○サンプルストーリー
【ストーリー】
子供は子供であり、大人は大人である。
目には見えないラインが存在していた。
子供だと許されることでも、大人は許されない。
大人だと聞いてもらえる話でも、子供だと聞いてもらえない。
大人は子供を分かろうとしないし、子供は大人を知らない。
陽子はルーンと音波と共に武田軍を結成し、毎日を精一杯遊び、笑い、泣き、幸せに暮らしていました。
ただ、心の底からは笑えなかったのです。
大人になってもこの空間は残り続けるのか。
武田軍を世界一にする、そんな夢も大人になったら消えてしまうのだろうと考える事もありました。
毎日が夢で溢れているこの世界もいつか終わりが来ます。
ニンゲンは生まれた時から死ぬことが約束されています。
ルーンや音波がいつか死ぬことを想像し、陽子はよく泣きました。
【第1章 武田陽子】
この村には一つの噂話があった。
死の虫について。
8月になると無数の死の虫が現れる。
その虫に触れた者は8月の終わりと共に命を落とすことになる。
そういう噂が子供たちの間で流れていました。
ただの噂話だし、その虫が捕獲されたこともありません。もちろん死因がその虫だと特定されたこともありません。
しかし、村の子供の中にはその虫の存在を信じる者もいました。
いつもの帰り道、ルーンと音波と別れた後、陽子はその虫と思われるものと遭遇してしまったのです。
そして触れてしまいました。
陽子は走って家に逃げました。
すぐに大人に相談しました。しかし、大人と子供は違います。誰も相手にしてくれませんでした。
陽子も「ただの噂話だよな」と自分に言い聞かせ、全てを忘れようとします。だけど、どうしても引っかかりました。
8月が終わりに近づくに連れ、陽子は恐怖に押し潰されていきます。
虫のことを調べたけれど、なにも分かりませんでした。
間もなく8月が終わります。
陽子は恥も外聞もなく、ルーンの前で泣き、音波の前で泣きました。
怖かったのです。
誰も自分を理解してくれず、誰にも見取られず死に去っていくことが。
ルーンと音波は親身になって心配してくれました。
だけど、2人は無力でした。
ただの子供には『大丈夫だよ』と言うことしかできませんでした。
それでも陽子は嬉しかったのです。
だからまた泣きました。
そして、8月は31日の終わりを迎えます。
陽子は最後まで8月の終焉を拒否し続けました。8月が終わって欲しくない、怖い、と。
世界は9月にならず、8月32日へと続きます。
なにもかもが真っ赤に歪み壊れていきます。
陽子の周りからヒトが消えました。
いや、本当は陽子だけが元の世界から消えたのです。皆が9月に行けたのに、陽子だけは8月に取り残されたのです。
最初でこそ孤独のために泣き叫んだけれど、落ち着くに連れ、ルーンや音波を悲しませたのではないかと申し訳ない気持ちになっていきました。
100日の夜を過ごし、これが夢でないことに気づいた。
2000日の夜を過ごし、絶望した。
30000日の夜を過ごし、動くものを見つけた。
だけど、老いた陽子の身体はもう動かなかった。
40万日目を生きることができれば、あるいは音波やルーンに会えたかもしれない。
500万の日を超えても、決して陽子は幼い頃に夢見た武田軍を忘れることはないだろう。
最後に現れたニンゲンは陽子に尋ねた。
――『えりしと』を知らないか?
陽子の8月に閉じ込められた人生は後悔ばかりでした。
幼い頃、もっと強ければこのような孤独な世界に閉じ込められることもなかったのではないか。孤独は死よりも辛かったのです。
閉じ込められた8月の中で、時折陽子は夢を見ました。
名も知らぬ少女が守ってくれる夢です。
老衰の間際、その少女の姿が視界の端に見えた。ような気がします。
【第2章 ルーン】
陽子がいなくなりました。
ルーンは音波と共に探しました。
陽子を探しています。
陽子を探しています。
陽子を探しています。
見つかりませんでした。
失踪という形で片付けられることになりました。
しかし、ルーンも音波も聞きました。
最後に陽子は自分たちを頼ったのです。
それに応えてあげることもできなかったのです。
ルーンと音波は分かっていました。陽子は8月に現れる変な虫に触れたため、この世界から消えてしまったのです。死んでしまったのかもしれません。それでも、生きている可能性がある以上は探してあげたかったのです。
二人は陽子が最後に話した虫の特徴を元にそれを探しました。
たった一つの手がかりです。
しかし、虫は発見できませんでした。
8月にしか現れないのかもしれません。
そうして時間が流れていきます。
次の8月にはきっと虫を発見すると誓い、ルーンは1年の時を待ちました。
8月になりました。
ルーンも新しい友達ができました。
新しい男の友達もできました。その男はルーンのことが好きなようです。しかし、ルーンはそれには応えません。
虫は発見できませんでした。
誰からも好かれるルーンは男が好きではありませんでした。
どの男も子供に見えるし、痛みを知らないようなニンゲンに見えたのです。また、誰かに抱かれ、幸せになることは陽子に対し申し訳ないとも思ったのです。
次の年の8月も虫は発見できませんでした。
やがて18歳になり、高校を卒業した音波は引越しすることになりました。
ルーンは音波が去るのを寂しく見送るだけでした。
武田軍も独りになってしまいました。
それでもルーンは虫を探します。
幾度も夏を越しました。
子供の頃の思い出はやがて過去のモノへと変わっていきます。
ルーンは学校を卒業し、職につきました。
8月の虫探しも自由にはできなくなりました。
更に年月が過ぎていきます。
ルーンは年老い、床から起きられなくなってしまいました。
まもなく天に召されます。
ルーンは最期に鏡を見ました。鏡の中に陽子の姿を見つけました。
そのままルーンは静かに息を引き取ります。
一人の少女に看取られながら。
ルーンには悔やみきれないことがありました。
幼い頃のルーンはヒトに意見することが苦手でした。仲間相手にも嫌われるのではないかという恐怖が自分の意見を殺し、表面上だけの笑顔を作っていたのです。
【第3章 山本音波】
音波は18歳になった時、住み慣れた村を離れ新たな生活を始めました。
陽子もルーンも大好きでした。
しかし、音波は恋をしてしまいました。
その人と一緒に夢を叶えたくなったのです。
決して陽子やルーンに愛想が尽きたわけではありません。
大好きでした。
しかし、それでも音波は自分の人生を歩みたくなったのです。
音波は漫画家になろうと思いました。
好きな人というのはその相方のことです。
音波は2人で世界一の漫画家になりたいと思いました。
音波は幸せでした。
大好きなヒトと一緒に夢を追うことができたのです。
そして夢は掴み取りました。
相方にはなんでも話しました。
陽子のこと、ルーンのこと。幼い頃に結成した武田家、風林火山のこと。
相方は音波の話をなんでも聞いてくれました。
幸せでしたが音波は違和感を覚えていました。
風林火山とは武田信玄の軍旗に書かれた孫子です。
「疾(はや)きこと風の如く、徐(しず)かなること林の如く、侵(おか)し掠(かす)めること火の如く、動かざること山の如し」
音波は山に当たりました。陽子は風、ルーンは火です。
どうして、『林』には誰もいないのでしょうか。
なにか大切なことを忘れている気がします。
音波は天に召されるまで、それを気にし続けました。
しかし、ついには思い出すこともできませんでした。
音波には忘れてしまった想い出が多いのです。
幸せだった過去も消えた今となっては遠い世界のようです。
もしも、その幸せへの回帰を忘れなければ。大事なものを失わなかったのではないか。その想いが時々音波に涙を流させました。
【第4章 虫】
これが陽子とルーン、音波の歩んだ一生でした。
3人は同じ武田軍の夢を掲げ、仲間として出会い、別々の未来を歩むことになりました。
陽子は苦しみ、ルーンは悲しみ、音波は幸せだけど拭えない違和感に覆われました。音波も幸せなれど、叶うのならまたあの時の3人で一緒に幸せになりたいと願いました。
しかし、それこそが全ての間違いだったのです。
陽子達は3人ではありませんでした。
忘れられた子がいたのです。
武田軍最後の1人、風林火山の林に当たる少女がいました。彼女の名はみなと。
陽子が失踪する1年前の8月のことです。
4人は皆、仲良く暮らしていました。
なにがあっても、ずっと4人で助け合って生きていくと約束しました。
みなとは死の虫と出会いました。
すぐに逃げました。逃げることに成功しました。
みなとには幼い頃からある記憶が混在しています。『本来の歴史』の陽子の生涯、ルーンの生涯、音波の生涯。すなわち未来が見えていました。
本来の歴史では4人は来年の8月、死の虫に触れます。
そして4人とも死んでしまいます。
未来を変えることは許されていません。
それでもみなとは運命の神に跪き、許しを請いました。
如何なる代償も支払う故、3人を助けて欲しいと。
慈悲深い神は仰りました。
災いとなる虫とみなとを永久に8月に閉じ込めておくと。
8月の終わりに『世界の切れ目』を創りました。
みなとは死の虫を全てその断層へと送り、自らもその世界に入り、厳重に封印を施しました。
そして、誰もが悲しまぬよう、みなとは全ての者から自分の記憶を消してもらい、8月の中に閉じこもりました。
しかし、一匹の虫が外の世界に出てしまったのです。
その虫が陽子と出会います。
虫は陽子と入れ替わりました。
陽子は虫と触れてしまい、あとは第1章から第3章の未来を辿ることとなります。陽子は死から逃れるために永久に8月の世界に逃げ込み、1匹の虫は外の世界に解き放たれました。
その虫は知能を持ち、ニンゲンの社会に溶け込みます。
虫はニンゲンに姿を変え、ルーンと音波を殺そうとします。本来の歴史では死ぬ運命だったはずのルーンと音波に、虫は執着していました。
しかし、虫はニンゲンに姿を変えたことにより、ニンゲンの感情を持ってしまいます。
音波に近づき、彼女と出会ったその虫は音波に恋をしてしまいました。
虫は音波に好かれるよう努力しました。
その努力の甲斐もあり、虫は音波と結ばれました。
一緒に漫画家になるという夢を掲げます。
その夢は適いました。
翌年の8月末、音波が死亡します。
虫である青年と触れたため、8月の終わりを持って音波は死んでしまいました。
虫は悲しみました。
虫である己の身を呪いました。
誰も幸せにならないこんな歴史を作ったみなとを憎みました。
次の年の8月、虫は『永遠の8月の世界』に戻り、みなとを探しました。
元の歴史に戻してもらうためです。その歴史でも確かに音波が死に至ります。それでも良いと思ったのです。ニンゲンの恣意的な考えが歴史を歪めて良いはずがなかったのです。
しかし、永遠の8月の世界を歩き回りましたが、みなとは発見できません。
ここは虫ばかりの世界です。
虫はみなとを探しました。虫は虫を相手に情報を得ます。
そして得た情報は『みなとはえりしとにいる』でした。
しかし、えりしとが何処にあるのかは誰にも分かりません。
虫は虫ばかりいるこの世界に変わった老人がいるのを見かけました。
その老人に尋ねました。
『えりしとを知らないか?』
その老人こそ年老いた陽子でした。
しかし、老人は答えることができず、虫の前で寿命を終えます。
虫はえりしとを探し続けました。
しかし、もう、えりしとへの扉はないことが分かりました。
この世界は間違っています。
みなと1人が犠牲となり築かれた世界です。
確かに犠牲をなしに生きることのできるニンゲンはいません。しかし、出してはいけない犠牲もあります。
虫はこの間違った歴史を正すため、戦う決意を持ちました。
運命の神に逆らい、自らを過去へと送ります。
みなとに歴史を変えさせないために。
時間の扉は偽りの姿のままでは潜れません。
虫は自分の身体を元の虫に退化させ、過去へと旅立ちました。
虫に退化したことでニンゲンとして培った知能や技能は失われます。
あの悲劇の1年前に虫は遡り、みなとと出会いました。
しかし、虫はなにも覚えていません。
ただの虫です。
虫を見たみなとは逃げてしまいます。
そして歴史は繰り返されます。
全てを忘れた虫は再びルーンと音波を殺そうとします。
そのために知能を発達させ、ニンゲンの姿を手に入れ、音波と出会います。
【第5章 神々のえりしと】
ずっと間違った歴史を繰り返します。
虫は何度も過去へ戻り、その度に記憶を失い。自身も誤った歴史のパーツの一部として回り続けます。
この章は物語の最後の主人公、絵里(えり)の物語です。
絵里は年老いたルーンを見取りました。
ルーンは覚えていました。
ルーンは仲間を一人とて忘れたことはありません。陽子や音波のことはもちろん、みなとのことも覚えていました。
しかし、それを口に出すことは躊躇われたのです。思い出してもみなとはもういないのです。何処へ消えたのか、ルーンには分からなかったけれど、みなとはここにはいないのです。
だから、誰も彼もがみなとを忘れた時、ルーンはなにも語りませんでした。
しかし、それは愚かなことだったと老いたルーンは思っています。
後悔してもルーンにはどうすることもできませんでした。
陽子が消え、音波は旅立ち、一人残されたルーンの償いは陽子を探し続けることだけでした。しかし、それも叶わず天に召されようとしています。
できうるならこのような誤ったルーンではなく、幼き頃のルーンは正しい道を歩んで欲しい、このような間違った道を辿らないで欲しい。そう願い、ルーンは息を引き取りました。それを絵里は看取りました。
二人の出会いは些細なものです。
公園で昔を懐かしんでいたルーンが、ボールを落とした絵里と出会っただけです。
絵里はルーンが亡くなる前、鏡の中に陽子を見たという話を思い出しました。
その時は8月。
絵里はある確信を持ち、次の8月を待ちました。
そして8月31日の24時、鏡の中を見ました。
鏡の中は真っ赤に歪み、8月32日の世界へと繋がっていました。
絵里は躊躇わず飛び込みました。
絵里は世界が嫌いでした。
ニンゲンが嫌いでした。
そして自分も嫌いでした。
正確に言えば好きではなかったのです。ですが、ルーンのことは好きでした。ルーンを幸せにしてあげたいと、最期の願いを聞き遂げたいと思いました。
永遠の8月に飛び込んだ絵里は陽子を探します。
陽子を追う絵里は黒い男を見つけました。
気づかれないようにそっと後をつけます。その男こそが虫です。陽子と別れた虫はえりしとを探しますが、見つかりません。
そして過去への扉を開きます。
自らを昆虫に退化させ、過去の世界へと旅立ちます。哀れな虫は全てを忘れてしまうため、過去へ戻っても事を起こせません。
絵里は虫の後に続き、時間の扉へと飛び込みました。
精神が混濁し、絵里はみなとがまだ世界に存在する時代へとやってきました。
ここが全ての過ちとなった地と時間です。絵里はみなとを探しました。その時ルーンと出会いました。
ルーンも絵里と同じくらいの年です。ルーンは誰にでも優しく、初めて見る絵里にも快く接してくれました。
絵里は皆のところに案内されます。
そこで陽子や音波と出会いました。みなとはいません。未来においてみなとを覚えていたルーンですら知らないというのだから、ここはみなとが現れる以前の世界なのでしょう。
絵里は名を尋ねられます。そこで悪魔の如く知恵が囁きました。
絵里は自らの名を「みなと」と名乗りました。そう、自分がみなとを名乗ることにより、本物のみなとを彼らとは縁なき者にしようとしたのです。
皆と仲良くなった絵里は武田軍に風林火山の役職付けを提案しました。風林火山であるならば、役職が与えられるのは4人だけです。これ以上部外者が入ったとしても、この初期の4人ほど深い仲になることはないでしょう。
絵里はみなととして生きることにしました。
家などはありません。
絵里は廃屋に住み、大人たちにはばれないように生活を始めました。粗末な生活ではありましたが、未来から来た絵里にはそれほどの苦難ではありませんでした。それよりも歴史を改革するという大仕事に興奮を隠せません。
絵里は未来が分かっています。歴史を操作することはそう難しいものではありませんでした。
しかし、それ以上に絵里は陽子や音波、ルーンとの仲を深めてしまいます。最初はルーンや己の高揚感のためでしたが、いつからか仲間意識を持つようになりました。彼らを幸せにしてやりたいと願うようになりました。
絵里の前に運命の神が現れます。
無断で時間を遡った絵里に罰を与えようとします。罰の内容は絵里に『本来の歴史』を教えることでした。
絵里は愕然とします。己が元に戻そうとした歴史は、翌年4人が死の虫と遭遇し死んでしまう運命だったのです。
そして、絵里はやはりその本来の歴史を回避すべく、みなととして、偽りの歴史へと動かそうとします。
絵里は夏の虫を全て8月に閉じ込め、自らは「えりしと」へと旅立ち、8月を管理するもの、『前のみなと達』と融合し、神になります。
そこで時間を越えた存在となり、『次のみなと(絵里)』に対し、やはり罰を与えるべき目的で本来の歴史を教えます。次のみなともやがて己の下にやってきて一つに混ざっていきます。
誤った歴史のループの中でみなとの魂が無数に重なっていきます。
それを知った時、絵里にはどんな選択肢があったのでしょうか。
正当な歴史であるならば4人は死んでしまいます。が、歴史を変えることは神に許されていません。もしも変えるのならば、自らを生贄とし、夏の虫とともにこの世界を去らねばならないのです。
元みなとであった神様も知っています。
絵里はきっと自分と同じく誤った歴史へと未来を進めると。
皆が来年の8月、死ぬことが我慢できないのだから。
絵里は最後の最後まで足掻きました。
4人全員が死ぬ最悪の未来を回避するために足掻きました。そして、その考えは必然的に己を犠牲とし、3人を生存させる思考へと変わっていきます。今はもう神になっている元みなと達は絵里がこのような考えに至ることを知っています。最後には3人を生かす選択をすることも知っています。今までがそうだったからです。
絵里は悩みました。
が、やはり、前の絵里、みなとのように偽りの歴史へと身を投げてしまいます。
歴史は繰り返されます。
えりしとにて、みなとは己の弱さを永久に嘆き続けることになります。
【最後の章 晴天回帰】
陽子は現実を受け入れることを恐怖していた悪癖があります。
ルーンは誰かに嫌われることを極度に嫌い、偽りの感情を振りまいていた悪癖があります。
音波は明日を見る余り、昨日を反省しない悪癖があります。
未来において、3人はこの悪癖を悔やむ時がありました。もう少し早く間違いに気づいていれば。
3人はずっと誤った歴史の中でこれらを反省してきました。しかし、時既に遅く、理解した時は既に大事な物を失った後だったのです。
もう少し早く気づいていれば。
その感情が生み出した奇跡は類まれなるものでした。
『もう少し早く気づいていれば』
その願いをある者は叶えてくれました。
4人は生き物を飼っていました。それは珍しい虫でした。しかし、3人の悪癖のために、虫は死んでしまいます。これこそが全てを忘れた『虫』が歴史に対して起こせた小さな反抗でした。
陽子もルーンも音波も絵里も悲しみました。単に虫が死んだわけではありません。己達の悪癖と過失のために虫を死なせてしまったのです。
3人はこの件を体験したため、早くに学ぶことができました。そして、その学びが絵里の決断を揺らがせます。
陽子は強くなり、ルーンは真実を話せるようになり、音波は過去を顧みる。その成長が絵里の決意を変えました。
みなと達であった神々は困惑します。
既に歴史は元の形へと変貌していきます。絵里は己も3人とともにあることを決意しました。そして、己の真実の名を語りました。みなとではなく絵里だと。
しかし、死の運命を受け入れたわけではありません。
間もなく、運命の8月が訪れます。
死を受け入れるのではありません。
戦って勝ち抜くのです。
運命の神や未来などには負けず、自らが切り開いていくのです。
死と戦う。
それが『えりしと』の物語です。