『Archer Ether』 あーちゃーえーてる。弓矢と死者、咆哮と発狂、愚者の祭典。
七 愁傷
今日も月架はスフレの部屋の中で、彼女の腕に抱かれていた。
こうしないと生きられない。
「月架ちゃんは世界を救った偉大なアーチャーだったんだよー?」
うん、と頷いた。
最近はものを考えることを止めてしまった。スフレに抱かれている間は不安はない。不安がないと、なにも考えなくなる。
人間として生きている間はたくさんの不安があった。
だからこそ、それを打開しようと頑張って生きた。それが生きる力にもなっていた。
今の月架に不安はない。半永久の生命を手に入れ、スフレの人形としてずっと生きる。いつまでも生きる。
ワームが部屋に入ってきた。
「駄目女。これでも食え」
差し入れされた握り飯を頬張ってみた。
月架はスフレが好きだから、その兄のワームも好きだ。だから彼の手作りの握り飯はおいしかった。
ルーラが宙から降り立った。
「死霊遣いめ。神殿に来るでないわ」
「世界を救った英雄の一人にそれはないでしょう? 月架へお土産を持ってきたのです」
はい、とルーラは一本の矢を月架の手に握らせてくれた。
「東の国の珍しい矢です。こういうのも、月架は好きでしょうね、と思って」
好きだった。ルーラも優しい。好きだ。
「どうも神殿という場所は居心地悪いですね」
「ならばさっさと去れ」
「言われなくても失礼します。ワーム。貴方はいつか倒しますよ。本来は敵同士ですもの」
ルーラは消え去った。
ワームも部屋から出て行った。
「これ、月架ちゃんにあげようと思ってたの」
スフレは月架の首に護符をかけてくれた。
「私の力をめいっぱいだけど、この中に込めてみたの」
うん、と頷いた。
「これを首に掛けてたら、月架ちゃんも少しは私から離れて歩けるかな」
うん、と頷いた。
「これでも寝ずに一生懸命造ったんだよ?」
うん、と頷いた。
「まだこんなものしか造れないけど…」
うん、と頷いた。
「いつか、昔みたいに、ふたり、お互い、気兼ねなしに、どこかに遊びにいきたいね。こうやって束縛した関係じゃなくて。あの楽しかった頃のように」
「…うん」
だから、スフレに魅かれたのだ。
Ruler chaos 〜ルーラーカオス〜
『Archer Ether』 あーちゃーえーてる。弓矢と死者、咆哮と発狂、愚者の祭典。編 完