『Evil stream 〜エビルストリーム〜

 TYPE-A 0001




「……フジワラ様、旦那様の邸に着きました……………………フジワラ様、起きてください…………フジワラ様……」
「………ん……」
 心地の良い椅子に座っている内に俺は眠っていたらしい。女の声に俺の意識は夢から引き戻された。
 いつのまにか車の周りの景色は森ばかりになっていた。そして目の前には、俺などが何年働いても決して得られないような巨大な財力、それを象徴するような巨大な屋敷が聳えている。
 着いたのだ。
「目が覚められましたか?」
「…ああ………」
 車から降りた俺を外国の激しい熱気が包み込む。
 熱気は温度だけではなく、異常な湿度も伴ったものだった。衣服の下からみるみる汗が噴き出してくる。
「暑いな……」
「フジワラ様は日本の出身でしたか?」
「ああ」
「それではここの気候は少々辛いかもしれませんね」
 四季の穏やかな日本に住み慣れた俺にとってここは暑すぎる。
 木々の隙間から刺す陽の光だけでも肌がチリチリと焼けそうだ。そして高い湿度が俺に滝のような汗を流させる。
 早く館の中へ入りたかった。
「それではこちらへ」
「ああ」
 俺は女に連れられ、屋敷の中に通された。

 俺は旧友に呼ばれた。この館の主に呼ばれた。
 友人が何故、数年も互いに音信のなかった俺を呼んだのかは分からない。
 今更、俺などに何の用があるのだろう。


 屋敷に入った俺を案内するために奥から来た少女を見て、俺は少しの意表を突かれた。
 メイド服だったのだ。
 14,5程の小さく可愛らしい少女が、中世のメイド衣装をして俺を出迎えた。まだ幼い表情の少女は、おどおどとした目で俺を見上げている。
「これは……」
「旦那様の方針で御座います。この館内の使用人は全て、メイドの衣装を着用にとの事です」
「そうか」
 女はそれだけ言うと俺を放置し、館の奥へといってしまった。
「あの………フ、フジワラ様」
「ん?」
 残された少女はぺこりと頭を下げて言った。
「私、使用人のシルクと申します」
「俺は藤原だ」
「はい。フジワラ様、こちらへどうぞ………」
「ああ」
 おずおずとした態度のシルクに連れられ、俺は旧友の場所へと案内される事になった。


 館内は荘厳そのものだった。
 調度品は勿論の事、灯り、窓、そして床や壁までもが、優雅であり、美しく、誇らしく、全くもって見事な造りだ。床にも何処にも塵一つ落ちていない。きっと使用人達が毎日丹念に清掃しているのだろう。
 そして、荘厳さを醸し出しているのは物だけではない。この静けさだ。
 森に囲まれた館の中は一切の音もなく、俺達二人の足音だけがこつこつと響いていた。
 耳が痛くなるほどの静けさだ。
「すごいな……」
「え?」
「この建物がだよ……」
「あ、はい……」
 シルクは疑問を含んだ眼差しで俺を見上げた。
「……フジワラ様は旦那様の御友人の方であられませんでしたか?」
「何年もあってないがな」
「そうでしたか」
「何の用事で今日呼ばれたのかも分からん」
「それは……」
 シルクの声のトーンは少し落ちていた。
「君は知っているのかい? 俺が何故ここに呼ばれたのか」
「はい。ですがお話は直接旦那様がなさるそうなので…………申し訳ありません」
「いや」
 なるほど。管理はしっかりと行き届いている。
 あの男らしい。
 

 シルクは扉をノックし、強く、そして凛とした声で言った。
「旦那様、フジワラ様をお連れしました」
 よく響いた声はこの厚い扉の向こうにまで届いただろう。
「通せ」
 暫くして返事が返ってきた。
「フジワラさん、入りましょう」
「ああ」
 シルクに連れられ、俺は部屋の中に入った。
 そこはガランとした広い食堂だった。
 長机の一番奥にこの館の主がたった一人だけで俺達を待っていた。
「久しぶりだな、フジワラ」
「アントニオ……」
 アントニオは変わっていなかった。
 最後に分かれたあの日のように、冷酷な表情であり、その深く暗い瞳には未だ消えぬ野心の火が燃え盛っていた。
「今頃俺を呼んでどうしようってんだ? 俺はお前と違って何も力はないぞ」
「ははは。久しぶりに会ったのに、お前は変わってないな。安心したよ。まあ座りな。飯でも食いながら話そう。シルク、お前も座れ」
「はい」
 俺達はアントニオの声に促されるまま、彼と真っ直ぐ向かい合う席に二人並んで座った。
 間もなく隣の厨房への扉が開き、初老のコックの男が料理を3人分運んできた。
 俺とシルク、アントニオの前に激しい熱気の湯気を放つ料理が並べられる。
「フジワラ。日本の料理を用意するか、この国の料理を用意するかで迷ったのだが、やはりこの国のコックに日本の料理を作らせるよりは、己が最先端であるこの国の料理を用意させようと思った。口にあえば良いのだが」
「気を遣わせて悪いな」
「なに。数年振りの友人との再会だ。そして、今になって突然呼び出したのもオレだ。少しは気を遣わせてくれ」
「大丈夫だ、好き嫌いはない。美味そうだ」
「それはよかった。では頂くとしよう」
 ナイフとフォークに手をつける前に、アントニオとシルクは手で祈りをきった。俺も彼らに習い、祈りをきってからナイフとフォークに手を付けた。


「それで話というのは何だ、アントニオ」
「…うむ。実はそこのシルクを今年から他の使用人の教育係に当てるのだが」
 目でシルクを差すアントニオを見て俺は少しばかり意表を突かれた。この若い少女を教育係にさせるのか。
「もちろん教育係といっても、まだ雇い入れたばかりの幼い者達が相手だ。こう見えてもシルクはもう長い間ここで働いている。能力的には申し分がない。知識も多ければ、機転もよく聞く。教育も受けさせた。行く行くはオレの片腕になってもらうつもりだ」
「ふむ」
 俺はちらりとシルクの顔を覗き見た。恐縮している。当然か。
「だが、シルクにはまだまだ人を扱う者としての実戦経験が不足している。フジワラ、お前にシルクの面倒を見てほしいのだ。お前ならオレのやり方、考え方は分かるだろう?」
「つまり教育係の教育係、か」
「そういう事だ。お前がこの館に滞在する間の面倒は全てこちらでみるし、勿論給金も払う。こんなものでどうだ?」
 アントニオが示した金額は俺の予想を遥かに上回るものだった。
「随分と気前がいいな」
「それだけお前を買っているのだ」
「期間は?」
「1年だ」
 1年……。
 俺には家族もいなければ、帰りを待ってくれている恋人もいない。
 金もなければ、将来になにかの目処があるわけでもない。
 そして、正直に言えば、この小さな少女の専属教育係になれるという優越もあった。
 シルクは可愛い。
「分かった。引き受けよう」
「そうか。ではお前のスイスの口座を作り、そこに振り込んでおこう」
 スイス銀行……。
 いきなり雲行きの怪しい話だった。
 が、この男の悪事は今更始まった事ではない。俺も一つ乗ってみる事にしよう。


 食事を終えアントニオが立ち去った後、俺はシルクに館内を案内された。
 先程いた食堂、厨房、大浴場、礼拝室などから庭まで一通りを案内してもらった。
 来たばかりの時はシンと静まり返っていた館内も、今は使用人が忙しそうに駆け回っている。
「いきなり人が増えたな」
「さっきまではお祈りの時間だったんです」
「ああ、なるほど。それはまた忙しい時に邪魔してしまったものだ」
 食事の前の祈りといい、何かの宗教を信仰しているようだ。それがアントニオの方針なのか、この国の習慣なのかは俺には分からない。
 だが、業にはいれば業に従えという言葉もある。
 俺は宗教の勉強をしたわけではないが、この館内にいる間はここの習慣に合わせるようにしよう。


「あ、メイ! どこいってたの!」
 しばらく俺と一緒に歩き回っていたシルクが、通りかかる金髪の男の子を見るなりそう叫んだ。
 メイと呼ばれた男の子は、少女よりも少女らしい可愛い風体だった。
 顔もさることながら、シルクよりも小柄で華奢。まるでスレンダーな少女のようだ。
 やはり、シルクと同じようなメイドの格好をしているが、下は当然スカートなどではなく、半ズボンだった。半ズボンからニーソックスまでの外気に晒された白い足は綺麗で、触りたくもなってくる。
 さらさらの金髪も美しい。
 絶世の美少女のような男の子だった。
「仕事ですよ。シルクさんこそ、お仕事中に男の人連れて歩いてるなんてすっごい不謹慎極まりないですね。随分歳の差もあるし、まるで援助交際みたいです」 
 まだ声変わりもしていないメイの言いたい放題の言葉に、シルクの顔は真っ赤に紅潮した。
「ば、ばか! なんてこと言うのよっ!? この人が旦那様のお客様のフジワラ様よ!」
「……え?」
 メイは俺の顔を不思議そうな顔をして眺めていた。
「そうなんですか?」
「ああ。アントニオとは古い関係だ」
「ほら、メイ、挨拶しなさいってば!」
 シルクに促されたメイはおずおずと頭を下げた。
「あ、えっとえっと…………失礼しました。掃除係のメイです」
「うむ。俺は藤原という」
「はい、フジワラ様ですね。よろしくお願い致します」
 にこっと笑うメイの頭に、シルクが拳骨を落とした。
「痛っ!? なにするんですか、シルクさん! 今のはちゃんとやったじゃないですか。シルクさん、自分が笑顔似合わないからって、ぼくに当たるのはやめてください。みっともないですよ」
「メイ! 今のゲンコツはさっきの暴言の分よ! 私はあなたよりも1つ位が上になったの。言葉には気をつけるように。そういう不適切な態度、旦那様に見られたら怒られるわよ」
「ここにはその旦那様もいないから平気です…………痛っっ……!」
 またシルクの拳骨が落ちた。
「一々殴らないでくださいよ! 口で言ってください!」
「あなたがその口で聞かないからでしょうが……」
「暴力ばっか振るってる女性には天罰が下りますよ?」
 シルクは大きく溜め息をついて、俺の顔を覗き見た。

 なるほど。
 この少年をシルクに服従するように手向ければいいのか。
 簡単な事だ。もちろん、シルクに俺とアントニオのやり方を教えるというのも、目的の一つだろう。
 この少女に大人の汚いやり方を実線させるのだ。


「シルク。少しこの子とお話がしたいのだがいいかな?」
 まずはこのメイという少年がどんな人間なのか観察しなければならない。
「あ、はい。ですがメイにはまだ仕事が……」
「俺も手伝おう」
「分かりました」
 シルクは頭を下げた。
「それではフジワラ様のお部屋へは今夜20時頃に伺わせて頂きます。私は他の者を見て参りますので、少々失礼します」
「うむ」
 シルクが去るのを見て、メイは安堵の溜め息を漏らした。
「やっと、鬼婆ぁがどっかにいってくれました……」
「彼女は君の先輩なのだろう? そんな事を言うものではない」
「それは分かってるんですけど………」
「ふむ」
 シルクの前では反抗的な態度を取ってはいたものの、今は素直なものだった。
「フジワラ様、移動しながらでもいいですか? ぼくの仕事あっちなので」
「ああ」
 俺はメイの後に続いて歩いた。
 今しがたシルクに道案内してもらったばかりだ。この先には大浴場があるだけだ。
「風呂場の掃除か?」
「はい」
「大変そうだな」
「あ、フジワラ様は見てるだけで大丈夫です。ぼく1人で大丈夫です」
「まあ、そういうな。こう見えても風呂場の掃除は得意だ」
 正直、あの広さの浴場を掃除するのは気が滅入るが、だからといって目の前でメイ1人働かせて高みの見物というのも気が引ける。
 また、メイと連帯感を持つ事は大切だった。信用は稼いでおいた方が良い。
「つーかですね。なんで、あんなにすぐ暴力ばっか振るうんでしょう、シルクさん。将来が心配です」
「君が言う事を聞かないからだろう?」
「暴力振られるから反抗したくなるんです。バネとおんなじです」
「なるほど」
 では今晩、そのバネがひしゃげ曲がる事になる。


 浴場の清掃を終えたのは陽が傾き、窓の外の風景が赤み出した頃だった。
 大きな窓の外は森だった。この屋敷の人間は森の風景を見ながら入浴するらしい。
 この浴場には女も入るのだから、覗かれたら大変かとも思ったが、この辺りに住んでいる人間はいないのだろう。館の住人にも教育は行き届いているに違いない。
 しかし腰が痛む。俺も歳を取ったのだろうか。
「フジワラ様、ありがとうございました。おかげでいつもより早く終わりました。時間にゆとりができました」
「そうか。それはよかったな」
 これでいつもより早く終わったと言う。
「ねえ、フジワラ様?」
 メイが俺の前に回ってにこにこと笑って言ってきた。
「せっかく時間も空いてることだし、よかったらお風呂一番に入らないですか?」
「いいのか?」
「だいじょーぶですよ☆ 本当ならこの時間はまだ掃除中だし、掃除中の看板も出しっぱなしだし。バレないですよ」
 確かに今日は汗に塗れている。ここらで湯船にでも浸かりたいところだ。
「ではそうしようか?」
「〜♪ そう答えられた時にために、もうぼくとフジワラ様の入浴後の着替えは用意してあります。さ、入りましょ?」
 悪戯っ子のようにくすっと笑ってメイは言った。
「ああ」
 森を背景に大浴場に浸かる。
 なるほど、なかなかいいものかもしれない。


「うお!?」
 脱衣場で俺の前で無防備に衣服を脱ぐメイを見て俺は慌てた。
「どうしたんですか?」
「……いや。なんでもない………」
「?」
 一瞬女が服を脱いでいるように見えたのだ。
 俺は内心を悟られぬよう、努めて落ち着いた返事をしておいた。
「じゃ、早くいきましょうよ」
「ああ」
 服を脱いだ俺は腰にタオルを巻いていたが、メイは素っ裸そのものだった。
 まるで少女のようなメイだったが、やはり胸などなく、股間には小さな男性器が生えていた。
 隠そうともしていない。さすが外国だ。開放的だ。
 男同士だからなのだろうが。
「お風呂一番乗りですね」
 俺に背を向けメイは浴場へと向かう。
 不本意ながら俺はその尻に目を奪われた。
 真っ白で染み一つなく、程よく張っていて、垂れてもいない尻。
 あの尻の割れ目を触りたい。
 尻の割れ目を撫で回したい。そんな欲望が俺の中に駆け巡った。
 メイは無防備だった。触ろうと思えば触れた。
 俺はあえて我慢した。そんな事をしてはいけない。

 だが、結局は誘惑には勝てず、俺は浴槽の中でうっかり当たったフリをして、メイの尻に触った。
「ひゃあっっ!?」
「おお、悪い」
 右手の平が今確かに、メイの尻の割れ目にあたった。
 正確には手の平に尻の左右の両山がふれた。
 メイの尻はとても柔らかく、俺は訳も分からず楽しい気持ちになれた。


 風呂をあがり、夕食を済ませ、俺は用意された部屋のベッドで寝転がっていた。
 電灯は消してあるから部屋の中は真っ暗だ。俺は暗いほうが考えがまとまる。

 ここが1年間、俺の使う部屋だ。自由に使っても良いらしい。
 快適だ。
 ベッドも柔らかく空調も心地良い。
 このまま気を抜けば、明日の朝まで熟睡している事だろう。
 だが、遊びに来た訳ではない。
 しっかりとアントニオの頼みを果たさないといけない。
 あの男がなにを考えているかは関係ない。俺は彼に頼まれた仕事を果たすだけだ。
 メイをシルクに服従させる。
 それも俺達のやり方でだ。

 扉がノックされた。
「……フジワラ様。シルクです」
「ああ」

 遠慮がちにシルクは扉を開け、頭を下げてから部屋の中に入ってきた。
「メイをお前に服従させる」
 俺の言葉にシルクは一瞬表情を顰めたが、すぐに頷いた。
「……はい」
「ほう? 俺達のやり方は分かっているのか?」
「はい。旦那様に教わりました」
 それなら話は早い。
「メイは間もなくこの部屋に来る。呼んでおいた」
「はい……」
「あくまで服従させるのはお前だ。俺はアシストだ。心の準備はできてるか?」
「…………」
 シルクは肯定とも否定とも取れない表情で迷っていた。
「……メイを調教するのですか?」
「覚悟は決めておけ。メイが泣いても叫んでも、服従しきるまではお前は決して許してはならない。いいな?」
「…………」
「返事はどうした?」
「………分かりました」
 シルクははっきりと頷いた。


 再び部屋にノックの音が響いた。
「メイです」
「入れ」
 扉を開け、部屋の中を覗き、すぐに頭を下げたメイの表情には『?』がいっぱいだった。
「真っ暗ですね?」
「ああ、考え事をしていてな。今、部屋を出る」
 俺がベッドから起き上がると、シルクも俺の後に継いだ。
「……シルクさんもいたんですか?」
「フジワラ様は私の先生に相当されるのだから、一緒にいても変じゃないでしょ?」
「変じゃないですけど……真っ暗だったじゃないですか…………痛っ!?」
 またメイの脳天にシルクの拳骨が落ちた。
「フジワラ様に失礼でしょ! なんて事言うのよ、あなたは!」
「だから、すぐに殴るの止めてくださいよ!……………怪我したらどうするんですか!」
「そういう事言う前にフジワラ様に謝りなさいって言ってるのっ!」
 メイの頭を手の平で押さえ、シルクも俺にぺこぺこ頭を下げる。
「おい、遊んでないでいくぞ」
「あ、はい! メイいくわよ?」
 俺が部屋を出ると、シルクはメイの腕を引いてついてくる。
「どこに向かうんですか?」
「あなたは黙ってついてきたらいいの!」


 長い一本廊下を歩き続けた。
 何と広い館なのか。数十分歩き続け、ようやく目的の扉が見えた。
 メイが首を傾げている。
「あそこに行くんですか? 入ったらいけないって言われてますけど……。それに鍵も掛かってるし」
「シルク」
「はい」
 シルクは懐から鍵を取り出し、鍵穴に差し込んだ。
 カチャリ………と、硬い金属の小さな音が鳴り、鍵は解かれた。
「あの……なんの仕事ですか? どうしてシルクさん、そこの鍵持ってるのですか?」
「旦那様から直接与えられた仕事だからよ。一々細かい事突っ込まないの」
「はーい……」
 扉を開くと、冷たく湿った空気が鼻についた。黴のにおいもする。
 中は地下への階段が続いていた。
「行くぞ」
「はい……」
「はい」
 俺はシルクとメイに先に階段を降りさせ、俺は最後に扉を閉め、内側から掛ける専用の鍵を一つ掛けてから階段を降りた。
 これで逃げられない。


「な、なに、ここ…………!?」
 メイの震えた声が地下室に響いた。
 その石畳の部屋は中央に三角木馬が置かれ、また棚には鞭やバイブレーターなどの陰具が所狭しと並べられていた。
 あまりにもショックだったらしい。メイは腰が震えていた。
 幼いメイでも、この見る物を圧倒する三角木馬という拷問具は知っているようだ。
 シルクは初めからこの部屋が何であったか知っていたらしく冷静なものだ。
「メイ。これからあなたを調教するの」
「ちょ、調………!? ま、待って…………なっ………なにそれっ!?」
 メイの素っ頓狂な声に、シルクは壁に掛けられていた鞭を一振り手に取り、そして床に叩き付けた。
 鞭の激しい音が室内に響き、メイはいよいよ持って震え上がった。
「メイ? 逆らったらこれであなたをシバくから。痛いわよ?」
「……な、なんで…………!?……冗談………………ぃっ!?」
 シルクは有無も言わず、鞭をもう一回床に叩きつけメイを震え上がらせた。
「……逆らうのは許さないから………いい? まずは下に履いているものを脱いでよ」
 シルクがそう命じても、メイは動かない。動けないのだ。ずっと震えている。
「メイ……!」
「……! だ、誰がそんなこと………!」
 シルクは黙ってメイに鞭を振り下ろした。


 地下室に肉を弾いた乾いた音が響いた。
「……!? ああぁあぁあぁあぁあぁああぁっ!?!??」
 メイは鞭で打たれた横っ腹を両手で摩りながら、床を転げ回っている。
 涙をぼろぼろに流して転げまわっていた。
「い、痛っ………痛ぁあぁ…………!!」
「痛いでしょ? 言うこと聞かないから。もう一回シバかれたい?」
 メイは顔を真っ青にして首を横に振った。
 鞭はメイに十分な恐怖を与えたようだ。
 今のところ俺の出る幕はない。シルクの手並みを拝見させてもらおう。
「それじゃあ、まずズボンと下着を脱ぎなさいよ……」
「…………」
 メイは動こうとしない。
 震えている。
 シルクが威嚇に鞭を持った手を振り上げると、メイはびくっと震えた。
「や、やめて…………! ん、脱ぐ……脱ぎます………!」
 目尻に涙を浮かべながらメイはズボンのホックを外し、片足ずつ抜いてズボンを脱いだ。
 メイの白い脚や腿が露になる。
 腿から尻に掛けての柔らかなラインは一品で、その趣の人間には堪らないものがあったに違いない。
 涙ぐみながらズボンを脱いで脚を見せるメイが、俺にもシルクにも妙に色っぽく見えた。
「…ぁ……!?」
 メイの白いはずの下着は黄に染まっていた。
 股間から内股に掛けて尿が線を引いていた。
 黄色い水の線は最初細い2、3本の線だったが、川は混ざり、太い1本の滝のように、メイの股間から流れていた。
 鞭で打たれた時から、あまりの激痛に失禁していたのだろう。
「い、いや………!」
 メイは顔を真っ赤にして股間を両手で隠した。
 それでも失禁は続き、尿は脚から石畳の床へと広がっていく。


「メイ、下着も脱ぐのよ」
「…うぅ………!」
 シルクの冷徹な言葉にメイはとうとう泣き出してしまった。
 綺麗な顔を涙に濡らして、メイは嗚咽を漏らして肩で泣いている。
「…ひ……非道いよっ…………シルクさん………なんで…………!」
 シルクはちらりと俺の表情を伺ったが、俺は目だけで返した。
 ここは甘やかす所ではない。
「メイ。脱ぎなさい……!」
「……!」
 鞭の音が響いた。
 シルクが床を鞭で叩きつけたのだ。メイは泣くのもやめて、驚いた目でシルクを見上げ震えている。
 甘いな。
 シルクもまだまだ甘い。今のはメイを叩き伏せるべきだ。
 震えながらもメイは下着を片足ずつ脱ぐ。
 脱ぐ時の片足をあげる瞬間、太腿から尻にかけての丸いラインがまた俺の目を捉えた。
 女ではないが、こいつは愉しませてもらえそうだ。


 下半身は裸にされたメイは両足をぴったりと閉じ、恥ずかしそうに頬を紅潮させ手で股間を隠している。
 風呂場のように開放的に、とはならないらしい。
 むしろこの恥じらいこそが大切なのだ。
 羞恥に即けこんで堕とす事もできる。
「シルク。まずはお前の思うようにやってみろ」
「……はい」
 シルクは大きく深呼吸し、そして命令を下した。
「お尻をこっちに向けて……四つん這いになりなさい……」
「………」
「早く……!」
 シルクの鞭が唸り、メイの腿に叩き付けられた。
「痛ぁっっ!!」
 鞭の派手な音を鳴った。
 メイが鞭で打たれた箇所を両手で押さえて蹲る。
「四つん這いになりなさいよ」
「うぅ……!」
 痛みに涙を流しながらも、メイは四つん這いになり、俺達に尻を向けた。
 本当に綺麗な尻だ。
 尻の肌も然る事ながら、あの割れ目のラインが美しいのだ。
 メイの尻は今すぐにでも何かをぶち込みたくなってくる。
 俺はメイの表情を伺った。
 なるほど。痛みだけではなく羞恥に顔を赤く染めていた。
 なかなかそそられる表情だ。


「その格好のまま、自分でお尻を広げなさい」
「……! そんな……!」
「うるさい……。鞭でシバかれたいの?」
 その言葉だけでメイはもう震え上がっている。
 泣く泣く、メイは犬のように這った姿勢のまま、俺達に向かって自分で尻を左右に割り開いた。
「〜〜〜〜!!」
 割れ目の中央では、ひくひくとメイの尻穴が収縮していた。
「ねえ、メイ? こんな格好でお尻の穴まで見られてるってのはどんな気分?」
「…………」
「どんな気分なの……?」
 シルクがメイの首元を押さえ込んで脅すように囁くと、メイはぼそっと小さく答えた。
「……うぅ………恥ずかしいです………」
「恥ずかしいの?」
 メイはこくんと首を縦に振って頷いた。
「恥ずかしいんだ? いつも私に逆らってばかりいたあなたがね。ねえ、メイ? あのさ…………」
 シルクはメイの耳元で囁くと、メイは顔を真っ赤にした。
「……い、いや…………!! そんなの…………絶対嫌………!!」
「鞭で叩かれたい? 死ぬまで叩かれたい?」
「……嫌………いや…………!!」
 メイは泣きながら激しく首を横に振る。
「なにを言ったんだ?」
「小さい方を漏らしたのだから、大きい方も漏らしちゃえって……」
 なるほど。
「それなら、鞭よりも効果的なものがあるだろ」
「…浣腸………ですか……」
「たっぷりと入れてやれ」
「…わかりました………。メイ、その格好のままでいなさいよ」
 メイは浣腸がなにかわかっていないのだろう。
 シルクが去った事のより安堵の表情を示した。
 けど、自分が犬のような姿勢で、尻を左右に広げた格好のままである事を思い出して、また顔を赤くする。
 股間からぶら下がっている小さな性器はぶるぶると震えていた。


「何cc入れるんだ?」
「40%を500でよろしいですか?」
「少し強くないか?」
「大丈夫です。これを使います」
 そういってシルクが見せたのは大きめのバイブレーターと、ローションだった。
「このサイズにしたのは栓としての効果を出すためです」
「お前に任せよう」
 シルクは注射器型の浣腸の先端を、今も自分で尻を割り開いているメイの肛門へと近づけた。
「な、なんですか、それ………!?」
「浣腸よ」
「……?」
「ああ、初めてなのね。知らないか。いい? 怪我したら危ないから絶対に暴れたら駄目よ? あなたのために言ってるんだからね?」
 シルクは念を押してから、浣腸の先端をローションで濡らした。
「いくよ?」
「んぅっ!?」
 細い先端がメイの左右に開かれ、晒されたままの尻穴にぷすりと差された。
 然したる抵抗もなく、ローションのおかげでスムーズに差されたようだ。
「……な、なに?」
「痛くなかったでしょ? いい? そのままの体制で絶対に動いたら駄目よ?」
「…え?…………ぁ……ん…んぅ!?」
 シルクが無慈悲に浣腸のシリンダーを押し込んでいく。
 肛門から直腸へと液体が逆流する感覚にメイは当惑の悲鳴をあげた。
「な、なにこれ〜〜〜〜!? お尻が……お尻が変〜〜!! なにか入ってくる〜〜………!!」
「浣腸初体験の感想はどう?」
「んぅ!?」
 シルクはシリンダーを押し、メイの尻に差した先端をぐりぐりと掻き混ぜながら感想を求めていた。
 シルクの表情も紅潮している。興奮しているのだ。
「お尻の………穴が……冷たくて……変…………」
「それだけ?」
「……前がむずむずして………」
 俺はメイの股間を見た。浣腸されながら股間からぶら下がっている性器がびくびくと震えている。
 性感もあるのだ。
「…………うぅ〜〜っっ」
 シルクが最後の一滴まで一気に浣腸しきると、メイはくぐもった悲鳴をあげた。
「それだけじゃないでしょう、メイ」
「な、なにが…………うぁ!?」 
 メイは両手で腹を押さえて蹲った。
 さっそく便意を催してきたようだ。


「な、なにこれっ………」
 両手で腹をさすり、全身を震わせ、脂汗を流しながらメイは恐る恐るシルクの顔を見ていた。
「どうしたの、メイ?」
「おなかが痛い……!」
「どうしたいの?」
「トイレいきたいです………!」
「そう」
 メイの尻穴はびくびくと痙攣していた。
 もう今すぐにも漏れそうだ。
「我慢できるだけしなさい。こんな所でもらすの?」
 メイは必至に首を振って否定する。
「も、漏れちゃうっ………で、出るぅ………!」
 尻穴の痙攣が一層激しくなる。
 時折、穴からぴゅっぴゅっと液が漏れていた。
「我慢できるだけしなさい」
 シルクは先程と同じ言葉を口にしながら、バイブレーターにローションを垂らして準備している。
「うぅ…………!」
 シルクの言い付けどおり、メイは健気に必死に便意に耐えている。


「だ、だめ………もうだめ……………漏れる………! 漏れちゃう…………うぅ〜〜〜〜…………あぁ…………出ちゃう〜〜〜〜〜!!」
 メイが叫び、尻穴を開いて排泄しかけたその瞬間。
「はうっっ!?」
 シルクの手にしていたバイブレーターが滑るように、メイの尻に突き込まれた。
「うぁ……うああぁあぁぁぁ…………!」
 排泄しようと尻穴を開いた瞬間に刺されたのだ。
 しかも浣腸までされていたのだ。
 太いバイブレータを刺されたメイの尻穴は限界まで広がっていた。。
「これで漏らせないでしょ?」
「ああ……あああぁぁぁぁあぁぁぁぁ…………!!」
 シルクは更にズブズブとバイブを押し進め、根元まで差しきった。
「………痛いぃっ………!!」
 あんなに太いバイブをいきなり差し込まれたのだ。
 メイが涙を流して痛がるのも分かる。
 シルクが差したバイブを捻りながら言った。
「このままじゃ落ちちゃうわね。メイ。下着と、ズボンを履きなさい」
「うぅ……!」
 シルクはバイブを固定するために、下着とズボンを履かせた。バイブが下着に引っ掛かり、これで勝手には抜けないようになった。
 ズボンのホックを締める時、メイは苦痛の声を漏らした。
「浣腸が効いているみたいね」
「う……うぅ………おなか痛い…………トイレいかせてください…………!」
「まだ大丈夫よ」
「うあ…!?」
 シルクがメイの尻を叩き、ズボンの上からバイブを刺激するとメイは悲鳴をあげて飛び上がった。
 バイブは尻穴を今も広げっ放しにしている。
 そんな所を強く刺激されたのだから、肛門から脳天まで強烈な衝撃が走ったのだろう。


「はぁ………うぅぅ………!」
 メイは腹をおさえて蹲っている。
 衣服はいつものように上も下も着ているので、ぱっと見ただけでは、腹痛で苛まされているようにしか見えない。
 次の機械にはこの状態で仕事をさせるのも面白そうだ。
「……は……う…ぁあ…………!」
 浣腸が強烈な便意を引き起こしているのに、とうに限界を超えているのに、尻に差されたバイブの栓により排泄できないのだ。
 シルクが俺にリモコンを見せて目で聞いてくるので、俺は頷いた。
 スイッチが入る。
「あ!?………あぁぁああぁぁあっ!?」
 巨大なモータ音が響き、メイは悲鳴をあげて身体を跳ねさせた。
「ふああっ!? お尻………! お尻がぁ…………いやあぁあぁあぁぁあぁあぁあっっ!!」
 メイの尻はバイブで強烈に抉られているのだ。
 震動だけではない。
 強いうねりや回転が、メイの尻穴を抉っているようなものだ。
「と、止めて……止めてぇ………死んじゃうぅっっ……!!」
 メイは両手で尻と腹を抑えて床を転がっている。
「メイ。浣腸液がおなかの中で暴れまわってつらいでしょ? お尻も苦しいでしょ? でもそれだけじゃないよね?」
「…ぁ…あっ……!?」
 シルクは床を転がっていたメイの両足を広げ、股間に手を添えた。
「お尻を掘られて感じてるんでしょ?」
「う……うぅ……!」
「このまま射精してみなさいよ……」
 シルクがバイブのスイッチをMAXまで引き上げた。
「うぅ〜〜〜〜〜!!」
 前立腺がごりごりとバイブで抉られているのか、メイは両手で股間を抑えて悶えた。
「うぅ……うぅ〜〜〜〜〜〜!!」
 股間をおさえたままメイは蹲った。
 蹲っていないと辛いのだろう。ぶるぶると震えている。


 シルクはメイの側に座り、自分の膝の上にメイの身体をうつ伏せに乗せた。
 メイの尻を俺の方に向ける。
 ズボンを履いていても、大きなバイブはメイの尻穴付近に浮き上がって見えていた。
「はぁ……はぁ……!」
 メイは大きな息を吐くばかりでシルクの行動に文句も言えない。
 シルクは片手でメイの身体を支え、もう片方の手の平で激しくメイの尻を打った。
「ふあぁっ!?」
 ぱぁんっと景気のいい音が響き、メイは悲鳴を上げた。
 やっている事はただの尻叩きだが、手の平はバイブにも当たり、メイの肛門を激しい衝撃を与えたに違いない。
 シルクはメイの尻を叩き続けた。
「…いあっ…………!?」
 叩かれる度にメイは身体を震わせて悲鳴をあげる。
 けれど、段々とその悲鳴も押し殺したものに変わってくる。
 そして、シルクが一際強くメイの尻を叩き上げた。
「〜〜〜〜〜〜!?」
 メイは身体をぶるぶると振るわせた。
 がくがくと痙攣している。
「メイが射精しました」
 射精したそうだ。


 シルクはバイブを切り、メイを膝の上に抱えていた。
「メイ、どうしたいの?」
「…うぅ………出させてぇ………トイレいかせて………!」
「そう……」
 シルクはメイのズボンの裾から手を入れた。
「辛かったでしょ。栓を抜いてあげる」
「……! い、いや……! ここじゃ嫌……! トイレ………トイレにいかせて………!」
「嫌なら我慢してたらいいでしょ。抜くわよ」
「ふあぁぁあぁ?」
 メイが裏返った声を出し震えている。
 バイブを抜かれているのだ。
 そのままずるりと、メイのズボンの裾からシルクはバイブを抜き取った。
「うあああああぁっ!? み、見ない…で……!」

「あぁっ!!」
 音もなくメイのスボンの尻の部分に染みが広がった。
 バイブで尻穴を拡張されていたから、便と肛門との摩擦がほとんどないのだ。

 ズボンの裾からぼたぼたと便の溶けた浣腸液と、便塊が垂れ、地下室に汚臭が漂いだした。
「メイ、くさい……」
「………ぅ……うぅ……!」
 便をくさいと言われ、メイは押し殺した声で泣き始めた。
 その間にもズボンのお尻の部分は柔らかそうな便でいっぱいになり、もってりと膨らんでいた。
 シルクがその膨らみを押せば、軟便の詰まったズボンはぐにゃりと形をかえ、スボンの裾から押し出されてくる。
「メイみたいなきれいでかわいいコでも、やっぱりこんなヤなにおいするんだね。吐きそう……」
「…ひど…………ひどい………」
「ほら。まだ出るでしょ?」
 シルクがメイの腹を膝で蹴り上げると、メイのお尻が激しく鳴った。
「うぅぅう………!」
 音を鳴らしながら、メイは液ではなく、にゅるにゅると軟便を排泄し始めた。
 止まらないのだろう。
 メイの足元に軟便の山ができあがってくるが、すぐに重さで崩れ、また上から軟便が落ちてくる。
 まるでカキ氷機のように。


 歳の近い少女に排泄を強要されたのだ。
 メイの胸は複雑な感情でいっぱいの筈だ。羞恥。苦痛。
 けど、今日はまだ始まったばかりだ。
「シルク。メイは暫くここに監禁する」
「わかりました……」

「あ…あぁ…!!」
 メイには聞こえていないのかもしれない。
 必至に尻を振って排泄している。
 先程までは見せたくなかった排泄も、今はメイ自身が腹の中の便を吐き出し続けている。

 俺はシルクを連れ、メイを残したまま地下室から出ることにした。