『アイスビスケット -Ice biscuit-』

 赤い夏。血色のヒカリ。



 ちりちりと肌を焼く夏の暑い日差しは好きじゃなかった。
 セミの鳴き声は煩く大嫌いだった。
 だけど、それ以上にすれ違う幸せそうなニンゲンが許せなかった。
 ニンゲンも自分も地球も全部が死んだら良いと思っていた。
「〜♪」
 そんな人生の落伍者、楠木氷菓(くすのき ひょうか)16歳も今だけは足取りも軽く、田舎道をスキップで駆けていた。
 目指すはバス停だ。
 大好きな友達と2年振りに会えるのだ。
 夏風が氷菓の全身を薙いだ。
 山から吹いたその風は植物の匂いを運んでくる。
 それも今日だけは心地良かった。
「〜♪ 〜♪」
 鼻歌さえ鳴らしてしまった。
 彼女と会う。
 それが氷菓の人生の数少ない、そして最大の楽しみだった。
「……」
 他に楽しみがないのか。
 ゴミのような人生、ゴミ箱のようなニンゲンと、氷菓は自分でげんなりとした。


 千歳(ちとせ)は運賃を払い、荷物詰めたバッグを肩から下げ降車した。
 懐かしい町だ。
 バスから降りた途端、千歳はむっと熱気に包まれ、夏の強烈な日差しに肌を焼き付けられた。
 思いっきり背を伸ばして深呼吸をし、青く新鮮な植物の匂いを肺一杯に吸い込んだ。
 暑いけどこの優しい空気は気持ち良かった。
(ひょーかちゃん、どこかな…)
 辺りを見渡す。
 だけど誰もいない。
 この場所に氷菓は来るはずなのだ。
(ここのバス停でいいはずだよね…?)
 バス停の名前を確認し、ついでに時間を確認する。
 午前11時10分。
 約束の時間だ。
 バスの到着時間を待ち合わせの時間にしていた。バスが遅れなかったのだから、今であっているはずなのだ。
(寝坊かな…。電話しよっかな〜…)
 ポケットから携帯電話を取り出そうとした。
 緊張する。
 電話やインターネットで会話することはあっても、実際に会うのは2年振りだ。
 大事で大好きな女の子の友達。2年も経てば随分と見た目も変わっているだろう。
 最初はなんて声をかけよう。
 そんなことをあれこれと考えていた。
 幸せな悩みだった。
 遅刻も許してあげよう。ぼけぇっと氷菓の到着を待つ事にした。
 こんなことだから友達には「千歳はのんびりしすぎ」と言われるのだろう。

 ―ー誰かにお尻の谷間に指を差し入れられた。
「ひゃあっっ…!?」
 驚き千歳は飛び上がった。
「〜〜〜〜っっ、え、ええっ!?」
 ズボン越しにお尻の両山は誰かの指を挟みこんでしまっていた。
 指がリアルに感じられる。
 お尻でなにかを挟んだという事実が、恥辱と痴漢に対しての怒りに代わった。
「っ!」
 慌てて振り返ると、そこにいたのは2年経っても相変わらず子供染みた顔をした氷菓だった。
「あ、あれ…? ひょーかちゃん…?」
「おひさーっ! びっくりした? きもちよかた?」
 あははと笑う氷菓は全くと言っていい程悪びれていなかった。
「……」
 お尻の谷間に指を差し入れられた羞恥と怒り、そして屈辱の炎が千歳の中で燃え上がった。
「ちとせちゃんあいたかったーー!」
 氷菓が抱きついてこうとするけど、千歳はそれを片手で制した。
「ちょっと待ってね?」
「う?」
 いくら皆に天然だとか、のんびりしすぎとか言われても怒る時は怒る。
「目閉じて」
 にこりと笑って千歳がそう言うと、氷菓は言われた通り「うん」と頷き目を閉じた。
 氷菓の出来の悪い脳みそは、親愛のキスでも貰えると思ったか。
 これからされることがなにであろうかと、少しそわそわしている。
 残念だが無礼を働いた友人への仕向けはキスでも包容でもなく、鉄拳制裁だ。
「死んじゃえ、ばかぁっ!!」
「@@@」
 氷菓の悲鳴があがった。


 ぎらぎらと輝く太陽は真上へと移動していた。
 氷菓は千歳の前を歩きながら自分の住処へと向かった。
 田舎町はどこまで行ってもヒトとすれ違うこともない。
 セミは鳴いているのに静寂だ。音は確かに鳴っているのに煩く感じない。
 むしろ寂しささえ感じた。
 千歳を迎えに行く時は少しは見かけたヒト影も、今はもうない。
 沈黙が苦しくなり、氷菓は千歳に振り返った。
「ほっぺた痛い…。ホンキで殴んないでもいいじゃん…」
 殴られた部分は熱を持っていた。摩りならが文句を言った。
「めっちゃ痛い…弁償を要求する」
「殴られることするからでしょー」
 怒っているのか、千歳はつっけんどんに言い捨てた。
「女同士のジョークじゃんー…」
「ひょーかちゃんのはジョークじゃすまないの」
「…もっかいお尻触ったらどーなる?」
 千歳は怒るだろうと思ってそう言ったけど、彼女はうーんと考えた。
「氷菓ちゃんはちっこいからー…」
「うん」
 自分の膝と氷菓の顔を見比べながら言った。
「顔面蹴りかな…」
「ジョークだよね…?」
「さぁ」
「試しにちょい触ってみようかな…」
「嫌いになるよー?」
 千歳はそう切り札を出し、にこりと笑った。
 そんなことを言われては、氷菓は手出しできなくなってしまった。
「それはずるいー…」
「触られたくないもん。つーか、触るほうが悪いー」
「横暴横暴ー」
「はいはい」
 はーい、と氷菓は大人しくなったふりをした。
(そーだ)
 顔面を蹴られてもいいから、千歳が思いっきり恥ずかしがる悪戯を思いついた。
 今からしよう。
「あ」
 氷菓はなにかに気付いたように声を出した。
 じっと遠くを見る。
「どしたの?」
 千歳も気になったらしく、氷菓が見ている方に視線を向けた。
 雲ひとつない青空はどこまでも透き通っていて、なにも見出せない。
 それが美しかった。
 氷菓はそっと千歳の背後に忍び寄んだ。鈍い千歳は気付かない。
「――――」
 千歳の後ろに座って、お尻を見上げた。
 形のいい風船のような丸いお尻は、薄いズボンの生地を谷間に銜え込んでいる。
 綺麗なお尻だ。思わずタッチしたくなるけど我慢した。
 氷菓は両手を組んで、左右の人差し指と中指4本をピストルのような形にし構えた。
 大きく息を吸い込み、吐いた。


「ちとせちゃんっ、かんちょーっ!」
「はうっっ!?」
 ずしんっと音が鳴るほど勢いよく、4本の指が千歳のお尻の穴に直撃した。
 衣服の薄い生地ごと、指は千歳のお尻に減り込んだ。
「〜〜〜〜っっ!?!??」
 爪先立ちになった千歳は、声にならない悲鳴を上げた。
 お尻に指を押し込まれて発情のスイッチが入ったのか、悲鳴は少しだけど黄色っぽい。
「や、やだっっ…」
 千歳が「待って待って」と静止の声を上げるけど、氷菓は容赦せず、さらにもう一段階力を入れて指をお尻の穴に押し込んだ。
「んあっっ!?」
「痛くないでしょー。痛くないよーにしたんだから」
 千歳の体重がぐっと指に掛かり、氷菓の指は衣服ごとお尻の穴へと減り込んでいく。
「うっ……!」
 そして不意打ちのように、ぽんっと千歳のお尻の穴から指を引き抜いた。
「はぅ…」
 指を抜いた際も千歳はびくっと振るえ、お尻を押さえて崩れるように地面に座り込んだ。
 ぜぇぜぇと息を切らせて、顔を赤らめているのがなんだか可愛かった。
 指を嗅いでみた。
 つん、と千歳のお尻の匂いがした。


 千歳は蹲ったまま、動かなかった。
 両手でお尻を押さえ、肩を震わせている。
 今まで誰もヒトと擦れ違わなかったのに、思い出したかのように自転車が通りかかった。
 はっと現実に返った。
 なにをしていたのだろう。
 蹲ったままのこの千歳を辱めたのは自分なのだ。
「痛くなかった…よね?」
 恐る々る氷菓は千歳の前に回って顔を覗き込んだ。
 ――次、お尻触ったら嫌いになる。
 千歳の言葉を思い出した。
 あれは冗談だったのだろうけど、今は黙ったままの千歳が怖かった。
「怒ってる…?」
 千歳はなにも言わなかった。
 すっと立ち上がって、バス停の方へと歩いていく。
「ああっっ。待って待って。ごめんなさいごめんなさいっ」
 千歳の腰にしがみ付いても、彼女は氷菓を振り払うように強引に歩を進める。
 確実に怒っている。
 また自転車が通りかかった。買い物帰りの主婦だ。
 道端で千歳の腰にしがみ付いて騒いでいる氷菓を、変なものを見るような目で見ていた。
「――はなして」
「やだっ…」
 千歳は氷菓の手を振り払おうとしたけど、負けじと腰を掴んだ。
「触らないでって言ったばっかじゃん…」
「うー…」
「私、しつこいコ嫌い」
 氷菓は「ごめんなさいごめんなさい」と涙まで流した。
 偽りではない、反省の涙だ。
 本気で嫌われることはなくても、千歳に呆れられるのは嫌だった。
「…もうしない?」
「う…」
 もうしない。
 その約束は難しかった。守れない約束はしたくなかった。
 千歳のお尻を触ったりして辱めたり、イジメたりするのがぞくぞくする。
 自分でも性癖が変だと思った。
「返事は…?」
「また変な約束して破って怒られそーだから、今日のちとせちゃんのお怒りは、甘んじて体罰で受けます…」
 そう言い、覚悟を決めた。
 潔く顔面を蹴られよう。
「…それってまた触るってこと?」
「わかんない…」
「はぁ…」
 千歳は諦めたかのように溜息を吐いた。
「なんか怒ってるのがばかばかしくなっちゃった」
「許してくれるの?」
「次したら怒るけどね」
「うん♪」
 素直に頷く氷菓に、千歳は意地悪くにこっと笑った。
「でも、ムカついてるから体罰はあたえる」
「うぇ…ふあっっ!?」
 さっと氷菓の後ろに回った千歳は、氷菓の首にその細い腕を差し込んで締め上げてきた。
「スリーパーで締め落とす…」
「……っ」
 空いている手で頭を押さえられ、氷菓は完全に技を極められた。
 やっぱり千歳は確実に怒っている。
 腕がどんどんと首に喰い込んでくる。
「…っ?! ………っっ!??」
 千歳の細い腕がぐっと氷菓の千歳の頚動脈を圧迫する。
 頭への血液が止められ、気が一瞬にして遠くなった。
 世界が真っ暗になる。
「――――!」
 変な気分だった。
 千歳の胸が背中に感じられる。
 今、千歳に思いっきり抱きしめられているのだと思うと、肌の密着も柔らかく、彼女の体温が心地良かった。
「……」
 全身がぽかぽかと温かくなり、意識はそのまま跳んだ。
 体罰は過激だなと思った。


 千歳は氷菓の後ろから頭をがっちりと押さえ、首を締め上げた。
「ひょーかちゃん懲りたー? もうしませんって約束したら放してあげるよ?」
 全く返事がない。
 強情だなと思い、さらにきゅっと首を締め上げた。
 お尻を指で突き上げられるとか恥ずかしかったのだ。
 ちょっとやそっとでは怒りは収まらなかった。
「ひょーかちゃん? 強情張りすぎはよくないよー?……あ、あれ…?」
 氷菓の身体はぐったりと千歳に体重を預けていた。
「う、うわ…ひょーかちゃんっ、ひょーかちゃんっっ? へいきっっ?」
 完全に失神している。
 つん、と異臭を感じた。
「あ…」
 氷菓は失禁していた。
 ちょろちょろと股間から放尿が続き、黄金色の尿が氷菓の股から腿を濡らしていく。
 やがて、ソックスもびしょびしょになり、地面に水溜りを作り始めた。
「ご、ごめんっっ! ひょーかちゃん、へいきっっ?」
 頬をぺちぺちと叩いても氷菓は起きなかった。
 平気ではないらしい。
 このままだと誰かに見られかねない。
 千歳は氷菓を人気のない草むらまで引きづっていくことにした。


 暖かかった。
 永い夢を見ていた気がする。
 身体はぽかぽかと暖かく、枕は柔らかい。
「は…」
 目を開けると、そこは深い草むらの中だった。
 仰向けに寝転がっていると、草と草の間から刺す太陽が眩しかった。
 地面から生える草は木のようでもあり、氷菓は小さな森にいるような気分だった。
 股間がお湯に濡れているようで生暖かい。
 千歳が氷菓の顔を覗き込んだ。
「気がついた?」
「あぇ…?」
 氷菓は千歳の膝の上で眠っていた。
 柔らかい膝の上の頭を乗せていると、なんだか涙が零れそうになった。
 どうしてだろう。
 分からない。余分な考えを頭の隅へ追いやった。
 身体を起こす。
「あ…」
 股が温い。
 衣服の股間の部分は微温湯を零したように、びっしょりと湿り肌に張り付いていた。
「え…」
 さあっと背筋が冷たくなった。
 股からは強いアンモニア臭が漂っていた。
 そして今も自分の尿道にはまだ尿が残っているのが分かった。呼吸とともにちょろちょろと尿が漏れ続けている。
 怖くなって千歳の方を見た。
「……」
 千歳は言い辛そうに目を伏せた。
 それだけで分かった。漏らしてしまったのだ。
「あ、あたし、漏らしたの…?」
 16にもなって漏らした。
 それも千歳の目の前で。
 嘘だと思いたかった。時間を少しでいいから戻して欲しかった。
「あ…」
 よくわからなかった。
 だけど、見られてはいけないものを見られ、涙がぽろぽろと零れてきた。
「――――」
 涙は止まらなかった。
 手の甲で拭っても拭ってもぽろぽろと溢れてくる。
 ぎゅっと頭を千歳に抱き締められた。
「…ぁ……」
 氷菓はなにか言いかけたけど、なにを言っていいか分からなかった。
 千歳はさらにぎゅっと頭を抱き締めてくれた。
 息苦しい程強く抱き締められた。
「ごめん、ひょーかちゃん…」
「ん…」
 首を横に振った。
 本当は嫌じゃなかった。
 恥ずかしく、また千歳に嫌われるんじゃないかという恐れがあったのだ。
 蔑まれるのも怖かった。
「ちとせちゃん、嫌いになんない…?」
「ならないから」
 漏らしてしまった氷菓を慰めるように、千歳は氷菓の髪をくしゃくしゃと撫でてくれた。
 千歳に嫌われない。
 そう安心すると、漏らしたことが今になって恥ずかしくなってきた。
 いい歳して衣服を着たまま漏らしてしまったのだ。
 下着やズボンは今も尿に濡れて肌に張り付き、胸が詰まったような苦しさを覚えた。
(…ぁ……)
 この息の詰まりは胸の高鳴りだ。
 恥ずかしいのに、胸がどきどきとしている。
「あ、あのね…ちとせちゃん」
「うん?」
「なんか恥ずかしいとこ見られちゃった…」
 千歳はあははと笑った。
「仕方ないよ。私も悪かったし」
「んっと…」
「うん?」
「なんか恥ずかしいの見られるのって変な気分…」
「まぞさん?」
「違うぅ…」
 首をぶんぶんと振った。
 『まぞ』とか言われるのは恥ずかしかった。
「平気?」
「恥ずかしい…恥ずかしくて死にそう…」
「もういいじゃん。そろそろいく? パンツ平気?」
 千歳に後ろから抱かれたまま、氷菓は首を横に振った。
 まだ行きたくない。
「あの、ちとせちゃん…」
「う?」
「恥ずかしい目みたんだから、ちとせちゃんも同じくらい恥ずかしい目にあってくれなきゃやだ…」
「えー…」
「だって、このままじゃあたしかわいそうじゃんー…」
「元々ひょーかちゃんが悪いんでしょ」
「ちょっと質問するだけ」
 千歳は「はぁ」と溜め息を吐き、「なぁに?」と聞いてくれた。
「さっきさ、おしり、指で突く悪戯したじゃん…」
「うん?」
「ほら、あの、かんちょー…とかっての…」
「ああ…」
 氷菓も『かんちょう』とか言葉にすると、耳まで真っ赤になる。
 さっきはとても大胆だった。千歳のお尻を見ていると悪戯がしたくなったのだ。
「あれ、されてどんなかんじだった…? 嘘とかなしだかんねっっ…」
「ふぇ…?」
「い、痛くはなかったでしょ…? 痛くないよーにしたもん…」
 千歳は「むー…」と唸った。
「痛くはなかったけどさ…」
「ど、どんなかんじだった? いきなりされて」
 羞恥話。
 千歳の恥ずかしい体験を今から聞く。
 それもお尻のえっちな話。千歳に後ろから抱き締められながらどきどきとしてきた。
「なんか…」
「なんか?」
「いきなり、お尻から頭までずしんってされて…。目から星が出るような…」
「お尻って穴?」
「穴でしょ…」
「指、思いっきり入った…?」
「入ったんじゃないかな…」
「お尻、どんなかんじだった?」
 千歳は唸った。
「…言わなきゃ駄目ぇ…?」
「あ、あたし、このままじゃ恥ずかしくて生きられないもん…。ちとせちゃんもなんか恥ずかしいこといってくれなきゃー…」
「なんか、お尻、じーんとした…」
「痛くはない?」
「うん」
「じーんとびりびり痺れるようなかんじ?」
「そかも…」
「イヤだった」
「ヤだよ…」
 氷菓が「どうして?」と聞くと、千歳はぼそっと「恥ずかしいし屈辱じゃん…」と言った。
「んっと。ちとせちゃん、嘘禁止ねー…?」
「う?」
「おしり、ずぼってされた時、どきっとした?」
「うん…した…」
「痛くなかったのなら、ちょっと気持ちよかった…? 嘘禁止だよー? 恥ずかしいとか屈辱も抜きで」
 千歳はまた「うー…」と唸った。
 黙ったまま答えない。
「沈黙は肯定…?」
「むー…」
「じゃあ。あってるなら『うん』って言ってね。気持ちよくなかった?」
 千歳は小さくだけど「ううん…」と言った。
「気持ちよかったんだ?」
「…恥ずかしいからやだ…」
「もっかい、やっちゃ駄目?」
「駄目。したらマジギレする…」
「あ、あのさ…」
「うん?」
 尿でびしょびしょになった股が湿って変な感じだった。
 心臓がどきどきと鼓動が早まっているようで、息苦しい。
「するか、されるか。どっちか絶対選ばなきゃならどっち…?」
「…? なにが?」
「うー…」
 氷菓は耳まで真っ赤になった。
 なったけど、千歳は鈍いから口にしないと気付いてもらえない。
「か、かんちょう…」
「やだよ」
 苦笑されて、即答された。
「うぅ…」
「どっちもやーじゃん」
「どっちか、絶対選んでってばー…」
「やーだよ」
 自分を抱き締めている千歳の腕をぎゅっと握った。
「あ、あのね…」
「うん?」
「なんかお漏らししたの見られて…恥ずかしくて。でもなんか変な気分で…」
「うん」
「な、なんかとどめが欲しいような…もっと恥ずかしいの見られたいとか…」
「されたいの?」
「な、なにを…?」
「おしり、ずぼ」
 ぞくっとした。
「さ、されたそうにみえる?」
「うん」
「な、なんか変な気分なん…。あれ、昔されたことあるん…。おねーちゃんに…小学校の時…」
「うん」
「なんか、お尻ずぼってされて、背筋とかまでじーんとして…」
「うん」
「で、でもされたのいっかいだけだから、もっかいされたらどんなかんじなのかなー…って…」
 千歳は黙り込んだ。
 その沈黙が侮蔑ではないのかと、氷菓はびくっとした。
「ひ、ひいてる…?」
「ひかないほうがすごいと思う」
 また千歳は苦笑する。
「で、でもなんか恥ずかしいの聞いてもらって、なんか…ちょっとすっきり…。こんなんちとせちゃん以外に言えないし…」
「あはは」
「あ、あのね…、お漏らししたのにすっごい恥ずかしいん…」
「うん」
「あ、あと、他にこんなん聞いてもらえるヒトいないからぁ…」
「うんうん」
「お、お尻ずぼっての…どんなかんじなのかな、って…。ちょ、ちょっとされたいな…って……」
 羞恥で急速に血が頭に昇り、顔が真っ赤になっているのが自分でも分かった。
 でも、きっと断られると思った。
 断られるのは拒否のようで怖かった。
「あ、う、うそだよ。な、なんでもない…。なんでもない! あたしの言った恥ずかしいこと全部愉快なジョークだからっっ」
 千歳は「はぁ」と息を吐いた。
「じゃあ、四つん這いになって?」
「え?」
「しゃーないからやってあげる。しなきゃ拗ねるでしょ」
「う、うー…」
「さどさんになって、まぞのひょーかちゃんをいじめてあげる」
 これから、お尻を指で突かれる。
 また失禁してしまいそうな程、ぞくっとした。
「あ、あのね…」
「うん?」
「い、いきなりやられるほうがいいん…。今からやるよー、とかじゃなくて…。不意打ちみたいに…」
「いきなりずぼ?」
「うん…」
「力加減、どれくらいでやったらいい?」
「お、おもいっきり…」
「平気?」
「う、うん…」
「じゃあ、四つん這いなって?」
「よ、四つん這いでするの…?」
「その方が指入りやすいんじゃない?」
「うん…」
 後ろから抱き締めてくれていた千歳の手を、氷菓は外した。
 そのまま身体を前に倒し、地面に両手を付いた。
 ざらざらとした砂が、汗を掻いた手に張り付く。
 ここは草むらだ。
 誰かに見られていないか。
 草と草の隙間からさっきまでいた歩道を見渡すが、幸い誰もいなかった。
「うぅ…」
 恥ずかしい格好だ。
 四つん這いの氷菓は、後ろから千歳に見られている。
 今もきっと四つん這いの状態のお尻をじっと見られている。
 失禁した時に出来た股間の染みも見られている。
「脚、もちょっと開いて」
「え…?」
「脚ひらいて」
「う、うん…」
「ついでに、胸を地面にひっつけて? お尻を高くあげるように」
 言われた通りに、脚を左右に開く。
 そして、胸を地面まで下げ、お尻を後ろに高く突き上げた。
(うぁっ…)
 今更になってまた恥ずかしくなってきた。
 非道い格好だ。
 四つん這いで、脚を開きお尻を高く上げるこの格好では、お尻の両山も左右に開かれ、穴が無防備に晒されている。
 そんなところに2本の指を突き刺されたら、根元まで入りそうだ。
「…ぁ……」
 ちょろっと失禁した。
 今のでまた股間を濡らしてしまったのだろうか。
 千歳に気付かれていないか。
「……」
 顔を土に付けていると、植物の匂いがつんと鼻の奥まで入ってくる。
 優しい匂いだ。
 植物の匂いを嗅いでいると、不思議と眠くなってきた。
 身体がぽかぽかと温まってきて、意識は自然と夢の中へと落ちかける。
 千歳の夢が見たかった。


 ずぼっ、と氷菓の股間から脳天まで衝撃が走った。
「……っ!??」
 身体が左右に裂けるような股からの刺激で、氷菓は思わず息を詰まらせた。
 お尻ではない。
 なんと千歳の指は性器のほうに突き立てられた。
 薄い布地のズボンを押し込んで、千歳の指が氷菓の性器に減り込んでいた。
「う、うぁ…」
 股間に減り込んでいる千歳の細い2本の指がリアルに感じられ、氷菓は思わず声を漏らしてしまった。
 しかも千歳は意地悪く、指をぐりぐりと押し込んでくる。
「あ、だ、だめ…」
 性器の中に衣服ごと指を押し込まれ、ぐりぐりと掻き回され、氷菓は強烈な尿意を覚えた。
 だけど、漏らしたくない。
 きゅっと尿道を締めて我慢した。
 そして不意に指を引っこ抜かれた。
「はぅっ……」
「きもちい?」
「そ、そこじゃない…」
「びっくりしてきもちいんじゃない? お尻と思ってたでしょ。不意打ちでしょー」
 図星だった。
 お尻を突かれると思い。お尻周辺の筋肉が少し緊張していた。
 それなのに予想と全く反する場所に直撃したのだ。
「ひょーかちゃん、嘘とかわかんない禁止ね」
「うぅ…」
「今のきもちよかた?」
「……っ」
 実際、ぞくっとした。
 四つん這いの状態でいきなり性器に指を差し込まれたのだ。
 痛い、といよりも、快感というよりも、どきっとした。
 意表な「ドキ」がぞくりと背筋を走った。
 股間に突き刺さった千歳の細い指が、股から腰、脳天までじんじんと痺れを伝えた。
「だんまりもなし」
「うー…」
「どっち?」
「別に気持ちよくなんかない…」
 嘘だ。
 だけど、素直に認めるのは恥ずかしかった。
「もっかいやったげようおもったけど、もうやめる?」
「うー…」
「されたい?」
「……」
 氷菓は頷いてしまった。
 快楽に敗北した。
「気持ちよかった?」
「……」
 また頷いた。
「口で言って?」
「きもちよかた…」
「こうやって無理やり言わされるのって気持ちい?」
「…うん……」
 千歳にお尻の山をぱんっと叩かれた。
「まーぞ」
「ちとせちゃん、なんかさどっぽい…」
「さどでいてほしい?」
 千歳がサド。
 氷菓をイジめる。
 その事実だけでもぞくぞくとした。
 腰が痺れて、尿がちょろちょろと漏れた。
 さどでいてほしい。そう返事しようとした時だった。
「〜♪」
「はうっっ…!?」
 お尻の穴にずしんっと重い衝撃が走った。
 じん、とお尻の山に痺れが広がり、背筋をぞくりと震わせ、快感は脳天を突き抜けた。
 今度は千歳にお尻の穴を突かれたのだ。
「へ、返事しようとしてるときにっっ…」
「不意打ちいいんでしょ?」
「う、う〜っ…」
 お尻に差し込まれている指はいつまで立っても抜かれなかった。
 段々と千歳の指に、自分の直腸温が伝わっているようだ。
 そして、体温とともにお尻の匂いが伝わってそうで恥ずかしかった。


 四つん這い状態の氷菓は、可愛いお尻をぷりんと千歳に向けて高く上げている。
 差し込んだ千歳の方が気持ち良くなるほど、指は氷菓のお尻の穴に減り込んでいた。
 後ろに高くあげた氷菓のお尻の穴を抉るように、千歳の指は衣服を押し込んで減り込んでいた。
「う、うう…」
 お尻を差されたのがよほど快感だったのか、氷菓のお尻はぷるぷると震え千歳の指を銜え込んでいる。
「えいっっ」
「んあああああぁっ!!?!?」
 千歳はさっき自分がされた時のように、容赦なく氷菓のお尻に差した指に力を入れた。
 一段階力を上げて、指を氷菓のお尻の穴にぐっと押し込んだ。
「〜〜〜〜っっ」
 氷菓の黄色い悲鳴があがった。
 予想外に大きな喘ぎ声だった。
 誰かに聞かれたのではないかと千歳は辺りを見渡したが、草むらの外には誰もおらず杞憂で済みほっと胸を下ろした。
 お尻にこんなことをされて悶える氷菓を見ていると、もっとイジメたくなってきた。
「〜♪」
「…ぁ…ああっっ?」
 ぐいっぐいっと、千歳は強弱のリズムを付けて、ピストルのように構えた2本の指を、衣服ごと氷菓のお尻の穴に押し込んだ。
「やっっ? ちょ、ちょっと、れ、連続でだなんてっ…あ、ああっっ?」
「お尻きもちい?」
「あっ!? あああっっ」
 ぐっ、ぐっと、指をリズムよくお尻の穴に押し込む。
 氷菓は悶えながらも、首をこくこくと縦に振った。
 だけど、千歳はそれでは許してあげずに、さっきまで以上の力2本の指を氷菓のお尻の穴に押し込んだ。
「んあっっ!?」
 今のは思いっきりやった。
 ぐぃっと、薄いズボンと下着の生地をお尻の穴に押し込みながら指は埋没した。
 ぴくぴくと氷菓はお尻を震わせた。
「指はいっちゃってるー」
「う、うそ…?」
「ほんと。さわってみる?」
「……」
 おずおずと、氷菓の手が千歳の手と自分のお尻へと触れる。
「ね? 入ってるでしょ」
「う、うん…」
「どんなかんじ?」
 千歳は会話中なのに容赦なく、ぐっと指を押し込んだ。
「んあっっ…」
「声出ちゃうほど気持ちいんだ?」
 連続で押し込んだ。
 指を何度も押し込んだ。
「んぁっ…んぁぁっ…」
「口で答えて?」
「き、ん…んぁ…気持ち、いっ…」
「どこが?」
 指をぐっとお尻の穴に押し込んだ。
「んあっっ!?」
 氷菓のお尻の穴に押し込まれたズボンと下着の生地が外に出ようと、痛いほど千歳の指を押し返してくる。
「どこが気持ちいい?」
「お、おしり…」
「せーきのほうとどっちがきもちい?」
「おしり…」
「どうしてほしい?」
 氷菓は「うー…」と黙り込んだ。
 千歳は一度指をぽんっと氷菓のお尻の穴から引き抜いた。
「んっっ…」
 お尻から指を抜く瞬間、氷菓はぶるっと震えた。
 氷菓の股からはまた失禁が始まっていた。
 高くあげたお尻の穴のすぐ下、前のほうの穴からちょろちょろと腿へと黄金水が流れていく。
 強いアンモニアの匂いが辺りに漂った。
「どうして欲しい? 言って?」
「…と、とどめほしい…」
「とどめ?」
「ラ、ラストで思いっきり…」
「おけ」
 千歳はさっそく氷菓のお尻に指を差し込もうと思ったけど、もっと面白いことを思いついた。
 氷菓のおなかに手を回して、ベルトを外した。
「え…?」
 千歳はカチャカチャと氷菓のベルトを外し、遠慮もなくズボンを膝までずり下げた。  
 むわっと、氷菓の尿の匂いが一層辺りに充満した。
「な、なにするの…?」
「おしっこくさいなー…」
「あぅ…」
 パンツ1枚となった氷菓のお尻は可愛らしかった。
 散々失禁したため、びしょびしょになった下着はお尻にぴったりと張り付いていた。
 四つん這いでお尻をくいっと千歳に向けている氷菓。
 元々は純白のパンツは濡れたため透けていて、氷菓の白いお尻の肌の色までくっきりと見えていた。
「ズボン脱いでたほうがモロにはいるんじゃない? おもいっきりやったげる」
「うぅ…」
「いっちゃうかなー…」
 千歳は指を組まなかった。
 この流れだと、氷菓はお尻を差されると思っているだろう。
 少し力の入れ加減が難しいけど、お尻と性器の両方を狙うことにした。
(ひょーかちゃん、また失神しないかな…)
 右手でお尻、左手で性器を狙う。
 お尻を狙う右手は親指と人差し指、中指の3本できゅっと強く力を込めた。
 性器を狙う左手は人差し指と中指だけで、細く尖らせた。
 力を入れるために大きく息を吸った。
 氷菓の尿の匂いを思いっきり吸い込んでしまったけれど、不快ではなかった。
 千歳は両手に力を入れて、構えた。
 そして、全力で氷菓のお尻と性器をパンツの上から貫いた。
「んあっっ……!?!??」
 ずぶっと、両手の指はそれぞれお尻と性器にまともに減り込んだ。
 性器まで突かれると思っていなかったのだ。
 氷菓は息を詰まらせるような悲鳴をあげた。
「…あっ…だ、だめ…や…」
 氷菓はお尻をぶるぶると震わせた。
 そのまま腰がぴくぴくと振るえ、堰を切ったように大量に放尿をし始めた。
「…あ…あぁっ…」
 ぷしゃあっと熱い尿が千歳の左手に掛かる。
(熱…ヒトのおしっこってこんなに熱いんだ…。あ、あれ…)
 手に掛かる液体は尿だけではなかった。
 粘り気のある液体も混ざっていた。
(ひょーかちゃん、いっちゃったのかな…)
 氷菓は喘いで放尿を続けている。
 千歳はぐっと、お尻に差した指を押し込んでみた。
「んあっ…」
 力なく呻き、氷菓の尿は勢いを増した。
 体内に溜まっていた老廃水を全て吐き出すように、氷菓は放尿を続けた。
(とりあえずおわったけど、ひょーかちゃん完全にダウンしちゃったかなー…)
 千歳は溜息を吐いた。
 とんでもない再会日だった。


 すっかり陽は傾いてしまっていた。
 赤い夕日が田舎道を照らし、氷菓は千歳を連れて住処へと向かっていた。
「はぁ…」
 氷菓は本日何十回目かの溜息を吐いた。
「溜息吐いてると幸せ逃げちゃうよー?」
「うっさいなー…」
 くすくすと笑う千歳に、氷菓は顔を見せられなかった。
 恥ずかしくて真っ赤なのだ。
 今氷菓が穿いているのは、千歳の予備のズボンだ。
 泊まりに来てくれているのだから、千歳は数日分の衣類は持ってきてくれている。
 だけど、当たり前のように下着だけは貸してもらえなかった。
 勝手に穿こうとしたら殴られた。
 まだ熱を持っている頬を撫でた。
「あの、ちとせちゃん…」
 恥ずかしいけれど、氷菓は千歳に向き直った。
「ん?」
「き、今日のはなんかちょっと変な気分だっただけ…。あんまりいじめないでね…」
「はいはい。ネタなんかにしないから」
 にこっと千歳は笑う。
 珍しく邪気がいっぱいだった。
「かわいかったよ?」
 意地悪くそう付け加えられた。
 かっと火が付いたように、羞恥で氷菓は顔にまた血が昇り真っ赤になった。
「ぜ、ぜったい、ちとせちゃんをこんど、めっちゃくっちゃのぎったぎったに辱めてやるもんっっ」
「はいはい。いこ、陽が暮れちゃう」
 むっと氷菓は顔を膨らませた。
 だけど、嫌じゃなかった。
 千歳にああいうことをしたのも、されたのも。
「じゃあ、いこ、ちとせちゃん。ごはん、あたしがつくったげるから」
「うん♪」
 千歳はもう無邪気で天然な顔に戻っていた。
 イジメたかったのに、逆にイジメられていた。
 今度こそはイジメてあげよう。
 夜、千歳が寝たら、千歳の可愛くて綺麗なお尻に、下剤用の坐薬を差し込もう。
 そして、そのままの状態でさっき自分がされたことをしてあげよう。
(おっきいほう漏らしたりするのかな♪)
 そんなことを考えていると楽しかった。
「ひょーかちゃんー? また悪いこと考えてるでしょー」
「ざやくのことかんがえてたー」
「…」
「痛っ…」
 頭を殴られた。
「ちとせちゃん、なんか意外に乱暴…」
「乱暴なんかなりたくないけど、ひょーかちゃんは殴らないと調子に乗るから」
「むー」
 氷菓は頬を膨らませ、千歳の前を歩いた。
 膨れたまま歩いていると、千歳に後ろからぎゅっと抱き締められた。
「ひょーかちゃん♪」
 氷菓が苦しくならないよう、だけど思いっきり後ろから抱き締められた。
「2年振り。おひさ♪」
「うん♪」
 千歳は大好きだ。
 いつまでも一緒にいたい。


 昔から心に闇がいる。。
 自分より幸せそうなニンゲンが許せなかった。
 ニンゲンも自分も地球も全部が死んだら良いと思っていた。
 思い出せない。
 とても悲しいことがあった。
 飴と鞭。
 昔与えられた飴はとても甘かった。
 もう永久にその飴は手に入らない。
 手に入らなくなった飴は、いつからか心の中で美化され、現実以上の甘さとなった。
 この世界で生きてても、残っているのは鞭だけだ。
 千歳がいてもそれは変わらない。
 だけど、今この瞬間だけは忘れよう。
 千歳もその飴と同じくらい大好きなのだ。


 ぽんと頭に手を乗せられた。
「ん…?」
「どしたの、難しい顔して?」
「んーん。ちとせちゃんらーぶっっ」
 ぎゅっと抱きついた。
 今はこれで幸せだった。