○ストーリーの全容
数百年前、世界の滅亡を賭した大きな戦争がありました。
主人公ヒノキはその敗戦国の1つ『ザンデ』の出身であり、どの町でも差別を受けて生きてきました。
ザンデの民は魔王ザンデが死に敗北して以来、戦勝国より差別されてきたのです。戦後、数百年の月日が流れましたが、その空気は決してなくならず、むしろ、ザンデの民は蔑むのが常識という意識がニンゲンに根付いてしまいました。
ヒノキは不幸な事故により早くに親を亡くしましたが、ザンデ出身の彼女を受け入れてくれる施設もなく、また金銭面の貧しさからもちゃんとした教育を受けることは適いませんでした。
それ故、例えば魔法に関しても、誰もができることもできないし、誰もが知っていることも知りません。基礎的な能力の欠落のため、まともな職につくこともできません。
15歳になったヒノキは生きるためにシーフとなり、盗みを繰り返し、捕まりそうになると次の町へと旅をする。そんな生活を続けるようになりました。
嬉しくもないのに人前で笑顔を振り撒き、卑しい出であることを悟られず、人を騙し、友人になった振りをし、裏切り、確実に盗みを行います。
ある雨の夜、盗みに失敗し兵士に追われることになりました。食料もなく、逃げる場所もなく、大きな傷も負いました。
そんなヒノキを匿ってくれた少女がいました。これがヒノキとローテの出会いです。
ローテは優しい、寧ろ甘いとさえ言える少女でした。傷ついたヒノキを一生懸命看病し、また一般的な知識や常識を教えてくれました。ローテは同じ年の友達が欲しかったのです。
ヒノキはローテを利用し、隠れ家としての利用が終われば資金と食料を盗んで逃走するつもりでした。ヒノキはローテが大嫌いだったのです。苦労をしたこともないような、屈託のないローテの笑顔が許せませんでした。だから、表面上は楽しそうにヒノキも無邪気な笑顔を振りまきつつも、胸中では甘いローテに対し反吐が出る想いだったのです。
ローテは魔導師でした。
家の地下の研究室は危険だから、決して近づいてはいけない。ヒノキはローテによくそう言われていました。ローテは毎夜毎夜、ヒノキが眠った後には地下へ向かい、なにかの魔法を研究していました。それが存在しないはずの魔法【メテオラ】だったのです。ローテが幼いころ手に入れた『ないはずの魔法』だったのです。
ヒノキはここにある魔法のスクロールを盗めば、大きなお金になると考え忍び込みました。しかし、強力な魔法を溜めてあるタンクにうっかり手を触れてしまい、ヒノキは死に掛けました。助けてくれたローテはヒノキの頬を思いっきり叩きました。
初めてローテが怒ったのです。優しいローテが怒ったのが初めてなら、ヒノキも誰かに怒られたことは初めてでした。
盗みの現場をローテに見られてしまったのと、怒られて感情的になったのもあり、ヒノキは今までの嘘を全部捨ててローテに食って掛かりました。ローテみたいに恵まれたニンゲンには、自分のようなニンゲンの立場や気持ちがわかるはずもないと責めたのです。
ローテは『その通りだよ』と答えました。
しかし、ローテはそう言ったけど、本当はヒノキにも分かっていたのです。それこそが嘘なのだと。ローテが本当に自分のことを心配していたことも知っていたし、自分が危ないことをして死に掛けたから怒っていることも分かっていたのです。そして、『ローテがヒノキのことを分かってあげられないと負い目を感じている』ことも分かっていたのです。
悔しかったのです。
ローテの優しさが悔しく、初めてヒノキを怒ったのがその優しいローテだったということも悔しく、自分に負い目を感じているところをついて感情をぶちまけたという己の弱さもまた悔しかったのです。
ローテはヒノキに言われるままでした。ヒノキはローテに食って掛かったけれど、自分が間違っていることを知っていました。ただ生まれてからの不平不満を、こういう形でしかローテにぶつけられなかったのです。ローテは真面目にその話を聞いてくれました。ヒノキは賢いから分かっていました。これはローテに甘えているということなのです。
ヒノキはたくさん泣きました。ローテはヒノキが泣き疲れて眠るまで話を真剣に聞いてくれました。
次の日になってもローテはヒノキを町の兵士に売り渡したりはしませんでした。
ヒノキは出て行きたくありませんでした。ローテは初めてヒノキの話を聞いてくれたヒトです。もっと話を聞いて欲しかったのです。だから、ヒノキはここにいる理由が欲しくて、ローテにお願いして魔法を教えてもらうことになりました。ローテもヒノキが素直に言えない性格だと分かっているので快く了承してくれました。ローテも同じ年の友達ができて嬉しかったのです。
魔法はいつまでもうまくならなかったけれど、毎日たくさんの話をローテに聞いてもらうようになりました。ヒノキは段々とローテのことが好きになっていきました。ローテもヒノキのことが大好きです。ローテは自分の宝物である【メテオラ】のスクロールをヒノキに見せました。誰にも見せたことがない存在しないはずの魔法です。ヒノキにはそのすごさがわからなかったけれど、秘密を共有することができローテとの仲はより深くなっていきました。
ヒノキは【メテオラ】の研究を手伝いたくて、もっと魔法がうまくなりたいと思うようになってきました。毎日鍛錬をしました。ローテはそんなヒノキを見て、ずっとある疑問を持っていたのです。ヒノキの魔法は下手なのではなく、どこかおかしいのです。クラス1の【ファイア】を使用しているのに、クラス2の【エアロ】のマジックパワーまでなくなってしまうのです。ヒノキは自分が未熟だからマジックパワーが少なく、【ファイア】を使ったら、もう【エアロ】を使うだけのエネルギーが残らないと考えていたけれど、これは本来ならありえないことなのです。※詳しくはシステム(魔法)の項目にて。
ローテもまだまだ半人前の魔術師です。ヒノキと一緒に魔法を勉強する時間も増えました。ただ、ヒノキはたくさんの話をローテに聞いてもらうようになったけれど、ローテは己のことをあまり語りませんでした。ローテは相手を受け入れても、自分を相手に受け入れてもらいたいとは考えていません。それがヒノキには少し不満でもありました。
それからも二人は仲良く暮らしていました。時には洞窟へ魔法に必要な材料を探しに行ったり、町の外に出てモンスターから危険な材料を採取したりもしました。
そんな平和な生活も突然終わりがやってきました。
ヒノキを匿っているという噂を聞きつけ、町の兵士達がやってきたのです。ヒノキのみならず、罪人を匿ったとしてローテも連れて行かれました。
盗みという罪状は本来なら極刑になるほどではありませんが、ヒノキは敗戦国であるザンデの出身です。だから死刑になりました。同様にそれを匿ったローテも死刑になりました。
ヒノキは生まれて初めて誰かを助けたいと思ったのです。自分が生き残ることよりも、ローテの無事を願ったのです。
死刑を待つ牢屋からヒノキは這い上がります。武器や魔法のスクロールはおろか、差別されているヒノキには衣服すら残されていません。
ヒノキは力の限り叫びました。ローテだけは助けて欲しいと。しかし、看守も誰もヒノキの声に耳を傾けません。ザンデで生まれたヒノキをニンゲンだとすら思っていないのです。ヒノキは叫びました。
誰もヒノキの言葉を聞いてくれません。ヒノキの言葉を聞いてくれたのは、ローテだけだったのです。ヒノキは憎みました。ニンゲンを憎みました。国を憎みました。
やがてローテの死刑執行の日がやってきました。ローテはザンデの民を庇っただけなので、ただの死刑で済むこともあり、ヒノキよりも刑の執行が早かったのです。ヒノキは死なせてもらえるだけでは済みません。
ヒノキはローテを助けたいと願いました。この命を引き換えにしてでも。
武器もない、魔法もない。しかし、傍らには『影』がいました。ヒノキにだけ見える黒い影です。影はヒノキに言いました。
目の前にはたくさんのスクロールがある、どうしてそれを使って脱出しないのかと。
ここは牢屋です。スクロールなど存在しません。しかし、言われて初めて気づいたのです。
ヒノキには見えたのです。牢の壁は【ウォール(黒魔法を遮断する魔法)】のスクロールであったし、鉄格子は【ホールド(束縛する魔法)】のスクロールでありました。看守は【ファイラ】や【ブリザラ】のスクロールでした。
ヒノキはローテに教えてもらったようにスクロールから魔法を汲み上げ、放ちました。武器も魔法もないはずの牢屋から、ヒノキは魔法を使って鉄格子を吹き飛ばし、看守を蹴散らして脱走しました。
世界はスクロールで出来ていました。この世界を構成するなにもかもが、魔法で出来ていました。ヒノキはそれらから魔力を抽出し、放ち、ローテを探します。
ローテの刑の執行は始まっており、広場ではまさに火あぶりにされる直前でした。ヒノキはローテの元に駆け寄ります。しかし、如何に一時的に魔法を使えるようになったといっても、ヒノキは戦いの素人です。
強力な魔法を扱う衛兵達を相手に、ヒノキも善戦はしました。ローテを助けるため、負けるわけにはいかなかったのです。普段はクラス2の魔法を扱うことが精一杯だったヒノキですが、様々なオブジェクトから引き出す魔法の力はクラス6(【ファイガ】や【ブリザガ】等)にも値するものでした。ただ、衛兵も国中から選ばれた強力な魔法使いや戦士達です。ヒノキは取り押さえられました。
ローテの足元に火が付けられます。ヒノキは泣きました。目の前でローテが焼かれようとしているのです。
ヒノキは泣きながら衛兵たちに許しを請いました。衛兵たちは哂っているだけでした。ヒノキの泣き声など、家畜の鳴き声のように聞こえているのです。
ローテを見ました。ローテが『ありがとう、ヒノキちゃん』と口にしました。そんなローテを広場に集まったニンゲンは誰も助けません。この中には優しいローテの世話になったニンゲンもいたはずなのです。ヒノキはこの場にいるニンゲン全てを殺してでも、ローテを助けたいと願いました。
ローテの『影』が【メテオラ】のスクロールを持っていました。ローテだけではありません。ヒノキには見えました。全ての人間の『影』には意志があったのです。ヒノキに話しかけた影もヒノキ自身の影だったのです。影が哂っています。
ヒノキはローテの影が手にしたスクロールから【メテオラ】を抽出し、放ちました。クラスナインという『ないはずのマジックパワー』も、ヒノキの意識にはありませんでした。クラス1のファイアを使えば、クラス2のエアロを消費する。マジックパワーの壁のないヒノキは、無我夢中に『ないはずの魔法』を起動させてしまいます。
隕石が振ってきました。
禁断の魔法【メテオ】。
魔法に知識のある者は誰もがそう思いました。ザンデとの戦争の際、その国が最期に放った魔法がクラス8の【メテオ】だったのです。【メテオ】を用いた世界の道連れだったのですが、同じくクラス8の【ホーリー】により相殺され、世界は平和を取り戻したのです。
そして、世界を破滅させる可能性のあるクラス8の魔法は戦争後、全て封印され、現在では各国の王位を継ぐ者のみにスクロールが継承されています。
ザンデの生き残りであるヒノキが【メテオ】を放ったと思ったのです。
もちろん、【メテオ】は非常に危険な魔法です。人々は慌てますが、しかしすぐに騒ぎは治められました。騒ぎを聞きつけ、国の王子が現れたのです。あの大戦の時のように、【ホーリー】のスクロールを手にして。
王子の放った【ホーリー】が隕石と激突します。正しく伝説の戦いの再現……となるはずでした。王子の放った【ホーリー】は何処からともなく現れた黒い影に力を奪われてしまいます。
再び【ホーリー】を放ちますが、結果は変わりません。
王子にも分かったのです。これは【メテオ】などではありません。クラス8の魔法を撃ち込まれ、変化が起きない魔法などこの世界には存在しません。気づいた時には遅く、多くの命が死滅しました。
【メテオラ】が国を焼き払いました。
国は焼け野原となり、ヒノキとローテと無数の『影』だけが生き延びました。
この影はさっきまで生きていた人々の影です。人々が死んでも影は生き延びました。影は哂っています。影は哂うだけです。ヒノキ達の周りを張り付いているだけです。
ローテは泣いていました。
育った町が消え去ったのです。甘いとさえ言える程の優しいローテです。自分を殺そうとした町であっても、多くの知り合いが消え、ローテは泣きました。
ヒノキはそれでも内心は嬉しかったのです。ローテの心が傷ついても、ローテが生き延びたことが嬉しい。口では国の人々の冥福を祈ると言っても、ヒノキはローテが生き延びたことが嬉しかったのです。もっと言えば、ローテを殺そうとした町が許せなかったのです。
ローテも本当は死ぬことが怖かった。口では育った町が滅び、自分だけが生き延びたことを嘆いていますが、それでも死ぬことが怖かった。心の底では親しくない他の誰が死んでも、自分が生き残り安心していました。そういった感情に気付き、ローテはますます自己を嫌悪していきます。
【メテオラ】を使った反動なのか、ヒノキはずきずきと頭が痛みます。まるで影が頭の中に入り、ヒノキの脳みそを蝕んでいるかのようにさえ感じます。
【メテオラ】は使わない方が良いとは思いました。
ヒノキとローテはその場から去り、旅人として町から町を旅します。何処かの町で落ち着きたいと願いました。
しかし、影もついてきます。町中の影がついてきます。哂いながら。
新しい町につきました。そこの住人の影も意志をもっていました。哂っていました。ヒノキにしか見えません。ローテにも見えていません。
ヒノキは気にしないように努めました。ないはずのものなのです。
そうして旅を続けました。
多くの仲間を得ました。
ヒノキもローテも成長していきます。最初はローテしか信じていなかったヒノキも、仲間が増え、ローテ以外の友達もでき、心を開いていくようになります。
ローテとの関係は複雑なものでした。
いつのころか、少しずつですがローテも自分のことをヒノキに話してくれるようになりました。
やがて旅にも目的が生まれます。この星を『無』に返そうとする者が現れます。その敵の名はエー。エーを倒すための旅となりました。
【メテオラ】に限らず、ヒノキは魔法を使用する際、脳みそに痛みを覚えるようになっていきました。依然として世界の全ての物体がスクロールに見えます。そこから魔法を抽出できます。だから、ヒノキだけは普通のスクロールを使用せずとも魔法を扱えました。それがあまりにも奇妙な出来事なので、ローテは人前ではスクロールを使用せずに魔法を使用することを禁じました。
旅を続ける内、時には危機に陥り、ローテや仲間を守るため、禁じたはずの【メテオラ】を使用することもありました。その度に影は哂い、ヒノキは脳みそを犯され続けました。
そんなヒノキを追う者がいました。
チェッカーという名の男です。チェッカーは執拗にヒノキの命を狙います。彼もまたスクロールを使用せず、周りの物体から魔法を抽出し扱える者でした。彼が口にした目的はヒノキの抹殺です。チェッカーは【メテオラ】などという『ないはずの魔法』を持ち込む世界のバグ、ヒノキを駆除するための存在です。
チェッカーの強さは圧倒的でした。ヒノキはチェッカーに敗北しました。辛くも仲間が自らの命と引き換えにヒノキ達を逃がしてくれました。
逃げ延びたヒノキですが、自身が世界のバグだと言われ、またそのために仲間を失いました。非道く悩みました。
もはやエーを追うどころではありません。
そんなヒノキを励ましてくれたのがローテです。ローテは例えヒノキが世界から認めてくれなくなっても、ローテだけは認めてくれると『約束』してくれました。ヒノキが何処に行こうとも、必ず傍にいると『約束』してくれました。
エーが世界を滅亡へと誘います。
行動を取るのはチェッカーに見つかる可能性はありましたが、エーを放っておくことはできませんでした。
破滅を導くエーを追うヒノキ達。そのヒノキ達を追うチェッカー。
チェッカーの正体は世界から派遣されたバグの除外者です。存在しないはずの魔法があるが故に、この世界は軋んでいました。エーも世界の破滅を望む者ですが、それは物理的に行われる事象であり、強者の望みが果たされることはある意味、自然の摂理とも言えます。ヒノキはそれとは違います。世界のルールにない存在です。
それ故にチェッカーが現れたのです。
一方、エーにとってはチェッカーなど羽虫のような存在でした。世界のルールの上でしか動けない。エーはチェッカーが絶対に己に手出しできないことを知っていたのです。高みの見物を決め込みました。チェッカーとヒノキの戦いを。
チェッカーはエーの下でヒノキ達を待ちました。
必ずヒノキ達がエーの下に現れると分かっていたからです。
チェッカーは世界の外部の存在です。ヒノキにも段々と分かってきました。チェッカーは自分と同じ存在なのだと。自分もこの世界の者ではないと分かってきました。だから、外部の存在であるチェッカーの手により、ヒノキなど最初からいなかったことにされようとしているのです。
やがて旅を続け、エーの城に辿り着いたヒノキ達の前に、チェッカーが立ちはだかりました。
チェッカーはヒノキなどいない方が世界の皆が幸せになると言いました。
また彼はこうも言ってくれました。己の存在に気づいたのなら、自分と一緒に来いと。この世界から去り、世界を外から見守る側に付くというのなら、命を奪う必要もないと言いました。チェッカーとてなるべくなら命を奪わずに事を済ませたかったのです。それが彼なりの温情でもありました。
チェッカーの強さは圧倒的です。世界のバグを修整する程の強さなのです。だから仲間はヒノキが死ぬくらいなら、チェッカーと共に生きて欲しいとも思いました。ヒノキが幸せになれる可能性があるのなら、良いとも思ったのです。誰もヒノキに死んで欲しいとは思わなかったのです。
ヒノキも自分がいることでローテごと世界が軋み、壊れていくのではないかと恐れていました。そのままチェッカーの下に歩みそうになりました。けれど、尾を引かれるようにローテに振り返ったのです。
ローテもヒノキには死んで欲しくない、ローテはヒノキのことが大好きです。だから死んで欲しくなかったのです。ただ、ヒノキには死ぬよりも嫌なことがありました。ローテと離れたくなかったのです。ローテにもヒノキのその感情が分かっていました。だから、ローテは初めて我侭を口にしたのです。
行かないで欲しい、と。
ヒノキはチェッカーと戦う覚悟を持つことができました。ローテと共にいることを望み、世界を敵に回したのです。
圧倒的に不利な戦いですが、ヒノキは1対1での闘いを望みました。同じ存在として、チェッカーがヒノキを誘った気持ちも、また分かってしまったからです。ヒノキにはローテがいるけれど、チェッカーには誰もいないのです。孤独なのです。故にヒノキを誘ったのでしょう。だから、ヒノキはチェッカーと独りで戦ってあげたくなったのです。そして必ず勝つとローテと『約束』しました。
戦いが始まればチェッカーも非情になりました。
チェッカーは次々と強力な魔法を周囲から抽出し、ヒノキを抹殺しようとします。ヒノキはその魔法から魔法を抽出し、戦いに臨みます。
同じ能力、同じ魔法をぶつけ合う戦いです。ヒノキに勝てる要素などないはずでした。全く同じ能力であるのだから、永い時間を生きたチェッカーには大きな日の長がありました。ヒノキは魔法を使えば使う程、脳みそが痛みます。黒い影が哂っています。
しかし、ヒノキは倒れませんでした。如何に強力な魔法を身体に受けても、決して倒れませんでした。それこそがチェッカーが永い時間の中で忘れていた愛情の力なのです。
かつてチェッカーも『先代のチェッカー』と出会う前、大切にしていた者がいたのです。ただ、世界と闘って勝てるはずもないと仲間の誰もが想い、チェッカーは先代のチェッカーと共に世界の外へと去ったのでした。
やがて、その者も消え、チェッカーは独りになりました。
ヒノキは決して負けません。チェッカーになく、ヒノキにあったものは勝利への執念です。ローテとの絆がヒノキの精神力を持続させ、精神力は力を生みました。
ヒノキが勝ちました。
チェッカーはなにもかもを思い出しました。かつて愛した者がいたことを。己はいてはいけない存在だと考え、愛する者を守るために去ったのでした。しかし、残された者の気持ちを忘れていました。その全てを思い出しました。
チェッカーは涙を流し、敗北を受け入れました。
そしてヒノキの勝利を祝おうと、仲間が駆け寄ります。そこを狙った愚劣な男がいました。エーでした。エーの放った強力な魔法がヒノキ達を全滅させようとします。
ヒノキ達を庇ったのは他でもない、チェッカーでした。チェッカーは残された全ての力を使い、マジックパワーを使い切ったヒノキ達を逃がします。そして、自らはエーに背を攻撃され散っていきました。
チェッカーの最期の姿をヒノキは決して忘れません。愛を思い出し満足したチェッカーの瞳と、世界の未来をヒノキに託した熱い心、そしてチェッカーの使っていた能力をです。
エーは最悪の敵です。
世界を滅亡させるために全ての魔法の封印を解き、自在に全てを扱えます。如何に【メテオラ】という切り札があるとは言え、ヒノキ達にエーを倒すのは困難だと思われました。
それでも闘わざるを得ません。
【フレア】や【ホーリー】、【メテオ】、また究極の魔法【アルテマ】、その究極すら越える破壊魔法【メルトン】等を自在に使いこなすエーの強さは絶望的でした。
仲間は次々と倒れます。ヒノキも善戦しますが、敵からの攻撃のみならず、魔法の乱用により脳みそが犯され続けます。やがて、耐えられなくなりヒノキも倒れました。
世界は滅亡へ向かいます。このままではローテも死んでしまいます。ヒノキはたくさんのことを考えました。考えたのはチェッカーのことでした。彼ならどうしていたのだろう、と。
エーはチェッカーを侮辱します。チェッカーもヒノキも出来損ないだと。真の魔術師はこのように如何なる魔法でも自在に操るものだと。チェッカーの死を哂いました。そして、チェッカーがいない今、【メテオラ】のスクロールを奪い研究し、我が物にしようと考え始めたのです。
ヒノキはこう思いました。今のエーを見ればチェッカーはきっと許さなかった。だから、チェッカーの分まで戦おうと。チェッカーならどうやって戦うかを思い出そうとしました。
ドロー。
ヒノキはここに至ってやっと自分達の力の秘密に気付きました。ヒノキ達には元々マジックパワーなど存在しないのです。オブジェクトから魔法を『ドロー』し、生命力を魔法力と見立てて放つ。だから、クラスナインである【メテオラ】も、対応するマジックパワーなど関係なく使用することができたのです。ドローの際、吸い過ぎた力が脳みそに溜まり、汚濁し、内を犯しているのです。
ヒノキは再び立ち上がります。もうヒノキは負けません。ドローの対象はエーです。エーの【フレア】にはエーから抽出した【フレア】を、【ホーリー】には【ホーリー】を、【アルテマ】には【アルテマ】を持って相殺しました。
生命力をマジックパワーと見立てる。ヒノキは確実に消耗していきました。脳みその痛みも頂点を極め、いつ発狂してもおかしくない状態でした。それを気力だけで押さえつけました。
ヒノキは負けません。
ローテも傍らに立ち、一緒に戦ってくれたのです。彼女がいる限り、ヒノキの精神力は決して尽きません。
エーの【メテオ】が放たれます。ここでヒノキが放つのは【メテオ】ではありません。ここでエーを止めなければ、確実に世界は無へと帰します。だからヒノキは後で全てを償うことを条件に死したチェッカーに許しを請いました。
今一度、【メテオラ】を使用します。
世界から許された【メテオラ】は今までにない程、綺麗な形の隕石を降らせました。ただの【メテオラ】であったならば、あるいはエーも防ぎきれたかもしれません。しかし、この【メテオラ】は止めることができません。エーは砕け散りました。
世界はぼろぼろです。
チェッカーとの約束もありました。ヒノキは世界の外に出て、外から世界を直そうと思いました。ただ、それをするともう帰って来ることができません。世界の外とは黒い影達が住まう世界です。
ローテのいる世界を破壊するわけにはいかなかったのです。ヒノキはローテが幸せになれるならそれでもいいと思ったのです。
しかし、ヒノキにも分かっていました。
ローテにも死ぬよりも辛いことがあると。チェッカーとの戦いの際、ローテが口にした『我侭』のように、ヒノキもローテの気持ちを分かってあげたかったのです。
そして、ローテとはどんなことがあっても一緒にいようと『約束』を交わしていました。だから、ヒノキは恐れずに言いました。
「ローテちゃん、一緒に行こう」
こうして2人は世界の外へと飛び立ちました。
以上がクラスナインのサンプルストーリーです。
ここまでお読み頂き、ありがとうございました。