- 世界の底辺 -

1章 ボクの憎しみのアバター。


  ――@す。

   世界中のニンゲンを殺したい。

 

 

 ひなたは暗い部屋の中で目を覚ました。

 目頭が熱い。目には涙が溜まっていた。胃も痛い。

 慣れ親しんだ天井が見えた。隣の部屋からカップルの喘ぎ声とベッドの軋みが聞こえる。いつもの『ギシギシアンアン』だ。

(こんなに毎日ギシギシアンアンばかり聞かされてたら、ボクの脳みそは滅茶苦茶になってしまいます。神様たすけて)

 ここは自分の部屋だった。

「―あーーー」

 また藍那の夢を見た。

 なにもうまくいかない。

 あの子と別れてから、生きる気力が失せた。

 可愛い子だった。良い子だった。大好きな子だった。

(あー、ボクってダメニンゲン)

 隣に住んでいる少し年上のカップルが今日も盛んに@@@@をしていた。それであんな夢を見たのかと思うと、殺意さえ沸いた。

 ――藍那が誰かにカンチョーをされて絶頂を迎える夢。

 自分ではない誰か。

 黒い『ギザギザ』が心の中を走る。

 藍那は今頃幸せに生きているのか。自分の退廃した生活を思い、『好意と行為』が憎悪に捩れることも多くなった。

 ――地獄への道連れにしたい。

 道連れにしたい。道連れに死体。死体。思わずくすくすと笑ってしまった。

 犯したい。あれからセックスはできなくなった。女の性器を見るだけで反吐が出る。だからお尻を犯したい。浣腸や坐薬を差し込み、あの清楚な女の子に羞恥を与えたい。

 かつての好意の捩れ。今はその捩れすら心地良かった。

(ボクってダメニンゲン……あああああ)

 どうせ学校も行っていないし、特にすることもない。

 まだ深夜だったけれど、ひなたはベッドの上で胡坐を組み、『思考の戦争』を開始した。

 今日も頭の中を真っ黒な『ギザギザ』が縦横無人に走り、藍那のお尻を犯し、呪った。縦横無人(じゅうおうむじん)という言葉から『獣王(じゅうおう)』を連想した。脳内の無人の荒野で獣 の王は『がおーっ』と吼えた。ぼうっと虚空を眺めていると目が冴えてきた。

 神に祈った。

 銅の剣を手に入れた。(…え? あれ? なにこれ…? ドウノツルギ? な、なんでいきなりこんなの手にはいるの?)

 

 

 ひなたはパソコンの電源を入れた。

「あれ…?」

 メールを受信した。

『あなたの恨み、最高のアバターが晴らします』

 メールにはファイルが添付されていた。

 恨み。その言葉で頭に過ぎったものは、やはり藍那だった。悪戯のウイルスファイルだろう。そう思いながらも、そのファイルからは奇妙な誘惑を感じた。

(ファイルから誘惑を感じる……って、ボクのバカ。死ね)

 ひなたはファイルを起動させた。また、なにかが壊れたのだと思った。

 断線しそうな良識と藍那への憎悪の葛藤が、ひなたの胃を痛めた。ぱちぱちと頭がショートしそうになる。鉄が焼けるように、命も焼ける。

 

 

 強い憎悪に呼ばれ、四体のアバターが降臨する。

 アバター。

 インターネットワーク上で会話をするために、自分自身の分身としてキャ@@@―――

 ――既存の概念を破壊し、それらはプレイヤーの感情を表現する憎悪と悪意のツールとして配布された。世界を火の海に還す最悪のツール。

 最も低レベルな四人はアバターを確かに受け取った。

 

 

「――――」

 パソコンはなにも反応しなかった。

 背後に気配を感じた。

 ――なにかよくないモノがいる。

(来た――)

 ひなたは背後に降りた『夢』を感じた。心が弾けそうになる。それは歓喜のためであり、決して不快なものではない。身体にまとわり付くコールタールを全て焼き尽くす地獄からの一撃。それが降りてきた。心が熱い。

「誰…?」

 誰と問いながらも、ひなたにはそれがなにか分かっていた。

 幼い頃の思い出の地、「秋田の田」の化身がそこにいた。己の思い出の地と血と知が憎悪と混ざり化け物として降臨した。

 また幻を見ているのか。藍那と上手くいかなくなってから、多くの幻を見てきた。

 その化け物の正体は『地味な女の子』だった。

「初めまして。私は貴方のために配布されたアバターです。この度は貴方の感情を表現し、手となり足となり、セカイヲヒノウミニカエルタメに、私は配布されました」

 田舎町の地味で古風な女の子、それが最初の印象だった。清楚であり純潔、しかし決して目立つ少女ではない。歴史に名を残すこともなければ、リーダーシップを取ることもない、何処にでもいる少女だった。それなのに。それなのに。見た目は地味で決して目立たないのに。それなのに。

 @@@。

「君はなにができるの?」

 アバターの少女は跪き、三つ指を着いて答えた。

「身形は少女ですが、これでもアバターです。アバターには通常のニンゲンを超越した能力があります。貴方の望むままに働きましょう」

 アバターは自信あり気に微笑んだ。天使でも悪魔でも幻覚でも、力があるならそれでいい。この誰にも認められない逆恨みを晴らせるのなら構わない。

「――――っ―――っっ――」

 隣からまた『ギシギシアンアン』が聞こえてきた。他人の性行為程、気に入らないものはない。アバターの少女は不快さを顔に出さず、涼しく言った。

「……少々お待ちください」

 アバターは壁に溶け込むように消えた。

 暫くして隣の部屋から短い悲鳴が聞こえた。刃物が肉を破る音が聞こえた。腹から胃腸を引きずり出す音が聞こえた。内臓を潰す音が聞こえた。イロイロ聞こえた。

 あっという間の出来事だった。

「お待たせしました。不快な『ギシギシアンアン』を退治して参りました」

 アバターの少女は壁からすっと滲み出るように現れ、そう言った。

「………殺したの?」

「まだ生きていますが、間もなく絶命するでしょう。傷口から内臓に塩を塗りこんでおきました」

 ひなたは口の中がざらざらと乾いていた。確かに隣のカップルを愉快とは思っていなかった。が、なにも殺す必要はあるのか。

「もちろん積極的に殺す必要はありませんでした。が、今回は私の力の一部をご覧に入れて頂こうと思いました。これらが貴方の力となります」

 アクマだと思った。

 ニンゲンってすぐに死ぬのだと思った。

 どうせ未来も幸せもない。この力を使い、やれるだけやってやろうと思ったのだ。

「代償は? 無償でやってくれるわけはないよね。ボクに払えるものは命や臓器や『銅の剣』くらいしかないけど…(え? 銅の剣? ボクなに言ってるの…?)」

「多くのニンゲンの幸せをぐちゃぐちゃにして欲しいのです。私達の力は不幸と憎悪。それらをニンゲンから搾り出して欲しいのです」

 世界中のニンゲンを殺してもいい。自分よりも幸せなニンゲン全てを破壊する。

「いいよ。可能な限り用意する」

「では、私の力をご自由にお使いください」

「……望みは一つだけだよ。藍那を犯し、ボクの奴隷にする」

「――」

 アバターはひなたの言葉を聞き、僅かに眉を潜めた。

「こういうちっぽけな望みは駄目かな?」

「駄目ではありませんけど…。貴方は迷っていませんか? 本当はそれとは別の願望があるのではないですか? 例えば再びそのコと幸せに――」

「――――」

 駄目だ。それだけは駄目だ。再び藍那と幸せになるわけにはいかない。どうしてだったのか。藍那ではない別の『ある女の子の顔』が過ぎった。思い出したくない。幸せになってはいけない。その観念がアバターの言葉を否定した。ぎちぎちとまるで『孫悟空』の頭の輪のように、なにかが脳みそを締めた。

 ―――脳みそが滅茶苦茶になり始める。

 なんと言われてもいい。

 鬼畜と言われようと家畜と言われようと構わない。

 藍那の人生をぎちぎちに締め上げる。

「いいんだ。これが今のボクの望みだから」

「分かりました」

 アバターの少女はもう一度恭しく頭を下げた。

「私はアバター・秋田の田の精霊であり、憎悪と破壊の化身。今後とも宜しくお願い申し上げます」

「ボクはひなた。よろしくね」

「はい。では、ひなたさん……いえ、ひなた。呼び捨てで宜しいですね?」

 心は常に読まれている。相手はひなたの心象の化身なのだから。呼び捨てにされた方が親しまれているようで嬉しかった。

「うん…」

 ひなたはアバターの少女の手を取った。その手はどこか懐かしさを感じた。思い出の地と血と知の匂いだ。

 そうだ、この田には一度、藍那を連れたこともあった。

 

 

 ぎちぎちと音が鳴っていた。

 パソコンのハードディスクだ。白いパソコンの箱。

 勝ちさえすれば、黒いものも白くなる。

 どうでもよかった。全ての敵を始末する輝かしい勇者の武器、銅の剣が欲しい。

 

 

「ところでひなた、あれはもしかして…」

 秋田が指した先にはテレビに繋がれた人気のゲーム機があった。黒光りしている。

「知ってるの?」

「こう見えてもパソコンの精なので…」

 どうやらゲームが好きらしい。

「やる?」

 『秋田』が頷いたのでゲームを貸し与えた。

 ゲームは通行人をバットで殴り殺す違法ゲームだった。気に入るだろうか。女の子が気に入るゲームとは思わなかった。でも、どうでもよかった。

 

 

 

 

 ―――@@@

 

「ひなた? 見つからないよー?」

 藍那はコタツの中に頭だけを潜らせて、ごそごそと探し物をしていた。

「そのあたりだよー。よくみてー?」

 

 ――あれ、これ、夢だ。ボクがまだ幸せだった時の夢だ。

 

 藍那は後ろにお尻を突き出していた。

 薄いパジャマの布はお尻の谷に食い込み、風船のような丸い両山がひなたの心を奪った。

「ね、ひなた。どこに落としたのー?」

 ひなたは黙って藍那のお尻の後ろに座り込んだ。そして、両手の人差し指をあわせて、男子が悪戯でよくやるカンチョーの形を作った。

 指先を藍那のお尻の割れ目、その真ん中に狙いを定める。

「藍那ちゃん、ごめんね?」

「へ?」

 ひなたは思い切り、体重を掛けるように藍那のお尻の穴に二本の指を押し込んだ。

 

 ――銅の剣を手に入れた。(え…?)

   駄目だ、夢の中にまでバグがある。

 

「はうぅっっ?」

 お尻から背筋を通り、頭の先にまで衝撃が走ったのだろう、藍那は黄色い悲鳴を上げた。

 力一杯やったから、指はパジャマと下着ごとお尻の穴に減り込んでいる。

「〜〜〜〜っっ…」

 あまりの仕打ちに藍那のお尻はぴくぴくと震えていた。穴の中の肉がひなたの指を押し出そうとする。その反発力に負けず、ひなたは指を更にぐっと押し込んだ。

「んぁっ…?」

 藍那が甘い声を上げた。指先にわずかな温もりを感じる。

「かんちょーが気持ちいいんだ?」

「そ、そんなわけ……はうっ…」

 ひなたは一度指を抜き、もう一度藍那のお尻に狙いを定めた。指をぽんっと引き抜く時、藍那はまた呻いた。

 指を引き抜いてもまだパジャマと下着は藍那のお尻の穴に減り込んだままだった。ひなたはその穴目掛けて、勢いをつけてもう一度カンチョーをした。

 

 ――辛い。@@@。

   確かこの時から進んでヒトの幸福を踏みにじろうと思ったのだ。

 

「んあっっ?」

 それから、何度も何度も、指を抜き差しした。

 儚ささえ感じる藍那の小さなお尻に、少しずつ指の動きに加速をつけ、何度も何度もカンチョーをした。

「あ、あんっ…あう…はっ…ふああっ…?」

 藍那は息も絶え絶えに喘いでいる。こんな悪戯で感じてしまっている事を、認めたくないのだろうか、時々「やだ」とか「やめて」と口にしていた。

 ひなたは指の動きを止めて藍那に聞いた。

「今どんなかんじ?」

「し、知らない…」

「言わなきゃこれで終わりにするよ? ボクはどっちでもいいけど」

 く、と布越しに穴に入っている指を軽く曲げた。銅の剣は何処にいったのか探した。

「っ…」

 藍那は呻いた後、口を開いた。

「ちょ、ちょっとだけへんな気持ち…」

「どこが?」

「お、お尻…」

 

 ――。

 

「お尻、どんなかんじ?」

「な、なんかじーんとしびれて、背筋とかもしびれた…」

「そういうこと、無理やり言わされるのってぞくぞくする?」

 藍那は小さく、「うー」と唸った。

「どうして欲しい?」

 藍那は黙り込んだ。ひなたも指を抜き、一旦動きを止めて返事を待った。

「だんまりはなしだかんね。ウソもなしねー?」

「…」

 藍那の唇が、僅かに動く。

「……も、もっと、速く…して…」

「速く…なに?」

「…指、速くして」

 その答えが返ってくると分っていなければ聞き取れない程、小さな声だった。

「♪」

 ひなたは改めて二本の指を藍那のお尻に向けた。

 パジャマに隠れて見えないが、藍那の白くて丸い、可愛いお尻がこの布の中にある。足は閉じているから、お尻の穴の部分は両山に隠れているけれど。

「…すごいの してあげる」

 

 ――記憶は血塗れ。

 

 お尻を突き出した藍那に、「もっと足広げてくれなきゃできないよ」と、更に追い討ちをかけた。おずおずと足は開かれ、お尻の穴の部分が見えた。照準はばっちり。

 藍那のお尻は、ひくひくと痙攣のような動きをしている。これから与えられる刺激を期待しているのだ。

 ひなたは両手をカンチョーの形に組み、すぅっと息を吸った。その気配を感じ取り、藍那の体も硬くなる。

 ――――――――――――!

「…っひあああぁッ?」

 ひなたの指はお尻でなく、性器の方に突き立てられた。予想外の衝撃に藍那の背中がエビのように反った。頭をコタツの天井にぶつけたらしく、コタツが揺れた。

「な…んで、そっち違……ッ」

「でも、なんかせーきのとこ、パジャマまで湿ってるよ? かんちょーしただけなのに」

「う、ウソ…?」

「〜♪」

 ひなたは藍那の中に差し込んだままの指を、ずぽずぽと出し入れするように動かし、パジャマに滲む愛液を指に絡めた。

「…んゃぁ…」

「わかってるよ。こっちだよね」

 指を引き抜く。指先を性器とお尻の間の敏感な肌に這わせながら上げてゆく。

「んっ…?」

 すぐにカンチョーはしなかった。

 ぐっとお尻の穴に辿り着いた指先を、ズボンの布ごと差し込んだ。指先は第二関節まで難なく押し込まれた。

「んぁ…」

 指を抜き、また差し込み、一度、藍那のパジャマとパンツをずり下ろした。

「やああああ? ちょ、ちょっと…」

 藍那のお尻が露になった。

 小さなお尻の穴は少しも濁った色をしていない。肌と同じ色だ。

 ひなたは皺の中心、そのお尻の穴を舐めた。

「ゃ…っぁ、そんなとこ…っ……は、恥ずかしいよぅ…」

 さっき何度もカンチョーをしたせいか、藍那のお尻の穴は熱を持っていた。そんなお尻の穴に顔を近づけて舐めていると、お尻の左右の山に頬が当たり熱が伝わってきた。

「でも、柔らかくしとかないと、ちゃんと奥まで入んないよ?」

「うぅ…。んぁ、ぁぅ…」

 唾液と愛液に濡らされた穴は、もう指一本なら楽に出し入れできてしまう。

「さて、と」

 舌を抜き、藍那のパジャマとパンツを元に戻した。カンチョーは衣服や下着ごと、指を穴へと押し込むのが良いのだ。

 ひなたは手をカンチョーの形に組み直し、二本の指先を藍那のお尻の入り口に軽くあてた。

「…っ」

 藍那の体がひくっ、と慄く。

 ――――――!

「っんぁぁッッ?」

 塗れた指は難なく藍那のお尻の穴に根元まで差し込まれた。衣服を押し込むように差し込まれた。

 それでもまだ勢いは止まらず、指の付け根が藍那のお尻の穴に衝撃を与えた。

「ああああああっ!」

 余りの刺激か、カンチョーをし終わった後でも、藍那はお尻をぶるぶると震わせ喘いでいた。喘ぎは止まらない。お尻への刺激が余程激しかったのだ。

「ああああ……あんっ?」

 不意打ちのように指を引き抜いた。それも藍那を喘がせた。

「んぅ…ッ」

 また指を刺し込んだ。そして、抜く。

「あっ…ああっ?」

 抜き差しを何度もする。更に加速をつける。

「あ…ああっ…ま、まって…つ、つよ…すぎっ……だ、だめっ…」

「それが気持ちいいんでしょ?」

「だ、だって…こ、これ…き、きつすぎ…」

「じゃあ、これでラストね」

 最後に力一杯藍那のお尻の穴に指を突き刺した。

「んああっっ」

 二本の指は、付け根まで藍那のお尻に埋没した。お尻の穴へと減り込むように伸びるパジャマの皺が淫靡だった。

「あ…あぁぁ…」

 内側の肉が痙攣して、ひなたの指を締め付ける。熱い。

 中でぐりぐり、と 動かしてみた。

 

 ――@す。

   世界中のニンゲンを殺したい。

 

 夢から覚め、意識は現実へと返る。

 

 

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