DuetNet∩eclopse 〜デュエットネット∧イクリプス〜』 二重引き篭もりと幻想、嘔吐と頭痛の果てに閃きをみた

 Last-Log ブルーリボン


 

 

 毎日が虚ろだ。

 大事なものが欠落している。

 でも仕方がない。

 穂梨にできる事は幸せを祈り、毎日を頑張るだけだ。

 痛くても辛くても、今日のため明日のためにできることがあるなら痛さは忘れる、辛さも気にしない。やれるだけのことはやる。なにもできなくなったらそれは死だ。

 まだ生きている。

 だから足掻く。

 天理とそう約束した。

 

 

 姉は泣かない。

 辛くても泣かない。

 だけどそれは穂梨から見たら泣き寝入りだ。泣いてはいないけど泣き寝入りだ。

 泣き寝入りはしたくない。

 できることがあるならなんでもする。

 泣いて、痛がって、苦しくて、吐き気がしても根性だけは忘れない。なにもかもを諦めるのは全てに絶望した時でいい。

 

 

 紙風を見かけなくなって久しい。

 これも辛い思い出だ。

 紙風は好きだった。大好きだった。

 たくさん甘えさせてくれた。

 彼には甘えてばかりだった。

 どうしてあの時デートしたかったのかを思えば、それは天理と一緒にいられない事に対する妥協だった。

 紙風が好きだからこそ、妥協という形で彼を選んだ事、愛の代用品として接した事。

 好きだったからこそ、胸が痛む。

 吐き気に繋がる。

 だけどこの痛みも受け入れる。

 天理の時に覚えた痛みと同じ。好きな人が残してくれた痛みなら受け入れる。

 

 

 カノンとはたまに遊んでいる。

 遊ぶと楽しい。それはそれでいい。彼とは友好な関係をこれからも続けたい。彼は相当ホリンのことを気に入ってくれているようだ。見ていたら分かる。

 好かれるという感覚。関係。

 オーディエや天理の気持ちが少しは理解できた。そういう意味も含め、彼と出会えて良かった。

 

 

 二重引き篭もりがいいか悪いか、それは分からない。

 今日も学校から帰り、シャワーを浴び、パジャマに着替えてパソコンの前に座る。

 起動するソフトは仮想都市。

 天理がいなくなっても二重引き篭もりは治らない。今はオーディエと一緒に都市で遊んでいる。

 あの廃屋でオーディエと二人で喋っている事が多い。

 オーディエと二人っきり。天理の引退を機に、皆廃屋に来る回数が減り、人がいなくなったのでオーディエを廃屋に招いた。

 オーディエの両親が新しいパソコンを購入してくれたそうなので、今は都市で一緒に遊んでいる。ただ、本当にオーディエが都市をやりたかったのかどうかは分からない。ホリンに気を使ってくれているのかもしれない。

 分からない。一緒に遊ぶだけならリレーターや聖板でもよかった。

『ホリンちゃ〜ん?』

『ん……?』

『元気ナイネ? 思春期?』

『元気ですよぅ……』

 そう答えたら、いきなり後ろから腕を絡められ、ぎゅーっと首を締められた。

『はぅ〜っ……。な、なんでっ……?』

『いじめてみたくなりました』

『ふぁ………?』

『元気じゃないのに元気だなんて言うんだから、ホリンちゃんは……』

 やっぱり隠し事はできない。

『ふに……』

『まーた天理ちゃんのことで悩んでるでしょー』

『うん……』

『カノンくん、かわいそうー。レヅのホリンちゃんなんかに惚れちゃってー』

『れづちゃうもん……』

『強くなるんでしょー?』

『なる……。約束したから……』

『ふふ〜☆ そんなにいじらしいことばっか言ってたら、またいじめたくなっちゃう♪』

『おーでぃちゃんはオニですね〜……』

 天理がいなくても世界の全部が嫌な訳ではない。

 オーディエがいるから、支えてくれるからまだ嫌いにならない。

 だけど身体の中に大きな穴が開いている。

 天理がいなくて寂しい。

『おーでぃちゃん……?』

『うん?』

『今日はちょっと辛い……です……。吐き気がいっぱい……』

『あらら』

『慰めて……欲しいです……。優しく……』

『ふふ〜☆ ホリンちゃんは甘えたですね♪』

 ぎゅっと抱き締められる。

 こうやって抱き締められている間は安らぎを感じる。

 なにかが足りなくても、抱き締められている間だけは不安を忘れられる。

 

 

 強くなると天理と約束した。

 ホリンの頭の上には青いリボンが乗っかっている。都市を始めて天理に会った時、彼女から貰ったリボンだ。

 約束したから強くなる。

 だから胸が痛くても吐き気が止まらなくても頑張る。

 

 

『ホリンちゃん、お誕生日おめでとーっ』

 廃屋の中でオーディエが祝福してくれた。

 ぎゅっと抱き締められた。

『ふふ〜☆ おーでぃちゃんの抱擁ですよー?』

『ふにゃ……』

 一年前が懐かしく感じる。

 オーディエと天理に優しく祝福された一年前の誕生日。

『ありがと、おーでぃちゃん』

『くすくす……☆ ホリンちゃん、その返事はお礼を期待していいんですか♪』

『過激なお礼はヤだよ〜……?』

 言ってる傍からオーディエがスカートの中に手を入れようとするので、その手を抓り上げた。

『あいたっ……。冗談なのにぃ☆』

『む〜……』

 また後ろから抱き締められたが、それには逆らわずに身を任せた。抱き締められていたい。いつまでも。

『ホリンちゃん、今日も吐き気する?』

『うん〜……』

『大変だねぇ』

『吐き気のない日なんて少ないです……。それに吐き気は永遠にとまんないのね、きっと』

『うん』

『でもへーき。吐き気しても強くなれるもん……』

『うんうん☆ ホリンちゃんは強くなったもんねぇ♪』

 強くなったかどうかは分からない。

 ただ吐き気と頭痛にはなれた。そして痛くても苦しくてもそれに捕らわれず、他の事にも頭が回るようにもなった。

 オーディエに抱き締められながらも、今日の夕食なにを作るかなどを考えられる。以前はそれさえもムリだった。天理やオーディエだけのことで頭がいっぱいだった。

 オーディエに怒られて、優しくもされて、少しずつ世界が広がった気がする。

 相変わらずの二重引き篭もりだけど、聖板にも少しは顔も出すし、オーディエがいない時でもいきなり泣き出したりはしなくなった。

『ホリンちゃんはもう私がいなくても平気だよね?』

『え?』

 びくっとした。

 心臓から指先まで全身の体温が下がり、冷汗が噴き出した。胸がドクドクと震えている。先を聞くのが怖い。

『独り立ちできるよね?』

 暫く流していなかった涙が頬を伝った。

 熱かった。

『おーでぃちゃん……?』

 天理がいなくなった時泣いたのを思い出した。あの時と同じような涙が溢れて頬を伝う。

『ふふ☆ 冗談ですよ♪ ホリンちゃんを置いてどっかにいったりしません』

『…………』

『また泣いたでしょ?』

『ばかぁ………!』

 オーディエには怒れない。

 どんな苛めでも受け入れてしまう。好きだから。なんでも許せてしまう。

『まだまだ甘いですね、ホリンちゃん』

『うん……』

 

 

 大丈夫。

 根性を見せる。

 

 

 この頭の上に乗せたブルーリボンを見たら約束を思い出す。

 強くなる。

 

 

 いつ天理と再開しても恥ずかしくないくらい。

 胸を張って会えるくらい。

 強くなる。

 

 

 涙は止まらないけれど、泣くのは弱さじゃないと天理は言ってくれた。

 だから今は泣く。

 でも、明日は泣かない努力をする。

 

 

 約束したのだから。

 このブルーリボンは戒めだ。

 青いリボンを見たら吐き気を覚えるけど逃げない。逃げたくない。

 天理との想い出をなかったことになんてしたくない。

 

 

 

 オーディエに抱き締められていると、眠たくなってきた。

 このまま温かく抱き締められたまま、いつまでも眠っていたい。

 胸が切ないけど、オーディエの側にいると痛くはない。

 

『寝たら駄目だよ。もう起きたくなくなるよ?』

 

 

 

 平気。

 根性あるから。

 

 ちゃんと自分で起きられるから。

 

 

『約束したもん……』

 

 

 

Ruler chaos 〜ルーラーカオス〜

DuetNet∩eclopse 〜デュエットネット∧イクリプス〜』編 完


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