闇をつんざくような悲鳴、少年の拳が髪をシルバーメッシュで染めた男の顔面を噛ん
だ。
拳の皮膚に突き刺さる男の砕けた前歯、かまわずに殴り続ける。
グチャッ、グチャッ、湿った肉を打擲する音。
血が飛沫、少年の頬を汚した。頬骨を打つたびに鈍い音が少年の鼓膜に響いた。
「だ、助げでくだざい……お、お願いじま……ぶッ」
襟首を掴み上げ、少年がすでに潰れた男の鼻柱に渾身の力で頭蓋骨を叩き込んだ。
絶叫。怒声。頭蓋内の脳みそに激痛がダイレクトに伝わり、男は潰される寸前のガ
マ蛙のようにぐえッと鳴いた。
額にめり込む鼻の感触──男の鼻梁がひっしゃげ、爆ぜ割れた。立て続けに食らわ
せる。一発、二発、三発……。
へし折れた歯と血を吐き散らしながら、男は不明瞭な濁音を声帯から搾り出し続け
る。
男の上唇と頬の肉を突き破った黄色い歯、割れた傷口から鼻骨が露出した。
歪に切り裂かれ、ミンチ状になった頬から白黄色っぽい脂肪組織が沁みだした。
辺りにはすでにチンピラ風の男が六人、血まみれで倒れている。混濁する意識の中
で男は何度も助けを求めた。
助け──誰も現れてはくれなかった。少年は暴力と血の匂いに酔いしれ、高揚して
いた。
無言で額を男の崩壊顔に打ちつける。打ちつける。打ちつける。
股間の盛り上がり──隆起する少年の男根。男の顔は、鮫に食いちぎられたかのよ
うにズタズタになっていく。
男は鼻腔と口腔内から大量の血を壊れた蛇口のように垂れ流し続け、地面が男のこ
ぼれた血を吸った。
少年は男を放してやった。男が安堵した瞬間──腹部に鋭い痛みが走った。地面に
仰向けで倒れたまま、男は失禁した。
少年の右手──いつのまにか細身のフォールディングナイフが握られていた。醤油
のような液体が男の脇腹に滲んだ。
「お前の耳、なんだか気に入らないな」
男の右の耳朶を引っ掴むと、ナイフで一気にそぎ落とした。男のあらん限りの絶
叫、絶叫、絶叫。
鮮血が飛び散り、少年の手とナイフにべっとりと付着する。
男の心が、魂が、肉体が、あらゆる感覚が氷結した。少年は拳に刺さった歯を抜き
取り、血を黒いアンヴィルのTシャツで拭った。
スパッツから浮き彫りにされる少年のペニスがビクンッ、ビクンッと震え、脈打
つ。生命が炸裂した。少年は尿道に激痛を覚えた。
射精しても萎えずに屹立する陽根。久しぶりの射精だった。
「方耳だけは残しておいてやるよ。オレって優しいね」
男にしては澄明すぎる声で、少年は柔らかく諭すように男に語りかけながら、股間
を爪先で蹴り上げた。
後ろを振り返り、少年が震えている女に話しかける。
「そこのお姉さん、安心しなよ。こいつ等、もうワルさはできないよ」
ショック症状を引き起こし、チアノーゼで青紫に変色する男の皮膚を盗み見なが
ら、女──里香子(りかこ)は、
己の膝が震えているのにも気づかなかった。
里香子は現実感を伴わない、出来の悪い悪夢を見ているような気分に陥り、
同時に──背筋に電流が流れるような異常な感覚に襲われ、身体の芯が火照るのを
感じた。
媚肉が疼き、粘つく蜜液をしたたらせる。この時、里香子は何かに魅入られた。
少年は美しかった。抽んでて美しかった。美しすぎるとさえいえた。
完璧無比な美貌──流麗な弧を描く切れ長の二重瞼、直線的な形の良い鼻梁、三日
月の眉、曲線の美しい顎、
きりりと引き締まった口元は薄紅色で、長い睫に囲まれた目縁の奥には、黒真珠の
ような美しい明眸が飾られていた。
肩まで綺麗に刈り揃えられた、少年の濡羽色の光沢を放つ髪が男の血で染まり、そ
れがなんとも言えぬ蠱惑的な色香を放つ。
屹立する股間のペニスさえ見えなければ男だとはとても信じられなかっただろう。
気まぐれに地上に舞い降りた凛々しくも美しい天使──いや、悪魔。神自らが作り
上げた巧緻の美を誇る悪魔。
里香子の眼には少年がそう映った。
「お姉さんは何ていう名前?オレは玲一(れいいち)っていうんだけど」
噴出するアドレナリンの高揚に息を荒げながら、玲一は返り血で濡れた掌を真っ赤
な舌で舐め上げた。
「……里香子よ……」
「里香子、早く家に帰ったほうがいいよ。ここらは馬鹿が多いから。また変なのに
襲われるかもしれないよ」
ナイフをポケットにしまい、玲一が首をひとつ鳴らす。切り落とした耳朶──じっ
と見つめ、ワルびれた様子もなく、
笑いながら地面に放り投げた。
1
吉祥寺にある四LDKの高級マンション、ベッドボードに置かれたウイスキーの空き
瓶、セミダブルのベッドでやすんでいる全裸の玲一。
ふたりとも、生まれたままの姿だった。
玲一の肌はアラバスターのように白い。白磁の如く張りつめた艶やかな透明感漂う
美しい肌。そっと指先で触れた。
キメ細かいシルクを思わせる触り心地に里香子は溜息を漏らした。玲一の肌は白い
だけではない。
感じてくると皮膚が内側から淡い薔薇色を帯びきて、艶やかさを増すのだ。
薄っすらと浮き出た鎖骨と肋骨、若い鹿のように瑞々しい肢体、痩身で女のように
華奢な肉体は、超越的なバランスを誇る。
玲一の美貌は日本人離れ、というより人間離れしている。
これだけならただの優男だが、その眼はどんな猛者よりも凶暴な恐ろしく危険な光
が宿っており、
美しく滑らかな皮膚の下には、鞭のようなしなやかで強靭な筋肉が見え隠れする。
全体の雰囲気が鋭利な玲一の肉体はまるで抜き身の日本刀そのものだ。里香子は賛
美の眼差しを向けた。
薔薇色の亀頭を握りしめ、激しくこすりあげた。陰毛に包まれたペニスの匂いが里
香子の鼻腔をくすぐる。
発情した。里香子は玲一の体臭と体温に、強烈な欲情を覚えた。
ぬめらかな舌で少年の唇を舐め回し、激しく貪りながら、一旦、口を離すと首筋と
いわず、胸といわず、キスの雨を降らせる。
一ヶ月前、里香子は新宿中央公園で偶然にも血まみれで倒れている玲一を発見し
た。
携帯で救急車を呼ぼうとしたが、少年が嫌がるので自宅まで連れて行き、玲一が動
けるようになるまで、
里香子は甲斐甲斐しく面倒をみた。粥を作って食べさせ、下の世話をしてやり、濡
れタオルで玲一の身体を拭いてやった。
ふたりが親密な関係になるまで、それほど時間はかからなかった。
「玲一……また、浣腸していいかしら?」
里香子が玲一の顔を覗き込み、潤んだ瞳で見つめる。
「……またするの?アレ、凄く恥ずかしいから嫌なんだよ……だけど……里香子
が、その、したいなら……」
含羞を含んだ表情で、玲一は里香子を見つめ返した。
2
「服が汚れるかもしれないけどいいの?」
紺のブレザー、純白のワイシャツ、胸元で揺れる赤いスカーフ、グレーのミニス
カートから覗くすらりと伸びた白い太腿。
セーラー服に着替えた玲一は、いつもの癖で首をポキリと鳴らす。
「汚れたら洗えばいいわ」
里香子はスカートの裾をまくりあげた。下着はつけていない。
玲一の萎えた肉棒にそっと手を添え、口に含むと口腔内に若い雄の味が広がった。
女の官能を刺激する味だ。
チロチロと舌を動かし、亀頭下部の窪みを舐め回しながら、里香子は睾丸を揉みし
だく。
たちまち怒張する男根、口からはずした。唾液で濡れ、光り輝く肉茎の表面には鮮
やかな蛇の刺青が浮かび出ていた。
いつみても見事な彫り物だ。特殊な技術によって施された隠し彫りの一種である。
墨色の蛇が根元から肉竿に絡みつくように描かれていた。何故、陰茎に刺青など入
れているのか、里香子は
一度だけ、尋ねたことがあるが瑞々しい玲一は何も喋らず、少しだけ悲しそうに微
笑んだ。
「お尻をこっちに向けて、脚を開いてちょうだい」
玲一は言われたとおりの姿勢をとり、スカートを自分でたくしあげると、臀部を露
出させ、里香子の目の前に突き出す。
顔を近づけ、里香子は小ぶりだが、瑞々しい水蜜桃の谷間を割り開き、魅惑的なす
ぼまりをむき出しにする。
外気が肛門に触れた瞬間、玲一は羞恥に頬を紅潮させた。
排泄器官に注がれる里香子の視線──何度も見られているのに恥ずかしさが込み上
げてくる。
「玲一のアヌスっていつみても綺麗。ピンク色できゅってすぼまってて……」
「あんまりジロジロみないでくれよ……恥ずかしいから……」
玲一のアヌスは、とても排泄器官とは思えないほど、可憐で美しい形状をしてい
る。まるで尻房の奥に咲く一輪の花のようだ。
慎ましやかな佇まいの菊花は、皺が少なくピンク色で愛らしさに満ちていた。
食い入るようにアヌスを眺めていた里香子は、襞の部分を舌先でそっと舐めた。途
端に玲一の全身の筋肉が硬直する。
「よくほぐしておかないと、浣腸する時に痛くなっちゃうかもしれないから……お
尻の力を抜いててちょうだいね……」
里香子は尻の谷間に顔を埋め、蕾の内部をこじ開けるように舌でこねくりまわし
た。
生暖かい肉片が肛門に触れるような感触に、玲一は思わず括約筋に力を入れてしま
い、里香子の舌を食いしめてしまう。
「もうほぐれたから舐めるのやめてくれよ……オレ、頭がどうにかなりそうだよ…
…」
それでも里香子は舐め続ける。少年の排泄孔を舌先で責める里香子──うっとりと
した恍惚の表情を浮かべていた。
掌で尻肉を撫で回し、感触を楽しむ。眼で、掌で、鼻で、舌で玲一の肉体を味わ
う。
充分にほぐれたと判断した里香子は口戯をストップさせた。アナリングスで柔らか
くなった唾液まみれの肛門に指を侵入させた。
「ひゃっ!」
恥ずかしくも妖しい感覚に、意識がやや朦朧としていた玲一は不意に指を入れられ
声をあげてしまった。
第一関節で肛門の入り口付近を刺激しながら、徐々に指を奥にすべりこませてい
く。玲一の臀部が、切なそうに震えた。
「痛くしないから安心して……」
玲一の直腸は指が火傷してしまうのではないかと、錯覚してしまいそうなくらいに
熱くうねっていた。
指先が敏感に内部の熱を感じとる。指先から伝わる熱は、里香子の女芯を火照ら
せ、粘つく愛液をしたたらせた。
「里香子……オレ、もう我慢できない……」
鈴口からトロトロとカウパーを分泌させるペニス。青い血管が浮き出て、破裂しそ
うなまでに充血していた。
排泄器官を指で玩弄され、感じてしまう自分を玲一は少しだけ恥じてしまう。
「ごめん。ちょっとやりすぎちゃったみたい……じゃあ、浣腸するわね」
指を引き抜き、予め用意しておいたガラス製の容量二百cc浣腸器を取り出し、容
器からグリセリン液を吸い上げると、
嘴管をアヌスにゆっくりと傷をつけないように突き立てる。
「あうっ」
短い叫び声をあげ、玲一は俯いてしまう。俯いた少年の頬と首筋が初々しく紅に染
まり、羞恥に震える横顔があまりにも艶めかしい。
ポンプを押して、少しずつ浣腸液を注入していく。途端に玲一の皮膚に鳥肌が立っ
た。
冷たい薬液を腸に流し込まれる感覚に、玲一が身悶える。
「うう……ッ、中に入ってくる……」
すぐに、玲一の下腹部からゴロゴロと不気味な音が鳴り響きはじめる。
便意にその美貌を歪め、耐える玲一のあられもない姿に里香子の興奮は最高潮に達
していた。脂汗を流し、必死に肛門を食い絞める玲一。
「も、もうトイレいかせてくれ……、も……漏れそうだ……ッ」
額に浮かんだ珠の汗が零れ落ち、フローリングに水溜りを作った。駆け下る便意に
切迫し、蚊の鳴くような声で玲一が訴える。
「玲一のお尻に栓をしてあげるわ……」
里香子がケースからローションの小瓶と黒い人口ペニスを取り出した。小瓶の蓋を
あけ、
双頭ディルドウに粘度の高いローションを万遍無く垂らした。ローションはトロリ
と糸を引きながら、
透明な液体がディルドウを塗らしていく。里香子はそれを自分の股間に導き、媚肉
の割れ目に埋め込んでいった。
「ああんッ……」
ディルドウ挿入時の刺激に、里香子は思わず声をあげてしまう。
太さ四センチ、長さ十六センチほどの黒光りする擬似ペニスをはめ、ベルトを腰の
くびれに巻きつけた。
片手でディルドウを支え、玲一の肛門にあてがい、貫いた。里香子はそれだけでオ
ルガズムに達しそうになる。
括約筋を緩め、肛門を開き、玲一が里香子のペニスバンドを受け入れた。隙間から
少量の茶色い液が漏れ出してしまう。
「くうぅ……ッ、はあぁ……里香子……もう、駄目……我慢できない……」
「いいわよ、出しても……その為にフローリングにしてるんだから」
根元まで貫入したディルドウを、ゆっくりと引き抜き、肛門粘膜に傷がつかないよ
うに、ゆっくりとピストンする。
里香子は悪魔のように美しい、この少年の肛門を犯しているという背徳感に、凄ま
じい愉悦を覚えた。
腰を動かす度にディルドウに付着する汚物が玲一の尻の谷間を汚し、臭気が里香子
の鼻腔を突いた。
普段ならただの悪臭にしか感じないだろうが、玲一の匂いだと思うと、新たな高揚
感を覚えてしまう。
「ああ……ふぅんッ……玲一のお尻凄く締まって気持ちいい……ッ」
ペニスバンドの内側にある突起部分が、里香子の小さな肉粒を刺激し、卑猥な媚芯
をビッショリとぬらしていく。
「ああッ!」
ディルドウの先端が前立腺を抉った瞬間、玲一が獣のように吼えた。鈴口から大量
のホワイトリキッドを放出する。
同時に肛門が緩み、破裂音とともに汚泥を吐き出しつづける。
太腿に爛れるほどに熱された流動物を感じた里香子は、生まれて初めて味わうよう
なハイレベルのオーガズムを迎えた。
全身の細胞が沸騰するような圧倒的な感覚だった。
3
ふたりで部屋を掃除し、バスルームにはいった。大量のソープを身体にかけて互い
の身体を洗う。
「里香子……その、汚しちゃってごめん……」
里香子の背中を洗い流しながら、玲一が詫びる。
「大丈夫、気にしてないから平気よ。それよりあたし、物凄く興奮して、最後はわ
けわかんなくなっちゃったわ……
玲一も前から後ろから、物凄かったし……」
「うわ、思い出したくねえ……」
自分の晒した醜態に、玲一が顔をしかめた。
「あのさ、玲一……またしていいかな?」
「……うん」
枯れ草の燃えるようなマリファナの香りが室内に充満していた。大麻をキメると感
度がよくなってたまらなくなる。
マリファナのもたらす甘美な感覚は、痛みすら快感に変えてしまう。女物の下着姿
で今日も里香子に抱かれる玲一。
身に着けたフロントホックのブラジャーとガーターベルトはどちらもピンク色だ。
中々似合っている。
尻の狭間から出し入れされる里香子の人工陰茎──いつもより激しかった。肛門粘
膜が擦り切れそうになる。
「うああぁ……ッ、そ、そんなにめちゃくちゃにしないでッ……お尻壊れる…
…ッ」
蕩けるような肛悦と身体を引き裂かれるような苦痛が、玲一の狭い粘膜を責め立て
た。苦痛──心地が良かった。
「れ、玲一……駄目なの……感じすぎちゃって……止まんないのッッ」
「ううっ、お尻が切れそう……ッ」
真空パックに入っていたブラックアフガン──三分の一がすでに消えていた。ミニ
コンポから小音量で流れるベシー・スミスのブルーズ。
あぐらをかいた里香子の上に玲一が座り、向き合った体勢でふたりは互いを貪り
あった。ブルーズのリズムに合わせてふたりは揺れた。
玲一の白いうなじが桜色に染まり、いっそう艶ましくなる。突然、背中に痛みが
走った。里香子の爪が玲一の背中の肉に食い込んだのだ。
腸管を貫かれる度に、その部分が灼けるようにヒリついた。充血した里佳子の眼─
─網目状の真っ赤な膜に覆われていた。
「ああッ……」
玲一は呻いた。身体中の毛穴から滲み出る珠の汗が零れ落ちる。息苦しかった。息
苦しいくらいに興奮していた。
腰を突き上げ、里香子が玲一を追い詰めていく。里香子は自分が美しい獣を追う狩
人になったような錯覚に囚われた。
動くたびにローションと腸液でぬめった玲一のアヌスがクチャッ、クチャッと淫ら
な音を立てた。
いくら抱かれても慣れなかった。アヌスを犯されるという消せない羞恥がいつまで
も心に残り、玲一を切なく締め付けてくる。
擬似男根で内臓を攪拌され、マゾヒスティックな悦びに玲一は身悶えた。鈴口から
溢れる先走り汁が、ポタポタと零れる。
この時、玲一ははっきりと認識した。自分は里香子を愛しつつある。
「あああ……んっ……」
体の奥底が熱く滾り、うねった。深く挿入されたディルドウの先端が男のGスポッ
トをえぐった。
「くああ……イクッ……」
肛襞に走る峻烈な快感とともに、玲一の輸精管から濃厚なザーメンが礫のように
迸った。里香子の身体が小刻みに震え始める。
「むうぅ……ああ……」
たまらなそうに喘ぎを噛み殺し、里香子は瞼をきつく閉じた。女陰から溢れる濃厚
な愛液が、里香子の双腿を汚していく。
痙攣する腰の奥から漂う女の匂い、子宮がどくっとうなり、里香子はアクメに達し
た。
顔を寄せた。唇が重なり合った。舌を絡ませながら、ふたりはお互いの唾液を送り
つけた。
4
宵闇の迫る深閑とした住宅街を見回しながら、玲一は胸元のニトロケースから女性
ホルモンタブレットを取り出し、口の中に放り込むと、
舌で転がして表面を濡らし、噛まずにゴクリと嚥下した。瀟洒な煉瓦作りのマン
ション──キャッスル白金台。
エントランスの壁にもたれかかり、玲一は内ポケットから携帯を取り出した。少し
逡巡し、ボタンをプッシュ──六回目のコールで繋がった。
『はい、もしもし』
可憐な少女のような声が玲一の鼓膜に飛び込んできた。三ヶ月ぶりに聞く友人──
涼(りょう)の声だった。
『涼、元気にしてた?』
「その声……玲一なの?今どこにいるの?』
『涼のマンションの真下にいるよ。中にいれてくれないかな?』
『……いいよ……ねえ、一つ聞いてもいいかな……今までどこで何をやってたの?
僕、玲一のずっと探してたんだよ。
なんで、突然、何も言わずに僕の前から消えちゃったの?凄く寂しかったんだよ…
…」
携帯の向こうから哀愁を帯びた啜り泣きが聞こえてくる。玲一は少しだけ間を置
き、相手が落ち着くまで待った。
『……ごめんね。本当にごめん』
玲一は静かな声であやまった。何度も、何度も、それで相手が許してくれるとは思
わなかった。
突然、マンションのオートロックドアが開いた。
『とりあえず、はいりなよ……』
エレベーターに乗って、八階のボタンを押した。エレベーターを降りて、八〇九号
室に向かう。内廊下に響く足音がやけに耳障りだった。
八〇九号室のドアの前に立ち、呼び鈴を押すとすぐにガチャッとドアが開いた。
「お邪魔するよ」
部屋に入った途端、涼に抱きしめられた。両肩が軋みをあげそうになる。涼は無言
のまま、玲一の胸板に顔を埋め抱きしめつづけた。
顔を上げた涼が玲一の顔を睨むように凝視した。くっきりとした顔の輪郭。綺麗な
線を重ねた二重の瞼に飾られた大きな茶色い瞳。
美しく整ったノーブルな顔立ちと、すっと通った鼻筋。ほんのりと赤く色づいた幾
分小さめの愛くるしい唇。
亜麻色のウェーブがかった髪はいかにも柔らかそうだ。妖精の様に可憐で愛くるし
く美しい。
玲一とは違った味わいの美貌である。玲一は無邪気に微笑んだ。それは人の心を蕩
けさせる純粋に美しい、天使の微笑みだった。
涼は右手を玲一の尻にもっていき、おもいっきりつねりあげた。
「痛ッ」
痛みに顔をしかめ、玲一がつねられた部分を摩った。臀肉がズキズキと疼く。
「笑ってごまかさないでよ」
胸に竜の刺繍をした青いチャイナドレス姿で出迎えた涼が不機嫌そうな声をあげ、
次は反対側の尻を力を込めてつねった。爪が肉に食い込む。
「痛いってッ、もう、お尻つねるのやめてッ」
眦に涙を浮かばせながら、両手でつねられた部分を何度もこすった。
「ううっ、思い切りつねることないじゃん……」
「君には良いクスリだよ」
5
二十畳ほどの広さリビングルームに通され、玲一は籐椅子に座り、涼に手渡された
マルキ・ド・モンテスキューの注がれたグラスをじっと見つめていた。
アルマニャックブランデー──この酒は文豪アレクサンドル・デュマの『三銃士』
の主人公、ダルタニアンの子孫であるモンテスキュー侯爵によって管理、醸造されて
いる。
涼は玲一より一つ年上の十六歳。今年高校に入学している。このマンションは親が
入学祝に買い与えたものらしい。かなりの金持ちだ。
知り合ったのが一年前、ギャングに絡まれてるところを助けてやった。それ以来、
意気投合したふたりは付き合い始めるようになった。
「今までどこで何やってたの……その前にその服装は?」
玲一の服装──グッチの黒いワンピース。里香子が似合うからと買ってくれたの
だ。玲一には中々よく似合ってる。
「涼と同じ、女装に目覚めちゃったんだよ」
「それが本当なら嬉しいな」
涼が笑いながら言った。
「はは」
玲一は涼につられて笑いながらグラスの中のブランデーを一気に飲み干した。濃厚
な琥珀色の液体が喉と食道を灼いた。
「涼、お酒にクスリ混ぜたね。一体、何のクスリを混ぜたの?」
玲一が微笑みながら涼に尋ねた。
「セルシンとGHB系の弛緩剤をちょっとね……」
「じゃあ、別に死ぬわけじゃないね。実はオレ、涼に殺される覚悟で逢いに来たん
だよ」
「それならこんなまどろっこしい事はしないよ。だって玲一は死ねっていわれたら
冗談で死んでみせるもん。
それより、もう一度聞くよ。今までどこにいたの、なんで僕の前から姿を消した
の?」
「……理由なんてないんだよね。しいていえば、なんとなくかな」
顔がアルコールで赤みを増していった。意識が少しずつ混濁していく。平衡感覚が
狂い始める。
「そっか……だけど、戻ってきてくれて嬉しいよ。また前みたいに一緒に遊ぼう。
だけど少しだけお仕置きしてあげる。
玲一は恥ずかしがり屋だから、泣きたくなるくらい恥ずかしい目にあわせてあげ
る」
「少し……眠くなってきた……なんだったら、お互いに責め合ってみない……案
外、面白いかも……よ……」
そこで玲一の意識は途絶えた。
「面白そうだね。じゃあ、玲一、起きたら一緒に責めあいっ子でもしよう」
6
八畳ほどの薄暗い部屋の中には無数の淫具──壁には様々な鞭が飾られ、戸棚には
数種類のバイブレーター、浣腸器、クスコ等が置かれていた。
他にもX字の梁、木馬、拘束具といった本格的なSMグッズまで揃っている。
ちょっとしたSMクラブのプレイルームだ。
眠りからまだ完全に覚めきっていない玲一は、夢現の狭間を彷徨っていた。それで
も肉体は愛撫に反応し、ピクピクと震えた。
ナイフで切れ裂かれたワンピースの布──申し訳程度に張り付いていた。玲一の扇
情的で艶ましい姿に、涼のペニスが昂ぶる。
膝をM字に割り開かれ、性器もアヌスも全て涼の目の前に曝け出し、弄ばれる。
濡れた指先が亀頭を翻弄した。玲一のペニスは張り裂けそうなくらい屹立してい
た。涼の柔らかい唇が玲一の小さな乳首を嬲る。
じらすように表面を舐め、欲情に濡れた瞳でじっと見つめてくる涼。乳首が硬く尖
り玲一は少しだけ痛みを感じた。
「玲一は本当に綺麗だよね……身体が前よりも滑らかになってきてるし。益々色っ
ぽくなってきた……」
胸にかかる熱い吐息を感じながら、生暖かい軟体動物が行き来するたびに、鳥肌の
立つような快感が玲一の背筋を走りぬけた。1
「あああ……」
触れるか触れないかの精妙なタッチで、涼は玲一のペニスをじらすように、撫でさ
する。唾液で濡れた薄い胸板がヌラヌラと光り輝いた。
屹然とした玲一のペニスを玩弄しながら、涼は乳首を嬲っていた唇をゆっくり下降
させた。鈴口からしたたる先走り汁が涼の指を汚す。
玲一の硬直──男の欲望は女と違って直線的でシンプルだ。だからこそ好ましい。
それは女のような曖昧さがないからだ。
早鐘を打つ心臓の鼓動が胸を乱打し、涼は眩暈を覚えた。玲一に愛撫を加えなが
ら、涼はすさまじい欲情を掻き立てられていた。
「玲一、気持ちいい?」
「ああ……凄く、感じるよ……んんッ」
下腹部から太腿、そして鼠蹊部を回遊すると、涼は尻房の谷間にあるアヌスをぐ
いっと親指と人差し指で割り開いた。
薄桃色がかった内部を露出させた美しい恥蕾が収縮を繰り返し、涼を楽しませた。
尻に顔を埋め、鼻を鳴らして玲一のアヌスを嗅ぐ。
少しだけ香ばしい、排泄孔独特の香りが涼の鼻腔を刺激した。それは三ヶ月ぶりに
嗅ぐ匂いだった。
「ふふ、玲一のお尻の穴、いつ見てもとっても可愛い……それに凄く良い匂い…
…」
「駄目ッ……お尻の匂いなんて嗅いじゃ……」
「僕達、お尻の穴とか舐めあったり犯しあったりした仲じゃない。今更恥ずかしが
ることなんかないよ」
それでも恥ずかしい部分を見られたり嗅がれたりするのは、いつになっても玲一は
馴れなかった。
アヌスに舌を差し入れ、チロチロとくすぐる。粘膜の生々しい味が涼の舌先を突い
た。玲一の味と匂いだけで射精してしまいそうになる。
どんなに美しくても人は生きている限り、匂いを発散させている。それがたまらな
く涼には愛しいのだ。
愛する者の匂いだと思うと、一層胸が切なく締め付けられる。このままずっと匂い
を嗅ぎ、舐めていたかった。
「そ、そんなに舐めないで……ッ、ひいッ……」
涼が意地悪く唾液の音をビチャビチャと淫らに響かせ、舐め回す。その音が耳朶を
打つたびに玲一は羞恥に身体を桜色に染め、首を折った。
玲一にとってアヌスは舐めるより舐められるほうが精神的に辛いのだ。目尻に自然
と涙が溜まってくる。
「あ、ううう……もう……」
亀頭の先端部分を指腹でぐりぐりと揉まれ、玲一が身悶えた。
「もう、イキそう?」
玲一がかぶりを振りながら、何度も頷いた。輸精管からスペルマが今にも噴出しそ
うなのだ。
ふっくらと綿のように柔らかくなった肛門から口を離すと、涼はふうっと息を熱い
息を吹きかけた。
「イってもいいよ。あ、ちょっとまっててね」
涼が戸棚に置かれたエネマシリンジとグリセリンの希釈液が入ったペットボトルを
手に取った。玲一のアヌスにローションを塗りつける。
片方のノズルをペットボトルの中にいれ、もう片方のノズルを玲一の恥肛にそっと
あてがい、ツプリと挿入した。
ゆっくりと息を吐き、腹部の力を抜く。涼がポンプを握り、グリセリン溶液を注入
していく。
「あああぁ……」
玲一の興奮した息遣い──冷たい液体が直腸内に流れ込む感覚に身体が火照ってく
る。同時に強烈な羞恥と便意が湧き上がってきた。
グルグルと腹部が蠕動し、冷や汗が滲み出てくる。かなり濃い──多分、原液に近
い薬液を流し込まれたのだろう。
「涼……これ、ちょっと濃すぎるよ……」
「流石に強かったかな。普段使うのは五十%のだけど、今使ったのは濃度八十%の
奴だよ。ほとんど原液だね」
「うう……」
見る見るうちに玲一の顔色が褪色し、青ざめていく。下腹部の鈍痛が更に加速し、
便意が膨らみながら内部で渦を巻いた。
「……玲一、あのさ……僕にも浣腸してほしいんだけど……」
涼が恥ずかしそうにやや伏せ目がちに玲一の瞳を凝視し、ゆっくりと身体を後ろ向
きに変え、チャイナドレスの裾をめくり上げた。
下着は着けていなかった。白いガラス細工のような美しいすらりとした下半身と、
淡雪よりも白く滑らかな小ぶりの尻房が露わになる。
「涼はオレに浣腸して欲しいんだ……じゃあ、お尻突き出して、自分で広げてみせ
てよ」
少しだけ便意が収まった玲一は瞳を輝かせながら、唇の端を歪めて、少しだけサ
ディスティックに微笑んだ。
「うん……僕、玲一に浣腸してほしいの……」
言われたとおりに涼は瑞々しく張りのある双臀を突き出し、両手でぐいっと尻肉を
広げてみせた。相変わらず綺麗で愛らしい肛門だった。
細かい肉襞が幾重にも重なった菫色のすぼまりに顔を近づけ、中央の肛洞に玲一は
舌を這わせた。
襞の周辺を舌で舐めあげると涼のアヌスが弛緩と収縮を繰り返す。玲一はさらに奥
のほうへと舌を入れ、荒々しく舐めた。
玲一の本能が快楽を欲求した。貪る様に肛門粘膜をこじ開け、舌先で涼の直腸を蹂
躙する。今すぐにでもこの淫菊を犯してやりたかった。
「あんっ、あああ……っ」
アナリングスの快感に、頤を激しく仰け反らせながら嬌声を上げ、涼は尿道口から
随喜の涙を滾々と溢れさせた。
荒れ狂う下腹部の便意も忘れ、玲一は自分の肛門に突き刺さったノズルと引き抜く
と涼の肛門に貫入させる。2
半分ほど残っていた薬液を全て涼の体内に注ぎ込んだ。腸をよじらせる浣腸液の苦
しみに、美しい眉根をひそめ、
奥歯を噛み締めながら羞恥と便意の苦痛に耐える涼の姿があまりにも美しく淫ら
だった。玲一は完全に目が覚めていた。
ふたりは総身に脂汗を滲ませながら、身悶えた。ノズルをはずすと涼の肛門から少
量の茶色い飛沫があがった。
「ねえ、涼。キスしようよ……」
玲一が前屈みに立った涼の体を後ろから抱きしめ、その顎先を横向きに振り返らせ
ると紅い唇を吸った。
「ああ、玲一……」
舌を絡ませ、互いの歯茎を愛撫しながら、ふたりの美しき少年達は官能を高めあっ
た。玲一が切っ先を涼のアヌスにあてがう。
「いれるよ……」
肉の浣腸器が内部に闖入してきた。たまらずに背を仰け反らせ喘ぐ涼。直腸が埋め
尽くされるような充塞感に肛門をキリキリと締め上げてくる。
「あああぁぁ、凄い……っ、もっと、もっと奥まで入れてッ……」
内臓を攪拌し、内側から突き上げるように玲一が肉茎を根元まで埋没させた。直腸
壁が玲一の亀頭を優しく包み、もみしだく。
忘れかけていた便意の波が再び、玲一の下腹部を襲った。括約筋をキュッと絞め、
洩らさないように我慢する。
激しくピストンしながら、玲一は何度も涼の肛門を抉った。アヌスの齎す甘美な刺
激と便意に涼は声を上ずらせた。
下腹に右手を回し、涼のペニスを指先で転がし、しごく。
「涼、もうオレ、出ちゃいそう……っ」
「あんん……っ、だ、出してもいいよっ……ぼ、僕も、もう出る……ッ」
玲一の肉茎が膨れ上がり、脈動した。熱いザーメンが肛内に広がり、涼も鈴口から
ザーメンを迸らせていた。
涼のアヌスからズルリとペニスが押し出され、ドロドロに溶けた汚塊が駆け下り
た。玲一の排泄孔からも薬液が漏れ出た。
破裂音を室内に響かせながら玲一と涼は異臭とともにビチャビチャと熱い溶岩のよ
うな溶けた糞便を肛門から吐き出し続けた。
決壊した肛門から噴き出す排泄物が太腿にまとわりつき、そのヌルヌルした生温か
い感触が少しだけ心地よかった。
7
空虚に輝く周囲のネオンとディスプレイの光が玲一の瞳に反射した。
涼から貰った深紅のレディーススーツに身を包んだ玲一の姿──男達の熱い視線が
絡みつく。
時刻は午前二時をちょうど回った所だ。人の群れ──喧騒の洪水だ。鼓膜に吸い込
まれた騒音が渦を巻いた。
行き交う人々のざわめきと足音、そして匂い。好ましかった。
安っぽい香水の匂い、ヤニの香り、そしてすれ違う人間から時折漂うエス特有の甘
い体臭。
歌舞伎町セントラルロードからコマ劇場に入った。
練り歩きながら、ダラダラと時間を潰す。ポケットからキャメルのパッケージを取
り出し、タバコを咥えた。
路上に散乱する潰れたタバコの吸殻と空き缶が視界に映った。
空き缶を爪先で軽く蹴っ飛ばした。音を立てて転がった。
玲一はどこで朝を迎えようか考えた。午前零時を回っても未成年者OKの二十四時
間営業の漫画喫茶がいいか、
それともここ、コマ劇場にたむろする餓鬼どもと一緒に一晩明かすか。玲一は考え
ながらいつものように首をゴキリと鳴らした。
ポケットの中身──三十錠ほどの揺頭丸(ヤォトウワン)とエスのパケが五つ──
極上の雪ネタだ。知り合いの売人から分けて貰った。
揺頭丸はMDMAとほぼ同じ成分を持つドラッグだ。主に中国人達が好んで使用す
る。
使用者達が頭を激しく揺らしながら踊り狂う事からその名がついた。こいつを使っ
てのセックスはやみつきになる。
特に汗をかきながらのセックスが最高だ。発汗することによって、このドラッグは
より深いエクスタシーを使用者にもたらす。
里香子への土産物だ。ワンピースを駄目にしてしまった詫びにもっていけば許して
くれるだろうか。
玲一がドラッグをその身体に仕込まれたは十歳の時だ。肛門に無理矢理エスを突っ
込まれ、父親に犯された。
父──黒河剛三(くろかわごうぞう)はロクでもない男だったが、父であることに
は変わらなかった。
一度だけ、許してやった。
二度目──許さなかった。二度目に剛三が圧し掛かった時、玲一は激しく抵抗し
た。
それでも剛三は徹底的に痛めつけて、玲一を犯した。
抗えば肋骨をへし折られ、指の骨を砕かれた。
臓腑を抉るような激痛が脳天を直撃する度に、玲一の憎悪が噴き出した。
胃袋が裂けて血反吐を床にぶちまけるまで、ドテっ腹と顔面を拳で何度もぶちのめ
されても玲一は歯向かった。
仕返しに玲一は剛三の右耳朶をそぎ落とし、左の眼球を潰してケジメを取った。
使ったのは新品の柳包丁だ。良い切れ味だった。
やられっぱなしは玲一の性にあわなかった。
誰かに虚仮にされるくらいなら死んだほうがマシだった。
生まれ持ったその獰猛さにドラッグが拍車をかけ、常軌を逸したその凶暴性を発揮
した玲一は怒りに任せて獣の如く暴れ、
剛三に襲い掛かった。
クスリを使われて快楽に悶え、よがり狂い、剛三から逃れられない自分自身にも玲
一は憎しみを募らせた。
幼かった玲一はセックスというものを知らなかった。
ましてや、排泄する為の不潔な穴にペニスを挿入しようとする剛三の行動は理解の
範疇外の事だった。
あるのは剛三の異常な行為に対する嫌悪感と与えられた苦痛に対する怒りだけだ。
剛三は玲一を拳で殴る。玲一は剛三を包丁で切りつける。
ふたりの関係はただ悪化するばかりだった。剛三は玲一が反撃できないように両手
両足の骨をバットで叩き折った。
地獄のような日々が一年近く続いた。玲一の精神は徐々に蝕まれ、狂っていった。
息子は母親に、娘は父親に似るという。玲一は母親に瓜二つだった。玲一の類い稀
なる美貌は母親譲りだ。
母──奈緒美(なおみ)は赤坂にあるクラブのママを勤めるほどの美形だった。
剛三は妻の面影を玲一の中に見ていたのだ。
何故、奈緒美が剛三のような男から離れられなかったのか。答えは簡単だ。
アディクト──自分と同様に中毒者にされたのだ。剛三は自分に自信の持てない男
だった。
だから妻と息子をクスリで自分から離れられないようにしたのだろう。思えば哀れ
な男だ。
奈緒美は玲一が三つのときに事故で死んだ。運転していたクラウンがトラックと衝
突し、車もろとも大昇天。
文字通りのオシャカって奴だ。奈緒美を失ってからの剛三は何を考えて生きてきた
のだろうか。奈緒美の遺影を抱いて嗚咽する剛三。
奈緒美の骨壷から舎利を取り出し、貪り食った剛三。今も眼を閉じれば、記憶が鮮
明に蘇る。
* * *
壁に捻じ込んだボルトで固定された鎖、その先に繋がった手錠のヒンヤリとした感
触が、玲一の両手首を刺激した。
殴られたこめかみに激痛が走る。最後に月を拝んだのはいつだっただろうか。覚え
ていない。奥歯を噛みしめた。
勝手に両眼から涙が溢れ出る。
顎が砕けるほど、さらに奥歯を噛みしめ、眼球が潰れるほど、きつく瞼を閉じた。
涙──それでも止まらなかった。十坪ほどの狭いスペースの室内は絶望と苦痛に満
ちていた。充満するザーメンと血の臭気。
憤怒と恥辱に声帯を震わせながら、悲痛の叫びを発した。剛三の顔──ナイフでズ
タズタに引き裂いてやりたかった。
死にたかったから舌を噛んだ──死ねなかった。
人間、舌を噛んだくらいでは死ねないのだ。玲一は次に頭を壁に打ちつけた。何度
も、何度も壁に頭を打ちつけながら思い巡らせた。
出来るならば──剛三を道連れにしてやりたかった。剛三を殺せるならば、悪魔に
だって喜んで魂を差し出しただろう。
玲一は自殺を止め、剛三に復讐するチャンスを窺うことにした。絶望的なまでの虚
無感。冥く荒んだ瞳。玲一の魂が慟哭した。
8
──玲一、シャブ、ズケてやろうか?
剛三の生臭い吐息が頬をくすぐった。胸がむかついた。剛三のドロリと黄色く濁っ
た眼が、玲一を凝視した。
──……あっちいけよ。
玲一は顔を背け、吐き捨てるように言った。冷や汗が滲み出てきた。身体が震え始
める。クスリがキレかかっていた。
──シャブがキレかかってるみたいだな。強情を張らずに俺にいってみろよ。『パ
パ、お願いだから僕にシャブを打って』ってよ。
ほら、お願いしてみな……。
──お前なんか死んじまえ……。
剛三の顔に唾を吐いた。
剛三は微笑みながら、頬に張り付いた唾を指先ですくい、美味そうに舐めた。見て
いるだけで胸糞が悪くなる。
──なんだったらまたヘロインをぶち込んで放置してやってもいいんだぞぉ。
玲一の表情が強張った。底無しの恐怖が脳内を硬結させた。ヘロイン──自律神経
が荒れ狂う地獄の苦痛。身体の震えが一層激しくなった。
剛三がヘロインを使うのは快楽のためではなく、拷問として打つのだ。
ヘロインがキレた時に起こる禁断症状の苦しみ。覚醒剤の比ではない。
発汗、嘔吐、流涙、下痢、コールドターキー、血圧上昇、内臓が痙攣し、真っ赤に
焼いた火箸を突き刺すような
、身体中の筋肉を走り回る底なしの苦痛。関節が軋み、全身の骨が霙状に砕かれ、
飛び散るほどの想像を絶する激痛が襲ってくる恐怖。
身の毛がよだった。発熱と悪寒でのた打ち回る光景が脳裏をよぎった。吐き気がし
た。心臓が胸を激しく乱打した。
狂った獣さながらに、玲一はあらん限りの力で叫び、暴れまくった。鋭い痛みを感
じた。手錠が手首の肉に食い込み、血を滲ませた。
──あああああああああああああああああアアアぁぁっ!
玲一の胸臆に谺する怒り、悲しみ、絶望の悲鳴。手首から流れていく生温かい血
が、床を赤く汚した。
──玲一、良い子にしてくれるなら、好きなだけお前にシャブを食わせてやる
よぉ。顔が青ざめてるぞ、辛いんだろう?
俺だって本当はこんな事したくねえんだよ。
口元を歪めて剛三がニヤついている。涙腺が震えた。玲一の瞳から涙が零れ落ちて
いった。精神──限界だった。
──ほら、お願いしてみろよぉ。
玲一は屈辱にただ、嗚咽した。鎖につながれた自分。あまりにも無力な自分。涙で
視界がぼやけた。全裸の肉体──力なく痩せ細っていた。
──……くそったれッ、下種野郎ッ!
剛三は白っぽい傷跡が残る頬と眼球を失った左の瞼を何度もこすった。興奮してい
るのだ。乾いた唇をしきりに舐めている。
この下種は興奮すると、無意識に傷をこする癖があった。剛三の股間──怒張して
いた。
薄汚い剛三の男根──食いちぎってやりたかった。
──いつもズケたりケツに突っ込むだけじゃ芸がねえよなぁ。今日はちょっとばか
し趣向を変えてみたぜぇ。
スラックスのポケットからピンクの容器を取り出すと、剛三は玲一の双腿を割り、
尻房をぐいっと押し広げた。
剥き出しになったアヌスに先端のノズルを差し入れる。
液体が注入された瞬間、肌が粟立った。身体の心までキーンと冷たくなる。
──浣腸にシャブを混ぜてみたのさ。どうだい?最高の気分だろう?
卑しい笑い声をあげながら剛三が猛った一物を太腿にこすりつけてくる。腹部から
くぐもった音が漏れ、便意が腸壁を叩いた。
──ううう……殺してやるッ……
──そういうこと言うとまたお仕置きだぞ?
剛三が後ろに回りこむと玲一は激しく身を捩った。何をされるかわかっていたから
だ。
──おとなしくしろよ。
脇腹に剛三の拳がめり込んだ。クスリのせいでそれほど痛みは感じられなかった
が、肋骨にヒビがはいる程度の衝撃である事は理解できた。
臀部に顔を突っ込むと剛三は玲一の肛門を舌先で舐め回しはじめた。途端に身体中
の血が沸騰し、身体が剛三の愛撫に反応する。
──あううぅーああ……っ。
快楽に悶える自分の身体が疎ましかった。脳みそを両手で掻き毟り、めちゃくちゃ
にしたかった。
──玲一、我慢できなくなったら俺の顔にぶちまけてもいいんだぜぇ。俺は平気だ
からよぉ。愛する息子の糞なら喜んで食えるぜぇ。
剛三の語尾を伸ばすむかつくようなイントネーションが鼓膜に流れ、リフレインし
た。知覚過敏になったアヌスが勝手に剛三の舌を貪る。
玲一の皮を被った未発達の性器が、薄桃色の乳首が硬く勃起していた。今の玲一に
は猛烈な便意すら、甘美な感覚だった。
玲一は自分の身体が本当に自分の物なのか疑いたくなった。
混沌とする意識と細波のように押し寄せるおぞましい法悦に弄ばれながら、玲一の
心は虚空を彷徨った。
五分……十分……十五分……、剛三の腕に巻かれた時計の針の音が静かに刻まれて
いく。
力が抜けた。肛門が緩み、決壊した。
奔騰する熱い液状の黄金が、剛三の顔に降り注いだ。異臭が室内に立ち込み、不快
に鼻腔をくすぐった。
顔面を褐色に塗れさせた剛三が、スラックスの怒張を取り出して猛烈な勢いでしご
きはじめた。
──ハアハアッ、ぬひいいいいいいいいいいッ、うおおおおっ、イキそう
だぁぁっ!
気違いじみた雄たけびを発しながら、そそり起った爆発寸前の赤黒い肉竿を玲一の
肛門に無理矢理捻じ込んだ。
肛門が裂け、血飛沫をあげた。身体中の血管がぶち切れた。眼球が迫り出した。脳
内が業火に包まれた。
剛三は玲一の直腸内部に大量のスペルマを放出した。
──ああッ、この野郎ッ!お前なんか地獄に落ちろッッ!!
闇雲に喚いた。啜り泣いた。この時、玲一の中で何かが壊れた。玲一は自分の身体
に流れる剛三の血を呪った。
復讐──己が壊れるか、剛三を殺すか。殺られる前に──殺れ。玲一の魂が血を吐
くような叫びをあげ、剛三の命を求めた。
汚穢に塗れた剛三は、恍惚とした表情で玲一を眺めていた。凄まじいカタルシス。
己の汚物で下半身を汚し、涙を流す玲一は……悪夢のように美しかった。
9
「はううーっ」
涼の肛肉に埋め込まれたアナルビーズが引っ張られ、ポコン、ポコンと外へ排出さ
れていく。
ビーズの表面は茶色い物が付着しており、それが肛口から出てくる光景はとても淫
らだ。
「ほぉら、もっとお尻をすぼめてないとビーズが出てきちゃうわよ」
涼はベッドの上で四つんばいになったままの姿勢でアヌスを弄ばれていた。ビーズ
がひり出されるたびに、艶ましく呻く。
白いブラに、ピンクのストッキングとガーターベルトを着用した涼は清純な色気を
漂わせ、汗にぬれた皮膚からは、
女とは一味違った官能的な匂いを発散させていた。欲情と快美に濡れた明眸があま
りにもエロティックだ。
屹然としたペニスの先端からは透明な先走り汁が溢れていた。針で突けば破裂して
しまいそうだ。
放射状の襞がめくれ、薄桃色の粘膜が露出した。ビーズが肛門から抜かれると腰椎
に痺れるような喜悦が走り、涼を悶えさせた。
「は、遥(はるか)さん……ッ、僕、もう我慢できないよ……ッ」
「駄目よ。勝手におちん○んからミルクだしたらお仕置きしちゃうからね」
「ああん、そんな……」
肛門が拡張し、皺が伸びきると新しいビーズが顔をだした。ピンクの雛菊が口をパ
クパクと開いたり閉じたりしている。
抜けないように括約筋を引き締めても、アヌスが勝手にビーズを吐き出してしま
う。
「も、もう駄目……ふぐうッ」
「一気にいくわよ」
遥が紐を勢い良く引き抜くと、残りのビーズが肛門から全て引きずり出されてい
く。涼の輸精管から快感が駆け巡り、背筋を貫いた。
「ひゃあんッ」
鈴口からドクッ、ドクッと白濁液が迸り、涼は艶かしい声を張り上げながらシーツ
を汚していった。
「涼のウンチって臭いわ」
動物のように鼻を鳴らしてビーズの匂いをたっぷり堪能すると、遥はビーズの汚れ
を舌で舐め清めた。
「味も苦いわね。それがまたいいんだけど」
遥はサドのスカトロマニアだ。特に女装した美少年の排泄物をこよなく愛してい
る。
「……は、恥ずかしいから言わないで……」
涼がお尻をもじもじと動かし、羞恥に顔を赤面させた。その仕草が遥にはたまらな
く愛しい。
遥がビーズを放り出し、涼の臀部を両手で鷲づかみにすると、尻を割り開き、アヌ
スに舌を這わせる。
「涼の尻ヴァ○ナ、凄くおいしい……」
舌を尖らせ、肛門の中心部分に舌をこじ入れた。根元まで突っ込み、舌先でじっく
りと味わう。
「じゃあ勝手に射精しちゃったお仕置きをするわね。いつもの台詞をいってごらん
なさい」
「ああ……い、いやらしい僕の……ス、スケベな尻ヴァ○ナを浣腸でたっぷり……
お仕置きしてください……」
ベッドに置かれていた長大な浣腸器を掴むと、洗面器にグリセリンと水、そして酢
をなみなみと注ぎ、吸い上げた。
「じゃあいくわよ」
浣腸器のノズルをきゅっとすぼまったアヌスにあてがう。息を詰め、遥がシリン
ダーを押し込んだ。
「ひゃああ……ッ、お、お尻にいっぱい入ってくるぅッ」
途端に萎えていた涼のペニスがまた硬くなりはじめた。下腹部に響く鈍痛が涼を高
揚させる。
白い肌が脂汗でコーティングしたように照り輝き、薬液が腸腔に染み始める苦痛に
涼は身震いした。
「どんどんお尻が浣腸液を飲み込んでいくわね。おちん○んも大きくしちゃって、
ふふ」
ノズルを咥えた美しい菊の花弁を食い入るように見つめながら、遥は媚肉から濃厚
な果汁を滴らせ、陰毛を濡れそぼらせた。
興奮交じりに生唾を飲み込む。
「も、もう出してもいい……?」
腸が裏返りそうな酢がもたらす強烈な便意に涼のアヌスは限界寸前だ。
「まだ出しちゃ駄目よ」
涼が双涙を流しながら耐えた。浣腸液が震える肛門から滲み出る。
「そ、そんなッ、もう、我慢できない……ッ」
遥の指が肛門に潜った。涼の全身が脱力し、隙間からピュルっと薬液が漏れた。
「少し漏れてるわよ」
肛門内部を攪拌し、遥が指を引き抜いた途端、大量の茶色い薬液が放射線を描いて
噴射した。
「ひゃうううッ!」
液体から徐々に粘度の高い物質へと変わり、固形物が排泄されていく。
涼の股間の下に積もった糞便と、涕涙する姿を眺めながら遥は自慰に耽り始めた。
* * *
玲一が剛三の頭を灰皿で叩き潰してやったのは今から三年前の話だ。
このままいけば死ぬか良くて廃人だと悟った玲一は、それから一切の感情の起伏を
表さず、あらゆる自我を押し殺した。
玲一は人形になった。何をされても一切抵抗せず、何でも言われたとおりにする人
形だ。剛三はそんな玲一を嗤った。
人形──聞こえは良いが、ようは生肉で出来た剛三専用のダッチワイフ、溜まった
ザーメンを垂れ流すための生きた便所だ。
監禁される事もなくなった。剛三は玲一に死んだ妻の形見の衣類を着せ、あらゆる
場所へ連れまわして、人目もはばばからずに犯した。
下水道に巣食う溝鼠並に用心深い剛三を油断させるために玲一は耐えた。
恥垢まみれの生臭いナニをしゃぶらされ、薄汚い剛三のザーメンを嫌な顔もせずに
口とアヌスで飲み干す日々だ。
反吐が出そうだった。己の頭を吹き飛ばしてやりたかった。
犯されながら何度も神に祈りを捧げた。剛三に血の制裁を加えられるなら地獄へ落
ちても良いと、何度も祈った。
人形となって一年あまり、復讐だけを考えて生きてきた。復讐のチャンス──神に
感謝した。
常人ならばとっくに発狂していただろう。
あるいは玲一はこの時、すでに狂っていたのかもしれない。ペニスに刺青を彫られ
たのもこの頃だ。
剛三の右腕に巻かれたゴムチューブ、浮き出た血管がエスの期待に脈打っていた。
イク寸前の男根のイメージが頭をよぎる。
注射器、ヤクの甘ったるい臭い、いつもと変わらぬ日常的な風景だ。床には潰れた
ビールの空き缶が転がっていた。
小さなカップにエビアンを垂らし、エスの結晶を放り込むと指で丹念に溶いだ。
指についた溶液を赤い舌で舐める。
──玲一、シャブ、ズケてくれよ。
ソファーに寝転がった剛三が玲一に細い腕を差し出す。ジャンキー特有の肌色の悪
い痩せた惨めな腕だった。
皮膚から浮き上がった青い静脈に玲一は繊細な手つきで注射針を刺した。
少量の血液が注射器の中に逆流し、渦を巻いた。溶液の中で赤い花が咲いた。
剛三の血は鮮やかな深紅の細糸のように美しかった。
玲一は血がクスリと交じり合って消えていく様子を静かに見つめていた。
──おい、さっさとズケろ。
剛三が急かした。玲一は何も言わず、一気にピストンを押した。途端に昏倒する剛
三。大量のエスをぶち込んでやった。
玲一は次に剛三の手足を縛り上げ、起きるまでじっと待った。不思議なくらい、玲
一の心は落ち着いていた。
人間、少しでも隙を見せればそれが命取りだ。相手を餓鬼だと思って舐めてかかれ
ば手痛い目にあう。
剛三は命を代償として支払い、その事を学ぶ羽目になった。高い代償だ。そして教
訓は残りの人生に生かされることもない。
剛三が目を覚ました。驚愕の表情。テーブルに置かれていたクリスタルの灰皿を掴
み、剛三の脳天と顔面を乱打した。
心臓が血液を吐き出し、鼓動を早めた。灰皿を握った腕を振り下ろすほどに激しく
高鳴る。
眼球の真上にある額の部分をぶん殴った。剛三の右瞼から血管に覆われた眼球が飛
び出した。
まるで漫画の一コマのようだった。砕けた前歯が、血と肉片が散乱した。狂気の渦
が全てを飲み込んだ。
抉れた頬の皮膚がベーコンみたいにベロリと剥けて、真っ赤な口腔内を露出させ
た。血が飛び散った。
──この犬畜生があぁぁッ、あんた、オレの親だろうがぁッッ!違うかぁッ?!何
とかいってみろよぉぉッッ!!!
玲一は獣の咆哮をあげながら灰皿を何度も剛三の顔面へ振り下ろした。脳髄が沸騰
した。身体中が燃えるように熱かった。
腹の底に溜め込んでいた鬱憤が一気に炸裂した。剛三の身体が小刻みに痙攣する。
──この野郎ッッ!下種がッ!テメエなんかさっさとくたばっちまえぇッ!!!!
渾身の一撃を脳天に叩き込んだ。灰皿が砕けた。頭蓋骨が割れ、脳漿が腐ったトマ
トのように爆ぜた。
熱いものが込み上げ、玲一の股間が爆発した。初めての射精だった。
空中に舞うキラキラ光るクリスタルの破片──脳みそがビブラートする。狂乱が玲
一の理性を食い潰した。
暴力と快楽──玲一の頭の中で二つは一つのものとして直結した。玲一はこの時、
久遠の闇を垣間見た。
胃袋が収縮した。眩暈、ぶっ潰れて血まみれになった剛三の顔面に玲一は大量の胃
液をぶちまけた。
眼窩から勝手に涙が溢れる。心の箍がはずれた。
──ああああああああああああああああ
あぁぁぁぁぁッッッッ!!!!!!!!!!!!!
玲一は喉が張り裂けんばかりに慟哭の叫びを発し続けた。玲一はこの時、悟った。
オレはやはりこの男の息子だと。
10
剛三殺害後、玲一は二年間、児童自立支援施設で過ごした。剛三を殺しても、結局
自由はつかめなかったわけだ。
施設は居心地はそれほど悪くなかった。同じような境遇の少年達がいたからだ。だ
から、寂しい思いだけはしなかった。
施設ではクスリが手に入らないことだけが玲一にとって唯一の悩みの種だった。
剛三に完全な中毒者にされた玲一はクスリ欲しさに何度も施設を抜け出し、その度
に捕まった。
市立の精神病院で治療を受けてもあまり意味はなかった。厳密に言えば覚醒剤には
禁断症状というものはない。
精神的依存は強いが、身体依存はほとんどないのだ。本人に止めたいという意思が
あれば充分、治療は可能だ。
麻薬中毒とは慢性的な自殺だ。玲一は──死にたかった。剛三を殺して以来、玲一
の心には自殺願望が芽生えてしまった。
十四の誕生日を施設で迎えた玲一は、会ったこともない母方の叔父に引き取られ
た。
退所した玲一は、無為に日々を過ごし、あてもなく盛り場をうろついた。この親殺
しの少年は孤独だった。
孤独はいつだって腐臭を漂わせる。玲一はつくづく人生に嫌気がさした。良い死に
場所はないかと玲一は夜の街を彷徨った。
そして涼と出会った。ギャングどもに襲われていたから助けてやった。
涼からは自分と同じ匂いがした。一緒にいるだけで玲一の血まみれの心が安らい
だ。
同じ匂い──心に傷を持つ者同士だった。ふたりは、お互いの傷を舐めあった。
* * *
遥が切れ長の猫のような瞳で涼を見下ろし、サディスティックに微笑んだ。セミロ
ングの髪の毛がサラサラと静かに揺れている。
少しキツい感じがする女だが、中々の美形だ。百六十八センチの身長は涼より八セ
ンチほど高く、顔は小造りで身体が引き締まっている。
「ほら、しっかりお舐めなさい」
二度目の薬液を注ぎ込まれ、腹部が絞られるような痛みに襲われながら、遥の股間
に聳立するシリコン製の擬似ペニスを懸命にしゃぶる。
「しっかり唾液で濡らしなさいよ。あとで辛くなるのは涼なんだからね」
膨れ上がる便意に耐えながら、涼は一意専心に首を動かして擬似ペニスの表面に唾
液をまぶした。
涼の勃起したペニスの先端に恥蜜が溢れる。雁首のくぼみに舌を這わせながら、歯
で亀頭の先を甘く噛んだ。
偽の男根を口腔で愛撫しながら、これが玲一のだったら……涼はそんな事を思い浮
かべた。アヌスがぢんぢんと火照り疼く。
「ああ……いいわ……もっとしゃぶって頂戴……」
美少年のフェラチオシーンに遥は倒錯的な欲情を掻き立てられ、粘つく愛液が股間
をしとどに濡らしていく。
熟れた女芯から泉の如く湧き出る淫汁がポタポタと零れた。
炎だ。激しい官能の炎がふたりを包んだ。遥は涼を押し倒し、正常位の体勢でディ
ルドウを一気に狭隘なアヌスに突き立てた。
「ああッ!」
涼が肛門を貫かれた衝撃に叫んだ。荒れ狂う便意が腸管を掻き乱し、強烈な排泄欲
に内臓を苛まれる。
遥が涼の薄い胸を円を描くように舐め回し、小さな桃色の乳首をついばむと前歯で
コリコリと甘噛みする。
腋下から発散される南国の果実めいた涼の甘い体臭が鼻腔をくすぐると脳髄が痺
れ、遥の劣情をさらにたぎらせた。
遥が腰を前後にストロークさせ、五臓六腑を攪拌する。内腿が震え、涼が快感に呻
く。
「はううッ……ああんッ」
亜麻色の髪が乱れ、流れる珠の汗が弾けた。熱い快楽に遥が背中を大きく仰け反ら
せ、更に腰の動きを激しくさせた。
双頭ディルドウが遥の子宮に響き、括約筋の締りが法悦をもらたす。
「んふうぅ、いいわぁッ、綺麗な男の子のお尻を犯すのって最高……ッ」
容赦なく肛門をディルドウで抽送する。涼の泣き顔が遥をたまらなく興奮させた。
「あいいッ……は、激しすぎるぅぅッ」
前立腺をえぐられ、最大限に屹立する涼のペニスの根元を遥が思い切り握り締め
た。激痛が涼を襲った。
「うぎいッ、そんなに強く握らないで……」
荒れ狂う腹腔内部と強く握り締められたペニスの痛みに涼が顔を歪めた。
ディルドウが埋め込まれたアヌスから僅かに焦げ茶色の液体が漏れ出す。
真珠色の嫋やかな美しい肢体を強張らせ、涼が切迫する生理的欲求にざわめいた。
ヘルマフロディトス(ギリシャ神話に出てくる両性具有の神)のようなその美貌を
汗で濡らし、身体を震わせながら
涼が羞恥の吐息を切なげにその唇から漏らす。
苦悶に顔を涙でまみれさせながら、アヌスに走る疼きと湧き上がる快感に、涼の充
血器官が脈動した。
深いエクスタシーの波に襲われた遥が貪るようにピストンを繰り返す。
アヌスから出し入れされるディルドウの胴部分には溶けたチョコレートのような軟
便が絡み付き、異臭を漂わせた。
「おおおッ……りょ、涼、ウンチが少し漏れてるわよ、もっとお尻をしっかり絞め
なさい……んんッ」
しかし、不穏な蠕動音を響かせる涼の下腹部はすでに我慢の限界に来ていた。
ギュルルルッ、腸管から恥辱的な蠕音が鳴り響く。羞恥に首筋を桜色に色づかせた
涼が顔を両手で覆った。
「ああ……もう……」
茶色い薬液が涼の尻溝を伝い、太腿まで汚していく。遥が突然、ディルドウを引き
抜いた。
「うあああッ、出ちゃう……ッ」
アヌスが決壊し、激しい排泄音を奏でながら腸に残っていた軟便を撒き散らす。
「いいわッ、もっと出しなさいッ!」
恥辱の混合液を噴出すると同時に鈴口から大量のスペルマが炸裂した。輸精管が破
けるほどの勢いだ。
涼は恍惚とした表情のまま、排泄の辱悦を極めた。
涼はシャワーを浴びて遥と一緒にホテルを出た。遥とのセックスは今回で最後にす
るつもりだ。
玲一の居ない寂しさを紛らわせる為に抱かれていたが、もうその必要もない。遥と
いう名前も偽名だろう。
変態バーで知り合っただけの女だ。今はもう興味もない。
途中、ナイフショップに立ち寄って玲一が前から欲しがっていた象牙のバリソング
ナイフを買った。
薄く鋭いブレードは、よく切れそうと思った。
11
ベッドに仰臥する里香子の上にのしかかり、玲一が子猫のように顔をペロペロと舐
める。
閉じた瞼に舌を這わせた。球体の感触が舌先に伝わった。眼球は完全な球体ではな
く、僅かにくぼみが感じられた。
里香子が眼を開いた。麝香猫の如く輝く瞳がじっと里香子を凝視した。
「里香子、もう昼だよ。起きたほうがいいよ」
「玲一……いつ帰ってきたの?」
「ついさっきだけど」
玲一が里香子の目尻をゾロリと舐めあげた。首筋に鼻をあてて匂いを嗅ぐ。子犬が
じゃれつく仕草にそっくりだ。
「お土産もってきたよ。これ、極上のマブネタだよ。使ってみな、凄く冷たくなる
から、頭がキーンとくるよ。
イラン人のプッシャーが売ってるような混ぜ物だらけのとは質が違うよ」
目の前に差し出されたパケのなかには白い結晶がはいっていた。玲一がパケを揺ら
しながら無邪気に微笑む。
「エス以外にも揺頭丸に草とかもあるよ。里香子、草好きでしょ?ごめんね、里香
子に貰ったワンピース、駄目にしちゃった。
だからオレ、昨日クラブとか駆けずり回って色々貰ってきたんだ」
里香子が玲一の頭を優しく撫でながら言った。
「気持ちは嬉しいけど、あたし、マリファナ以外は手を出さない事にしてるのよ」
「じゃあ、これ無駄になっちゃったかな。ねえ、ワンピースの事怒ってない?」
玲一は駄目にしてしまったワンピースを気にかけているようだった。