命共同体なんだ」
藍那とは違う。
そうだ。ひなたは本当は も大切だった。今でも大切だ。だからあの子の残像がいつまでも消えない。
相手に大切だと思われたい。
秋田だってそう思っていたに違いない。
信用は信じて用いるということ。主に道具に用いる言葉だ。
信頼は信じて頼るということ。ひなたは秋田を信頼している。
「分かりました…」
秋田の中から憎悪が消えていく。
もっと早くこの気持ちを打ち明けることができていたなら、あるいは は死なずに済んだのかもしれない。
取り返しのつかないことをしてしまった。罪は永遠に消えない。例え、百万のニンゲンを生贄にしても、彼女はひなたを許してはくれないだろう。
彼女がひなたに植えつけた悪の華が開花し、そして種を撒き散らした。
タンポポのように、弾けて跳んだ。
「――――」
ひなたは藍那へ振り返った。
藍那はびくりとしたけれど、もう逃げたりはしなかった。
藍那はぶるぶると震えている。
藍那はひなたに憎まれていると思っている。ひなたに殺されると思っている。
――藍那はひなたに殺されてもいいと思っている。ひなたに同情しているから。
なにも分かっていない。ひなたには藍那を殺せないということも分かっていない。
「秋田さん、アレ、やっちゃお」
ひなたは前に進み、藍那の手を取った。
「……っ」
藍那はまたびくっと震える。
身体が震えている。
これからなにをされるのかも分かっていないからだ。だから辱めることにした。
――唇から犯すことにした。
「――――んっ！」
無理矢理、唇に唇を押し当てた。
「――――――んんんっ？」
藍那が目を見開いた。目に涙を浮かべている。
トラウマになっていたキス。
藍那にもキスに対するトラウマを作ってやろうと思ったのだ。
「……ん」
口の中に舌を差し入れた。藍那は歯を食いしばって、舌の侵入を止めようとする。それでも無理矢理、舌を入れた。
一度舌が入ってしまえば、藍那はひなたの舌を噛んだりはしなかった。
「んん」
舌が藍那の唾液に包まれた。熱く、ドロドロとした藍那の唾液が気持ち良かった。
（秋田さん）
ひなたは頭の中で秋田に合図を送った。秋田は頷き、そっと藍那の背後に回った。
藍那の目が潤んでいる。無理矢理、ディープなキスをされ心が泣いているのだ。だけど､本当に傷をつけるのはこれからだ。
「――――んっっ？」
ドスっという音と共に、藍那の身体が突然持ち上がり、藍那は驚き目を見開いた。
「――――んんんっ？」
口の中に舌を差し入れられている藍那がくぐもった悲鳴を上げた。後ろに回った秋田が藍那のお尻に指でカンチョーをしたのだ。
「んんんんっ？」
藍那は泣くことも忘れ、顔を真っ赤にし身体をびくびくと震わせていた。
きっと生まれて初めて口内に舌を入れられたのだ。藍那の性格なら男を受け入れたことがないことも分かっていた。そんな藍那が始めてのディープキスの途中で、カンチョーまでされたのだ。
「藍那。お尻、好きだったよね」
「―――っ」
藍那は首をぶるぶると横に振っている。
「秋田さん。藍那をカンチョーでイカせちゃって？」
「……っ？」
藍那が暴れようとするけれど、ひなたはぎゅっと藍那を抱き逃げられないようにした。
「んー、や、やだ…や、やめ……はぅっっ…！」
暴れていた藍那の身体に下から強い衝撃が加わり、びくりと震えた。口から息が漏れている。藍那のお尻に二発目のカンチョーが決まったのだ。
「〜〜〜〜〜〜〜〜っっ」
「連続でやっちゃえ」
ひなたはぎゅっと藍那の身体を抱き締め、藍那の身体がこれ以上持ち上がらないようにした。こうしておけば、秋田の指の力が逃げることなく、藍那のお尻に差し込まれる。
「んっっ？」
どすっという音は穴にズボンの生地と、指が減り込む音。
藍那のお尻に秋田の指が容赦なく突き刺さった。持ち上がりそうになる藍那の身体にひなたは体重を掛けた。
「〜〜〜〜〜〜っ！」
藍那のお尻に秋田の指が減り込んだのが分かった。藍那の全身から力が抜ける。
「はうっっ？ あっ……あうっっ？ あ！ あう！ あ！ あ！ あっ？ ああっ？」
秋田の指はまるで高速で上下する削岩機だった。
どすっ、どすっと、藍那のお尻にリズムよくカンチョーが続けられた。
重い一撃ごとに、ひなたが抑えていても藍那の身体は何度もぶれた。
「あっ………」
藍那の口から漏れたのは驚きの悲鳴ではなかった。
涎も垂れていた。
顔が赤いのも羞恥のためだけではなかった。
（秋田さん、いま。とどめさしちゃって）
秋田が頷いたのが分かった。
「はううううううぅぅぅぅ……ぅっっ………………………！」
次の瞬間、ひなたが支え切れない程、藍那の身体が上へと持ち上げられた。
「―――っ！ ――――っっ！」
藍那の身体がびくびくと震えている。足が完全に地面から離れていた。
「いっちゃったんだ？」
藍那は必死に首を横に否定しているけれど、今の一発で昇天したのは一目瞭然だった。
ひなたは藍那のお尻を見た。
秋田の指が根元まで差し込まれていた。ズボンの布を破って、お尻の穴に生で刺さったのだ。
「それ、指はいっちゃってるの…？」
秋田は頷いた。
「匂わせて、指」
秋田が指を勢いつけてずぼっと引き抜くと、藍那は『あうっっ』と喘いだ。
秋田の指は藍那の排泄物で汚れていた。
匂いを嗅ぐと、つんとした刺激臭が鼻についた。
「藍那。においきついよ」
ひなたは藍那を解放した。
「ね。秋田さん。催眠術とかできない？」
「え？ 簡単なものならできますけど」
「じゃあさ、ボクが手を叩いたら、今のカンチョーの刺激、藍那に感じさせるようなことってできる？」
秋田は頷き、床に崩れ落ちて涙を堪えている藍那に近寄った。
顎に手を掛け、耳元になにか呟いた。藍那の顔が真っ赤になった。
「大丈夫です。手を叩いてください」
ホントにできるのかな、と思いつつ、ひなたは手を叩いてみた。
――パン。
「はうっっ…！」
藍那は両手でお尻を押さえて飛び上がった。
「あ、あ、あ、あ……！」
カンチョーが相当効いたらしく、藍那はへっぴり越しでお尻を後ろに突き出し、両手で押さえたままぶるぶると震えていた。
「せっかくなので、感覚を二倍に強めておきました」
「ありがと。気がきくよね、秋田さん」
すぐには手を叩かない。
あんまり叩きすぎて、藍那のお尻が痺れて感度が悪くなっても詰まらない。
だから思い出した頃に不意打ちのように叩いた。
―――パン。
「あううぅぃっっ…………！」
ひなたが手を叩くと、カンチョーされた藍那は黄色い悲鳴を上げ、その場に蹲った。もうこれ以上お尻を責められたくないと、両手でお尻の穴を守っている。
「そんなの無駄だよ。直接、快感与えてるんだから。ほら」
「んあああっっ？」
藍那は身体をびくんっと伸ばし悲鳴を上げた。びくびくとお尻を押さえたまま悶えていた。
「さっき、カンチョーでいったんだよね」
ひなたは藍那を抱き起こした。
銅の剣を装備し、藍那の性器のスリットに合わせ縦に振った。
「……んっ」
ズボンが裂け、藍那の性器が露になった。最近は銅の剣の扱いにもなれた。藍那には傷一つ付けなかった。
そこに自分の性器を入れようとして。
―――セックスだけはできなかった。
「……っ」
気持ち悪く、悲しかった。秋田の前で、あの子の前で藍那とセックスすることだけはできなかった。そんな残酷なことはもうできなかった。藍那が別の男とセックスしていることを想像するだけで、ひなたは発狂しそうになる。自分の嫌がることは、ヒトにもしないのが良い子だと、昔学校の先生にも教えられた。
ひなたは床に蹲る藍那を見下ろした。こうやって支配したかったのに、心は全く躍っていなかった。昔、幸せにエッチをした時のことを思い出し、 が手に入り、痛みの限界を超え、破裂しそうになった。まだだ。耐えた。まだやるべきことが残っている。
「藍那」
泣いている藍那がおそるおそるひなたを見上げた。
「脚、広げて」
藍那は「いや、いや」と首を振っている。
ひなたはぱんっと手を叩いた。
「んあっっ！」
お尻に強烈な刺激を受けた藍那は飛び上がった。お尻の穴の快感を和らげるように、必死に身体を折り畳んで刺激に耐えていた。
「〜〜〜〜っっ」
じんとした痺れに悶えているのだ。
ひなたは罰の意味を含め、三発ほど連続で手を叩いた。
「ああああっっ…ああああああああああああああっっ！」
藍那は身を捩って悶絶した。
どれだけ身を捩っても、お尻を押さえても、ひなたが手を叩けば、藍那はお尻に指を根元まで差し込まれた時の感覚が蘇る。
「脚開いて」
ひなたがもう一度言うと、藍那は今度は渋々と言うことを聞いた。
こんな目に合わされても藍那は逃げない。逃げても無駄なのだけど、そういう理由とは関係なしに藍那は逃げない。
ひなたにやられるままだった。
藍那の性器は濡れていた。
お尻を散々嬲られて性器を濡らしていたのだ。
「――――っ」
藍那はびくっと震えた。
ひなたが藍那の股に顔を埋めたのだ。
「ん―――」
ひなたは狂ったように藍那の性器を舐めた。
藍那に受け入れられなくなって以来の、この性器の味と匂い。アンモニア臭だってあった。だけど藍那のだからこの匂いも大好きだった。
性器のスリットではなく、ひなたはその上の突起物を舐めた。
藍那はここが一番快感を覚えるのだ。だからここを舐めた。
「〜〜〜〜〜〜〜っっ」
藍那がぶるぶると震えている。
また昇天しそうなのだ。
ひなたは藍那の突起物を舐めながら、手を何度も叩いた。
「ああああっっ？」
お尻の穴に突然の加重を与えられ、藍那は腰が浮かんだ。後ろに下がろうとするけれど、ひなたは藍那の腰を掴み、逃がさなかった。
また突起物を舐める。
最後は直接自分の指でしてあげたかった。
ひなたは性器を舐める舌の動きを止めず、両手の指を組んだ。そして、脚を広げ無防備に晒されている藍那のお尻の穴に向けて構えた。先程、秋田にされた藍那の肛門部分だけ､ズボンに穴が開いていた。
そっと藍那の顔を伺った。
「〜〜〜っ」
あの時のように、藍那はただ羞恥に耐えているだけだった。
昔のように。
時間が流れていなかった。
「―――っ」
ひなたはピストルのように組んだ両手の指を、思いっきり藍那のお尻の穴に差し込んだ。
藍那の性器を舐めながら。
「んんんんんっっ」
どすっと藍那の身体が震えた。
指は根元まで差し込まれた。
「んああああああっっ」
藍那が細かく何度も震え、喘ぐ。
ひなたはとどめにと、指にぐっと力を押し加えた。
「〜〜〜〜っっ」
最後に藍那は大きく痙攣し、また昇天した。
ひなたは藍那のお尻の穴から指を抜き、匂ってみた。やっぱり藍那の排泄物の匂いがした。
荒い息を吐いて肩を上下させる藍那を見下ろしても、ひなたはなに一つ満足はできなかった。憎悪や怒りの目的なんてそんなものだと言うことは知っていた。
今なら全てが解る。
『偽りの生命』
ひなたは本当のひなたではない。
藍那が『現実』で見、出会ったひなたの『記憶』だ。ひなただけではない。ひなたが見た氷雨やレイチェル、純白も全て藍那が現実で出会った『本物』との想い出だ。
この壊れた世界は、藍那の心の中だ。
目の前に倒れているのは、藍那の『心』だ。
藍那はこうやって、ひなたの幻に心を何度も犯されてきたのだ。これが始めてではないのだろう。前のひなたも藍那を犯したのだろう。
ここは藍那の心の墓場だった。
脳みそが壊れる。
たくさんの銅の剣を生み出した反動が、ひなたの脳みそを焼き尽くし始めた。銅の剣を手に入れる度に、『ギザギザ』も手に入れていた。今まで溜まった『ギザギザ』の尖った部分が、脳みそをぐちゃぐちゃにしていたのだ。きっと。
「――――――」
違う。
なにか見落としている。
ここには外界との接点がなにかあった。
脳みそが痛い。我慢できなくなってきた。ひなたは力一杯叫んだ。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
僅かに残った脳みそをフル回転させた。
「―――――――――――――――！」
見えた。
下の世界、世界の底辺からなにか上がってくる。あの女だ。
ノワールに犯られたあの女の精神が、藍那の中から外に戻っていく。そうだ。あの女が今の藍那の『トモダチ』なのだ。あの女は藍那を助けるために、何度も藍那の心の中を出入りしているのだ。
ひなたはじっと見た。
あの女が虚空へと消えていく。
藍那は自分の心の世界に閉じこもっている。
ここに居ては誰も助からない。
ひなたは残った銅の剣を縦に繋げ、巨大な『棒』を作った。
ないはずの銅の剣を行使し、ひなたは大切なものをたくさん失った。
「…あ……あ…あ…」
脳みそに支障、言葉を話すことができなくなった。
（秋田さん秋田さん秋田さん、聞こえる？ 最後の最後のお願いがあるんだ）
秋田はいつだってひなたの傍にいた。
これが秋田への最後の頼みだ。
（ボクをあの女が消えた穴へと飛ばして。早く。あの窓が閉じる前に。それからこの銅の剣で、竿のように伸ばしたこの銅の剣で、上からみんなを吊り上げ）
なにを話しているのか自分でも分からなくなってきた。
だけど、秋田はひなたの望むことは全てやってくれた。
だから、『信頼』していた。
ひなたの身体が浮く。
「――――――――――――――」
秋田が耳元でなにか言っていた。
言葉はもう理解できなかった。
ひなたの身体が空に向かって放り投げられた。
秋田の力は強大だ。
ただ、その力を持ってしても、この世界の生き物は『セイシントゲンジツノトビラ』には届かない。飛距離が足りない。
だから、届かないその分を、ひなたは『ないはずの銅の剣』で作った棒で補った。
セイシントゲンジツノトビラに、銅の剣が引っかかった。
「――――」
届かなかった筈の場所に届いた。
「＠＠＠＠＠」
脳みそはもう九割が『ギザギザ』に肉片にされた。肉片という言葉がエルリを思い出させた。
たくさんヒトを殺した。
たくさんヒトを見捨てた。
藍那の中の残留思念になってまで、藍那を追い詰めた。
を見捨てて殺した。
秋田を した。
レイチェルとの約束を した。
氷雨に 。
エルリを助けられなかった。
「―――――――――――――――――――――――――――」
ひなたは忘れ物のないようにと、セイシントゲンジツノトビラからもう一度藍那の世界に身体を投げ出し、銅の剣で作った『竿』を振り回した。
藍那だけは吊り上げられない。
藍那はこの世界そのものだ。
だから。
秋田を吊り上げた。氷雨を吊り上げた。ノワールを吊り上げた。レイチェルを吊り上げた。ついでに純白を吊り上げた。
そして力一杯竿を引き、全員を窓の内側へと連れ込んだ。