『聖ひいらぎ受難記』




 机の上をかたづけて、時計を見たら4時をまわっていた。
 バッグを肩にかけ、ちょっと会釈してから職員室を出る。
 少し急ぎ足でチャペルの裏についた。
 そのまま階段をのぼって、聖具室のドアを開くと、となりの温室から濃い草と花の香りが流れこんでくる。
 ここだけはひとあし先に夏が来ている。柊の姿はみえない。
 かすかなノック。
「あの・・・なんですか。用って」
 柊が立っていた。

 わたしはすこし息を吸いこむと手招きした。今日はちょっとヒールきつい。
「ひいらぎくん」
「・・・?・・・」
「ひいらぎくん、さいきん元気ないよ」
「・・・・・・・」
「せんせい見てるとね・・・」
「・・・・・・・」
「はなしてくれるかな?わけ。よかったら」

 でも、柊は黙りこくったままうつむいてる。あ、もしかしたら
「いじめられてるの?誰かに」
 ふるふると首を振るひいらぎ。
「男子?それとも女子?」
 やっぱり答えない。
 ふーーーん。しょうがないなー。じゃ別の方法、考えますか♪


ドアに鍵をかける。こんな時刻、こんな部屋には誰も来ないけど。
柊、警戒してる。

「なに。にらんでるの??」

「だって、それ・・・それ・・なんですか・・・」
これー?このトートバッグ?
「イースターのプレゼントだよ。ちょっと遅くなったけど」
「・・・いーすたー?・・・」
そう。柊、最近元気ないからプレゼント。せんせいからの。
「ほら、イースターエッグ」
「・・・」
「それとーー」
あれ、どこいったかなー。あっれだけ足棒にして探し回ったヤツ。
「あー。あったあった。ほらイースターバニーの付け耳ー」

柊、きれた。
わたしが付け耳カチューシャをかざすと、
ぺし。
はたき落とした。
こいつー。

すかさず柊のタイをつかんで、胸元へ引きずりあげた。同時に半ズボンの中心に一発。右ひざで。
「あのさ、ひ・い・ら・ぎー」
柊、咳き込んでる。必死ににらみつけてるつもり?でもほろほろしたのが目から流れてるよ。
あー、けっこうまつげ長いんだこいつ。クスクス。

「せんせいが、せっかく君のためにさ、買ってきたプレゼント、どうしてー」
ぶぅんと振り回す。柊、軽すぎ。おらぁ♪
「−どーして、こんなこと・するぅー?」

ごす。と頭を壁にぶつけてやった。泣いてる。でもまだにらんでる。
今日はスカートはいてきたけど、柊を両膝のあいだではさんで固定。
「そぉーーいう聞き分けのない男子はぁー」
思いっきり、柊の耳をひっぱって、瞳を覗きこんでいってやる。
「お仕置き。ね」



 あれ?柊、急におとなしくなった。
 顔色、青くなってる。ふむ。
「お仕置き」っつうのが効いたかなー。

 左手でタイをつかんだまま、柊に命令する。
「開けなさい。ほら」
 下唇をかみしめて、柊はイースターエッグをとりあげ中身を開いた。
「やだ」
「なに??」
「ぜったい。や・だ」
 生意気。で、小突きまわしてみた。でも柊、しゃくりあげるばっかり。
 まー、わたしのイースターエッグは、玉子の形をしていない。
”にゅるん”としたイチジク形、グリセリン溶液が入っているからねー。たっぷり200cc。

「ね。ひいらぎ」
「・・・・・・」

 真っ赤になった柊の耳元に口をよせた。ふーっと、シャンプーの匂い。日なたの匂い。

「前からさ、気になってたんだー。せんせい」
「・・・?・・・」
「最近のひいらぎ、様子がおかしいって・・・・・・」
「・・・?・・・?・・・」
「だからね・・・答えなさい・・・。正直に」

 すうっーと、柊の閉じられた内股にそって右手を沿わせてゆく。上へ。
 シルクみたい。さらさらー。ふふん。

「・・・・・ひどいめにあわされてるんでしょ?すきなひとに・・・」
「・・・・・・・・!!!・・・・・・・・・」

 柊のひざがガクガクふるえ始めた。
 上昇がおわった。
 いくよ・・・柊。



 椅子をひいてきてすわる。
 柊をわたしの左ひざの上にちょこんとまたがらせた。
 手を伸ばして、うさぎの耳をつけてから、髪を整えてあげながら、
「教えてくれるかな?せんせいにさ、ひいらぎ」
「・・・・・・・」
 じっとにらんでる。つもり?でも澄んでる。柊の瞳。
「答えがないね・・・」
「・・・・・・」
「じゃ。いこっか」
「・・・?・・ど・・こ・・・」
「てんごく」
 答えざま、わたしの指が白い蛇のように柊の肢のつけねから半ズボンの間にすべりこんだ。
 ひゅうっと息をすいこむ柊。
 ちゅくん。ちゅくん。
 熱い。中は柊の体温と汗であつい。溶鉱炉みたい。
 くしゅ。くしゅ。
 いきなり柊、びくんとのびた。両足、ほとんどつま先立ち。うさぎ耳がゆれてる。
「〜〜〜っ!〜〜ゃゃーーめーーー」
「ん〜〜♪?」
 わたしのひざと柊の肢をからめてから、ポーチを開けて外科手術用の多孔性ゴム手袋をとりだした。
 クキョクキョ。両手の指を組み合わせて、なじませる。うしゃあ。
「やめるって、ひいらぎー。イヤなの?」
 柊。こくこく。
「ふぅーーーーっって、じゃ、どうしちゃったのかなあーー。ひいらぎー。ここぉ?」
 柊のなかに入るひみつの扉のドアノブみつけた。ぬるぬるしてるー。にぎりにくいー。
 ぐっっと力を入れるとひねってみる。
「〜〜〜〜!!〜〜〜ぁ」
「???なんか。・・・・いってることと違うね。ひいらぎ」
「!!!へ。へんた・・・い」
「変態はキミでしょ〜〜うさぎみみのボクー♪」

 じっっと視線をあわせたまま、さらに奥へ指を這わせていると・・・ハケーン!
 隙をあたえず、イースターエッグ注入。
 ぢゅく。ちゅくん。
 もう柊、肩で大きく息をしながらひっしに耐えてる。ケナゲー。

 


ごるん。ごるん。ごご、ごごごごごごごごごご。
土曜の夜、遠くから聞こえてくる、田舎の暴走族みたいな音。
ぎゅっと閉じられた柊の両足、その上から聞こえてくる。
両手を後ろに組んでる。
なんか、素直だなー。素直すぎない?
もっと、こうー抵抗するものじゃない??

「ね。ひいらぎ」

「・・・・・?」
泣きぬれた黒い瞳でじっと見上げてくる。
手袋をはずして、なみだをぬぐってあげながら、

「なんで、なんで抵抗しないの?こーんなひどいことされてるのに・・・」

「・・・・・・」

「どして?」
答えない。うつむいちゃった。
カタカタふるえてるー。
ん。なんかにおう。
他の人間のああいう匂いって、ちょっとわからないものなんだー。
柊、ひざがわなわな。
白い太ももの内側ー右側ーのうえから、茶色い筋が一本降りてくる。
あっという間にふたつ、みっつに増えて、一本の太い筋になった。
ソックスとうわばきを浸すと、あしもとにどんどん溜まっていく。

制服の半ズボン、すきまからなんかみえる。
最初みたとき、おもわず海にいるへんな生きものを思い出した。
なまこ?みたいな。
それが、つつーーーっと、茶色い筋の上をはって降りてくる。
うわ。

何時間たったんだろ。でもやっと陽がおちたくらいだから、まだそんなに経ってないはず。
柊、ぺた、とひざを開いて座りこんでる。
床の上、みずたまりにうさぎ耳が落ちている。
温室の花、と柊の匂い、がまじりあってる。
もう声もでないのかな。ひゅんひゅんしゃくりあげてるだけ。
きょうはもう限界かー。
ほら、立ちなさい。
窓のそとに、いつのまにか三日月がかかってた。

 

(オワリ)